──您好啊,這位貴客。您是否知道據說某位天才畫家在臨死之際仍繼續完成的,那幅最後也是最棒傑作的美女畫『太陽之華』?
雖然畫的只是抱著花微笑的美女,卻有著約一億的價值。不過,那是因為被那微笑與不可思議的傳說給吸引,炒作哄抬價格之後的結果。
對於富有求知慾的您,讓我特別來向您訴說這幅畫的誕生與美的秘密。──
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「這種東西,我這裡不收!」
「拜託你幫幫忙!不把這個賣掉的話我就得淪落街頭了!」
抱著大大的畫作,我死纏著畫廊的老闆不放。
「我的店可是信用第一。你這個連介紹信也沒有,一副寒酸相的畫,我是不會收的啦。快給我出去!」
店主一點慈悲心都沒有,叫來了警衛把我攆出了店外頭。身上有些髒的我就那樣被丟到人來人往的店門口。行人的視線讓我感到刺痛。
畫家得有資助者才有辦法出名。關於這點我再三的有所體認。即使這樣,現在抱著的畫若賣不掉,今天就連飯也沒有得吃了。
這樣想著的同時,肚子咕嚕作響,想起了最近這幾天都只有靠著水與鹽強忍渡過。
走到不遠的前方角落,像個流浪漢似的捲起身子嘆了口氣。已經到了日落時分了。離住的房子還很遠。
「那個,可以不要睡在我的店門口嗎?」
美麗的聲音從頭上傳來。我沒有打算要給人造成困擾。所以,打算馬上起身離開。
「咦?啊,對不起。我馬上就離……開……」
突然眼前一片黑暗,身體失去了知覺。
「哎呀,糟糕!誰來幫忙一下!叫醫生!」
只有那慌張的美麗聲音,傳到了我的耳裡。
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朝陽的光線讓我醒了過來。頭昏腦脹地看了看四周,被豪華的家具擺設包圍,我似乎身處在相當華麗的房間裡。
睡的床和蓋的被子也是與這華麗房間相襯的極高品質。依著不適的身體,正決定就這樣再睡個回籠覺。
「早安,身體感覺如何?」
我這頹廢的慾望,因昏厥前聽到的那美麗聲音而完全煙消雲散了。
「啊,是的……」
「太好了。醫生說你應該是營養失調。等等我會請人把湯送過來」
美女的話右耳進左耳出。因為、那個、真的是、非常地。完全無可挑剔的零缺點美女。
直挺的鼻樑勻稱而小巧的鼻子。如同夕陽與夜晚的交界處的藍紫色大眼睛強調著存在感。微捲的髮稍有著像絲絹般的光澤。有點豐厚的嘴唇上了紅色的唇膏,身體曲線十分性感又不會顯得淫穢。
讓我不由得脫口而出。
「那個,請做我畫中的模特兒!」
美女眨了眨眼。每一眨眼就好比流星般的光彩耀眼。
「咦,所以,那個。也就是說,你是畫家囉?」
「是的!我擅長人像畫。像您這樣出色的女子,我可能再也沒有機會可以遇到了!」
我說得亂七八糟,而且受了幫助還忘記答謝,被美女的雙眼迷惑竟而提出了這樣的請求。
「……呵。可以呀。但是,要畫的話請幫我畫美一點哦」
表現出稍稍考慮表情的美女,露出了如日出般耀眼的微笑對我點了頭。
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美女名叫庫菈。雖身為女性卻能獨自經營古董及雜貨買賣的公司,我所暈倒的地方也正是她所經營的小賣店之一。
從我被救的隔天起,開始來往庫菈的宅邸,開始畫她樣貌的草圖,然後再依草圖來作畫。
某日,我邀請她到畫室來。為的是想要讓她本人看看完成的畫。她的高評價讓我感到開心,並表示想帶回去裝飾在她家。
「唉呀,這幅風景畫非常地美耶。這幅靜物畫感覺蠻適合我的迎賓室呢。我願意出錢購買,這幅畫也可以讓我帶回去嗎?」
在我幫她包裝畫作時,她將其他幅畫抽出來看了看。
「那沒問題,但是那些都是拿到畫廊也賣不出去的失敗作喔?!」
「那家畫廊真是沒有眼光呢。沒關係,那就交給我吧」
庫菈露出神秘的笑容後,包含中意的東西在內,將我畫室裡有的畫作全部帶走了。
但是,那些都是我多次拿去畫廊卻連一次也賣不出去的畫啊。腦中浮現出庫菈因為賣不掉而灰心的臉龐,有種做了什麼罪大惡極之事的感覺。
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過了幾天,庫菈帶著裝滿鈔票的大包包來到了畫室。一問之下,才知道庫菈似乎將宅邸放不下的畫放到經營的畫廊後,以可觀的價錢賣掉了。
「這就是你的價值喔,巴斯科」
我因這輩子從沒有看過這麼多的鈔票而呆住,庫菈微笑著。
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我將庫菈當作模特兒畫了大量的草圖。
庫菈高價收購我的才能。為了回應她的期待,我拼命地畫。持續不斷地畫了好幾張的庫菈。
漸漸地,開始有些客人來我的畫室要求我作畫。我的畫作越畫越賣。
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「啊?還沒完成?我可是已經等了半年耶」
「抱歉啊,我沒啥靈感」
隨著我的畫作越賣,我也漸漸地不再畫畫了。加上我那無法迎合社會的個性。拒絕委託的方式,也像這樣難以置信地隨便。
即使如此我的畫還是可以高價售出。所以我只要說我現在低潮,沒創作慾什麼的,隨便說說就可以讓大部分的客人離開。
「那麼,出去玩吧。今天要去哪兒好呢~」
我這幾年,除了庫菈的委託之外幾乎都沒有拿筆。起床就去玩,偶爾畫一下庫菈要的畫,然後就睡覺。過著墮落的生活。
跟錢無緣的人突然得到了大筆金錢,不管誰都會不想工作只顧玩吧。
但是只有庫菈給我的工作,從來就沒有怠忽過。因為她是第一位認同我才能的人,而且我愛上她了。
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一旦奢侈過了之後,怎麼樣也改不過來。錢用完的我,還是不拿筆作畫而是去借錢繼續維持奢侈生活。
終於到了討債者開始上門的程度。實在太煩人,我不知道該怎麼辦才好,於是跑去跟庫菈哭訴。
「對不起,那是你的責任,我沒有辦法幫你」
「怎麼可以這樣……」
「因為如果我幫你還清帳務,你就會再去借對吧?」
「咦,啊……」
我無法反駁庫菈說的話。我放棄自己的工作去玩,如果庫菈現在幫我解決問題,並不是為了我好。
她看穿了我現在的大問題。
「我很喜歡你的畫哦。所以只要畫畫就好了,一直畫一直畫然後畫下去,馬上就可以還清帳務了」
我的女神在微笑著。說的也是,我太專心在遊玩上,都忘記了最理所當然的事。
我拿起了筆。窩在畫室裡面向畫布一直持續畫著。將幾幅畫到途中的畫完成還了借款,然後開始畫新作品。
未完成的草稿非常多。我決定選擇裡面最中意的一張,庫菈抱著白色花朵微笑著的草稿來繪製新作品。
畫名也已經想好了。庫菈那像日出般閃耀的笑容,是我最棒的女神。名字就叫『太陽之華』。
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『太陽之華』快完成了。我慎重地畫著眼睛的顏色。那如同夕陽與夜晚的交界處的藍紫色眼睛。
眼睛的顏色與像紅寶石的唇色,這兩色要是失敗了,畫中的庫菈就不是庫菈了。到最後為止都不能疏忽。
就在我畫完眼睛時,聽到有人粗暴地敲門聲。
放下筆,我開了門。
「是哪位──」
突然間,腹部傳來衝擊。低頭一看,是一位像流浪漢的男子眼睛充血看著我。
「你,是」
我見過這位像流浪漢的男子。不知道多久之前,他是來委託我畫他老婆人物像的有錢人。
「如,如果,你,你有好好幫我畫的話!!」
男子只喊叫了這些,就不知道跑去哪裡了。我的腹部染成了一片紅。當我理解那片紅色是什麼的時候,突然感受到熱度與劇痛,被一種好像從頭被抽去血的感覺給侵襲。
啊啊,這樣啊。這就是我的責任嗎。放棄工作,一再反悔約好之事的結果。因為給我的委託被反悔而失去信賴,而墮落成那副模樣了嗎。
總覺得大概是這麼回事。
|
我忍住疼痛回到畫作旁。這幅畫還沒有完成,無論如何都要完成它。至今為止不論我多麼頹廢,都沒有背叛過庫菈的委託。所以。
平常總是很煩惱要用什麼顏色來畫庫菈那紅唇。一直在想要給她最適合的顏色,一直只有那邊一直無法上好色。
快點,把顏色。我用小指沾了身上的紅,就像要親吻庫菈般地上了色。然後為了要好好地看整張畫,往後坐到椅子上。
畫中的庫菈向我微笑著。唇上……的紅色……也看起來……非常……閃耀。
果然,庫菈……還……是……很……適……合……鮮……紅……色……的……唇……膏……。
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「在那之後的『太陽之華』,由那幅作品的模特兒那位女性帶回去,然後流出市面了。但是聽說曾經擁有過這幅畫的人都遭遇到了不幸」
經年累月,英年早逝的天才畫家巴斯科最後的作品『太陽之華』,轉手到了這間無名的小畫廊裡。
「不幸的原因,聽說是這位美女的唇色所至。說是這美豔的紅色連災害都可以魅惑,並將其招來」
畫廊店長正在向穿著貴氣的男子,說著巴斯科與『太陽之華』的故事。
「哦,我聽說過傳聞,這個唇色可能是用巴斯科的血來畫的對吧?」
「確實是有那種謠言,但是這幅畫已經是好幾百年以前的事了」
「如果是真的就可怕了,但是,我覺得這幅畫只有美麗,一點兒也感受不到恐懼」
「因為是不幸死亡的藝術家作品,總是會有些傳聞纏身」
穿著貴氣的男子,豪爽地笑了。
「很好,我買下這幅畫了。有這樣故事的畫作,實在有趣」
「感謝您的惠顧」
店長恭敬地低下頭,指示店員包裝『太陽之華』。
「你這間店還不錯,我會再來。話說你,叫什麼名字?」
「恕我這麼晚才報上名字,我叫庫恩」
無名小畫廊的店長,閃爍著他那如同夕陽與夜晚的交界處的藍紫色眼睛說道。
|
──他直到死之前,都追求著完成之美。
那股執著,將『我』的美化為永遠留在畫裡,完成讓後世稱讚不已的傑作。
就算那是,會給擁有畫作之人帶來災害的詛咒。──
|
「─完─」
「太陽の華」
——もし、そこの貴方。さる若い天才画家が死の瀬戸際まで描き続けたと言われる、最終にして最高の傑作美女画、『太陽の華』をご存知かね?
花を抱えて微笑む美女が描かれた何の変哲もない絵画だが、その価値およそ一億。まあ、微笑と不思議な逸話に狂わされた、金の亡者どもが値を吊り上げた結果だがね。
知りたがりの貴方には特別に教えて進ぜよう。この絵画の生誕と美の秘密を。——
「こんなもん、うちでは買い取れん!」
「そこをなんとか! これが売れなきゃ路頭に迷っちまう!」
大判のキャンバスを抱え、俺は画廊の店主に食い下がった。
「うちの店は信用第一なんでな。紹介状も無いお前の貧相な絵なんか、扱えやしないんだよ。とっとと出て行け!」
店主に慈悲は無く、やって来た警備員によって俺は店の外につまみ出された。人通りの多い店先にいきなり放り出された小汚い俺。道行く人の視線がとても痛い。
絵描きはパトロンが付いてナンボ。そんなことは俺だって重々承知だ。それでも、いま抱えているこの絵が売れなきゃ、今日の飯もお預けだ。
そう思うと同時に盛大に腹が鳴り、ここ何日かを水と塩だけで凌いでいたのを思い出す。
少し歩いた軒先の隅っこで、浮浪者のように丸まって溜め息を吐いた。もう日は暮れかけていた。住んでいる部屋はまだ遠い。
「ちょっとあなた。私の店の前で寝ないでくださる?」
綺麗な声が頭の上から降ってきた。人の迷惑になるつもりはなかった。だから、すぐに立ち退こうと思った。
「うぇ? あ、ごめんなさい。すぐにどきますか……ら……」
突然目の前が真っ暗になって、体の感覚が無くなった。
「やだ、大変! 誰か! お医者様を!」
慌てる綺麗な声だけが、俺の耳に届いていた。
朝日の光で俺は目を覚ました。ぐわんぐわんと揺れる頭で周囲を見回すと、豪華な調度品に囲まれた、随分と派手な部屋にいるようだ。
寝ているベッドも掛けてある毛布も、この派手な部屋に相応しい極上品だ。調子が悪いのに任せて、そのまま二度寝を決め込みたいところだった。
「おはよう、気分はいかが?」
そんな俺の堕落した欲望は、気絶する前に聞こえたあの綺麗な声の登場で完全に吹っ飛んだ。
「あ、ハイ……」
「よかった。お医者様がおっしゃるには栄養失調だろうって。あとでスープを運ばせるわね」
美女の言葉が右から左に抜けていく。だって、いやね、もうね、すごいの。文句の付けようがない、完璧な美女。
すっと通った鼻筋に均整の取れた小さな鼻。夕暮れと夜の狭間のような青紫の瞳は大きな存在感を放ってる。やや先端がカールしている髪はシルクのように艶っつや。ちょっとぽってりとした唇に引かれた赤いルージュが、猥らにならないぎりぎりのラインで絶妙に色っぽい。
だから俺、思わず言っちまった。
「お、俺の絵のモデルになってください!」
美女は目を瞬いた。瞬く度に青紫の瞳が、星が零れてくるんじゃないかってくらいに煌めいている。
「え、ええと、その。つまりあなた、画家ですの?」
「そうです! 俺、人物画が得意なんです。貴女のような素敵な方、もう二度と出会えないかもしれない!」
我ながら言ってることが滅茶苦茶だ。しかも助けてもらったお礼も忘れて、美女に目が眩んで懇願なんかしちゃって。
「……ふぅん。いいわよ。 でも、描くならとびっきり綺麗に描いてちょうだい」
暫く考えるような素振りを見せた美女は、日の出のような華やかな笑みを浮かべて頷いてくれた。
美女の名前はクーラといった。女性ながらアンティークや雑貨を扱う商社を経営する人で、俺が倒れた軒先は彼女が経営する小売店の一つだった。
俺は世話になった次の日からクーラの屋敷に通い、彼女をデッサンした。そうしたデッサンを元に彼女の絵を描いていく。
ある日、彼女をアトリエに呼び寄せた。完成した彼女の絵を本人に見てもらうためだ。嬉しいことに評価は上々。この絵は屋敷に飾ってくれるらしい。
「あら、この風景画とっても素敵ね。こっちの静物画は応接室に合いそう。お代は出すから、これも持って帰っていいかしら?」
絵を包む間、他の作品を見ていたクーラがいくつかの絵を引っ張り出してきた。
「そりゃあ構いませんが、でもそれ、画廊に持ってっても売れなかった失敗作ですよ?」
「よっぽどの節穴だったのね、そいつ。まあいいわ。私に任せなさいな」
クーラは妖しげな笑みを見せると、気に入ったという物も含め、俺のアトリエに置いてある全ての絵を持っていってしまった。
けれども、何度画廊に足を運んでも一度たりとも買い取られなかった俺の絵だ。売れずに落胆するクーラの顔が思い浮かび、何だか凄く悪いことをしているような気分になった。
数日して、クーラが大きな鞄に札束を詰めてアトリエにやって来た。聞けば、屋敷に置けなかった絵をクーラが経営する画廊に置いたところ、かなりの高値で売れたらしい。
「これがあなたの価値よ、バスコ」
一生お目に掛かることなんて無いと思っていた札束の量にポカーンとしていると、クーラは微笑んだ。
俺はクーラをモデルにデッサンを取りまくった。
クーラは俺の才能を高く買ってくれていた。その期待に少しでも応えたくて、俺は絵を描きまくった。何枚も何枚もクーラを描き続けた。
そうやっているうちに、少しずつ俺のアトリエに絵の依頼を持ち込む客が増えてきた。描けば描くだけ絵は売れた。
「はあ? まだ完成してないって? もう半年も待ってるんだぞ!」
「すみませんねぇ。どうにもピンとこなくて」
俺は絵が売れていくにつれて、少しずつ少しずつ、絵を描かなくなっていった。加えて社会に迎合できない性格だ。依頼の反故の仕方も、こんな風にあり得ない程に適当だった。
それでも俺の絵は高値で売れた。だからスランプとか、いまいち創作意欲が湧かないとか、そんな適当なことを言えば大体の客は引き下がった。
「さーて、遊びにいこ。今日はどこに行こうかなー」
俺はこの数年、クーラの依頼以外では殆ど筆を取らなかった。起きて、遊びに行って、たまにクーラの絵を描いて、寝る。そんな自堕落な生活を続けていた。
金に縁がなかった奴が突然大金を手にしたんだ。そりゃあ、仕事なんかしないで遊ぶよね、って話。
でも、クーラを裏切ることだけはしなかった。俺の才能を認めてくれた初めての人だったし、何より俺はクーラに惚れていた。
一度身についた贅沢な暮らしからは、どうにもこうにも抜け出せなかった。金が無くなった俺は、筆を取らずに金を借りることで贅沢を維持していた。
とうとう連日のように借金取りがやって来るようになった。あんまりにも煩くて、どうしようもなくなって、俺はクーラに泣きついた。
「ごめんなさい、それはあなたの責任なの。私にはどうしようもないわ」
「そんな……」
「だって私が借金を返したら、あなた、またどこかで新しい借金をするでしょう?」
「え、あ……」
クーラの言うことは尤もだった。俺は自分に任された仕事を放棄して遊んでいる。ここでクーラが問題を解決してしまえば、それは俺のためにはならない。
彼女は俺が抱える大きな問題点を見抜いていた。
「私はあなたの絵、大好きよ。だからまた描けばいいのよ。描いて描いてまた描くの。そうすれば借金なんてすぐに返せるわ」
俺の女神は微笑んでいた。そうだった。遊ぶことに熱中しすぎて、俺は当たり前のことを忘れていた。
俺は筆を取った。アトリエに籠もってキャンバスに向かい続けた。描き掛けの絵をいくつか仕上げるとそれで借金を返し、新作にも取り掛かった。
デッサンはたくさんあった。その中でも特に気に入っている、クーラが白い花を抱えて微笑んでいるデッサンから新作を創ることにした。
題名はもう決まっている。クーラの太陽が昇るときのようなあの輝く笑顔、俺の最高の女神。そう、題名は『太陽の華』だ。
『太陽の華』は完成間近のところまで来ていた。俺は慎重に瞳に色を入れていた。夕暮れと夜の狭間のような青紫の瞳。
瞳の色と唇に乗せるルージュの色。この二つをしくじれば、絵の中のクーラはクーラでなくなってしまう。最後まで油断がならない作業だ。
瞳に色を入れきったところで、アトリエの扉を乱暴に叩く音に気が付いた。
筆を置くと、俺は外に繋がる扉を開けた。
「どちらさ——」
ズドン、と腹に鈍い衝撃。見下ろすと、浮浪者のような姿の男が血走った目を光らせて俺を見ていた。
「貴方、は」
この浮浪者のような男には見覚えがあった。いつだったか、嫁さんの人物画の依頼をしてきた金持ちだ。
「お、おおお、お前、お前が、お前がちゃんと絵を描いていれば!!!」
男はそれだけを叫ぶと、どこかへと走り去った。俺の腹は真っ赤に染まっている。その赤が何の色かを理解した瞬間、熱さと激痛が走り、頭から血の気が引いていくような感覚に襲われた。
ああ、そうか。これが俺の責任なんだな。仕事を放棄し、約束を反故にし続けた結果だ。俺が依頼を反故にしたことで何人もの人が信頼を失い、ああやって落ちぶれていったんだろうな。
何となくそんな気がした。
俺は痛みを振り切ってクーラの絵に向かう。まだこの絵は完成していない。何としても完成させなければ。今までどれだけ遊び呆けていても、クーラの依頼だけは守ってきた。だから。
いつも迷うクーラのルージュ。彼女に似合う最高の色を考え続けていたくて、いつもそこだけ色が付けられない。
早く、色を。俺は手近にあった赤を小指に付け、クーラに口付けをするように色を乗せた。そして絵の全体がよく見えるように、椅子にもたれ掛かった。
絵の中のクーラは俺に向けて微笑んでいた。唇に差した……赤がとても……とてもよく……映えている。
やっぱり、クーラ……に……は真っ赤な……ルー……ジュが……よく……に……あ…………。
「その後、『太陽の華』は、この作品のモデルとなった女性によって持ち出され、世に出ることとなりました。しかし、この絵の所有者となった者はみな不幸な目に合ったと言われております」
時は経ち、夭逝した天才画家バスコの最後の作品『太陽の華』は、名も無き小さな画廊にあった。
「不幸の原因は、この美女の唇に差されている赤だと言われております。この艶やかな赤色が災いすらも魅了し、呼び寄せるのだと」
小さな画廊の店主が身なりの良い男に、バスコと『太陽の華』に纏わる話をしている。
「ほう。話を聞いていると、この唇の赤色はバスコの血であるかもしれないということかね?」
「そういった噂も囁かれておりますが、この絵が描かれたのはもう百年以上も昔でございます」
「その噂が本当だとしたら恐ろしい話だが、だとしても、この絵にあるのは美しさだけだ。恐ろしさなど微塵も感じないね」
「まあ、不幸な亡くなり方をされた芸術家の作品には、何らかの物語がまとわりつくものでございます」
身なりの良い男は、豪快に笑った。
「よし、この絵を買うとしよう。曰くありげな物語のある絵画か、実に面白い」
「ありがとうございます」
店主は恭しく頭を下げると、店員に指示を出して『太陽の華』の梱包に取り掛かる。
「中々にいい店だ。また利用させてもらうよ。ところで君、名前は何だったかね?」
「申し遅れました。私、クーンと申します」
名も無き小さな画廊の店主は、夕暮れと夜の狭間のような青紫色の瞳を輝かせてそう言った。
——彼は、自らが死の淵に立ってもなお、完成された美を追い求めた。
その執念こそが、『私』の美をこの絵の中で永遠のものとし、後世に語り継がれる傑作を生み出した。
例えそれが、この絵を持つ者に災厄をもたらす呪いだったとしても。——
「—了—」
——もし、そこの貴方。さる若い天才画家が死の瀬戸際まで描き続けたと言われる、最終にして最高の傑作美女画、『太陽の華』をご存知かね?
花を抱えて微笑む美女が描かれた何の変哲もない絵画だが、その価値およそ一億。まあ、微笑と不思議な逸話に狂わされた、金の亡者どもが値を吊り上げた結果だがね。
知りたがりの貴方には特別に教えて進ぜよう。この絵画の生誕と美の秘密を。——
「こんなもん、うちでは買い取れん!」
「そこをなんとか! これが売れなきゃ路頭に迷っちまう!」
大判のキャンバスを抱え、俺は画廊の店主に食い下がった。
「うちの店は信用第一なんでな。紹介状も無いお前の貧相な絵なんか、扱えやしないんだよ。とっとと出て行け!」
店主に慈悲は無く、やって来た警備員によって俺は店の外につまみ出された。人通りの多い店先にいきなり放り出された小汚い俺。道行く人の視線がとても痛い。
絵描きはパトロンが付いてナンボ。そんなことは俺だって重々承知だ。それでも、いま抱えているこの絵が売れなきゃ、今日の飯もお預けだ。
そう思うと同時に盛大に腹が鳴り、ここ何日かを水と塩だけで凌いでいたのを思い出す。
少し歩いた軒先の隅っこで、浮浪者のように丸まって溜め息を吐いた。もう日は暮れかけていた。住んでいる部屋はまだ遠い。
「ちょっとあなた。私の店の前で寝ないでくださる?」
綺麗な声が頭の上から降ってきた。人の迷惑になるつもりはなかった。だから、すぐに立ち退こうと思った。
「うぇ? あ、ごめんなさい。すぐにどきますか……ら……」
突然目の前が真っ暗になって、体の感覚が無くなった。
「やだ、大変! 誰か! お医者様を!」
慌てる綺麗な声だけが、俺の耳に届いていた。
朝日の光で俺は目を覚ました。ぐわんぐわんと揺れる頭で周囲を見回すと、豪華な調度品に囲まれた、随分と派手な部屋にいるようだ。
寝ているベッドも掛けてある毛布も、この派手な部屋に相応しい極上品だ。調子が悪いのに任せて、そのまま二度寝を決め込みたいところだった。
「おはよう、気分はいかが?」
そんな俺の堕落した欲望は、気絶する前に聞こえたあの綺麗な声の登場で完全に吹っ飛んだ。
「あ、ハイ……」
「よかった。お医者様がおっしゃるには栄養失調だろうって。あとでスープを運ばせるわね」
美女の言葉が右から左に抜けていく。だって、いやね、もうね、すごいの。文句の付けようがない、完璧な美女。
すっと通った鼻筋に均整の取れた小さな鼻。夕暮れと夜の狭間のような青紫の瞳は大きな存在感を放ってる。やや先端がカールしている髪はシルクのように艶っつや。ちょっとぽってりとした唇に引かれた赤いルージュが、猥らにならないぎりぎりのラインで絶妙に色っぽい。
だから俺、思わず言っちまった。
「お、俺の絵のモデルになってください!」
美女は目を瞬いた。瞬く度に青紫の瞳が、星が零れてくるんじゃないかってくらいに煌めいている。
「え、ええと、その。つまりあなた、画家ですの?」
「そうです! 俺、人物画が得意なんです。貴女のような素敵な方、もう二度と出会えないかもしれない!」
我ながら言ってることが滅茶苦茶だ。しかも助けてもらったお礼も忘れて、美女に目が眩んで懇願なんかしちゃって。
「……ふぅん。いいわよ。 でも、描くならとびっきり綺麗に描いてちょうだい」
暫く考えるような素振りを見せた美女は、日の出のような華やかな笑みを浮かべて頷いてくれた。
美女の名前はクーラといった。女性ながらアンティークや雑貨を扱う商社を経営する人で、俺が倒れた軒先は彼女が経営する小売店の一つだった。
俺は世話になった次の日からクーラの屋敷に通い、彼女をデッサンした。そうしたデッサンを元に彼女の絵を描いていく。
ある日、彼女をアトリエに呼び寄せた。完成した彼女の絵を本人に見てもらうためだ。嬉しいことに評価は上々。この絵は屋敷に飾ってくれるらしい。
「あら、この風景画とっても素敵ね。こっちの静物画は応接室に合いそう。お代は出すから、これも持って帰っていいかしら?」
絵を包む間、他の作品を見ていたクーラがいくつかの絵を引っ張り出してきた。
「そりゃあ構いませんが、でもそれ、画廊に持ってっても売れなかった失敗作ですよ?」
「よっぽどの節穴だったのね、そいつ。まあいいわ。私に任せなさいな」
クーラは妖しげな笑みを見せると、気に入ったという物も含め、俺のアトリエに置いてある全ての絵を持っていってしまった。
けれども、何度画廊に足を運んでも一度たりとも買い取られなかった俺の絵だ。売れずに落胆するクーラの顔が思い浮かび、何だか凄く悪いことをしているような気分になった。
数日して、クーラが大きな鞄に札束を詰めてアトリエにやって来た。聞けば、屋敷に置けなかった絵をクーラが経営する画廊に置いたところ、かなりの高値で売れたらしい。
「これがあなたの価値よ、バスコ」
一生お目に掛かることなんて無いと思っていた札束の量にポカーンとしていると、クーラは微笑んだ。
俺はクーラをモデルにデッサンを取りまくった。
クーラは俺の才能を高く買ってくれていた。その期待に少しでも応えたくて、俺は絵を描きまくった。何枚も何枚もクーラを描き続けた。
そうやっているうちに、少しずつ俺のアトリエに絵の依頼を持ち込む客が増えてきた。描けば描くだけ絵は売れた。
「はあ? まだ完成してないって? もう半年も待ってるんだぞ!」
「すみませんねぇ。どうにもピンとこなくて」
俺は絵が売れていくにつれて、少しずつ少しずつ、絵を描かなくなっていった。加えて社会に迎合できない性格だ。依頼の反故の仕方も、こんな風にあり得ない程に適当だった。
それでも俺の絵は高値で売れた。だからスランプとか、いまいち創作意欲が湧かないとか、そんな適当なことを言えば大体の客は引き下がった。
「さーて、遊びにいこ。今日はどこに行こうかなー」
俺はこの数年、クーラの依頼以外では殆ど筆を取らなかった。起きて、遊びに行って、たまにクーラの絵を描いて、寝る。そんな自堕落な生活を続けていた。
金に縁がなかった奴が突然大金を手にしたんだ。そりゃあ、仕事なんかしないで遊ぶよね、って話。
でも、クーラを裏切ることだけはしなかった。俺の才能を認めてくれた初めての人だったし、何より俺はクーラに惚れていた。
一度身についた贅沢な暮らしからは、どうにもこうにも抜け出せなかった。金が無くなった俺は、筆を取らずに金を借りることで贅沢を維持していた。
とうとう連日のように借金取りがやって来るようになった。あんまりにも煩くて、どうしようもなくなって、俺はクーラに泣きついた。
「ごめんなさい、それはあなたの責任なの。私にはどうしようもないわ」
「そんな……」
「だって私が借金を返したら、あなた、またどこかで新しい借金をするでしょう?」
「え、あ……」
クーラの言うことは尤もだった。俺は自分に任された仕事を放棄して遊んでいる。ここでクーラが問題を解決してしまえば、それは俺のためにはならない。
彼女は俺が抱える大きな問題点を見抜いていた。
「私はあなたの絵、大好きよ。だからまた描けばいいのよ。描いて描いてまた描くの。そうすれば借金なんてすぐに返せるわ」
俺の女神は微笑んでいた。そうだった。遊ぶことに熱中しすぎて、俺は当たり前のことを忘れていた。
俺は筆を取った。アトリエに籠もってキャンバスに向かい続けた。描き掛けの絵をいくつか仕上げるとそれで借金を返し、新作にも取り掛かった。
デッサンはたくさんあった。その中でも特に気に入っている、クーラが白い花を抱えて微笑んでいるデッサンから新作を創ることにした。
題名はもう決まっている。クーラの太陽が昇るときのようなあの輝く笑顔、俺の最高の女神。そう、題名は『太陽の華』だ。
『太陽の華』は完成間近のところまで来ていた。俺は慎重に瞳に色を入れていた。夕暮れと夜の狭間のような青紫の瞳。
瞳の色と唇に乗せるルージュの色。この二つをしくじれば、絵の中のクーラはクーラでなくなってしまう。最後まで油断がならない作業だ。
瞳に色を入れきったところで、アトリエの扉を乱暴に叩く音に気が付いた。
筆を置くと、俺は外に繋がる扉を開けた。
「どちらさ——」
ズドン、と腹に鈍い衝撃。見下ろすと、浮浪者のような姿の男が血走った目を光らせて俺を見ていた。
「貴方、は」
この浮浪者のような男には見覚えがあった。いつだったか、嫁さんの人物画の依頼をしてきた金持ちだ。
「お、おおお、お前、お前が、お前がちゃんと絵を描いていれば!!!」
男はそれだけを叫ぶと、どこかへと走り去った。俺の腹は真っ赤に染まっている。その赤が何の色かを理解した瞬間、熱さと激痛が走り、頭から血の気が引いていくような感覚に襲われた。
ああ、そうか。これが俺の責任なんだな。仕事を放棄し、約束を反故にし続けた結果だ。俺が依頼を反故にしたことで何人もの人が信頼を失い、ああやって落ちぶれていったんだろうな。
何となくそんな気がした。
俺は痛みを振り切ってクーラの絵に向かう。まだこの絵は完成していない。何としても完成させなければ。今までどれだけ遊び呆けていても、クーラの依頼だけは守ってきた。だから。
いつも迷うクーラのルージュ。彼女に似合う最高の色を考え続けていたくて、いつもそこだけ色が付けられない。
早く、色を。俺は手近にあった赤を小指に付け、クーラに口付けをするように色を乗せた。そして絵の全体がよく見えるように、椅子にもたれ掛かった。
絵の中のクーラは俺に向けて微笑んでいた。唇に差した……赤がとても……とてもよく……映えている。
やっぱり、クーラ……に……は真っ赤な……ルー……ジュが……よく……に……あ…………。
「その後、『太陽の華』は、この作品のモデルとなった女性によって持ち出され、世に出ることとなりました。しかし、この絵の所有者となった者はみな不幸な目に合ったと言われております」
時は経ち、夭逝した天才画家バスコの最後の作品『太陽の華』は、名も無き小さな画廊にあった。
「不幸の原因は、この美女の唇に差されている赤だと言われております。この艶やかな赤色が災いすらも魅了し、呼び寄せるのだと」
小さな画廊の店主が身なりの良い男に、バスコと『太陽の華』に纏わる話をしている。
「ほう。話を聞いていると、この唇の赤色はバスコの血であるかもしれないということかね?」
「そういった噂も囁かれておりますが、この絵が描かれたのはもう百年以上も昔でございます」
「その噂が本当だとしたら恐ろしい話だが、だとしても、この絵にあるのは美しさだけだ。恐ろしさなど微塵も感じないね」
「まあ、不幸な亡くなり方をされた芸術家の作品には、何らかの物語がまとわりつくものでございます」
身なりの良い男は、豪快に笑った。
「よし、この絵を買うとしよう。曰くありげな物語のある絵画か、実に面白い」
「ありがとうございます」
店主は恭しく頭を下げると、店員に指示を出して『太陽の華』の梱包に取り掛かる。
「中々にいい店だ。また利用させてもらうよ。ところで君、名前は何だったかね?」
「申し遅れました。私、クーンと申します」
名も無き小さな画廊の店主は、夕暮れと夜の狭間のような青紫色の瞳を輝かせてそう言った。
——彼は、自らが死の淵に立ってもなお、完成された美を追い求めた。
その執念こそが、『私』の美をこの絵の中で永遠のものとし、後世に語り継がれる傑作を生み出した。
例えそれが、この絵を持つ者に災厄をもたらす呪いだったとしても。——
「—了—」