聖達瑞斯大聖堂的後面,一個放置掃除用具的小屋。
尤莉卡在裡面調查,從諜報員伙伴告訴她的,有關地下設施的情報。
調查了小屋的內部後,在收納掃除用具的櫃子後面發現了隱密的階梯。
確認周圍沒有人後,尤莉卡便走下那隱密的階梯。
「這是……」
看見與石頭打造出莊嚴感的聖達瑞斯大聖堂完全不同,以水泥與金屬建構而成的地下空間,讓尤莉卡感到震驚。
雖然想再更進一步的調查內部,但再進去的話,被發現的可能性將會大幅提高。
但光是確定地下有不明設施這點,也算是個大收穫。
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尤莉卡是尤拉斯大陸北方的一個都市國家,麥歐卡的軍人。
麥歐卡是由軍事政權統治,為了追求國家安寧與領土的擴張,企圖併吞周邊國家。
為了獲得對併吞有利的情報,國家將情報員送往各地,尤莉卡也是其中一員。
尤莉卡與貌美的情報員諾娜一起,潛入了新興國家米利加迪亞。
米利加迪亞位在尤拉斯大陸南部,是以信仰祭祀『命之神』的教團為主體的國家。用教團的理念領導著人民,積極地拯救從《渦》逃出的人們。
在首都魯貝斯假裝成難民被保護的尤莉卡她們,裝作深受宗教團體的理念感動而成功入教。
二人在聖達瑞斯大聖堂接受了入教儀式,表面上是以信徒身份認真地在做教團的工作。
諾娜利用她的美貌,企圖接觸地位較高的祭司。
由於尤莉卡認真執行教團的工作,確實的逐漸增加可以進出的設施,並且為了應證諾娜所取得的情報而展開行動。
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但是,任務失敗了。因為諾娜對於祭司的試探太過深入,被懷疑為間諜。
尤莉卡救出入獄的諾娜,二人試著逃出首都魯貝斯。
「對不起,尤莉卡……」
「這話待會兒再說」
雖然有米利加迪亞的警官在追捕她們二人,但受過嚴格潛入訓練的尤莉卡與諾娜仍佔上風。
甩掉警官,逃往守護首都魯貝斯的障壁外。
障壁外有接到尤莉卡聯絡的母國馬車與同胞在等著。沒有人追上來。再來只要坐上馬車出發就得救了。
二人到了馬車附近。瞬間,連續響起了槍聲,同時間,在前面的諾娜倒了下來。
尤莉卡雖然立即閃避,但強烈的衝擊與熱度仍燃燒著身體。
「怎麼可能……你們不是來救……」
「逃回來的人就得死,這是將軍的命令」
同胞就這樣面無表情地舉著小槍對著尤莉卡。
突然間,周圍被照亮,是米利加迪亞的警官。
「呿……」
模糊的視線裡,看到與馬車一同快速離去的同胞身影。
尤莉卡看著自己身體流出的血卻什麼也做不了,失去了意識。
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尤莉卡醒來後,雖然還搞不清楚現況,但好像被放置在像箱子的東西裡。
只有臉的周圍裝的是玻璃,雖然看得到天花板。但也只知道這裡跟被水泥包覆住的的大聖堂地下室相似而已。
如果這裡是米利加迪亞的話,身為他國情報員的自己為什麼會活下來,尤莉卡感到不可思議。
但是,就算想問,過了再久也都沒有人出現。
不知道到底過了多久,就算什麼也沒吃也不會感到饑餓,也不會因生理現象而困擾。
對這明顯的異狀,以及各種感官漸漸消失的現狀,無法做任何抵抗。
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無法跟任何人對話,什麼也無法做的這個狀況下,給了尤莉卡思考的時間。尤莉卡不知道自己有多久,沒有像這樣思考過了。
尤莉卡發現,自己已經放棄用自己的意志做事了。
至今為止自己什麼都沒有思考過,一切都由國家給予,不管是睡的地方、吃的、穿的、以及生存方式。
那個國家可以無感地,殺死為了國家犧牲奉獻的軍人,那是一個支配一切的國家。
尤莉卡對當初將那種狀況都覺得理所當然的自己,感到吃驚。
接下來,對不救她們,甚至打算殺害她們的將軍湧起憎恨之心。
雖然尤莉卡久違地擁有自己的感情,但是現在的她無法將她的憎恨付諸行動。
失去感官的身體什麼也做不了,就算身體能動,她一介脆弱之身又能做什麼呢。
當尤莉卡自覺到這一點後,感到像要致息般地痛苦,但她什麼都做不了。
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當思考變成像每日日常的某一天,尤莉卡聽到了說話的聲音。
「就算她被祖國拋棄了,將她納入不會太危險嗎?」
「會嗎?不覺得就是這樣,所以她才有跟我們一同前進的價值嗎?」
有兩位中年男性,在尤莉卡的箱子前停下。兩位都是尤莉卡看過的人。在大君身邊的高階祭司古斯塔夫,以及這個國家警察機關最高負責人的克洛維斯。
「……這是你的壞習慣啊,古斯塔夫」
克洛維斯嘆氣聳聳肩後,瞥了一眼尤莉卡。然後表現出接下來就隨古斯塔夫的樣子,退後了一步。
「為什麼要留我活口」
尤莉卡向古斯塔夫問道,雖然不知道自己有沒有好好發出聲音,但對方似乎聽的到。
「吾很看好妳的潛入能力,所以想要妳,就這樣而已」
「你是說想要我這個不知道什麼時候會背叛的人?真是好笑」
「妳自己竟然先說出自己的危險性,果然很令吾中意。那麼,這樣妳的期望的是什麼?想要什麼?」
古斯塔夫露出討人歡喜的笑容向尤莉卡問道。
「……你想讓我做什麼」
「吾是在問妳啊,妳真正的願望是什麼?」
古斯塔夫的意思感覺像是在說「說出妳的慾望吧」。
「真正的……?」
尤莉卡重道出剛剛古斯塔夫的話,同時腦中有憎恨與放棄的念頭在交錯,感覺像是在指引出一條路。
「妳好好考慮,吾說的意思」
古斯塔夫說完後就沉默地指示克洛維斯,然後轉身了。
「等,等等……」
尤莉卡叫住轉身的古斯塔夫,因為她覺得現在必須表明她自己的意志。
但這個舉動,也同時與拋棄了『至今為止的自己』是同樣意思的。
「怎麼了?」
古斯塔夫轉身回頭,他的表情,露出滿臉的笑容。
「我需要力量,為了向那些傢伙報仇……」
聽到尤莉卡的意志後,古斯塔夫的嘴角露出藏有深意的笑容。
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幾個月後,尤莉卡踏進祖國的大地。
眼前的是,拋棄自己的將軍以及軍人所在的諜報機關建築物。
在工作時間結束前一刻,軍人們都有點放鬆的時間,尤莉卡選擇在這時奇襲。
用手槍讓守在緊急逃脫通道的警衛兵沉默後,從通道潛入建築內部。因為尤莉卡熟知這棟建築,所以都知道監視的位置跟交班的時間。
毫無困難地到達將軍的辦公室後,立刻將將軍以外的軍人擊殺。
對這一瞬間發生的事毫無抵抗能力的人們,立刻變成了無法言語的肉塊。
尤莉卡為以前的自己竟然害怕這些人而嘆息,覺得那時一直一直在煩惱的自己簡直可笑。
「噫!住,住手!來人啊!」
手腳被射穿無法行動的將軍,像瀕死的動物般痛苦地掙扎。
尤莉卡沒有把將軍像其他軍人一樣瞬殺,一瞬間也好,就是想讓將軍知道什麼叫絕望。
「將軍,再叫也沒有用的」
「救,救救,我……」
「不,將軍,結束了」
尤莉卡無表情的看著將軍害怕的臉,按下舉著的手槍扳機。
手腕只感受到微微地反衝,聲音很輕。
「啊呃,嘔……」
腦漿跟血噴出來,將軍不會動了。尤莉卡走向倒下的將軍,毫不猶豫的踩住將軍的頭。
然後將自己的體重全壓上那隻腳,聽到了頭蓋骨碎掉的聲音,以及像把腳踩進爛泥般的聲音,回響在辦公室之中。
「就算是像你這樣的人,最後的聲音也很不錯呢」
尤莉卡看著沾在鞋子上曾是將軍的殘渣,冷淡地,但是感覺有些恍惚地說道。
|
「─完─」
2993年 「恍惚」
聖ダリウス大聖堂の裏手にある、掃除用具が納められた小屋。
ユーリカはそこで、仲間の諜報員から得た地下施設の情報に関して調査を行っていた。
小屋の内部を調査し、掃除用具が収められた棚の裏に隠し階段を発見する。
周囲に人の気配が無いことを確認し、ユーリカはその隠し階段を下りていく。
「これは……」
石造りで荘厳な聖ダリウス大聖堂とは様相を違え、コンクリートと金属で構成された無機質な地下に、ユーリカは衝撃を受けた。
更に詳しい調査を行いたいが、深入りすれば何者かに見つかる可能性が高まってしまう。
地下に何かしらの施設があるということが判明しただけでも、大きな収穫だった。
ユーリカはヨーラス大陸北方にある都市国家、マイオッカの軍人だ。
マイオッカは軍事政権によって統治されており、国家の安寧と領土の拡大を求めて、周辺国家の吸収を狙っていた。
吸収に有利な情報を求めるために諜報員を各地に送り込んでおり、ユーリカもその一員として活動している。
ユーリカは美貌の諜報員ノンナと共に、新興国ミリガディアに潜入していた。
ミリガディアはヨーラス大陸の南部で信仰されていた『命の神』を祀る教団が母体となった国だ。教団の理念に則って民を率いており、《渦》から逃れてきた人々を積極的に救っていた。
首都ルーベスに難民として保護されたユーリカ達は、教団の理念に感銘を受けたと装って入信に成功した。
二人は聖ダリウス大聖堂で入団の儀式を受け、表向きは信徒として真面目に教団の仕事をこなしていた。
ノンナはその美貌を利用し、高位の祭司に接触を図っていた。
ユーリカは真面目に教団の職務をこなすことで、出入り可能となる施設を着実に増やしていき、ノンナの入手した情報の裏付けを取るために行動した。
だが任務は失敗した。あまりにもノンナが祭司に探りを入れすぎ、間諜の疑義が掛けられたのだ。
投獄されたノンナを助け出し、二人は首都ルーベスから脱出を試みる。
「すまない、ユーリカ……」
「謝るのはあとだ」
ミリガディアの警官が二人を追うが、高度な潜入訓練を受けているユーリカとノンナの方が上手だった。
警官を巻き、首都ルーベスを守る障壁の外に向かう。
障壁の外ではユーリカの連絡を受けた自国の馬車と同胞が待っていた。追っ手の姿は無い。あとは馬車に乗り込んで出発しさえすれば助かる。
二人は馬車に近付いた。その刹那、連続した銃声が響く。同時に、前方にいたノンナが倒れた。
ユーリカは咄嗟に体をずらしたが、強い衝撃と熱さに体を焼かれた。
「馬鹿な……救援では……」
「逃げ帰る者には死を。将軍からの命令です」
同胞は無表情のままユーリカに小銃を向ける。
不意に周囲が明るく照らされる。ミリガディアの警官だった。
「ちっ……」
霞む視界が、馬車と共に走り去る同胞の姿を映していた。
ユーリカは自身から流れ出る血をどうすることもできず、意識を手放した。
ユーリカは目を覚ました。状況は不明だが、箱のようなものの中に寝かされていた。
顔の周辺だけがガラスで覆われていて天井を見ることができたが、この場所がコンクリートで囲まれた大聖堂の地下室に似ているくらいのことしかわからなかった。
もしここがミリガディアだとするなら、他国の諜報員である自分が何故生きているのか、それが不思議だった。
だが、それを問おうにも、いつまで経っても誰も訪れる気配は無かった。
どれ程の時間が経過したのだろう。何も摂食していないのに空腹感に襲われず、生理現象等に悩まされることも無かった。
明らかに異常なことではあったが、様々な感覚が消失している現状では、何をどうすることもできなかった。
誰とも会話せず、何もできない状況は、ユーリカに思考する時間を与えた。こんな風に自身の心と向き合って思考するのはいつ以来だろうか。
ユーリカは、己が自分の意志で何かをすることを放棄していたと思い至った。
今までは何も考えなくとも国が全てを与えてくれていた。寝床も、食事も、衣服も、そして生き方さえも。
それは、国のために奉仕する軍人を救出することなく平然と殺害する国に、何もかもを支配されていたということである。
そんな状況を当然と思っていた自分に愕然とする。
次いで、自分達を助けず、殺害しようとした将軍に憎悪が湧いた。
久方ぶりの感情の想起だったが、今の彼女にその憎悪を昇華させる手立ては無かった。
感覚さえ失われた身体では何もできない。仮に身体が動いたとしても、脆弱な一個人の身ではどうしようもない。
そのことを自覚し、身悶えしたい程に苦しんだが、どうすることもできなかった。
すっかり日課のようになってしまった思考時間中、話し声が近付いてきた。
「祖国に切り捨てられたとはいえ、彼女を抱えるのは危険すぎやしないかい?」
「そうかな? だからこそ、我々と共に進む価値があると思わんか?」
中年の男性が二人、ユーリカの箱の前で立ち止まった。どちらも見覚えがあった。大君の側近として仕える高位の祭司ギュスターヴと、この国の警察機関の長であるクロヴィスだった。
「……君の悪い癖だ、ギュスターヴ」
クロヴィスは溜息を吐いて肩を竦めると、ユーリカを一瞥する。そして、あとは好きにすればいいとばかりに一歩下がる。
「何故、私を生かした」
ユーリカはギュスターヴに問うた。音になっているかわからなかったが、自分の声は相手に届くらしい。
「お前の潜入能力は評価に値する。だから欲しいと思った。それだけに過ぎぬ」
「いつ裏切るかもわからぬ者が欲しいだと? 馬鹿馬鹿しい」
「己の危険性を先に説くとは、実に好ましい。さて、そんなお前は何を望む? 何が欲しい?」
ギュスターヴは人好きのしそうな笑みを浮かべてユーリカに問う。
「……私に何をさせたい」
「吾が聞いているのだ。お前が真に望むものは何だ?」
その言葉は「己の欲望をさらけ出せ」と言っているかのようにも聞こえた。
「真に……?」
ユーリカはギュスターヴの言葉を反芻する。同時に憎悪と諦念が交差し、持て余していた感情に一つの道が示されたように感じた。
「いま暫く、吾の言葉の意味を考えるがよい」
ギュスターヴはそう言ってクロヴィスを無言で促し、背を向けた。
「ま、待て……」
その背をユーリカは呼び止めた。今ここで自分の意志を示さねばならないと思い至った。
だがそれは同時に、彼女の『今まで』を全て捨て去ることと同義であった。
「何ぞ?」
ギュスターヴは振り返る。その表情は、確信に満ちた笑みに溢れていた。
「力が必要だ。奴等に復讐するための……」
ユーリカの意志を受けたギュスターヴの口元が、深い笑みを湛えた。
数ヵ月後、ユーリカは祖国の大地を踏み締めていた。
目の前には自身を見捨てた将軍や軍人がいる諜報機関の建物がある。
勤務終了時間の直前、軍人達がほんの少し気を抜く時間に、ユーリカは奇襲を掛けた。
緊急時の脱出通路を警備する兵を拳銃で沈黙させると、そこから潜入する。よく熟知している建物だ、監視の位置やその交代時間まできっちりと把握している。
難なく将軍のいる執務室まで辿り着くと、即座にそこにいた将軍以外の軍人を撃ち殺した。
一瞬のことに対応できなかった者達は、すぐに物言わぬ肉塊となった。
こんなものに怯えていたのかと、ユーリカは嘆息する。あの時、延々と悩んでいた自分が馬鹿らしく思えた。
「ひぃ! や、やめろ! 誰か!」
手足を撃ち抜かれて動けなくなった将軍は、瀕死の動物のようにのたうち回る。
軍人達のようにすぐには殺さなかった。絶望という感覚を一瞬でもいいから将軍に思い知らせたかった
「無駄です、将軍」
「た、たす、助けて……」
「いいえ。将軍、これで終わりです」
ユーリカは怯える将軍を無表情で見つめながら、構えた小銃の引き金を引く。
腕に感じる僅かな衝撃と、軽い音がした。
「あが、ごぉ……」
脳漿と血を噴出し、将軍は動かなくなった。ユーリカは倒れた将軍に近付くと、何の躊躇いもなしにその頭を踏みつけた。
足に自身の体重を掛ける。頭蓋骨が砕ける音と、泥の中に足を思い切り踏み入れたような音が、執務室に響き渡る。
「貴方のような者でも、最後の音だけは素敵なのですね」
靴に付着した将軍だった何かを見つめ、ユーリカは淡々と、だがどこか恍惚とした風に呟いたのだった。
「—了—」
聖ダリウス大聖堂の裏手にある、掃除用具が納められた小屋。
ユーリカはそこで、仲間の諜報員から得た地下施設の情報に関して調査を行っていた。
小屋の内部を調査し、掃除用具が収められた棚の裏に隠し階段を発見する。
周囲に人の気配が無いことを確認し、ユーリカはその隠し階段を下りていく。
「これは……」
石造りで荘厳な聖ダリウス大聖堂とは様相を違え、コンクリートと金属で構成された無機質な地下に、ユーリカは衝撃を受けた。
更に詳しい調査を行いたいが、深入りすれば何者かに見つかる可能性が高まってしまう。
地下に何かしらの施設があるということが判明しただけでも、大きな収穫だった。
ユーリカはヨーラス大陸北方にある都市国家、マイオッカの軍人だ。
マイオッカは軍事政権によって統治されており、国家の安寧と領土の拡大を求めて、周辺国家の吸収を狙っていた。
吸収に有利な情報を求めるために諜報員を各地に送り込んでおり、ユーリカもその一員として活動している。
ユーリカは美貌の諜報員ノンナと共に、新興国ミリガディアに潜入していた。
ミリガディアはヨーラス大陸の南部で信仰されていた『命の神』を祀る教団が母体となった国だ。教団の理念に則って民を率いており、《渦》から逃れてきた人々を積極的に救っていた。
首都ルーベスに難民として保護されたユーリカ達は、教団の理念に感銘を受けたと装って入信に成功した。
二人は聖ダリウス大聖堂で入団の儀式を受け、表向きは信徒として真面目に教団の仕事をこなしていた。
ノンナはその美貌を利用し、高位の祭司に接触を図っていた。
ユーリカは真面目に教団の職務をこなすことで、出入り可能となる施設を着実に増やしていき、ノンナの入手した情報の裏付けを取るために行動した。
だが任務は失敗した。あまりにもノンナが祭司に探りを入れすぎ、間諜の疑義が掛けられたのだ。
投獄されたノンナを助け出し、二人は首都ルーベスから脱出を試みる。
「すまない、ユーリカ……」
「謝るのはあとだ」
ミリガディアの警官が二人を追うが、高度な潜入訓練を受けているユーリカとノンナの方が上手だった。
警官を巻き、首都ルーベスを守る障壁の外に向かう。
障壁の外ではユーリカの連絡を受けた自国の馬車と同胞が待っていた。追っ手の姿は無い。あとは馬車に乗り込んで出発しさえすれば助かる。
二人は馬車に近付いた。その刹那、連続した銃声が響く。同時に、前方にいたノンナが倒れた。
ユーリカは咄嗟に体をずらしたが、強い衝撃と熱さに体を焼かれた。
「馬鹿な……救援では……」
「逃げ帰る者には死を。将軍からの命令です」
同胞は無表情のままユーリカに小銃を向ける。
不意に周囲が明るく照らされる。ミリガディアの警官だった。
「ちっ……」
霞む視界が、馬車と共に走り去る同胞の姿を映していた。
ユーリカは自身から流れ出る血をどうすることもできず、意識を手放した。
ユーリカは目を覚ました。状況は不明だが、箱のようなものの中に寝かされていた。
顔の周辺だけがガラスで覆われていて天井を見ることができたが、この場所がコンクリートで囲まれた大聖堂の地下室に似ているくらいのことしかわからなかった。
もしここがミリガディアだとするなら、他国の諜報員である自分が何故生きているのか、それが不思議だった。
だが、それを問おうにも、いつまで経っても誰も訪れる気配は無かった。
どれ程の時間が経過したのだろう。何も摂食していないのに空腹感に襲われず、生理現象等に悩まされることも無かった。
明らかに異常なことではあったが、様々な感覚が消失している現状では、何をどうすることもできなかった。
誰とも会話せず、何もできない状況は、ユーリカに思考する時間を与えた。こんな風に自身の心と向き合って思考するのはいつ以来だろうか。
ユーリカは、己が自分の意志で何かをすることを放棄していたと思い至った。
今までは何も考えなくとも国が全てを与えてくれていた。寝床も、食事も、衣服も、そして生き方さえも。
それは、国のために奉仕する軍人を救出することなく平然と殺害する国に、何もかもを支配されていたということである。
そんな状況を当然と思っていた自分に愕然とする。
次いで、自分達を助けず、殺害しようとした将軍に憎悪が湧いた。
久方ぶりの感情の想起だったが、今の彼女にその憎悪を昇華させる手立ては無かった。
感覚さえ失われた身体では何もできない。仮に身体が動いたとしても、脆弱な一個人の身ではどうしようもない。
そのことを自覚し、身悶えしたい程に苦しんだが、どうすることもできなかった。
すっかり日課のようになってしまった思考時間中、話し声が近付いてきた。
「祖国に切り捨てられたとはいえ、彼女を抱えるのは危険すぎやしないかい?」
「そうかな? だからこそ、我々と共に進む価値があると思わんか?」
中年の男性が二人、ユーリカの箱の前で立ち止まった。どちらも見覚えがあった。大君の側近として仕える高位の祭司ギュスターヴと、この国の警察機関の長であるクロヴィスだった。
「……君の悪い癖だ、ギュスターヴ」
クロヴィスは溜息を吐いて肩を竦めると、ユーリカを一瞥する。そして、あとは好きにすればいいとばかりに一歩下がる。
「何故、私を生かした」
ユーリカはギュスターヴに問うた。音になっているかわからなかったが、自分の声は相手に届くらしい。
「お前の潜入能力は評価に値する。だから欲しいと思った。それだけに過ぎぬ」
「いつ裏切るかもわからぬ者が欲しいだと? 馬鹿馬鹿しい」
「己の危険性を先に説くとは、実に好ましい。さて、そんなお前は何を望む? 何が欲しい?」
ギュスターヴは人好きのしそうな笑みを浮かべてユーリカに問う。
「……私に何をさせたい」
「吾が聞いているのだ。お前が真に望むものは何だ?」
その言葉は「己の欲望をさらけ出せ」と言っているかのようにも聞こえた。
「真に……?」
ユーリカはギュスターヴの言葉を反芻する。同時に憎悪と諦念が交差し、持て余していた感情に一つの道が示されたように感じた。
「いま暫く、吾の言葉の意味を考えるがよい」
ギュスターヴはそう言ってクロヴィスを無言で促し、背を向けた。
「ま、待て……」
その背をユーリカは呼び止めた。今ここで自分の意志を示さねばならないと思い至った。
だがそれは同時に、彼女の『今まで』を全て捨て去ることと同義であった。
「何ぞ?」
ギュスターヴは振り返る。その表情は、確信に満ちた笑みに溢れていた。
「力が必要だ。奴等に復讐するための……」
ユーリカの意志を受けたギュスターヴの口元が、深い笑みを湛えた。
数ヵ月後、ユーリカは祖国の大地を踏み締めていた。
目の前には自身を見捨てた将軍や軍人がいる諜報機関の建物がある。
勤務終了時間の直前、軍人達がほんの少し気を抜く時間に、ユーリカは奇襲を掛けた。
緊急時の脱出通路を警備する兵を拳銃で沈黙させると、そこから潜入する。よく熟知している建物だ、監視の位置やその交代時間まできっちりと把握している。
難なく将軍のいる執務室まで辿り着くと、即座にそこにいた将軍以外の軍人を撃ち殺した。
一瞬のことに対応できなかった者達は、すぐに物言わぬ肉塊となった。
こんなものに怯えていたのかと、ユーリカは嘆息する。あの時、延々と悩んでいた自分が馬鹿らしく思えた。
「ひぃ! や、やめろ! 誰か!」
手足を撃ち抜かれて動けなくなった将軍は、瀕死の動物のようにのたうち回る。
軍人達のようにすぐには殺さなかった。絶望という感覚を一瞬でもいいから将軍に思い知らせたかった
「無駄です、将軍」
「た、たす、助けて……」
「いいえ。将軍、これで終わりです」
ユーリカは怯える将軍を無表情で見つめながら、構えた小銃の引き金を引く。
腕に感じる僅かな衝撃と、軽い音がした。
「あが、ごぉ……」
脳漿と血を噴出し、将軍は動かなくなった。ユーリカは倒れた将軍に近付くと、何の躊躇いもなしにその頭を踏みつけた。
足に自身の体重を掛ける。頭蓋骨が砕ける音と、泥の中に足を思い切り踏み入れたような音が、執務室に響き渡る。
「貴方のような者でも、最後の音だけは素敵なのですね」
靴に付着した将軍だった何かを見つめ、ユーリカは淡々と、だがどこか恍惚とした風に呟いたのだった。
「—了—」