我一聽到敲門聲就立刻站了起來,拿起藏在書桌裡的槍。雖然平常都沒有在使用,不過不怕一萬只怕萬一。裝上彈匣後把槍上了膛。接著迅速將脫下的外套再次穿上。
接近門從門上的小孔看出去。一位穿著大衣身型高大的熟悉男子站在那裡。是繼父馬克。
「是我。開門吧」
把槍上了保險後收到背後的腰間上,冷靜地把門打開。
「怎麼了。看你好像工作到很晚」
「嗯,剛好有幾份工作同時進來」
馬克進入房裡後就坐在客人用的沙發上。那是剛才自己跟公事包奮鬥的地方。
「這樣啊。有什麼麻煩事嗎?」
將冰開水倒進杯子,放在馬克前面。
「不是什麼大不了的事。話說回來,這個時間怎麼會來我這?」
「沒甚麼事,只是要回家時經過這裡,看到你的燈還亮著」
馬克偶而會來到這個事務所,閒聊一下再回家。
「怎麼了,一臉悶悶不樂的樣子」
「不是說了嗎。工作擠在一起」
「又是外遇調查?」
「嗯。而且是麻煩類型的客戶。只有照片不行,對收費不滿意,意見很多」
盡量不要說得太複雜,只要像平常一樣回答就好。馬克的工作是負責看穿謊言。
「原來如此」
「這工作就是要跟人來往。為了錢。只能做了」
一邊大嘆氣一邊往沙發的椅背靠上去。只是,插在腰上的手槍撞到脊椎,又馬上回到原本的姿勢。真不該做不習慣的事。
兩個人之間蔓延著奇妙的沉默。
在刑警的繼父面前隱瞞秘密,然後背部又有那把不習慣的槍。這真不是一個好的局面。
「「你──」」
同一時間兩個人都要發言,邊尷尬的笑著邊請對方先說。
「……你,從你母親那邊聽到了哪些關於你父親的事?」
對這個突如其來的這個話題稍微有點驚訝。
「怎麼了,這麼突然」
無意識的脫口而出。
「我知道老爸托尼最後負責的事件」
「嗯,記得是藝術家的死被偽裝成自殺的事件。聽說是沒有解決就那樣結束了」
沒有必要用那種迂迴的說法。成年後我已經針對老爸最後負責的事件,做了詳細的調查。但是,因為是在上層發生的事件,以自己目前的階級最多也只能知道官方媒體的部分情報而已。
「那麼,不是從你母親,而是從托尼那裡有聽說什麼嗎?」
「畢竟我那時才四歲。就算我有聽說什麼,也不可能記得了」
「這樣啊」
「那種事不應該問我,而是問我媽才比較可能知道吧。不過都過這麼久了,怎麼又問起那件事?」
我這麼問道。
「其實要跟你說這件事我也……」
我第一次看到馬克這種表情。
「雖然還沒有被報導出來,不過最近有好幾起奇怪的事件接連發生。現在我們搜索官以及上層,一直在追那個事件」
說完後,馬克大大地嘆了一口氣。像他這樣的硬漢會讓人看到他這個樣子還真難得。
「那跟我老爸有關係嗎?」
「嗯,有情報指出,托尼當初擔任的事件很有可能跟這一連串的事件有很深的關係」
「所以才來問我的嗎?」
「嗯。什麼都可以。一點點也好。有沒有想起什麼?」
「抱歉,我什麼都不記得」
「這樣啊……我知道了」
馬克說完後就將杯內的水一飲而盡,站了起來。
「小心身體」
在門前說道。
「嗯,你也是一把年紀了,別太勉強自己」
馬克看起來有著平常沒看過的疲勞感。連我撒的謊都沒有發現的樣子。我該為這件事高興嗎。
「呼,還有很多不做不行的事。可不能鬆懈」
「幫我跟我媽打聲招呼」
「嗯」
馬克離開了。
我將放在背後的槍拿出來取出彈匣,並將上膛的子彈拿了出來。然後將彈匣與手槍放回原處。
馬克來的時候,我以為一定是公事包的事被監視攝影機拍到什麼了要來回收,結果看來並不是。而且還給我帶來了公事包裡面東西的線索後就離開了。
|
我想起馬克說的老爸的事了。還有膠卷的事。
那個膠卷會是老爸的東西嗎?老爸常常用老古董的相機拍我的照片。在跟馬克講話時,我想起了以前全家一起看那些照片時的事。
三個人一起在暗房中看著膠卷。剛出生時的自己。笑著的母親。我想起那時奇怪的心情。
現在回想起來,老爸確實有著這種興趣。由於老爸死了之後,母親就將所有東西處理掉的關係,所以一直沒有想起這些事,不過我的確看過膠卷。
我這過時的古董興趣不也正是父親的遺傳。為什麼會忘記了呢。
即使如此,我現在也確信那個膠卷正是老爸的東西。
|
我將藏在沙發下面的公事包拿出來,取出膠卷。
接著馬上透過房間的燈光看著膠卷。
以手指就能檔住的細膠卷上,用肉眼很難看的出照到了些什麼東西。
但是可以看的出來是兩個人。
我認為有必要仔細調查膠卷內的東西。
還有另外一件得要調查的事。
就是關於少年最後說的『馬戲團』。
沒有聽說有馬戲團要來到這個階層。到底是指哪裡的馬戲團呢。或者也有可能是什麼暗號。
還有馬克他們在調查的,與老爸有關係的事件內容也令我很在意。
──這兩個事件一定有關係。
──然後那也跟老爸的死有連結。
連我自己都很驚訝我竟然這麼地興奮。
我馬上將膠卷改放到我自己的手提包裡。並且將槍跟彈匣也一起放了進去。
我將以裝置調查到的情報整理好,全部筆記了下來。
接著便離開事務所,開車回家去了。
|
在距離事務所差不多三區的高樓公寓裡的其中一間就是我的房間。半夜一點的大廳,除了自動人偶警衛以外沒有別人在。我無視固定向自己打招呼的警衛,拿著放有膠卷及槍的手提包上到二十樓。
因為我想要早點休息,接連發生的奇妙緊張感讓我疲憊至極。
打開門後進到自己的房間。
將手提包放在床頭櫃之後脫去外套,就那樣睡著了。
|
早上,我因平常設的鬧鐘而醒來了。雖然並不是很舒服的早晨,但還是得起來。現實可不會因為我的心情就停止前進。
就像平常一樣打開情報設備的電源。播報著設定好的新聞。
驚慌的主播好像在急忙說些什麼。我鎖定那個新聞仔細看了起來。
「是暴動!大規模的自動人偶暴動。在這第十二階層的蘇巴斯地區,勞動用的自動人偶突然開始破壞街道。這景象真是太恐怖了!」
主播對著望遠鏡頭拍出來的景象,以不可置信地感覺報導著現場的狀況。
「為了鎮壓暴動的部隊出現了。是重武裝的部隊。至今為止我們曾看過這樣的景象嗎?身為我們的所有物,只是為了勞動而存在的他們,竟然以集團的方式反抗身為主人的我們。這究竟是怎麼一回事呢」
鏡頭照著出現在道路邊的鎮壓部隊。確實路邊商店的玻璃被打破,路上的車子也燃燒著。但是,卻沒有看到暴動的自動人偶身影。
鎮壓部隊組好隊伍前進。並已經水平舉著鎮壓用的散彈槍。
我坐在床邊仔細地看著那景象。
然後突然間,鎮壓部隊的影像被切換到攝影棚內的影像了。
「經由當局的指示,我們無法再提供更多現場直播的畫面。這是為了安全上的理由,並不是侵犯自由報導的權力。並預計在十一點會由管理局召開記者會。非常抱歉,接下來的報導請等到十一點」
此時時間才剛八點。
「關於第十階層我們還沒有接到當局發出來的警告。接下來我們將自動人偶的這個話題,移交給專門人士來解說」
主播說完後,就切到廣告畫面了。爽朗的美男子出現在畫面上,開始說明起自己擁有多麼優秀的家事機能。我在腦中突然很諷刺地想到,難道引起暴動也是最新的機能嗎。
不過我還有該做的事。沒有時間在這邊等新聞。
我淋了個浴換套衣服後,就拿著手提包離開房間了。
|
「─完─」
2837年 「フィルム」
俺はノックの音を聞くと直ぐに立ち上がり、机に仕舞ってあった拳銃を手に取った。普段は使うことがないものだが、万が一ということもある。マガジンを装填してスライドを引いた。そして脱いでいたジャケットを素早く羽織った。
扉に近付いてドアスコープを覗く。背の高いコートを着た見慣れた男が立っている。継父のマークだ。
「俺だ。 開けてくれ」
拳銃にセイフティを掛けてベルトの背中側に差し込み、落ち着いてドアを開けた。
「どうした。 ずいぶん遅くまで働いてるみたいだな」
「ああ、仕事がちょっと立て込んでてね」
マークは部屋に入ると来客用のソファーにどかっと腰を下ろした。さっきまで自分がトランクと格闘していた場所だ。
「そうか。 面倒でも起きてるのか?」
冷えた水をグラスに注ぎ、マークの前に置いた。
「大したことじゃない。 それより、何でこんな時間に?」
「なに、帰り際に前を通ったとき、明かりが見えてな」
マークは時折、この事務所にやって来ては世間話をして帰ることがある。
「どうした、浮かない顔だな」
「言ったろ。 立て込んでてね」
「また浮気調査か?」
「ああ。 クライアントがなかなか面倒なタイプでね。 やれこの写真じゃだめだ、経費に納得がいかないだの、うるさいのさ」
あまり饒舌にならないよう、いつも通りに答えたつもりだった。嘘を見抜くのがマークの仕事だ。
「なるほどな」
「所詮この稼業は人付き合いさ。 金のためだ。やるしかないね」
少し大仰に嘆いてみせながらソファーの背に寄り掛かった。ただ、ベルトに差した拳銃が背骨に当たり、すぐに身体を元の位置に戻した。慣れないことはするもんじゃない。
奇妙な沈黙が二人の間に漂った。
継父の刑事を前に隠し事、おまけに背中には不慣れな拳銃。これはあまりいいシチュエーションじゃない。
「「お——」」
二人同時に声を上げると、苦笑いしながら俺は相手に手振りで譲った。
「……お前、母さんから親父さんの事、どこまで聞いている?」
突然の意外な切り出しに少々面を喰らった。
「なんだよ、唐突に」
思わず口に出た。
「親父さんのトニーが最後に担当した事件は知っているな」
「ああ、確か芸術家が自殺に見せかけられて殺された事件だ。未解決で終わったって聞いてる」
こんなぼかした言い方をする必要はなかった。親父が最後に担当した事件については大人になってからかなり詳しく調べていた。ただ、上層で起きた事件だけに、自分の今の階級からでは官製メディアの概要情報を知るのが精一杯だったが。
「じゃあ、母さんじゃなく、トニーから何か聞かされたことは?」
「俺がまだ四歳かそこらの話だ。聞いたって、覚えてるわけがない」
「そうか」
「そういうのは俺じゃなく、母さんの方が知ってるだろう。にしても、なんで今更そんなことを?」
俺は聞いた
「実はお前にこんなことを話すのは何なんだが……」
こんなマークの表情は初めて見る。
「まだ報道はされてはいないが、奇妙な事件が相次いで起きている。今じゃ上層も含めた俺達捜査官は、ずっとその事件に追われているんだ」
そう言うと、マークは大きく息をついた。タフな男がこんな姿を見せるのはめずらしい。
「それが親父と関係がある?」
「そう、トニーが担当した事件が今回の一連の事件と深く関わりがあるんじゃないか、という話が出てな」
「それで俺に話を?」
「そうだ。 何でもいいんだ。 ちょっとしたことでいい。 思い出せないか?」
「悪いな、何も覚えてない」
俺は嘘を言っていた。この話を聞きながら、俺はあることを思い出していた。ただ、それをマークに気付かれたくなかった。
「そうか……わかった」
マークはそう言うと、コップの水を飲み干して立ち上がった。
「体には気をつけろよ」
ドアの手前でそう言った。
「ああ、あんたももういい歳なんだから、無理せずにな」
マークには普段見られない疲労感が漂っていた。自分の嘘も気付かれていないようだ。これは幸運だと喜ぶべき事なのだろか。
「ふん、やらなきゃいけないことはまだまだあるんだ。 怠けてはおられん」
「母さんによろしく」
「ああ」
マークは出て行った。
俺は背中の拳銃を抜くとマガジンを抜き、薬室から銃弾を取り出した。そしてマガジンと拳銃を元の机に仕舞った。
マークがここに来た時には、てっきりトランクのことが監視カメラか何かに見つかって回収しに来たのかと思ったが、そうではなかったようだ。そして俺にトランクの中身に関するヒントを残して去って行った。
マークが言っていた親父のことを思い出していた。そしてフィルムについても。
あのフィルムは親父のものではないのか? 親父はよく俺を古ぼけたカメラで撮影していた。それを家族全員で観た思い出が、マークと話している間に急に浮かび上がってきていた。
三人一緒に部屋を暗くしてフィルムを観ていた。生まれたばかりの自分の姿。笑顔の母親。奇妙な気分だったのを思い出した。
今思えば、親父にはそういう趣味があったのだ。親父が死んでから母親が全て処分してしまったから思い出すこともなかったが、確かに俺はフィルムを観たことがあるのだ。
俺のこの時代遅れの骨董趣味は父親譲りだったのだ。なぜそれを忘れていたのだろう。
それでも、あのフィルムが親父のものであるという確信が、今はある。
俺はソファーの下に隠したトランクを取り上げ、フィルムを取り出した。
そしてすぐに部屋の照明に透かしてフィルムを眺めてみた。
指で隠れてしまうほどの細いフィルムには、肉眼では何が写っているのかよくわからない。
ただ、二人の人物が写っていることだけはわかった。
フィルムの中身を詳しく調べる必要があると、俺は思った。
それと、フィルムの中身とは別に、もう一つ調べなければならないことがあった。
青年が最後に言った『サーカス』についてだ。
この階層にサーカスが来たという話は耳にしていない。どこのサーカスのことだろうか。何かの例えや隠語なのかもしれない。
それと、親父の事件とマーク達が追っている事件の内容も気になった。
——この二つの事件には必ず関係がある。
——そして、それは親父の死に結びつく筈だ。
自分が驚くほど興奮していることに気付いた。
俺はすぐにフィルムを自分の鞄に移し替えた。そして拳銃とマガジンも一緒にその鞄に入れた。
俺は端末で調べたい情報をまとめると、全てメモに取った。
そして、事務所を出て車に乗り、自宅へと戻った。
三ブロックほど離れた高層アパートメントの一室が俺の部屋だ。午前一時を回ったロビーには、ガードマンのオートマタ以外誰もいない。定型の挨拶をするガードマンを無視し、フィルムと拳銃を入れた鞄を持って二十階まで上る。
早く休みたかった。奇妙な緊張の連続でひどく疲れていた。
鍵を開けて自分の部屋に入る。
ベッドサイドに鞄を転がしてジャケットを脱ぐと、そのまま眠ってしまった。
朝、俺はいつもの目覚ましの音で目を覚ました。快適な朝ではないが、起きなければならない。現実はこっちの気分をお構いなしに進み続けるのだ。
いつものように情報端末のスイッチを入れた。設定されたニュースが流れてくる。
緊迫した様子のキャスターが何か早口で捲し立てている。俺はそのニュースに釘付けになった。
「暴動です! 大規模なオートマタによる暴動です。この第十二階層スバース地区で労働用オートマタが突如、街で破壊行為に及んでいます。恐ろしい光景です!」
キャスターは望遠レンズで映し出される光景を、信じられないといった様子で実況している。
「いま、鎮圧のための部隊が現れました。 重武装です。 今までこんな光景があったでしょうか? 我々の所有物であり、労働の機械に過ぎない彼らが、主人たる我々人間に対して集団で抵抗しているのです。 これは一体どういうことなのでしょうか」
カメラはパンをして道路脇から現れた鎮圧部隊を映している。確かに商店の窓ガラスが割られ、路上の車からは炎が上がっている。ただ、実際に暴れているというオートマタの姿はどこにも見えない。
鎮圧部隊は隊伍を組んで通りを進んでいく。既に鎮圧用のショットガンを水平に構えている。
俺はベッドの端に座って端末を食い入るように見ていた。
すると突然、鎮圧部隊の映像からキャスターのいるスタジオに映像が切り替わった。
「当局からの指導により、これ以上の中継画像は提供できなくなりました。 これは安全上の理由であり、報道の自由を侵すものではないという発表です。なお、十一時から管理局による会見が予定されているとのことです。 誠に申し訳ありませんが、続報は十一時までお待ちください」
時計は八時を回ったところだ。
「なお、第十階層にはまだ当局からの指導、警告は出ていません。引き続きオートマタ蜂起の話題について、専門家を交えて解説していきます」
キャスターがそう言うと、端末はCMへと切り替わった。にこやかな美男が出てきて自分がいかに優れた家事機能を持っているかを説明しはじめた。暴動も起こせるのが最新機能か、そんな皮相なジョークが頭に浮かんだ。
だが、俺にはやらなければならないことがある。ニュースに齧り付いているわけにはいかない。
俺はシャワーを浴びて着替えを済ますと、鞄を持って部屋を出た。
「—了—」
俺はノックの音を聞くと直ぐに立ち上がり、机に仕舞ってあった拳銃を手に取った。普段は使うことがないものだが、万が一ということもある。マガジンを装填してスライドを引いた。そして脱いでいたジャケットを素早く羽織った。
扉に近付いてドアスコープを覗く。背の高いコートを着た見慣れた男が立っている。継父のマークだ。
「俺だ。 開けてくれ」
拳銃にセイフティを掛けてベルトの背中側に差し込み、落ち着いてドアを開けた。
「どうした。 ずいぶん遅くまで働いてるみたいだな」
「ああ、仕事がちょっと立て込んでてね」
マークは部屋に入ると来客用のソファーにどかっと腰を下ろした。さっきまで自分がトランクと格闘していた場所だ。
「そうか。 面倒でも起きてるのか?」
冷えた水をグラスに注ぎ、マークの前に置いた。
「大したことじゃない。 それより、何でこんな時間に?」
「なに、帰り際に前を通ったとき、明かりが見えてな」
マークは時折、この事務所にやって来ては世間話をして帰ることがある。
「どうした、浮かない顔だな」
「言ったろ。 立て込んでてね」
「また浮気調査か?」
「ああ。 クライアントがなかなか面倒なタイプでね。 やれこの写真じゃだめだ、経費に納得がいかないだの、うるさいのさ」
あまり饒舌にならないよう、いつも通りに答えたつもりだった。嘘を見抜くのがマークの仕事だ。
「なるほどな」
「所詮この稼業は人付き合いさ。 金のためだ。やるしかないね」
少し大仰に嘆いてみせながらソファーの背に寄り掛かった。ただ、ベルトに差した拳銃が背骨に当たり、すぐに身体を元の位置に戻した。慣れないことはするもんじゃない。
奇妙な沈黙が二人の間に漂った。
継父の刑事を前に隠し事、おまけに背中には不慣れな拳銃。これはあまりいいシチュエーションじゃない。
「「お——」」
二人同時に声を上げると、苦笑いしながら俺は相手に手振りで譲った。
「……お前、母さんから親父さんの事、どこまで聞いている?」
突然の意外な切り出しに少々面を喰らった。
「なんだよ、唐突に」
思わず口に出た。
「親父さんのトニーが最後に担当した事件は知っているな」
「ああ、確か芸術家が自殺に見せかけられて殺された事件だ。未解決で終わったって聞いてる」
こんなぼかした言い方をする必要はなかった。親父が最後に担当した事件については大人になってからかなり詳しく調べていた。ただ、上層で起きた事件だけに、自分の今の階級からでは官製メディアの概要情報を知るのが精一杯だったが。
「じゃあ、母さんじゃなく、トニーから何か聞かされたことは?」
「俺がまだ四歳かそこらの話だ。聞いたって、覚えてるわけがない」
「そうか」
「そういうのは俺じゃなく、母さんの方が知ってるだろう。にしても、なんで今更そんなことを?」
俺は聞いた
「実はお前にこんなことを話すのは何なんだが……」
こんなマークの表情は初めて見る。
「まだ報道はされてはいないが、奇妙な事件が相次いで起きている。今じゃ上層も含めた俺達捜査官は、ずっとその事件に追われているんだ」
そう言うと、マークは大きく息をついた。タフな男がこんな姿を見せるのはめずらしい。
「それが親父と関係がある?」
「そう、トニーが担当した事件が今回の一連の事件と深く関わりがあるんじゃないか、という話が出てな」
「それで俺に話を?」
「そうだ。 何でもいいんだ。 ちょっとしたことでいい。 思い出せないか?」
「悪いな、何も覚えてない」
俺は嘘を言っていた。この話を聞きながら、俺はあることを思い出していた。ただ、それをマークに気付かれたくなかった。
「そうか……わかった」
マークはそう言うと、コップの水を飲み干して立ち上がった。
「体には気をつけろよ」
ドアの手前でそう言った。
「ああ、あんたももういい歳なんだから、無理せずにな」
マークには普段見られない疲労感が漂っていた。自分の嘘も気付かれていないようだ。これは幸運だと喜ぶべき事なのだろか。
「ふん、やらなきゃいけないことはまだまだあるんだ。 怠けてはおられん」
「母さんによろしく」
「ああ」
マークは出て行った。
俺は背中の拳銃を抜くとマガジンを抜き、薬室から銃弾を取り出した。そしてマガジンと拳銃を元の机に仕舞った。
マークがここに来た時には、てっきりトランクのことが監視カメラか何かに見つかって回収しに来たのかと思ったが、そうではなかったようだ。そして俺にトランクの中身に関するヒントを残して去って行った。
マークが言っていた親父のことを思い出していた。そしてフィルムについても。
あのフィルムは親父のものではないのか? 親父はよく俺を古ぼけたカメラで撮影していた。それを家族全員で観た思い出が、マークと話している間に急に浮かび上がってきていた。
三人一緒に部屋を暗くしてフィルムを観ていた。生まれたばかりの自分の姿。笑顔の母親。奇妙な気分だったのを思い出した。
今思えば、親父にはそういう趣味があったのだ。親父が死んでから母親が全て処分してしまったから思い出すこともなかったが、確かに俺はフィルムを観たことがあるのだ。
俺のこの時代遅れの骨董趣味は父親譲りだったのだ。なぜそれを忘れていたのだろう。
それでも、あのフィルムが親父のものであるという確信が、今はある。
俺はソファーの下に隠したトランクを取り上げ、フィルムを取り出した。
そしてすぐに部屋の照明に透かしてフィルムを眺めてみた。
指で隠れてしまうほどの細いフィルムには、肉眼では何が写っているのかよくわからない。
ただ、二人の人物が写っていることだけはわかった。
フィルムの中身を詳しく調べる必要があると、俺は思った。
それと、フィルムの中身とは別に、もう一つ調べなければならないことがあった。
青年が最後に言った『サーカス』についてだ。
この階層にサーカスが来たという話は耳にしていない。どこのサーカスのことだろうか。何かの例えや隠語なのかもしれない。
それと、親父の事件とマーク達が追っている事件の内容も気になった。
——この二つの事件には必ず関係がある。
——そして、それは親父の死に結びつく筈だ。
自分が驚くほど興奮していることに気付いた。
俺はすぐにフィルムを自分の鞄に移し替えた。そして拳銃とマガジンも一緒にその鞄に入れた。
俺は端末で調べたい情報をまとめると、全てメモに取った。
そして、事務所を出て車に乗り、自宅へと戻った。
三ブロックほど離れた高層アパートメントの一室が俺の部屋だ。午前一時を回ったロビーには、ガードマンのオートマタ以外誰もいない。定型の挨拶をするガードマンを無視し、フィルムと拳銃を入れた鞄を持って二十階まで上る。
早く休みたかった。奇妙な緊張の連続でひどく疲れていた。
鍵を開けて自分の部屋に入る。
ベッドサイドに鞄を転がしてジャケットを脱ぐと、そのまま眠ってしまった。
朝、俺はいつもの目覚ましの音で目を覚ました。快適な朝ではないが、起きなければならない。現実はこっちの気分をお構いなしに進み続けるのだ。
いつものように情報端末のスイッチを入れた。設定されたニュースが流れてくる。
緊迫した様子のキャスターが何か早口で捲し立てている。俺はそのニュースに釘付けになった。
「暴動です! 大規模なオートマタによる暴動です。この第十二階層スバース地区で労働用オートマタが突如、街で破壊行為に及んでいます。恐ろしい光景です!」
キャスターは望遠レンズで映し出される光景を、信じられないといった様子で実況している。
「いま、鎮圧のための部隊が現れました。 重武装です。 今までこんな光景があったでしょうか? 我々の所有物であり、労働の機械に過ぎない彼らが、主人たる我々人間に対して集団で抵抗しているのです。 これは一体どういうことなのでしょうか」
カメラはパンをして道路脇から現れた鎮圧部隊を映している。確かに商店の窓ガラスが割られ、路上の車からは炎が上がっている。ただ、実際に暴れているというオートマタの姿はどこにも見えない。
鎮圧部隊は隊伍を組んで通りを進んでいく。既に鎮圧用のショットガンを水平に構えている。
俺はベッドの端に座って端末を食い入るように見ていた。
すると突然、鎮圧部隊の映像からキャスターのいるスタジオに映像が切り替わった。
「当局からの指導により、これ以上の中継画像は提供できなくなりました。 これは安全上の理由であり、報道の自由を侵すものではないという発表です。なお、十一時から管理局による会見が予定されているとのことです。 誠に申し訳ありませんが、続報は十一時までお待ちください」
時計は八時を回ったところだ。
「なお、第十階層にはまだ当局からの指導、警告は出ていません。引き続きオートマタ蜂起の話題について、専門家を交えて解説していきます」
キャスターがそう言うと、端末はCMへと切り替わった。にこやかな美男が出てきて自分がいかに優れた家事機能を持っているかを説明しはじめた。暴動も起こせるのが最新機能か、そんな皮相なジョークが頭に浮かんだ。
だが、俺にはやらなければならないことがある。ニュースに齧り付いているわけにはいかない。
俺はシャワーを浴びて着替えを済ますと、鞄を持って部屋を出た。
「—了—」