「以上報告完畢。果然,新女王監護人的爭奪實在是難以預測啊」
「真是辛苦你了,阿修羅。你做的很好」
魯卡正在瞑想的途中。做為密探被派遣到王都進行任務的阿修羅回來後,立刻將在聯合王國徵查到的國政背後關係向魯卡報告。魯卡就那樣閉著眼睛聽完阿修羅的報告。
「魯卡大人,請指示下一個命令」
「嗯。在那之前,我想聽聽你的意見」
魯卡慢慢地張開眼睛。他的衣著,跟以前在荒野旅行時,穿著的東方民族衣裳一樣,一點都沒有改變。
「由魯卡大人站出來也是一個辦法。照現在這個情況拖下去,還是會有為了尋求安定,認為魯卡大人的統率力跟軍事能力是必要的人出現吧。近期內,已經談好會由一部分的人帶頭提起」
阿修羅就依然低著頭說道。
「哈哈哈。阿修羅,那樣就有點太過頭了。老朽現在只考慮著要怎麼支援女王。的確之前也曾經考慮過由自己來站到最前方。但是戰爭這種東西,決斷的速度非常重要。所以率領軍隊之人,盡可能的還是握有大權的人比較好」
「是的」
「但那只是常理。在我年輕的時候,不,在過去的戰爭也許可行。但是這次的戰爭,感覺無法照常理渡過」
因為先王突然去世,魯比歐那聯合王國現在正一片混亂。接著在新女王繼位之後,托雷依德永久要塞就被攻陷,更加確定了魯比歐那的劣勢。
「但是這樣下去的話,我們面對帝國的攻勢,會毫無招架之力的一直持續敗退吧」
「也許吧。但是我們所對抗的到底是什麼?」
「古朗德利尼亞帝國。在這片大陸上勢力最大的強國」
「沒錯。但是現在的帝國不只是單純的強國而已。你知道托雷依德發生的怪事嗎」
「死者襲擊人的事嗎?」
「沒錯,那是令人畏懼的怪事。還有關於永久皇帝的復活這件事也是」
魯卡結束瞑想,站到阿修羅的面前。阿修羅仍然沒有將頭抬起來。
「世界已經邁入一個新的時代。越過渦這個災害之後,將會有各式各樣的事情發生吧。就連死者的復甦,號稱不死的王想要將世界納入手中這種事都發生了。那些人正改變著世界的攝理。必須捨棄過去了。一直拘泥於成功的過往,就會失去以後的未來。現在必須正確地看待並且去迎合這個新世界」
「遵命」
「阿修羅,你也需要新的見聞。只靠體術是無法取勝的。為了保持自己的強大,必須不斷向前」
「是的」
「你去帝國一趟吧。特別是帝都斐度。去他們的國家,用你的身體去感受他們的世界。就像我在東方得到力量一樣,你去西方獲取知識吧」
「明白了」
「阿修羅啊,你就照你的意思行動吧。不是照我的命令」
阿修羅點頭,就離開了那個地方。
|
阿修羅與魯卡相會後遵從古老的盟約,與魯卡一起在王國的中樞工作。雖然成為了魯卡的心腹,對他忠心耿耿,但還是無法擺脫違和感。或許也是因為在貧窮村子的辛酸生活,與現在這受文明洗禮的中央國家文化,兩者之間的差異才造成這股違和感。
在故鄉時常常都與死相伴,一直都意識著明日該如何生存下去。透過每日的訓練,來重新檢視該如何善用自己的力量。
那個意識在巨大且被制度化的文明國家之中,變得極端地薄弱。能夠意識到與死亡之間的距離的,大概只剩下戰場而已了吧。
力量上也是一樣的情況。魯卡所屬的政治世界是賭上生死的權力世界,在那個世界中,存在著像阿修羅這種只會默默將對手屠殺的技術,所無法跨越的障礙,那是某種完全不一樣的力量制度。將昨日之敵當做今日之友,將昨日之友在今日捨去,達成目標,使用力量。那就是被文明化的政治世界。
阿修羅已經適應了這個世界。與魯卡在一起這麼多年了,也學到了文明化世界的做法。
同時也不停訓練自己,不讓自己在那個村子拼命學到的技術生疏。
然後與同樣遵從盟約,來到魯卡底下做事的部族同伴一起,盡可能地上戰場發揮自己的力量。
做為游擊隊編入魯卡軍隊中的海登民們,有著耀眼的戰果。即使在對帝國戰之中,也在讓敵兵撤退上相當活躍。
但是即使在那樣的日子之中,阿修羅還是感到焦躁。
做為魯卡的心腹,也已經得到相當的地位,但是終究還是無法擺脫異民族的身分。魯卡雖然對海登民族付之敬意,但是其他的梅爾茲堡貴族以及中央的人民們,多數還是對海登民族有著明顯的差別心態。
這件事本身,阿修羅並不感到恥辱。他們這些貨色,只要阿修羅認真起來,不用數秒就可以讓他們斷氣,根本只是蟲子般的存在罷了。蚊子飛舞的聲音雖然會讓人覺得煩躁,但是卻不會讓人感到恥辱。
只是,逐漸失去了待在這裡的意義跟目的。
雖然待在身為聯合王國第二大政治力的大公身旁,得到不少報酬,而且也得到充分發揮自己技術的機會。明明已經超越了與魯卡的盟約,讓彼此間的利益一致了才是。
但事與願違地,違和感跟焦躁感都被魯卡看出來了。所以才會被派遣到帝國,去做密探這種工作。
|
「阿修羅你怎麼了。魯卡大人說了什麼嗎?」
向阿修羅搭話的是基度,那不自由的腳歪的很奇妙。從成人式已經過了好一段時間,他也依他自己的方式克服了障礙。他善用那獨特的腳所使出的體術,在近身戰以超群的實力誇耀群雄了。
「魯卡大人要我離開魯比歐那一次,去帝國看看」
雖然搞不懂魯卡真正的用意,但是早就決定不管被交付什麼任務,都一定要去完成。
「好像很有趣的樣子。在這裡的生活也差不多開始有點膩了」
與基度的關係很奇妙。在成人式之後,基度常常站在阿修羅的身邊,表現出總是比任何人都還要率先遵從他指示的忠誠。阿修羅也接受了,漸漸重用起腦筋清楚的基度。
但彼此之間的話並不多。兩人的關係都不是用言語,而是用行動來表現。即便如此,他們兩人還是共有著一種相同的價值觀。
「帝國嗎,那邊的話應該可以嘗試發揮各種力量」
「也許吧」
阿修羅用短短的回應表示同意。
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首先阿修羅帶著以基度為首的少數部下前往帝國。假裝成美術商人,以非法進口商的身份,在帝國的黑社會闖出了名堂。
「用非法進口商這個小謊言,來掩蓋密探這個大謊言。帝國政府的權力中樞,一定跟黑社會有所連結」
阿修羅同意了基度的發言。
基度收集了一些特別的東方特產品。即使是在帝國大都市這個交易相當活絡的地方,這些東西都還是相當稀有。
接著,首先與羅占布爾克的犯罪組織進行接觸。這是因為基度覺得,從這個一手掌握了帝國黑暗部分的都市來發跡,會是比較好的方法。
沒多久,阿修羅的集團就在羅占布爾克開始出名了。先將基度當做頭目讓他發揮交涉能力,並且使用即使在都市中都能生存的戰鬥力遠超過其他的集團。有時候甚至還會將交易對手的敵對集團,在幾天內葬送掉。
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「你們真是奇怪的人耶。為什麼來帝國的啊?」
自稱Five的這位羅占布爾克巨大組織的幹部曾經這麼問道。
「順其自然就變成這樣子了。現在沒有了渦,我們的世界也變大了起來」
基度的話語中有著將東方特有的口音戲劇化的效果。基度是位做什麼事都很靈巧的男人。
「雖然這裡沒有地盤可以給你們這種外來的人。但是你們的勤奮我喜歡。做得好的話,會給你們一些賺錢管道」
「那真是太感謝了。我們會努力的」
基度保持輕鬆的態度配合著對方。
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「頭兒,我覺得在這裡的生活其實還蠻有趣的」
基度向阿修羅這麼說道。從旁看起來,身著豪華衣裳的基度跟身著帽兜的阿修羅,怎麼看阿修羅都是傭人。
「結果還是一個小世界」
阿修羅以安穩的感覺回答道。
「但是在這個社會,只要有力量什麼都做的到。繼續下去的話,可能會賺得比在魯比歐那時還多」
「你想要過奢侈的生活嗎?」
「比起不去體驗,我心裡是比較想體驗看看」
「原來如此。但是那跟我們的目的不同」
「說到目的,你不是只被指示說去帝國看看而已嗎?」
基度繼續詮釋著非法進口商的感覺。
「沒錯。但是近期會回去魯比歐那」
兩人之間暫時沉默了一下。
「那,只有我跟同伴們也好,可以留在這裡嗎」
基度的眼神閃爍著。可是阿修羅沒有表現出任何感情。
「啊,不是的,我不是打算背叛,這也是為了頭兒」
基度慌張地繼續說著。
「那我就聽聽你的理由吧」
「年輕的傢伙們也可以,讓村子把人送到這裡吧。以我們的力量,這附近的黑社會根本一下子就能擺平了」
「擺平後然後呢?」
「魯比歐那遲早會被帝國毀滅。到時在這裡發的財就可以拿來幫助大家了」
「大家?」
阿修羅的眼神變得銳利。
「嗯,嗯嗯。頭兒也知道的啊。只靠魯卡大人的力量根本做不了什麼。我用我自己的眼睛,在那個要塞之戰看到了」
基度有直接參加托雷依德要塞的戰鬥。
「那個樣子根本不可能打贏的。力量的差距非常明顯」
「腦筋很好的你會這麼想是當然。但是盟約怎麼辦?」
「那只是像表面話的東西而已啊。頭兒應該也這麼想的。我們應該要得到符合我們力量的財富與生活」
「符合力量的財富啊……」
「頭兒拜託你。我一直追隨著你。我一直相信著你的力量」
基度誠懇的求著阿修羅說道。
「我們就此分道揚鑣吧,不,讓我走我的路吧」
「好吧。但是我要你現在在這裡發誓」
「好的,頭兒的拜託我什麼都會做。至今為止我也一直都是這樣」
過了一會兒,阿修羅開口了。
「要是我叫你去死的話,就立刻去死。不問任何理由」
阿修羅冷淡地看著基度。
基度無法反論。因為他一旦拒絕,阿修羅就會毫不猶豫的將他的頭顱砍下吧。
現在基度對自己的能力也有信心。所以他非常清楚,反抗被稱為天才的阿修羅是沒有用的事。
「我會遵守,與頭兒的約定的」
基度閉上眼睛,跪下了。
|
「─完─」
3396年 「誓い」
「報告は以上です。 やはり、新女王の後見人争いは微妙な雲行きのようです」
「ご苦労だったな、アスラ。 よく働いてくれた」
リュカは瞑想の途中であった。そこへ密偵として王都に派遣されていたアスラが帰還し、連合王国の国政の背後関係について報告に来たのだ。リュカは目を閉じたままアスラの報告を聞き終えた。
「リュカ様、次のご命令を」
「うむ。その前に、お前の意見を聞きたい」
リュカはゆっくりと目を開けた。その姿は、荒野を旅していた時と変わらぬ、東方の民族衣装そのままだ。
「リュカ様が立つも一つの手かと。 このまま後見人争いが長引けば、いずれ安定を求めてリュカ様の統率力と軍事力が必要だと考える者が出てくるでしょう。 内々ですが、一部の者からは言質も取れています」
アスラは顔を伏せたまま言った。
「ふはは。 それは出過ぎだな、アスラ。 儂は今、女王を支えることしか考えておらぬ。 確かに一時は自ら先頭に立とうと思った。戦争というのは何より決断の速度が重要だからな。 軍を率いる者がなるべく大きな権力を持った方がいい」
「はい」
「しかし、それは常道よ。若き日の、いや、過去の戦いではそれでよかったかもしれん。 だが此度の戦いは、常道では乗りきれぬと感じておるのだ」
先王の急死により、ルビオナ連合王国は混乱の最中にあった。そして、新女王即位の直後に起こったトレイド永久要塞の陥落をはじめ、ルビオナの劣勢は明白なものとなっていた。
「しかし、このままでは帝國の攻勢に対して、無力なまま敗退を続けることになるでしょう」
「そうだな。 しかし、我々が対峙しているのは何だ?」
「グランデレニア帝國です。大陸で最大の勢力を誇る強国です」
「そうだ。 しかし今や帝國は只の強国ではない。トレイドでの怪異、知っているな」
「歩く死者のことですか?」
「そう、恐るべき怪異だ。 それに永久皇帝の復活の報もある」
リュカは瞑想を終え、アスラの前に立った。アスラは顔を上げていない。
「世界は新しい時代に達したのだ。渦を乗り越えたこれからは、次々とこの様なことが起こるであろう。 死者が蘇り、不死を名乗る王が世界を手に入れようとしているのだからな。奴らは世界の摂理を変えてくる。 過去を捨てねばならぬ。 上手くいった過去に拘泥していては、未来を失うことになる。今を正しく見つめ、新しい世界に合わせるのだ」
「御意のままに」
「アスラ、お前にも新しい知見が必要だ。 体術だけでは勝てぬ。 強くあり続けるためには、前に進む必要がある」
「はい」
「お前には帝國に行ってもらいたい。特に帝都ファイドゥだ。彼の国へ行き、肌で彼らの世界を感じるのだ。 私が東方で力を得たように、お前は西方で知識を得てくるがいい」
「わかりました」
「アスラよ、魂の思うままに行動してみろ。儂の命令ではなくな」
アスラは頷き、その場を辞した。
アスラはリュカと出会い、古き盟約に従って、リュカと共に王国の中枢で働くこととなった。彼の手となり足となり尽くしてきたが、違和感が無いわけではなかった。それはあの貧しい村での過酷な生活と、洗練され文明化されている中央国家の文化との間にある違和感でもあった。
故郷では常に死が身近にあり、明日をどう生きるか意識していた。己が力をどう生かすのかを、日々の鍛錬を通して見つめ直していた。
それが、巨大な国家の中、制度化された文明国家の中では極端に薄まっている。死を間近に意識できたのは、戦場ぐらいなものであった。
力にしてもそうだ。リュカの属する政治の世界は生死を賭けた力の世界ではあるが、その世界には、アスラの様に無言で相手を屠る技術では乗り越えられぬ、別種の力学が存在していた。昨日の敵を今日の味方とし、昨日の友を今日切り捨て、目標を遂げ、力を行使する。それが、文明化された政治の世界だった。
アスラはこの世界に適応していた。何年もリュカと共に過ごし、文明化された世界での所作も学んだ。
と同時に、あの村で命懸けで磨いた技もまた、鈍らぬように鍛錬を重ねていた。
そして、同じように盟約に従ってリュカの下に来た部族の仲間と共に、できる限り戦場に出向いてその力を振るった。
遊撃隊としてリュカの軍勢に組み込まれたハイデンの民は、目覚ましい戦果を上げた。対帝國戦においても、敵兵を退ける活躍をした。
しかしそんな日々の中でも、アスラは焦燥を感じていた。
リュカの腹心としてそれなりの地位に就いてはいるが、所詮異民族の雇われ者という扱いから脱することはなかった。リュカはハイデンの民に敬意を払っていたが、他のメルツバウの貴族や中央の民らは、ハイデンの民に対する差別心を顕わにする者が多くいた。
それ自体については、アスラは恥辱を感じてはいなかった。彼らなど、アスラが本気で掛かれば数秒で絶命する虫のような存在なのだ。蚊の羽音は不快だが、恥辱を感じる性質のものではない。
ただ、己がここに居続ける意味や目的を失いかけていた。
曲がりなりにも連合王国第二の政治力を持つ大公の側近として多額の報酬も得ていたし、存分に技を使う機会も得ていた。リュカとは盟約を超えて、互いの利益を一致させていた筈だった。
にも関わらず、違和感、焦燥感をリュカに見抜かれていたのだった。それが、先の帝國への密偵としての仕事だったのだ。
「どうしたアスラ。 リュカ様の話は何だったんだ?」
アスラに声を掛けたのはキドウだった。不自由な足は奇妙に歪んでいる。成人の儀から月日が経ち、彼は彼なりに己の障碍を克服していた。その独特の足裁きから繰り出される体術は、今では接近戦で抜群の強さを誇るようになっていた。
「一度王国を離れ、帝國に向かうように言われた」
リュカの真意は測りかねていたが、与えられた任務は果たそうと決めていた。
「ふむ、面白そうだな。 ここの生活にも少々飽きた頃合いだしな」
キドウとは奇妙な関係だった。成人の儀以降、キドウはアスラを常に立て、真っ先にその指示に従う忠信を見せていた。アスラはそれを受け入れ、頭の切れるキドウを重用するようになった。
ただ、互いに多くは語らなかった。二人の関係は、言葉ではなく行動でのみ示されるものだった。それでも、彼ら二人は互いに通底する一種の価値観を共有していた。
「帝國か、あそこでなら色々と力が試せそうだ」
「かもしれんな」
アスラは言葉少なく同意した。
まずアスラは、キドウを筆頭に少数の部下を伴って帝國に向かった。美術商を装い、密輸を請負う無法者として、帝國の闇社会に名を売ることにした。
「密偵という大きな嘘を密輸業者という小さな嘘で覆い隠す。帝國政府の権力中枢と闇社会との間には、必ず接点があるはずだ」
キドウの言葉にアスラは頷いた。
キドウは東方の変わった特産品を集めさせた。交易が活発になったといっても、帝國の大都市にこのような物はまだ珍しかった。
そして、まずローゼンブルグの犯罪組織に伝手をつけた。帝國の悪徳を一手に引き受けているあの都市から足掛かりを得るのが得策、というのがキドウの考えだった。
間もなく、アスラの集団はローゼンブルグで名を上げた。キドウを頭目に仕立て上げてその交渉力を生かし、都市の中でも生きる戦闘力を使って他のグループを出し抜いた。ある時など、取引相手の敵対グループを数日で葬ってみせたこともあった。
「奇妙な連中だな。 なぜ帝國に来た?」
ファイヴと名乗るローゼンブルグの巨大組織の幹部に聞かれたことがあった。
「流れですな。 渦が無くなり、我々の世界も広がったんでね」
そのキドウの言葉には東方の訛りを戯画化したような響きがあった。キドウは何事にも器用な男だった。
「余所者にやるシマはここには無い。 だが、お前らの働きは買ってやる。 上手くやれば稼がせてやる」
「ありがたい話ですな。 上手くやらせてもらいますよ」
キドウは余裕のある調子で相手に合わせた。
「カシラ、この暮らしも中々面白いと思うよ」
キドウがアスラにそう言った。傍目には、豪華な民族衣装を纏ったキドウに対してシンプルなフードを被っただけのアスラが、使用人のように見えた。
「所詮、小さな世界だ」
アスラは穏やかな調子で答えた。
「しかし、この社会は力さえあれば何でもできる。このまま行けば、ルビオナにいた時よりも稼げそうだ」
「贅沢がしたいのか?」
「経験しないより、してみたいというのが性分なんでね」
「成る程。 だが、目的とは違うな」
「目的と言っても、帝國へ行ってこいとしか言われてないんだろう?」
キドウはどこか密輸業者の頭目を演じ続けている調子だった。
「そうだ。 だがルビオナには戻る。近いうちにな」
短い沈黙が二人の間に流れた。
「なあ、じゃあ俺と仲間だけでも、ここに残してくれないか」
キドウの目は輝いていた。しかし、アスラは感情を表に出していない。
「い、いや、これは裏切りでもなんでもない、これはカシラのためにもなる話だ」
キドウは慌てて言葉を継いだ。
「聞かせてもらおう」
「若い奴らでいいから、里からここに人を送り込ませよう。 俺達の力があれば、この辺りの闇社会の連中なんざ、あっという間に仕切れる」
「仕切ってどうする?」
「いずれルビオナは帝國に滅ぼされる。 その時、ここで財を成しておけば皆が助かる」
「皆?」
アスラの眼光が鋭くなった。
「あ、ああ。カシラだってわかってる筈だ。 リュカ様の力だけではどうにもならぬことを。要塞での戦い、俺はこの目で直接見た」
キドウはトレイド要塞の戦いに参加していた。
「あれじゃあ勝ち目はない。 力の差は歴然だ」
「頭のいいお前らしい考えだな。だが、盟約はどうする?」
「あれは体のいい建前のようなものだろう。カシラもそう考えていると思っていた。俺達は力に見合った富や暮らしを手に入れるべきだって」
「力に見合う富か……」
「カシラ、頼む。俺はあんたにずっとついてきた。 あんたの力を信じてきた」
キドウは懇願する調子でアスラに言った。
「ここからは別の道を、いや、俺の道を行かせてくれ」
「いいだろう。 但し、ここで誓いを立ててもらう」
「ああ、カシラの頼みならば何でも。今までだってそうやってきたんだ」
少しの間を開けて、アスラが口を開いた。
「俺が死ねと言ったら即座に死んでみせろ。一切の理由を聞かずにな」
アスラの冷たい眼光がキドウを捉えていた。
キドウはこの問いに否とは言えなかった。もし断れば、何の躊躇いもなくアスラはキドウの首を切り落とすだろう。
今ではキドウ自身も腕に自信がある。だがそれ故に、天才と呼ばれたアスラに逆らうのは無駄だということを、よくわかっていた。
「カシラの誓い、守らせてもらいます」
目を閉じ、キドウは跪いた。
「—了—」
「報告は以上です。 やはり、新女王の後見人争いは微妙な雲行きのようです」
「ご苦労だったな、アスラ。 よく働いてくれた」
リュカは瞑想の途中であった。そこへ密偵として王都に派遣されていたアスラが帰還し、連合王国の国政の背後関係について報告に来たのだ。リュカは目を閉じたままアスラの報告を聞き終えた。
「リュカ様、次のご命令を」
「うむ。その前に、お前の意見を聞きたい」
リュカはゆっくりと目を開けた。その姿は、荒野を旅していた時と変わらぬ、東方の民族衣装そのままだ。
「リュカ様が立つも一つの手かと。 このまま後見人争いが長引けば、いずれ安定を求めてリュカ様の統率力と軍事力が必要だと考える者が出てくるでしょう。 内々ですが、一部の者からは言質も取れています」
アスラは顔を伏せたまま言った。
「ふはは。 それは出過ぎだな、アスラ。 儂は今、女王を支えることしか考えておらぬ。 確かに一時は自ら先頭に立とうと思った。戦争というのは何より決断の速度が重要だからな。 軍を率いる者がなるべく大きな権力を持った方がいい」
「はい」
「しかし、それは常道よ。若き日の、いや、過去の戦いではそれでよかったかもしれん。 だが此度の戦いは、常道では乗りきれぬと感じておるのだ」
先王の急死により、ルビオナ連合王国は混乱の最中にあった。そして、新女王即位の直後に起こったトレイド永久要塞の陥落をはじめ、ルビオナの劣勢は明白なものとなっていた。
「しかし、このままでは帝國の攻勢に対して、無力なまま敗退を続けることになるでしょう」
「そうだな。 しかし、我々が対峙しているのは何だ?」
「グランデレニア帝國です。大陸で最大の勢力を誇る強国です」
「そうだ。 しかし今や帝國は只の強国ではない。トレイドでの怪異、知っているな」
「歩く死者のことですか?」
「そう、恐るべき怪異だ。 それに永久皇帝の復活の報もある」
リュカは瞑想を終え、アスラの前に立った。アスラは顔を上げていない。
「世界は新しい時代に達したのだ。渦を乗り越えたこれからは、次々とこの様なことが起こるであろう。 死者が蘇り、不死を名乗る王が世界を手に入れようとしているのだからな。奴らは世界の摂理を変えてくる。 過去を捨てねばならぬ。 上手くいった過去に拘泥していては、未来を失うことになる。今を正しく見つめ、新しい世界に合わせるのだ」
「御意のままに」
「アスラ、お前にも新しい知見が必要だ。 体術だけでは勝てぬ。 強くあり続けるためには、前に進む必要がある」
「はい」
「お前には帝國に行ってもらいたい。特に帝都ファイドゥだ。彼の国へ行き、肌で彼らの世界を感じるのだ。 私が東方で力を得たように、お前は西方で知識を得てくるがいい」
「わかりました」
「アスラよ、魂の思うままに行動してみろ。儂の命令ではなくな」
アスラは頷き、その場を辞した。
アスラはリュカと出会い、古き盟約に従って、リュカと共に王国の中枢で働くこととなった。彼の手となり足となり尽くしてきたが、違和感が無いわけではなかった。それはあの貧しい村での過酷な生活と、洗練され文明化されている中央国家の文化との間にある違和感でもあった。
故郷では常に死が身近にあり、明日をどう生きるか意識していた。己が力をどう生かすのかを、日々の鍛錬を通して見つめ直していた。
それが、巨大な国家の中、制度化された文明国家の中では極端に薄まっている。死を間近に意識できたのは、戦場ぐらいなものであった。
力にしてもそうだ。リュカの属する政治の世界は生死を賭けた力の世界ではあるが、その世界には、アスラの様に無言で相手を屠る技術では乗り越えられぬ、別種の力学が存在していた。昨日の敵を今日の味方とし、昨日の友を今日切り捨て、目標を遂げ、力を行使する。それが、文明化された政治の世界だった。
アスラはこの世界に適応していた。何年もリュカと共に過ごし、文明化された世界での所作も学んだ。
と同時に、あの村で命懸けで磨いた技もまた、鈍らぬように鍛錬を重ねていた。
そして、同じように盟約に従ってリュカの下に来た部族の仲間と共に、できる限り戦場に出向いてその力を振るった。
遊撃隊としてリュカの軍勢に組み込まれたハイデンの民は、目覚ましい戦果を上げた。対帝國戦においても、敵兵を退ける活躍をした。
しかしそんな日々の中でも、アスラは焦燥を感じていた。
リュカの腹心としてそれなりの地位に就いてはいるが、所詮異民族の雇われ者という扱いから脱することはなかった。リュカはハイデンの民に敬意を払っていたが、他のメルツバウの貴族や中央の民らは、ハイデンの民に対する差別心を顕わにする者が多くいた。
それ自体については、アスラは恥辱を感じてはいなかった。彼らなど、アスラが本気で掛かれば数秒で絶命する虫のような存在なのだ。蚊の羽音は不快だが、恥辱を感じる性質のものではない。
ただ、己がここに居続ける意味や目的を失いかけていた。
曲がりなりにも連合王国第二の政治力を持つ大公の側近として多額の報酬も得ていたし、存分に技を使う機会も得ていた。リュカとは盟約を超えて、互いの利益を一致させていた筈だった。
にも関わらず、違和感、焦燥感をリュカに見抜かれていたのだった。それが、先の帝國への密偵としての仕事だったのだ。
「どうしたアスラ。 リュカ様の話は何だったんだ?」
アスラに声を掛けたのはキドウだった。不自由な足は奇妙に歪んでいる。成人の儀から月日が経ち、彼は彼なりに己の障碍を克服していた。その独特の足裁きから繰り出される体術は、今では接近戦で抜群の強さを誇るようになっていた。
「一度王国を離れ、帝國に向かうように言われた」
リュカの真意は測りかねていたが、与えられた任務は果たそうと決めていた。
「ふむ、面白そうだな。 ここの生活にも少々飽きた頃合いだしな」
キドウとは奇妙な関係だった。成人の儀以降、キドウはアスラを常に立て、真っ先にその指示に従う忠信を見せていた。アスラはそれを受け入れ、頭の切れるキドウを重用するようになった。
ただ、互いに多くは語らなかった。二人の関係は、言葉ではなく行動でのみ示されるものだった。それでも、彼ら二人は互いに通底する一種の価値観を共有していた。
「帝國か、あそこでなら色々と力が試せそうだ」
「かもしれんな」
アスラは言葉少なく同意した。
まずアスラは、キドウを筆頭に少数の部下を伴って帝國に向かった。美術商を装い、密輸を請負う無法者として、帝國の闇社会に名を売ることにした。
「密偵という大きな嘘を密輸業者という小さな嘘で覆い隠す。帝國政府の権力中枢と闇社会との間には、必ず接点があるはずだ」
キドウの言葉にアスラは頷いた。
キドウは東方の変わった特産品を集めさせた。交易が活発になったといっても、帝國の大都市にこのような物はまだ珍しかった。
そして、まずローゼンブルグの犯罪組織に伝手をつけた。帝國の悪徳を一手に引き受けているあの都市から足掛かりを得るのが得策、というのがキドウの考えだった。
間もなく、アスラの集団はローゼンブルグで名を上げた。キドウを頭目に仕立て上げてその交渉力を生かし、都市の中でも生きる戦闘力を使って他のグループを出し抜いた。ある時など、取引相手の敵対グループを数日で葬ってみせたこともあった。
「奇妙な連中だな。 なぜ帝國に来た?」
ファイヴと名乗るローゼンブルグの巨大組織の幹部に聞かれたことがあった。
「流れですな。 渦が無くなり、我々の世界も広がったんでね」
そのキドウの言葉には東方の訛りを戯画化したような響きがあった。キドウは何事にも器用な男だった。
「余所者にやるシマはここには無い。 だが、お前らの働きは買ってやる。 上手くやれば稼がせてやる」
「ありがたい話ですな。 上手くやらせてもらいますよ」
キドウは余裕のある調子で相手に合わせた。
「カシラ、この暮らしも中々面白いと思うよ」
キドウがアスラにそう言った。傍目には、豪華な民族衣装を纏ったキドウに対してシンプルなフードを被っただけのアスラが、使用人のように見えた。
「所詮、小さな世界だ」
アスラは穏やかな調子で答えた。
「しかし、この社会は力さえあれば何でもできる。このまま行けば、ルビオナにいた時よりも稼げそうだ」
「贅沢がしたいのか?」
「経験しないより、してみたいというのが性分なんでね」
「成る程。 だが、目的とは違うな」
「目的と言っても、帝國へ行ってこいとしか言われてないんだろう?」
キドウはどこか密輸業者の頭目を演じ続けている調子だった。
「そうだ。 だがルビオナには戻る。近いうちにな」
短い沈黙が二人の間に流れた。
「なあ、じゃあ俺と仲間だけでも、ここに残してくれないか」
キドウの目は輝いていた。しかし、アスラは感情を表に出していない。
「い、いや、これは裏切りでもなんでもない、これはカシラのためにもなる話だ」
キドウは慌てて言葉を継いだ。
「聞かせてもらおう」
「若い奴らでいいから、里からここに人を送り込ませよう。 俺達の力があれば、この辺りの闇社会の連中なんざ、あっという間に仕切れる」
「仕切ってどうする?」
「いずれルビオナは帝國に滅ぼされる。 その時、ここで財を成しておけば皆が助かる」
「皆?」
アスラの眼光が鋭くなった。
「あ、ああ。カシラだってわかってる筈だ。 リュカ様の力だけではどうにもならぬことを。要塞での戦い、俺はこの目で直接見た」
キドウはトレイド要塞の戦いに参加していた。
「あれじゃあ勝ち目はない。 力の差は歴然だ」
「頭のいいお前らしい考えだな。だが、盟約はどうする?」
「あれは体のいい建前のようなものだろう。カシラもそう考えていると思っていた。俺達は力に見合った富や暮らしを手に入れるべきだって」
「力に見合う富か……」
「カシラ、頼む。俺はあんたにずっとついてきた。 あんたの力を信じてきた」
キドウは懇願する調子でアスラに言った。
「ここからは別の道を、いや、俺の道を行かせてくれ」
「いいだろう。 但し、ここで誓いを立ててもらう」
「ああ、カシラの頼みならば何でも。今までだってそうやってきたんだ」
少しの間を開けて、アスラが口を開いた。
「俺が死ねと言ったら即座に死んでみせろ。一切の理由を聞かずにな」
アスラの冷たい眼光がキドウを捉えていた。
キドウはこの問いに否とは言えなかった。もし断れば、何の躊躇いもなくアスラはキドウの首を切り落とすだろう。
今ではキドウ自身も腕に自信がある。だがそれ故に、天才と呼ばれたアスラに逆らうのは無駄だということを、よくわかっていた。
「カシラの誓い、守らせてもらいます」
目を閉じ、キドウは跪いた。
「—了—」