天亮了。天空染白,陽光開始照亮托雷依德永久要塞。
在要塞紮營的魯比歐那王國軍以及旗下的連合軍士兵們,雖然緊張但還保有某種程度上的從容。
在這當中,威廉在隆茲布魯王國軍的陣地確認著這次的作戰內容。
「那個是什麼……」
不曉得是誰的低語。不過,巨大的機影映入眼簾。
才剛發現那是帝國軍所擁有的巨大戰艦武裝船,要塞就響起了隆隆震響。
那只是一瞬間的事。武裝船的砲擊,讓魯比歐那王國軍駐守的陣地一部分被砲火吞噬,只留下了瓦礫。
士兵們像破布一樣被炸飛,硝煙與血的臭味瀰漫四周。
因恐懼而混亂的秩序引起了更大的災難。面對帝國兵的突襲束手無策的王國軍,只能任其蹂躝。
「殿下,再這樣下去我軍也會受到相當大的傷害」
威廉認為事態嚴重而請求古魯瓦爾多給予指示。隆茲布魯王國軍雖然沒有受到砲火的直接攻擊還保有秩序,但士兵們之間充斥著恐懼與動搖的情緒。
「下命全軍退到後方。遠離那個怪物,等待機會」
「了解!」
古魯瓦爾多的命令傳達給集結的士兵。比威廉還要年輕的他們,果然臉色僵硬。
|
命令威廉率領部隊往托雷依德永久要塞派兵,不過才幾個月前的事而已。
往要塞出兵的部隊中,包括身為大將的古魯瓦爾多在內,威廉是最年長的一位。
隆茲布魯王國裡,雖然收到『王國軍目前情勢尚未衰敗』的回報,但多次的派兵讓士兵們已疲憊不堪。因此這次的托雷依德永久要塞派兵,集結了年輕體壯的青年兵。
包含威廉,跟上層官員較無關的人聽到的情報是這樣子的。
|
「聽說有你在的部隊,就算是再嚴酷的戰役也一定能活著回來」
「這不是我個人的能力。是因為有隊長及部隊的合作成果」
「不必謙虛。這次也期待你的表現。別對古魯瓦爾多王子殿下失禮啊」
「遵命」
在重重的考慮之下,威廉升官了。並且還被賦予了一個誇大的頭銜『托雷依德永久要塞派遣部隊大隊長』,讓身邊的人與當事人都十分困惑。
|
可以看見巨大戰艦噴出火柱。是魯比歐那王國軍裝甲獵兵的大火力攻勢。
「就是現在!突擊!」
古魯瓦爾多下達了命令。大將自己衝向武裝船應該會墜落的地點,打頭陣進行突襲。
古魯瓦爾多經過之處留下的是脖子噴著血在痙攣抽蓄,或是心臟被一刀刺穿的帝國兵屍體。
威廉一邊緊盯著那被回濺的血染成深紅色的斗篷,一邊在後面跟著。
「快點,保護殿下!」
在戰場上如鬼神般戰鬥的古魯瓦爾多,這是第一次親眼見到。
恐怖的王子,陰森森的黑太子。威廉也知道這些私底下的傳言。
雖然像風一般的戰鬥身影的確讓人感到害怕,但又同時又有著讓人著迷,奇妙的澄淨感。至少,對威廉來說是這樣的。
|
武裝船的甲板上,王國兵和帝國兵混戰著。
戰鬥的中心有位異樣的女性。手持指揮杖,白色的軍服上染了鮮血,那是位美麗但令人毛骨悚然的女將軍。
古魯瓦爾多衝向那位女將軍。威廉把要攻擊古魯瓦爾多的帝國兵都砍倒。
不曉得是砍倒了幾個帝國兵。威廉自己也沾上了回濺的血及受傷的血。
回過頭時,古魯瓦爾多已經刺穿了女將軍。
勝負已定。
從存活下來的王國軍、隆茲布魯軍的兵士們傳來,不能算是歡喜的歡呼聲。
|
−−啪洽。
那個歡呼聲,被突來的那令人不悅的聲音給強制中斷了。
「來吧,死者們。用你們的手,去創造更多的死!」
威廉看到的是,滴著綠色體液的女將軍,發出可以說是高興的尖叫聲站起來的樣子。
好像要把女將軍那個模樣遮蔽起來似地,頭部跟身體被切碎的屍體們站了起來。身上穿的是王國軍的兵服。
濕黏的聲音從各處傳來。
「是怪物!」
「嗚啊啊啊啊啊啊啊!!」
一瞬間,歡喜之地轉化為地獄。
戰場陷入極度的混亂。化為死人的士兵不分敵我的襲擊活人。
整個場面根本無法控制。陷入恐慌狀態的士兵們拼死想從死者手中逃走。
但是逃走的方向也有死者復活,士兵們毫無招架之力的被吞噬。威廉也被捲入想逃走的士兵群中,不得不一起在武裝船的甲板上跑著。
不經意地聽到從後方傳來的笑聲。沒花多少時間就知道,那是古魯瓦爾多發出的聲音。
威廉發現了,那奇妙的澄淨感是來自於快樂。
「死者們,給我變回肉塊吧!」
驚人的劍壓將死者們都給吹飛了。但古魯瓦爾多隨即與爆炸聲一同,從甲板上被吹飛了。
威廉立即移動了。就算再怎麼害怕,也不能夠拋下自己國家的王子。
古魯瓦爾多的笑聲與言語還留在腦海內。威廉揮去幻聽衝向古魯瓦爾多。
砍倒死者,並突破活人的逃跑人群,總算是成功降到地面了。
地上也被死亡之波給襲擊。新製造出的死者們,一口氣大量地增加中。
托雷依德永久要塞被死者埋沒也只是時間的問題了。
|
被打到地面的古魯瓦爾多的樣子,非常地淒慘。
慣用手被切碎,被死者們啃食的地方內臟流了出來,然後那些內臟也被啃食的亂七八糟。那端正的臉龐與下顎附近都被醜陋的砸爛,只剩下勉強還能呼吸的慘樣。
威廉背起比自己身驅還要大些的古魯瓦爾多,為了從後方要追來的死者軍團逃走,拼命地移動自己的腳。
前進到接近隆茲布魯軍陣地的地方時,總算跟後備小隊合流了。
「大隊長!殿下他……」
士兵看了一眼被死者啃食而變得淒慘模樣的古魯瓦爾多,臉色蒼白地看向威廉。
「殿下還活著。快點將他搬到醫護兵的地方。我在這裡阻擋死者們」
「大隊長,可是這樣−−」
「我們作為屬下,有不管如何都要將殿下護送回隆茲布魯王國的義務!知道了的話就快去!」
「了,了解了!」
將古魯瓦爾多托給了士兵之後,留在原地的威廉拼死揮著劍。死人的動作很遲鈍。
|
但即使死人的動作很遲鈍,死人就像要追求更多的犧牲者似地,不停地冒出來。
帝國兵跟王國兵、隆茲布魯王國的士兵都變成了死人。
只要被一個死人咬上。動作變遲緩後就會接二連三的被襲擊而上。
威廉被死人堆出來的山給埋沒了。雖然光線都被遮住,但從聲音跟感覺可以理解自己正遭遇著什麼事。
身上的肉被奪去。有肋骨跟脛骨發出聲音被剝削而去的感覺。死人的骨頭跟牙齒衝撞著全身,從被打開的地方流出的內臟與肉發出被翻出來的聲音。
血被吸食而去。知道自己的頭蓋骨邊發出聲音邊被啃食而破。大腦似乎觸碰到什麼東西,反射性的被嘔吐感襲擊,但吐出來的是血塊。
即使如此威廉還是在抵抗。
揮動還留有感覺的右手,從死人的一部分射進了被遮蔽的光線。從那個縫隙間看到的是,背著古魯瓦爾多的士兵正在下山的隆茲布魯兵的身影。
還不行。如果自己就死在這邊,下一個就輪到拼死逃走的士兵與古魯瓦爾多被吞沒了。
這麼一想,殘存的心臟強烈的跳動了。跳動的同時,威廉那本來應該已經被吸光的血液大量地噴出。
殘存的右手揮動抓住了死人的肉。然後死人的肉從被威廉抓住的地方開始崩塌。
這個現象傳播到所有碰觸威廉的死人。隨著死人一個接一個的崩塌而去,威廉的出血開始止住。
威廉感覺自己正在吸收這些死人們生前的殘存生命力。
蠢蠢欲動的死人之山就像失去支柱般崩塌而去。
威廉一個人躺在那堆殘留的肉與內臟跟血混合的污泥之中。
|
「唔……嘔……」
威廉邊發出呻吟聲,在混亂的感覺中拖著流出的血以及脫落的肉,從陡峭的山坡滾落而下。
對這附近不熟悉的威廉,不知道自己身處何處。
但是失去了身體的大部分,不要說內臟與骨頭了,連腦髓都外露卻都還活著的自己這副模樣,無論如何都必須避人耳目。
大部分的感覺已經麻痺。神經可能也已經斷裂了。威廉連動的力氣都沒有了。
不知道過了多久。恍惚的意識看著遠方,突然全身傳來了尖銳的強烈痛覺。
已經麻痺的感覺急速的回來。很清楚的感受到傷口的脈動。剩餘的肉一點一點的在再生著。感受的到骨頭發出小小的聲音正在恢復原形。
用模糊的眼睛看著失去內臟的腹部,看到剩餘的內臟碎片在蠕動著,漸漸做出新的內臟。
「果然,即使這樣我也……」
話還沒說完,威廉就被可以將一切思考切斷的痛覺與疲勞給襲擊。
威廉就那樣,失去了意識
|
「−完−」
3394年 「残光」
夜が明けた。空は白み、陽の光がトレイド永久要塞を照らし始める。
要塞に陣取るルビオナ王国軍及び傘下の連合軍兵士達には、緊張しながらもある程度の余裕があった。
そんな中、ヴィルヘルムはロンズブラウ軍の陣地で今回の作戦内容を再確認していた。
「何だ、あれは……」
誰の呟きだったかはわからない。ただ、巨大な機影が見えた。
それが帝國軍の擁する巨大戦艦ガレオンであると認識する間もなく、要塞に轟音が響いた。
一瞬の出来事だった。ガレオンの砲撃によりルビオナ王国軍が駐留していた陣地の一部が餌食となり、瓦礫を残すのみとなった。
兵士達は襤褸のように吹き飛び、硝煙と血の臭いが周辺を支配する。
恐怖に乱れた統制は更なる被害を呼んだ。帝國兵の突撃に対応できなかった王国軍は、手の打ちようもないまま蹂躙された。
「殿下、このままでは我が軍にも甚大な被害が」
ヴィルヘルムは事態を重く見てグリュンワルドに指示を仰いだ。ロンズブラウ軍は直接の砲火に曝されていないために統制を保っていたが、兵士達の間には恐怖と動揺が走っていた。
「全軍に後退を指示しろ。あの化け物から離れて、機を窺う」
「了解しました!」
グリュンワルドの指示を集結させていた兵士に伝える。ヴィルヘルムよりも年若い彼等の顔は、やはり強張っていた。
ヴィルヘルムにトレイド永久要塞に派兵する部隊を率いる命令が下ったのは、つい数ヶ月前のことだった。
要塞に出兵する部隊は、大将であるグリュンワルドを含めても、ヴィルヘルムが最年長であった。
ロンズブラウ王国内では『王国軍、いまだ勢い衰えず』と報じられているが、幾度にも重なる派兵によって兵は疲弊している。よって今回のトレイド永久要塞への派兵は、年若い体力のある若年兵が集められた。
ヴィルヘルムを含め、上層にあまり関与していない人間はそう聞かされていた。
「君がいる部隊は、苛酷な戦場でも必ず生きて戻ると聞いている」
「私だけの力ではありません。隊長や部隊の連携があってこそだと思っています」
「謙遜するな。此度の活躍も期待している。グリュンワルド王子殿下に粗相のないようにな」
「はっ」
様々な考慮からヴィルヘルムは昇進し、『トレイド永久要塞派遣部隊大隊長』という、周囲も当人も困惑するような、大仰な肩書きを与えられたのだった。
巨大戦艦に火柱が上がるのが見えた。ルビオナ王国軍の装甲猟兵による大火力攻勢だった。
「今だ! 突撃せよ!」
グリュンワルドの命令が下った。大将自らガレオンが墜落するであろう地点に向かい、先陣を切って突撃していく。
グリュンワルドが駆け抜けた後に残るのは、首から血を噴出して痙攣していたり、心臓を一突きで貫かれたりした帝國兵の死体だった。
返り血で深紅に染まったマントを見失わないようにしながら、ヴィルヘルムも後に続いた。
「急げ、殿下をお守りしろ!」
戦場で鬼神の如く戦うグリュンワルドを見るのは、これが初めてだった。
恐ろしい王子、薄気味悪い黒太子。そう影で噂されていることはヴィルヘルムも知っていた。
風のように戦う彼の姿は確かに恐ろしかったが、同時に見蕩れたくなるような、奇妙な清々しさがあった。少なくともヴィルヘルムにはそう見えた。
ガレオンの甲板では、王国軍と帝國軍が入り乱れていた。
戦いの中心に異様な女性がいた。指揮杖を持って白い軍服を鮮血に染めた、美しいがどこか不気味な女将軍だった。
グリュンワルドがその女将軍に向かって駆けていく。ヴィルヘルムはグリュンワルドに襲い掛かろうとする帝國兵を切り伏せていた。
何人の帝國兵を切り捨てただろうか。ヴィルヘルム自身も返り血や怪我で血塗れになっていた。
振り返ると、グリュンワルドが女将軍を刺し貫いていた。
勝負はあった。
生き残っている王国軍、ロンズブラウ軍の兵士から、歓喜ともつかないどよめきが上がった。
——ビチャリ。
そのどよめきは、突然発せられた不快な音により強制的に中断された。
「さあ、死者達。お前達の手で、さらなる死を生み出しなさい!」
ヴィルヘルムの目に映ったのは、緑色の体液を滴らせる女将軍の、喜びとも叫びとも受け取れる喊声を上げる姿だった。
その女将軍の姿を遮るように、首と胴が千切れかけた死体が起き上がる。身に着けているものは王国軍の兵装だった。
ぐちゃり、ぐちゃりと、濡れた音があちこちから発せられる。
「化け物だ!」
「う、うわああああああ!!」
一瞬にして、歓喜の場が地獄と化した。
戦場は混乱を極めた。死人となった兵士は敵も味方も関係なく生者に襲い掛かった。
統率など取れる筈もない。恐慌状態に陥った兵士達が死者から逃れるべく退却していく。
だが逃げる先でも死者が復活し、為す術もなく喰われていった。ヴィルヘルムも逃げる兵士達の波に呑まれ、ガレオンの甲板を走らざるを得なかった。
不意に背後から笑い声が聞こえた。それがグリュンワルドの声だと気付くのに、さして時間は掛からなかった。
奇妙な清々しさの正体は快楽であるのだと、ヴィルヘルムは気付いてしまった。
「死者どもよ、ただの肉塊へ戻れ」
凄まじい剣圧で死者達が吹き飛んでいく。しかし直後に轟いた爆音と共に、グリュンワルドは甲板から弾き飛ばされていった。
ヴィルヘルムの身体は咄嗟に動いていた。どれだけ恐ろしかろうと、自国の王子をその場に打ち捨てていける筈がなかった。
グリュンワルドの笑い声と言葉が耳に残っていた。ヴィルヘルムはその幻聴を振り切って駆ける。
死者を切り捨て、生者の波に揉まれながらも、どうにか地面に降りることに成功した。
地上にも死の波が迫っていた。新たに製造された死者達は、鼠算式にその数を増やしていく。
トレイド永久要塞が死者に埋め尽くされるのは、時間の問題だった。
地面に打ち付けられたグリュンワルドの姿は、惨いものだった。
利き手は肘先が千切れ、死者に喰われた場所からは内臓がはみ出し、それもまた喰い千切られていた。端正な顔も顎の周辺で醜く潰れ、辛うじて呼吸だけをしているような有様だった。
ヴィルヘルムは自身より大柄のグリュンワルドを抱え上げると、背後に迫る死者の軍勢から逃れるべく、必死で足を動かした。
ロンズブラウ軍陣地に程近い場所まで進んだところで、後詰めに控えていた小隊となんとか合流することができた。
「大隊長! 殿下は……」
死者に喰われて凄惨な姿を曝すグリュンワルドを一瞥した兵士が、青い顔でヴィルヘルムを見た。
「まだ生きておられる。衛生兵のところへお運びしろ。俺はここで死者達を食い止める」
「大隊長、ですがこれでは——」
「我々は配下として、殿下をなんとしてでもロンズブラウ王国に護送する義務がある! わかったら行け!」
「り、了解です!」
兵士にグリュンワルドを任せた後、その場に残ったヴィルヘルムは必死で剣を振るった。死人の動きはひどく鈍かった。
それでも、死人はまるで更なる犠牲者を求めるように、後から後から出てきた。
帝國兵も王国兵も、ロンズブラウ王国の兵士さえもが死人と化していた。
死人の一体に喰いつかれる。動きが鈍ったところを次々と襲い掛かられた。
ヴィルヘルムは死人の山に埋もれていった。光が遮られたが、自分の身に起こっている事は音と感覚だけで理解できた。
身体の肉が奪われていく。肋骨と脛骨が音を立てて削られていく感覚がある。死人の骨や歯が全身に突き立てられ、穴の開いた箇所から内臓や肉が引き摺り出される音がした。
血が啜られていく。頭蓋骨が音を立てながら喰い破られたのがわかった。大脳に何かが触れたのだろうか、反射的な嘔吐に襲われたが、吐いたのは血の塊だった。
ヴィルヘルムはそれでも抵抗していた。
感覚の残る右腕を振るうと、死人の一部が断絶されて光が漏れた。その隙間から見えたのは、グリュンワルドを背負って山道を下るロンズブラウ兵の姿だった。
まだ駄目だ。ここでもし自分が事切れれば、次は必死で逃げる兵士とグリュンワルドが呑まれてしまう。
そう考えると、残っていた心臓が強く脈動した。脈動と同時に、ヴィルヘルムの全身から吸い尽くされた筈の血液が大量に噴出する。
残っていた右腕を振るって死人の肉を掴む。すると、ヴィルヘルムが掴んだところから死人の肉が崩れていった。
それはヴィルヘルムに触れていた死人に伝播していった。次々と死人が崩れ去っていくのに合わせて、ヴィルヘルムの出血が止まる。
死人が生者だった頃の生命力の残滓を吸い上げている、ヴィルヘルムははっきりとそれを感じ取った。
蠢く死人の山が楔を失ったように崩れ去る。
ヴィルヘルムは残された肉と臓物と血でできた汚泥の中に、一人倒れ伏していた。
「ぐ……おぉ……」
呻き声を上げながら、ヴィルヘルムは覚束ない感覚の中、流れ出る血とこぼれる肉を引き摺りながら山の急斜面を転がり落ちた。
土地勘のないヴィルヘルムは、自分が何処にいるかわからなかった。
だが身体の大部分を失い、内臓や骨はおろか脳髄さえ露出しながらも生き続けるこの姿を、誰かに見られることだけは避けねばならなかった。
大部分の感覚は麻痺していた。神経も断裂しているのかもしれない。ヴィルヘルムに動く力は残っていなかった。
どのくらいの時間が経ったのか。虚ろな意識でどこか遠くを見ていると、不意に全身を鋭く強い痛みが走った。
麻痺していた感覚が急速に戻ってくる。傷口の脈動がはっきりとわかる。残った肉が少しずつ再生していくのを自覚する。小さな音を立てながら骨が形を取り戻していくのが感じられる。
ぼやける目を凝らして内臓を失った腹部を見ると、残った内臓のかけらが蠢き、新たに内臓を作り出していくのが見えた。
「やはり、これでも俺は……」
言葉を言い終わらぬ内に、全ての思考を遮断する程の痛みと疲労がヴィルヘルムを襲う。
そのまま、ヴィルヘルムの意識は闇に呑まれていった。
「—了—」
夜が明けた。空は白み、陽の光がトレイド永久要塞を照らし始める。
要塞に陣取るルビオナ王国軍及び傘下の連合軍兵士達には、緊張しながらもある程度の余裕があった。
そんな中、ヴィルヘルムはロンズブラウ軍の陣地で今回の作戦内容を再確認していた。
「何だ、あれは……」
誰の呟きだったかはわからない。ただ、巨大な機影が見えた。
それが帝國軍の擁する巨大戦艦ガレオンであると認識する間もなく、要塞に轟音が響いた。
一瞬の出来事だった。ガレオンの砲撃によりルビオナ王国軍が駐留していた陣地の一部が餌食となり、瓦礫を残すのみとなった。
兵士達は襤褸のように吹き飛び、硝煙と血の臭いが周辺を支配する。
恐怖に乱れた統制は更なる被害を呼んだ。帝國兵の突撃に対応できなかった王国軍は、手の打ちようもないまま蹂躙された。
「殿下、このままでは我が軍にも甚大な被害が」
ヴィルヘルムは事態を重く見てグリュンワルドに指示を仰いだ。ロンズブラウ軍は直接の砲火に曝されていないために統制を保っていたが、兵士達の間には恐怖と動揺が走っていた。
「全軍に後退を指示しろ。あの化け物から離れて、機を窺う」
「了解しました!」
グリュンワルドの指示を集結させていた兵士に伝える。ヴィルヘルムよりも年若い彼等の顔は、やはり強張っていた。
ヴィルヘルムにトレイド永久要塞に派兵する部隊を率いる命令が下ったのは、つい数ヶ月前のことだった。
要塞に出兵する部隊は、大将であるグリュンワルドを含めても、ヴィルヘルムが最年長であった。
ロンズブラウ王国内では『王国軍、いまだ勢い衰えず』と報じられているが、幾度にも重なる派兵によって兵は疲弊している。よって今回のトレイド永久要塞への派兵は、年若い体力のある若年兵が集められた。
ヴィルヘルムを含め、上層にあまり関与していない人間はそう聞かされていた。
「君がいる部隊は、苛酷な戦場でも必ず生きて戻ると聞いている」
「私だけの力ではありません。隊長や部隊の連携があってこそだと思っています」
「謙遜するな。此度の活躍も期待している。グリュンワルド王子殿下に粗相のないようにな」
「はっ」
様々な考慮からヴィルヘルムは昇進し、『トレイド永久要塞派遣部隊大隊長』という、周囲も当人も困惑するような、大仰な肩書きを与えられたのだった。
巨大戦艦に火柱が上がるのが見えた。ルビオナ王国軍の装甲猟兵による大火力攻勢だった。
「今だ! 突撃せよ!」
グリュンワルドの命令が下った。大将自らガレオンが墜落するであろう地点に向かい、先陣を切って突撃していく。
グリュンワルドが駆け抜けた後に残るのは、首から血を噴出して痙攣していたり、心臓を一突きで貫かれたりした帝國兵の死体だった。
返り血で深紅に染まったマントを見失わないようにしながら、ヴィルヘルムも後に続いた。
「急げ、殿下をお守りしろ!」
戦場で鬼神の如く戦うグリュンワルドを見るのは、これが初めてだった。
恐ろしい王子、薄気味悪い黒太子。そう影で噂されていることはヴィルヘルムも知っていた。
風のように戦う彼の姿は確かに恐ろしかったが、同時に見蕩れたくなるような、奇妙な清々しさがあった。少なくともヴィルヘルムにはそう見えた。
ガレオンの甲板では、王国軍と帝國軍が入り乱れていた。
戦いの中心に異様な女性がいた。指揮杖を持って白い軍服を鮮血に染めた、美しいがどこか不気味な女将軍だった。
グリュンワルドがその女将軍に向かって駆けていく。ヴィルヘルムはグリュンワルドに襲い掛かろうとする帝國兵を切り伏せていた。
何人の帝國兵を切り捨てただろうか。ヴィルヘルム自身も返り血や怪我で血塗れになっていた。
振り返ると、グリュンワルドが女将軍を刺し貫いていた。
勝負はあった。
生き残っている王国軍、ロンズブラウ軍の兵士から、歓喜ともつかないどよめきが上がった。
——ビチャリ。
そのどよめきは、突然発せられた不快な音により強制的に中断された。
「さあ、死者達。お前達の手で、さらなる死を生み出しなさい!」
ヴィルヘルムの目に映ったのは、緑色の体液を滴らせる女将軍の、喜びとも叫びとも受け取れる喊声を上げる姿だった。
その女将軍の姿を遮るように、首と胴が千切れかけた死体が起き上がる。身に着けているものは王国軍の兵装だった。
ぐちゃり、ぐちゃりと、濡れた音があちこちから発せられる。
「化け物だ!」
「う、うわああああああ!!」
一瞬にして、歓喜の場が地獄と化した。
戦場は混乱を極めた。死人となった兵士は敵も味方も関係なく生者に襲い掛かった。
統率など取れる筈もない。恐慌状態に陥った兵士達が死者から逃れるべく退却していく。
だが逃げる先でも死者が復活し、為す術もなく喰われていった。ヴィルヘルムも逃げる兵士達の波に呑まれ、ガレオンの甲板を走らざるを得なかった。
不意に背後から笑い声が聞こえた。それがグリュンワルドの声だと気付くのに、さして時間は掛からなかった。
奇妙な清々しさの正体は快楽であるのだと、ヴィルヘルムは気付いてしまった。
「死者どもよ、ただの肉塊へ戻れ」
凄まじい剣圧で死者達が吹き飛んでいく。しかし直後に轟いた爆音と共に、グリュンワルドは甲板から弾き飛ばされていった。
ヴィルヘルムの身体は咄嗟に動いていた。どれだけ恐ろしかろうと、自国の王子をその場に打ち捨てていける筈がなかった。
グリュンワルドの笑い声と言葉が耳に残っていた。ヴィルヘルムはその幻聴を振り切って駆ける。
死者を切り捨て、生者の波に揉まれながらも、どうにか地面に降りることに成功した。
地上にも死の波が迫っていた。新たに製造された死者達は、鼠算式にその数を増やしていく。
トレイド永久要塞が死者に埋め尽くされるのは、時間の問題だった。
地面に打ち付けられたグリュンワルドの姿は、惨いものだった。
利き手は肘先が千切れ、死者に喰われた場所からは内臓がはみ出し、それもまた喰い千切られていた。端正な顔も顎の周辺で醜く潰れ、辛うじて呼吸だけをしているような有様だった。
ヴィルヘルムは自身より大柄のグリュンワルドを抱え上げると、背後に迫る死者の軍勢から逃れるべく、必死で足を動かした。
ロンズブラウ軍陣地に程近い場所まで進んだところで、後詰めに控えていた小隊となんとか合流することができた。
「大隊長! 殿下は……」
死者に喰われて凄惨な姿を曝すグリュンワルドを一瞥した兵士が、青い顔でヴィルヘルムを見た。
「まだ生きておられる。衛生兵のところへお運びしろ。俺はここで死者達を食い止める」
「大隊長、ですがこれでは——」
「我々は配下として、殿下をなんとしてでもロンズブラウ王国に護送する義務がある! わかったら行け!」
「り、了解です!」
兵士にグリュンワルドを任せた後、その場に残ったヴィルヘルムは必死で剣を振るった。死人の動きはひどく鈍かった。
それでも、死人はまるで更なる犠牲者を求めるように、後から後から出てきた。
帝國兵も王国兵も、ロンズブラウ王国の兵士さえもが死人と化していた。
死人の一体に喰いつかれる。動きが鈍ったところを次々と襲い掛かられた。
ヴィルヘルムは死人の山に埋もれていった。光が遮られたが、自分の身に起こっている事は音と感覚だけで理解できた。
身体の肉が奪われていく。肋骨と脛骨が音を立てて削られていく感覚がある。死人の骨や歯が全身に突き立てられ、穴の開いた箇所から内臓や肉が引き摺り出される音がした。
血が啜られていく。頭蓋骨が音を立てながら喰い破られたのがわかった。大脳に何かが触れたのだろうか、反射的な嘔吐に襲われたが、吐いたのは血の塊だった。
ヴィルヘルムはそれでも抵抗していた。
感覚の残る右腕を振るうと、死人の一部が断絶されて光が漏れた。その隙間から見えたのは、グリュンワルドを背負って山道を下るロンズブラウ兵の姿だった。
まだ駄目だ。ここでもし自分が事切れれば、次は必死で逃げる兵士とグリュンワルドが呑まれてしまう。
そう考えると、残っていた心臓が強く脈動した。脈動と同時に、ヴィルヘルムの全身から吸い尽くされた筈の血液が大量に噴出する。
残っていた右腕を振るって死人の肉を掴む。すると、ヴィルヘルムが掴んだところから死人の肉が崩れていった。
それはヴィルヘルムに触れていた死人に伝播していった。次々と死人が崩れ去っていくのに合わせて、ヴィルヘルムの出血が止まる。
死人が生者だった頃の生命力の残滓を吸い上げている、ヴィルヘルムははっきりとそれを感じ取った。
蠢く死人の山が楔を失ったように崩れ去る。
ヴィルヘルムは残された肉と臓物と血でできた汚泥の中に、一人倒れ伏していた。
「ぐ……おぉ……」
呻き声を上げながら、ヴィルヘルムは覚束ない感覚の中、流れ出る血とこぼれる肉を引き摺りながら山の急斜面を転がり落ちた。
土地勘のないヴィルヘルムは、自分が何処にいるかわからなかった。
だが身体の大部分を失い、内臓や骨はおろか脳髄さえ露出しながらも生き続けるこの姿を、誰かに見られることだけは避けねばならなかった。
大部分の感覚は麻痺していた。神経も断裂しているのかもしれない。ヴィルヘルムに動く力は残っていなかった。
どのくらいの時間が経ったのか。虚ろな意識でどこか遠くを見ていると、不意に全身を鋭く強い痛みが走った。
麻痺していた感覚が急速に戻ってくる。傷口の脈動がはっきりとわかる。残った肉が少しずつ再生していくのを自覚する。小さな音を立てながら骨が形を取り戻していくのが感じられる。
ぼやける目を凝らして内臓を失った腹部を見ると、残った内臓のかけらが蠢き、新たに内臓を作り出していくのが見えた。
「やはり、これでも俺は……」
言葉を言い終わらぬ内に、全ての思考を遮断する程の痛みと疲労がヴィルヘルムを襲う。
そのまま、ヴィルヘルムの意識は闇に呑まれていった。
「—了—」