夜晚來臨。沃肯即使平躺在床上也無法平靜,一點也睡不著。當夜晚來臨,看見『夢』這件事情總是讓他感到恐懼。
稍微喝了一點水,他又躺回床上。
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在霍根的醫院工作已經過了一年了。在這之前的記憶他絲毫沒有印象。收留了衣衫襤褸茫然在街上流浪的他,是一位叫作丹的醫師。給無法想起自己名字的青年起了『沃肯』這個名字的人也是丹。
身為醫生的丹是個已經拯救了許多人的大人物。以邊境的都市霍根為基地,四處到荒廢的偏僻城鎮巡迴救助貧窮的人。除了這些活動之外,他也會外出到尹貝羅達或米利加迪亞等中央都市,以他的技術跟名聲從支配階級那裡獲取資金。
沃肯以助手的身分在丹的手下工作著。沃肯雖然喪失自己個人的記憶,但因為仍舊保留了醫療的知識,而成為了丹的助手。丹對於那樣的沃肯,並沒有追根究底的盤問,就這樣接納了他。這是因為他認可了沃肯在醫療上所擁有的確實技術與知識的緣故。
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沃肯放棄睡眠,走向設置在自己房間內的研究台前。
「又睡不著了嗎?」
不知道什麼時候,丹已經站在他的房門口。寄住者沃肯的房間,並沒有可以上鎖的門。原本這間醫院本身就是一棟古老的建築。丹雖然不貧窮,但他的資產幾乎都用在偏僻地區的巡迴診療上了。
沃肯每次和丹一同在街上巡診時,總有到處收集奇怪東西的習慣。
「這個有什麼用途嗎?再這樣下去,這房間不就快要裝不下了嗎?」
進入房間的丹站在沃肯桌子的旁邊。桌上雜亂的堆滿了零零碎碎的東西──有一個壞掉的自動人偶。
「抱歉,我不是有意要把房間弄亂的。只是很在意」
丹摸了摸一個老舊,破破爛爛的犬型自動人偶的頭。
「沒關係,這樣就能夠紓解情緒的話你就放手去做吧」
「要是有一天我可以把這個孩子修好的話,我想這個世界一定會變得更加多采多姿的」
「除了人類之外,你也擅長修別的呀。你還真是個有趣的男人」
在沃肯手邊的,是已經數十,甚至可能數百年前就不能動的機械。那是在渦破壞這個世界之前,被稱為黃金時代的世界中所存在的機械,現在在地上要找到已經非常困難了。那些製作,修理,賦予自動人偶活動力的工程師們已經離開了地上。儘管自動人偶已經被放置到老舊生鏽了,但沃肯卻被那樣的機械強烈的吸引著。
「不,並不是擅長……。只是,在弄這些東西的時候,心裡面會感到十分的平靜」
「這樣啊。下次,要是它動起來的話,也讓我看看吧」
「好的」
丹離開了沃肯的房間。
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丹一行人,來到被渦給吞沒的邊境進行巡迴的無償診療服務。
他們造訪了好幾個城鎮,拯救許多不幸的人。丹與助手沃肯,以及數名護士們就這樣忙碌的過了數天。
沃肯拖著疲憊的身體躺下,在移動診療所旁搭建的帳篷中睡著了。
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沃肯正在調整著自動人偶。在旁邊有個男人,像是正在監視著自己般站著。
沃肯知道,就像現在的立場一樣,他是這個男人的助手。
只是自己面對的自動人偶是人的形狀。
在這個人形的自動人偶前,他明白自己心中有一種奇妙的不安感正在擴散著。
男人最後按下開關,人形人偶的眼睛睜開了。
然後,他與沃肯四目相交了。
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沃肯就在這時醒來。外面還沒天亮。自己在夢裡究竟是在做誰的助手,究竟那是哪裡,他完全不知道。
唯一能想起來的就是,那個睜開眼睛的人型自動人偶的眼睛顏色以及他的目光,還有不安的感覺而已。
沃肯為了要讓自己的心裡平靜一點走到帳棚外面。
就在那時,他發現診療所前似乎有誰倒在那裡。沃肯走到身旁確認後,倒在地上的是一位年輕的女性,腿上似乎受了槍傷。沃肯趕緊從診療室中叫來護士,將失去意識的女性搬進了設施當中。
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當腿部受傷的女性治療結束時,已經是早上了。她還在沉睡著。沃肯判斷自己一個人可以進行治療,因此沒有叫醒丹。
直到丹起床後,沃肯才將發生的事情向他報告。
「原來如此,被槍打中了啊。我原本以為這一帶很安全呢」
「畢竟是邊境。有許多必須要注意的地方」
聽說女性已經醒過來,兩個人就去探望她。丹診斷她的傷勢後欣慰的說著。
「幸好沒有傷到動脈,總算撿回一條命了。妳叫什麼名字?」
「謝謝您。我叫做托瑪」
「嗯,要謝就謝沃肯吧。他那夜貓子的習性救了妳。如果就那樣不管的話,妳應該會因為失血過多而死吧」
「謝謝你,沃肯」
年輕的女性像是害羞似的垂下頭道謝著。
「對了,妳是被誰襲擊的呢?」
面對丹的疑問,女性仍然低著頭回答。
「在旅行的途中遭遇到盜賊的襲擊,和同伴們走散了……」
「是嗎,真可憐。在傷痊癒之前妳可以留在這裡」
「不好意思……」
名叫托瑪的女性,低著頭說著。
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在那個事件後過了大約一個星期左右,丹一行人準備離開這個城鎮。他們收起簡易診療所,組織了商隊打算回到霍根。
重症患者則是被移送到地方的醫院或是旅社。
「沃肯,我想拜託你。帶我一起去吧」
托瑪已經恢復到可以拿著松葉拐杖走動的程度了。就算現在出院也沒有問題。
「留在這裡也沒有未來,我已經失去所有的家人了。我能不能跟著你們一起工作?」
沃肯與丹談了有關她的事情。
丹只說了「隨你高興」。沃肯就讓托瑪留在自己的身邊工作。
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朝向霍根出發的第二天,突然之間商隊停下來不動了。馬蹄聲從四周向他們接近。沃肯從馬車中探出頭向四處張望後,看見數名警備的男子跳下馬拔出了槍。商隊中瀰漫著一股緊張的氣氛。
「最好別把槍拿出來」
像是盜賊首領的男人舉著槍說著。
「諾菈!前後怎麼樣了?」
尋著聲音望去,看到的是托瑪拿著刀抵著丹的脖子。她挾持著丹,騎上了盜賊團所預備好的馬。
托瑪是盜賊的同夥,是她引來盜賊團襲擊在單獨旅途中的商隊的。沃肯馬上就明白了這件事,感到極度的後悔。
沃肯衝了出來,站在盜賊們的前面。
「我不會讓你們走的」
「強出頭的話是會沒命的喔」
像是首領的男人拿槍指著他說著。
「沃肯,退下。不要白白送了性命」
丹即使被盜賊們壓著也仍然這樣對沃肯說。
「這老頭對我們一點用也沒有,只不過想請你們交點錢出來」
「這種地方怎麼可能有錢給你們啊!」
沃肯抗議著。
「這種事情我們也知道。但是,你們的診療所呢?背後有很多有錢的金主們,這件事我們可是很清楚的。叫那些傢伙拿錢出來就行了」
盜賊們綑住丹後騎上了馬。接著,諾菈遞了一張紙條給沃肯。
「拿錢來換這個老頭」
「把錢拿到這裡來。作為交換我們就會放這個老頭回去。再見了」
盜賊團們離開了。沃肯手上的紙片上,寫著要求二十萬基里的贖金,交付地點,以及指定的日期時間。
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沃肯回到霍根的醫院後,馬上開始準備贖金。他和留守在醫院裡的副院長一同蒐集院內的金錢。也連絡了丹的貴族贊助人,總算在期限內成功收集到了要求的金額。
雖然有米利加迪亞的有力人士提出出動軍隊去逮捕盜賊的提議,但沃肯他們拒絕了。因為害怕丹也許會遭遇不測。
交付贖金的工作由沃肯一個人前往。除了因為沃肯自願之外,週遭的人也都知道的,比起其他人,丹最信任的人就是沃肯。
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約定的地方是一個視野非常良好的山丘,是個一眼就可以看出來沃肯沒有帶其他人前來的地形。
沃肯默默的抱著箱子,一個人爬上了山丘。
山丘上有六個盜賊在那裡等著他。
「很準時嘛」
沃肯被持著刀與槍的盜賊們團團圍住。
「好了,我已經照你們說的把錢拿來了。請你們把丹醫生還來」
「別急嘛。先把錢拿來」
帶著面具的矮小男人被一個像是首領的男人命令,到沃肯的身邊來拿錢。
「在確定丹平安之前,我是不會把錢交給你們的」
沃肯拒絕將皮箱交給走過來的矮小男人。
「真不知好歹呢,你沒有選擇的權力,交出來!」
「丹的平安……」
在說完話前,沃肯被上前來拿箱子的矮小男人給砍中。胸口的襯衫被砍出一條很大的開口。
「呿,太麻煩了乾脆宰他吧。反正錢等於已經到手了」
帶著面具的矮小男人說著。將他手中的小刀左右緩緩的揮舞著。
「住手,把丹還給我」
「吵死了」
為了要擋開拿著小刀向自己突襲而來的矮小男子,皮箱就那樣掉到地上。突襲的男子快速的奪走了皮箱,朝同夥們擲去。
「好啦,該拿的已經拿到了。接著就該解決你了」
這群盜賊們並沒有打算讓丹回來,沃肯確信了這件事。
沃肯的心中好像有什麼東西爆裂開來。
「嗚……」
像是首領的人摀著自己的喉嚨倒了下來。緊接著其他的男人們也伴隨著鮮血倒下了。只剩下一個人,帶著面具的矮小男人站著與沃肯對峙著。
「我並沒有殺了你們」
被打倒的盜賊們喉嚨處都深插著一根針。針以分毫不差的精準手腕貫穿了頸椎,讓對手的身體麻痺。
「怪物!你究竟是什麼東西!」
因為自己的同夥全部被打倒,矮小的男子因為恐懼而慌亂著。
「沒有告訴你的必要。丹在那裡?」
沃肯自己也因為這樣的突發狀況而感到內心十分混亂。他從沒有想過自己竟然有著這樣的力量。
「在那邊的馬車上……我馬上把他帶來……拜託,請饒了我」
矮小男子帶領他走向停放在山丘另一邊的馬車。沃肯手裡握著刀作為威脅。
「就在裡面」
在馬車前,矮小的男人向車中的同伴說著。
「諾菈,把那個老頭帶過來。頭兒需要他。拜,拜託妳了」
看守的丹的人,似乎就是欺騙了自己的諾菈。
「啊,我知道了。現在就去」
諾菈將丹從馬車中帶了出來。她的腳仍然不方便行動。
丹全身被綑綁著眼睛也被遮住,就像是被強迫般站在諾菈面前。
「你,失手了對吧」
看到沃肯與矮小男子的樣子,諾菈立刻就查覺了事情發生了變化。她掏出槍指著丹。
「抱歉。不關我的事,是這個男人……」
「廢話少說,我手上可是握著王牌呢。再不快點把錢交給我,我就殺了這個老頭」
「錢會給你的。請你把丹還給我。我並沒有打算讓任何人受傷」
對沃肯來說,只要丹平安無事,不管是錢還是盜賊,他都不在乎。
「吵死了,快點把錢交出來。再不拿來的話,就把你們兩個人都殺了」
諾菈開始大發脾氣。
「腳很痛嗎?你沒有換藥對吧。不要再做這種傻事,趕快──」
「吵死了,把錢拿來!」
諾菈突然激動的把丹給推開。
丹跌跌撞撞的朝向沃肯走去,但是卻在途中被纏在腳上的束縛給絆倒了。
沃肯當下為了想扶住丹而前進了幾步。就在那個瞬間,諾菈向丹開槍了。第一槍打在他的背上,第二槍正中後腦。鮮血順著沃肯的身體流了下來。
「都是因為你讓我煩躁起來的,該死……」
諾菈咒罵的言語結束同時,長針貫穿了她與矮小男人的身體。沃肯並沒有特殊的情緒,只是反射性的做了這個動作而已。
沃肯的意識,在無論如何都要救活丹的心情,看著那已經無藥可救的傷,沃肯在醫生的知識中停滯了。
他唯一能做的,就是站在丹的身邊直到最後一刻。
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「─完─」
3368年「奪うもの」
夜が来た。ウォーケンはベッドに入っても落ち着けず、眠れなかった。夜が来て、『夢』を見るのをいつも恐れていた。
少し水を飲み、また横になった。
ホーゲンにある病院に勤め始めて一年が経っていた。それより前の記憶は無かった。襤褸を着て放心したまま街を放浪する彼を匿ったのは、ダンという名の医師だった。自分の名前も思い出せない青年に『ウォーケン』という名を与えたのもダンだった。
ダンは医者として多くの人を救ってきた人物だった。辺境の都市ホーゲンに居を構え、荒れ果てた僻地の街を巡って貧者を救ってきた。またそういった活動の傍ら、インペローダやミリガディアの中央都市にも出掛け、その技術と名声によって支配階級から資金を得ていた。
そのダンの下で、ウォーケンは助手として働いていた。ウォーケンは自分個人の記憶は失っていたが、医療の知識を持っていたため、ダンの助手として働くこととなった。ダンはそんなウォーケンを、深い理由も問わずに自分の手元に迎え入れた。医療に関する確かな技術と知識を認めてのことだった。
ウォーケンは眠るのを諦め、自室に据え付けた研究台に向かった。
「また眠れないのかな?」
いつの間にかダンが部屋の前に立っていた。居候でしかないウォーケンの部屋に、鍵の掛かるドアは無かった。そもそもこの病院自体がとても古い建物だった。ダンは貧乏ではなかったが、その資産の殆どを僻地の巡回診察のために使っていた。
ウォーケンはダンと共に街を回る度に、奇妙なものを集める習慣があった。
「これはなにかの役に立つのかな? このままじゃ、この部屋に収まらなくなるんじゃないか?」
部屋に入ってきたダンはウォーケンの机の側に立った。そこには乱雑に積まれたガラクタ——壊れてしまったオートマタ——があった。
「すみません、散らかすつもりはないんです。 ただ気になってしまって」
ダンは机の端に乗せられた、古い、ぼろぼろの犬型オートマタの頭を撫でた。
「気にするな、気が紛れるなら自由にやればいい」
「いつかこの子らも直せれば、きっと世界は豊かになると思って」
「人間以外の修理も得意というわけか。 面白い男だな、君は」
ウォーケンの手元にあったのは、もう何十年、いや何百年も前に動かなくなった機械だった。渦が世界を破壊する前、薄暮の時代と呼ばれた世界で生きていたそれらの機械は、今では地上で見つけるのは困難になっていた。オートマタを作り上げ、修理し、動かしていたエンジニア達は地上を去ってしまった。オートマタは朽ちるがままにされていたが、ウォーケンはそんな機械に強く惹きつけられていたのだった。
「いえ、得意というわけでは……。ただ、こういうのを弄っていると、とても落ち着くので」
「そうか。 こんど、何か動くようになったら見せてくれ」
「はい」
ダンはウォーケンの部屋から去って行った。
ダン達は、渦に飲まれた辺境を巡って無償の診療を行う旅に出た。
いくつかの街を巡って多くの恵まれない人々を救った。ダンと助手のウォーケン、数人の看護師達は忙しい日々を過ごした。
ウォーケンは疲れた体を横にし、移動診療所の脇に作られたテントの中で眠りについた。
ウォーケンはオートマタの調整を行っている。その傍には自分の行動を監視するかのように、男が立っていた。
今の立場と同じように、この男の助手をしている事だけはわかった。
相手にしているオートマタは人の形をしていた。
この人形であるオートマタを前にした自分の中に、奇妙な不安感が広がっているのがわかった。
男が最後にスイッチを操作すると、人形が目を覚ました。
そして、ウォーケンと目が合った。
ウォーケンはここで目が覚めた。まだ外は朝になっていない。自分が夢の中で誰の助手をしていたのか、そこがどこなのか、全くわからなかった。
唯一思い出せるのは、目を覚ました人型オートマタの目の色と光、それと、不安感だけだった。
ウォーケンは心を落ち着かせるためにテントの外に出た。
すると、診療所の前に誰かが倒れていた。ウォーケンが傍に寄って確認すると、倒れていたのは若い女性で、足に銃創を負っているようだった。急いで診療所から看護師を呼び、意識を失った彼女を施設の中に収容した。
足を撃たれた女性の治療を終えると、朝になっていた。彼女はまだ眠っている。自分一人で治療ができると判断したウォーケンは、ダンを起こさなかった。
ダンが起きてくると、ウォーケンは事の次第を報告した。
「なるほど、銃で撃たれていたか。 この辺りは安全だと思ったが」
「やはり辺境です。色々と注意は必要です」
女性が目覚めたと聞いて、二人は様子を見に行った。ダンが傷を診て感心する。
「幸い動脈が傷付いていなかったので命拾いしたな。名は何という?」
「ありがとうございます。 トーマと言います」
「まあ、礼はウォーケンに言うのだな。彼の夜更かし癖が君を救った。あのままだったら失血死していただろう」
「ありがとう、ウォーケン」
若い女性は照れたように顔を伏せて礼を言った。
「ところで、誰に襲われたのだ?」
ダンの問いに、女性は俯きながら答えた。
「旅の途中に野盗に襲われて、仲間とははぐれてしまいました……」
「そうか、かわいそうに。 傷が治るまでここにいると良い」
「すみません……」
トーマと名乗った女性は、顔を上げることなく言った。
そんな事件から一週間が過ぎた頃、ダン達は街を離れることになった。簡易診療所を畳み、隊商を組んでホーゲンまで戻るのだ。
重症患者は地元の医院や宿に移されることになった。
「ウォーケン、頼みがあるの。私を連れて行って」
トーマは既に松葉杖で動ける位に回復していた。退院しても問題はない。
「ここにいても未来はない、家族も失ってしまったし。あなた達と一緒に働くことはできないかしら?」
ウォーケンはダンに彼女の事を相談した。
ダンは「お前に任せる」とだけ言った。ウォーケンはトーマを自分の元で働かせることにした。
ホーゲンに向けて出発した次の日、不意に隊商の動きが止まった。周りを駆ける蹄の音がする。ウォーケンがワゴンから顔を出して辺りを見回すと、数名の警備の男達が飛び降りて銃を抜くのが見えた。隊商に緊張が走った。
「銃を出すのは止めときな」
盗賊の長らしき男が銃を構えたまま言った。
「ノーラ! 首尾はどうだ?」
そこにはダンの首元にナイフを突きつけたトーマの姿があった。彼女はダンを連れて、盗賊団の用意した馬に飛び乗った。
トーマは盗賊の一味で、彼らが孤立する旅中での襲撃を手引きしていたのだった。ウォーケンはそれに気付き、激しく後悔した。
ウォーケンが飛び出して、盗賊達の前に立ちはだかる。
「行かせはしない」
「出過ぎたまねをすると死ぬぜ」
首領格の男が銃を向けながら言った。
「ウォーケン、ここは引け。 命を無駄にするな」
ダンが盗賊達に押さえつけられながらもウォーケンに言った。
「俺達はこんなじじいに用はねえ、ただ単に金を渡して欲しいのさ」
「ここに金などあるわけないだろう!」
ウォーケンも抗弁する。
「そんなことはわかってる。 だが、お前らの診療所はどうだ? バックに金持ちがたくさんいるってのは、俺達だって知ってる。 そいつらから金を出してもらえばいい」
盗賊達はダンを縛り上げると馬に乗せた。そして、ノーラが紙切れをウォーケンに渡した。
「じじいと引き替えよ」
「その場所に金をもってこい。引き替えにこのじじいを帰してやる。あばよ」
盗賊団は去って行った。ウォーケンの手元に残された紙切れには、二十万ギリーという要求金額、受け渡し地点、そして指定日時が書かれていた。
ウォーケンはホーゲンの病院へ戻ると、金を掻き集めた。留守を守っていた副院長と共に院の金を集めた。ダンのスポンサーである貴族にも連絡を付け、どうにか日時までに金額を揃える事に成功した。
あるミリガディアの有力者が軍を出して賊を捕まえようと提案したが、ウォーケン達はそれを拒否した。ダンの身にもしもの事が起こるのを恐れていたのだ。
取引にはウォーケンが一人で向かう事になった。彼自身が志願したのもあったが、何より、ダンに最も信頼されているのがウォーケンである事を、周りの人間は知っていたからだった。
約束の場所は丘の上にあって見晴らしがよく、ウォーケンが他の人間を連れて来ていない事がすぐにわかる地形だった。
ウォーケンは黙々とトランクを抱え、一人、丘を登った。
丘の上には六人の盗賊が待ち構えていた。
「時間どおりだな」
ナイフや銃を持った盗賊に、ウォーケンは囲まれた。
「さあ、言われたとおりの金を持ってきた。 ドクター・ダンを返してほしい」
「あせるな。 まずは金だ」
マスクをした小柄な男が首領らしき男に命じられて、ウォーケンの元に金を取りに行く。
「ダンの無事を確認するまでは渡せない」
ウォーケンは取りに来た小男にトランクを渡すのを拒否した。
「往生際が悪いぜ、お前に選択肢なんてねえんだ。 渡せ」
「ダンの無事を……」
そう言う前に、トランクを取りに来た小男に切りつけられた。胸元のシャツが大きく斬られた。
「ちっ、面倒だから殺そうぜ。 金は手に入ったも同然なんだ」
マスクの小男が言う。手に持ったナイフを左右にゆっくりと振っている。
「やめろ、ダンを返してくれ」
「うるせえ」
ナイフで襲ってきた小男を払おうとして、トランクを地面に落としてしまう。襲ってきた小男は素早い動きでトランクを奪い取り、仲間に投げた。
「さあ、もらうもんはもらった。 あとはお前の始末だけだ」
この盗賊達はダンを返すつもりがないことを、ウォーケンは確信した。
何かがウォーケンの中で弾けた。
「うぉ……」
首領格の男が喉を押さえて倒れた。次々と他の男達も鮮血と共に倒れる。ただ一人、ウォーケンに対峙したマスクの小男だけが立っていた。
「殺しはしていない」
倒れた盗賊達の喉元には深く針が刺さっていた。とてつもない正確さをもって頸椎を貫いたそれは、相手の体を麻痺させていた。
「化け物! お前何者なんだ!」
自分の仲間が全て倒されたことで、小男は恐怖で混乱していた。
「それをお前に語る必要はない。 ダンはどこだ」
ウォーケン自身も、咄嗟の出来事に内心混乱していた。自分の中にこんな力があるとは思っていなかったのだ。
「向こうの馬車だ……連れて行く……頼む、助けてくれ」
小男は丘の向こうに置かれた盗賊達の馬車に案内する。ウォーケンは脅しのためにナイフを手に握った。
「この中だ」
馬車の前で、小男は中にいる仲間に声を掛ける。
「ノーラ、じじいを連れてきてくれ、ボスが必要なんだとさ。た、頼む」
ダンの見張り役は、自分を騙したノーラらしい。
「ああ、わかった。いま行くよ」
ノーラがダンを連れて馬車から出てくる。彼女はまだ足を引き摺っていた。
ダンは縛られて目隠しをされたまま、ノーラの前に引き立てられるような形になっている。
「あんた、ドジふんだね」
ウォーケンと小男の様子を見て、すぐにノーラは異変に気付いた。銃を出してダンに突きつける。
「すまねえ。 ただ俺が悪いんじゃねえ、この男が……」
「言い訳はいらないよ、切り札はこっちが持ってるんだ。とっと金を渡さないと、じじいを殺すよ」
「金は渡す。 ダンを返すんだ。 誰も傷つけるつもりはない」
ウォーケンはダンさえ無事であれば、金の事や盗賊である彼らの事などどうでもよかった。
「うるさい、はやく金を渡すんだ。 渡さないなら、二人とも殺すよ」
ノーラは癇癪を起こし始めていた。
「足が痛むのか? 包帯を取り替えていないのだろう。 こんな馬鹿げたことはやめて、早く——」
「うるせえ、金を渡せ!」
ノーラは激昂してダンを突き放した。
ウォーケンの元によろよろと歩き出すダン、だが、途中で足を縺れさせて倒れてしまう。
ウォーケンは咄嗟にダンを支えようと前に出た。その瞬間、ノーラはダンを撃った。一発目は背中に、二発目は後頭部に。鮮血がウォーケンに降りかかる。
「てめえが苛つかせるからだぞ、クソ……」
ノーラの侮蔑の言葉が終わると同時に、針が彼女と小男を貫いた。ウォーケンは何の感情も無く、ただ反射的にそうしたのだった。
ウォーケンの意識は、ダンを助けなければいけないという気持ちと、傷からいって決して助かる事はないという医者としての知識との間で固まったままだった。
彼はただ、ダンの傍で立ち尽くす事しかできなかった。
「—了—」
夜が来た。ウォーケンはベッドに入っても落ち着けず、眠れなかった。夜が来て、『夢』を見るのをいつも恐れていた。
少し水を飲み、また横になった。
ホーゲンにある病院に勤め始めて一年が経っていた。それより前の記憶は無かった。襤褸を着て放心したまま街を放浪する彼を匿ったのは、ダンという名の医師だった。自分の名前も思い出せない青年に『ウォーケン』という名を与えたのもダンだった。
ダンは医者として多くの人を救ってきた人物だった。辺境の都市ホーゲンに居を構え、荒れ果てた僻地の街を巡って貧者を救ってきた。またそういった活動の傍ら、インペローダやミリガディアの中央都市にも出掛け、その技術と名声によって支配階級から資金を得ていた。
そのダンの下で、ウォーケンは助手として働いていた。ウォーケンは自分個人の記憶は失っていたが、医療の知識を持っていたため、ダンの助手として働くこととなった。ダンはそんなウォーケンを、深い理由も問わずに自分の手元に迎え入れた。医療に関する確かな技術と知識を認めてのことだった。
ウォーケンは眠るのを諦め、自室に据え付けた研究台に向かった。
「また眠れないのかな?」
いつの間にかダンが部屋の前に立っていた。居候でしかないウォーケンの部屋に、鍵の掛かるドアは無かった。そもそもこの病院自体がとても古い建物だった。ダンは貧乏ではなかったが、その資産の殆どを僻地の巡回診察のために使っていた。
ウォーケンはダンと共に街を回る度に、奇妙なものを集める習慣があった。
「これはなにかの役に立つのかな? このままじゃ、この部屋に収まらなくなるんじゃないか?」
部屋に入ってきたダンはウォーケンの机の側に立った。そこには乱雑に積まれたガラクタ——壊れてしまったオートマタ——があった。
「すみません、散らかすつもりはないんです。 ただ気になってしまって」
ダンは机の端に乗せられた、古い、ぼろぼろの犬型オートマタの頭を撫でた。
「気にするな、気が紛れるなら自由にやればいい」
「いつかこの子らも直せれば、きっと世界は豊かになると思って」
「人間以外の修理も得意というわけか。 面白い男だな、君は」
ウォーケンの手元にあったのは、もう何十年、いや何百年も前に動かなくなった機械だった。渦が世界を破壊する前、薄暮の時代と呼ばれた世界で生きていたそれらの機械は、今では地上で見つけるのは困難になっていた。オートマタを作り上げ、修理し、動かしていたエンジニア達は地上を去ってしまった。オートマタは朽ちるがままにされていたが、ウォーケンはそんな機械に強く惹きつけられていたのだった。
「いえ、得意というわけでは……。ただ、こういうのを弄っていると、とても落ち着くので」
「そうか。 こんど、何か動くようになったら見せてくれ」
「はい」
ダンはウォーケンの部屋から去って行った。
ダン達は、渦に飲まれた辺境を巡って無償の診療を行う旅に出た。
いくつかの街を巡って多くの恵まれない人々を救った。ダンと助手のウォーケン、数人の看護師達は忙しい日々を過ごした。
ウォーケンは疲れた体を横にし、移動診療所の脇に作られたテントの中で眠りについた。
ウォーケンはオートマタの調整を行っている。その傍には自分の行動を監視するかのように、男が立っていた。
今の立場と同じように、この男の助手をしている事だけはわかった。
相手にしているオートマタは人の形をしていた。
この人形であるオートマタを前にした自分の中に、奇妙な不安感が広がっているのがわかった。
男が最後にスイッチを操作すると、人形が目を覚ました。
そして、ウォーケンと目が合った。
ウォーケンはここで目が覚めた。まだ外は朝になっていない。自分が夢の中で誰の助手をしていたのか、そこがどこなのか、全くわからなかった。
唯一思い出せるのは、目を覚ました人型オートマタの目の色と光、それと、不安感だけだった。
ウォーケンは心を落ち着かせるためにテントの外に出た。
すると、診療所の前に誰かが倒れていた。ウォーケンが傍に寄って確認すると、倒れていたのは若い女性で、足に銃創を負っているようだった。急いで診療所から看護師を呼び、意識を失った彼女を施設の中に収容した。
足を撃たれた女性の治療を終えると、朝になっていた。彼女はまだ眠っている。自分一人で治療ができると判断したウォーケンは、ダンを起こさなかった。
ダンが起きてくると、ウォーケンは事の次第を報告した。
「なるほど、銃で撃たれていたか。 この辺りは安全だと思ったが」
「やはり辺境です。色々と注意は必要です」
女性が目覚めたと聞いて、二人は様子を見に行った。ダンが傷を診て感心する。
「幸い動脈が傷付いていなかったので命拾いしたな。名は何という?」
「ありがとうございます。 トーマと言います」
「まあ、礼はウォーケンに言うのだな。彼の夜更かし癖が君を救った。あのままだったら失血死していただろう」
「ありがとう、ウォーケン」
若い女性は照れたように顔を伏せて礼を言った。
「ところで、誰に襲われたのだ?」
ダンの問いに、女性は俯きながら答えた。
「旅の途中に野盗に襲われて、仲間とははぐれてしまいました……」
「そうか、かわいそうに。 傷が治るまでここにいると良い」
「すみません……」
トーマと名乗った女性は、顔を上げることなく言った。
そんな事件から一週間が過ぎた頃、ダン達は街を離れることになった。簡易診療所を畳み、隊商を組んでホーゲンまで戻るのだ。
重症患者は地元の医院や宿に移されることになった。
「ウォーケン、頼みがあるの。私を連れて行って」
トーマは既に松葉杖で動ける位に回復していた。退院しても問題はない。
「ここにいても未来はない、家族も失ってしまったし。あなた達と一緒に働くことはできないかしら?」
ウォーケンはダンに彼女の事を相談した。
ダンは「お前に任せる」とだけ言った。ウォーケンはトーマを自分の元で働かせることにした。
ホーゲンに向けて出発した次の日、不意に隊商の動きが止まった。周りを駆ける蹄の音がする。ウォーケンがワゴンから顔を出して辺りを見回すと、数名の警備の男達が飛び降りて銃を抜くのが見えた。隊商に緊張が走った。
「銃を出すのは止めときな」
盗賊の長らしき男が銃を構えたまま言った。
「ノーラ! 首尾はどうだ?」
そこにはダンの首元にナイフを突きつけたトーマの姿があった。彼女はダンを連れて、盗賊団の用意した馬に飛び乗った。
トーマは盗賊の一味で、彼らが孤立する旅中での襲撃を手引きしていたのだった。ウォーケンはそれに気付き、激しく後悔した。
ウォーケンが飛び出して、盗賊達の前に立ちはだかる。
「行かせはしない」
「出過ぎたまねをすると死ぬぜ」
首領格の男が銃を向けながら言った。
「ウォーケン、ここは引け。 命を無駄にするな」
ダンが盗賊達に押さえつけられながらもウォーケンに言った。
「俺達はこんなじじいに用はねえ、ただ単に金を渡して欲しいのさ」
「ここに金などあるわけないだろう!」
ウォーケンも抗弁する。
「そんなことはわかってる。 だが、お前らの診療所はどうだ? バックに金持ちがたくさんいるってのは、俺達だって知ってる。 そいつらから金を出してもらえばいい」
盗賊達はダンを縛り上げると馬に乗せた。そして、ノーラが紙切れをウォーケンに渡した。
「じじいと引き替えよ」
「その場所に金をもってこい。引き替えにこのじじいを帰してやる。あばよ」
盗賊団は去って行った。ウォーケンの手元に残された紙切れには、二十万ギリーという要求金額、受け渡し地点、そして指定日時が書かれていた。
ウォーケンはホーゲンの病院へ戻ると、金を掻き集めた。留守を守っていた副院長と共に院の金を集めた。ダンのスポンサーである貴族にも連絡を付け、どうにか日時までに金額を揃える事に成功した。
あるミリガディアの有力者が軍を出して賊を捕まえようと提案したが、ウォーケン達はそれを拒否した。ダンの身にもしもの事が起こるのを恐れていたのだ。
取引にはウォーケンが一人で向かう事になった。彼自身が志願したのもあったが、何より、ダンに最も信頼されているのがウォーケンである事を、周りの人間は知っていたからだった。
約束の場所は丘の上にあって見晴らしがよく、ウォーケンが他の人間を連れて来ていない事がすぐにわかる地形だった。
ウォーケンは黙々とトランクを抱え、一人、丘を登った。
丘の上には六人の盗賊が待ち構えていた。
「時間どおりだな」
ナイフや銃を持った盗賊に、ウォーケンは囲まれた。
「さあ、言われたとおりの金を持ってきた。 ドクター・ダンを返してほしい」
「あせるな。 まずは金だ」
マスクをした小柄な男が首領らしき男に命じられて、ウォーケンの元に金を取りに行く。
「ダンの無事を確認するまでは渡せない」
ウォーケンは取りに来た小男にトランクを渡すのを拒否した。
「往生際が悪いぜ、お前に選択肢なんてねえんだ。 渡せ」
「ダンの無事を……」
そう言う前に、トランクを取りに来た小男に切りつけられた。胸元のシャツが大きく斬られた。
「ちっ、面倒だから殺そうぜ。 金は手に入ったも同然なんだ」
マスクの小男が言う。手に持ったナイフを左右にゆっくりと振っている。
「やめろ、ダンを返してくれ」
「うるせえ」
ナイフで襲ってきた小男を払おうとして、トランクを地面に落としてしまう。襲ってきた小男は素早い動きでトランクを奪い取り、仲間に投げた。
「さあ、もらうもんはもらった。 あとはお前の始末だけだ」
この盗賊達はダンを返すつもりがないことを、ウォーケンは確信した。
何かがウォーケンの中で弾けた。
「うぉ……」
首領格の男が喉を押さえて倒れた。次々と他の男達も鮮血と共に倒れる。ただ一人、ウォーケンに対峙したマスクの小男だけが立っていた。
「殺しはしていない」
倒れた盗賊達の喉元には深く針が刺さっていた。とてつもない正確さをもって頸椎を貫いたそれは、相手の体を麻痺させていた。
「化け物! お前何者なんだ!」
自分の仲間が全て倒されたことで、小男は恐怖で混乱していた。
「それをお前に語る必要はない。 ダンはどこだ」
ウォーケン自身も、咄嗟の出来事に内心混乱していた。自分の中にこんな力があるとは思っていなかったのだ。
「向こうの馬車だ……連れて行く……頼む、助けてくれ」
小男は丘の向こうに置かれた盗賊達の馬車に案内する。ウォーケンは脅しのためにナイフを手に握った。
「この中だ」
馬車の前で、小男は中にいる仲間に声を掛ける。
「ノーラ、じじいを連れてきてくれ、ボスが必要なんだとさ。た、頼む」
ダンの見張り役は、自分を騙したノーラらしい。
「ああ、わかった。いま行くよ」
ノーラがダンを連れて馬車から出てくる。彼女はまだ足を引き摺っていた。
ダンは縛られて目隠しをされたまま、ノーラの前に引き立てられるような形になっている。
「あんた、ドジふんだね」
ウォーケンと小男の様子を見て、すぐにノーラは異変に気付いた。銃を出してダンに突きつける。
「すまねえ。 ただ俺が悪いんじゃねえ、この男が……」
「言い訳はいらないよ、切り札はこっちが持ってるんだ。とっと金を渡さないと、じじいを殺すよ」
「金は渡す。 ダンを返すんだ。 誰も傷つけるつもりはない」
ウォーケンはダンさえ無事であれば、金の事や盗賊である彼らの事などどうでもよかった。
「うるさい、はやく金を渡すんだ。 渡さないなら、二人とも殺すよ」
ノーラは癇癪を起こし始めていた。
「足が痛むのか? 包帯を取り替えていないのだろう。 こんな馬鹿げたことはやめて、早く——」
「うるせえ、金を渡せ!」
ノーラは激昂してダンを突き放した。
ウォーケンの元によろよろと歩き出すダン、だが、途中で足を縺れさせて倒れてしまう。
ウォーケンは咄嗟にダンを支えようと前に出た。その瞬間、ノーラはダンを撃った。一発目は背中に、二発目は後頭部に。鮮血がウォーケンに降りかかる。
「てめえが苛つかせるからだぞ、クソ……」
ノーラの侮蔑の言葉が終わると同時に、針が彼女と小男を貫いた。ウォーケンは何の感情も無く、ただ反射的にそうしたのだった。
ウォーケンの意識は、ダンを助けなければいけないという気持ちと、傷からいって決して助かる事はないという医者としての知識との間で固まったままだった。
彼はただ、ダンの傍で立ち尽くす事しかできなかった。
「—了—」