在月色漆黑的狹窄巷道之中,有個小小的人影不帶任何聲響在跑著。街燈微弱的光線所刻劃出的身影,可以知道那是一位少年。
少年輕鬆的跳過巷道中的木箱跟鐵製的柵欄,接著跳到了老舊的房子屋頂上去。從房屋的天窗露出些許光亮中,可以確認下方有一些打扮可疑的男子們,正在一邊喝酒一邊發出下流的笑聲。
「來吧,要上囉,瑟雷斯夏爾」
隨著少年的話語,一雙冷淡的眼眸淡淡地閃爍了一下。由堅硬金屬素材盔甲連接起來的巨大身體,從屋頂破壞了天窗後順勢降落在地板上站著。那個站姿簡直就像是,名藝術家所打造的金屬雕像一般。
「大伙兒們!是入侵者!!」
宴會的途中,突然從天花板出現的巨大入侵者,讓男子們叫囂了起來。一同舉起了大匕首及手槍對準了入侵者。但就算是早已習慣暴力解決的男子們,似乎也對那個異樣的入侵者抱有恐懼心。
「你這傢伙,是什麼人!?」
「我沒有名字要報給你們這些惡黨。閉上嘴束手就擒吧」
那位少年確實就站在瑟雷斯夏爾的旁邊,但是卻處於看不到他身影,只能聽得到他聲音的狀態。從男子們的眼中看來,這是從那金屬巨體中傳來,年幼到令人無法想像的少年聲音。這個異樣的情況,讓男子們都驚訝地瞪大了眼睛。
「少在那邊裝神弄鬼!喂小子們,幹掉他!」
在領導者的號令之下,男子們同時向瑟雷斯夏爾開槍了。槍彈被那金屬盔甲給彈開,破壞了書架跟玻璃窗。而瑟雷斯夏爾對槍彈完全無動於衷,用手橫掃般的一揮之後,拿著槍的男子們就全被打飛了。
「你這傢伙,到,到底是什麼人!」
看了看動彈不得的男子們一眼之後,帶頭的男子害怕起來。然後被恐懼驅使而衝動地,拿著槍到處亂射一通。屋內迴響著金屬與金屬碰撞出的聲音。男子眼裡看到的是,壞掉的金屬碎片,以及從金屬空隙之間流出的大量血液。男子放鬆肩膀一邊調整呼吸,一邊往鐵巨人裂開的面具裡看去。但是在那面具下的是,男子自己那充滿憤怒及瘋狂的笑臉。
「你們的憎恨將會對向你們自己。而人可是無法忍受自己本身的憎恨的喔」
「啊,啊啊……啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊啊!!!」
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羅占布爾克郊外。溫差較小且擁有溫和氣候的這個地區,是資產家們用來蓋別墅的地區。而在那之中算是一等地的地方,有一間很顯眼的宅邸。就從那間豪宅最高樓的窗口,瑟雷斯夏爾毫無聲響的滑入房內。這個豪宅就是瑟雷斯夏爾的主人,在羅占布爾克引起騷動的謎樣的義警少年本人所住的地方。
少年的名字叫做沃蘭德。是對帝國政治也有影響力的大富豪一族的名門子弟。
回到自己房間的中央後,沃蘭德就從瑟雷斯夏爾的背上,靜靜地降下到了地毯上。
「好了,瑟雷斯夏爾晚安。下一個夜晚再見」
手一揮,瑟雷斯夏爾就靜靜地消失在不知道從哪出現的空間裂縫裡了。看著瑟雷斯夏爾消失之後,沃蘭德就坐到那對他一個人來說實在太大的床邊休息。就好像是看準這個時機似地,從自己房間的角落,有隻毛絨絨的龐大布偶站了起來。沃蘭德沒有特別驚訝,面對著布偶露出笑容。
「你回來了啊」
「奧蘭,我回來了」
「我肚子餓了」
細細的眼睛胖胖的身體,就算是要說場面話也很難說牠可愛。那個巨體比起沃蘭德大非常多,搖搖晃晃地爬上床的那個樣子,甚至讓人覺得有些壓迫感。
奧蘭是沃蘭德的祖父在之前送給沃蘭德的禮物。不過牠會像這樣按照自己的想法動起來的事,除了沃蘭德以外沒有其他人知道。
「瑟雷斯夏爾好厲害。只要有這個力量,我就可以改變這個城市」
「那真是太好了」
奧蘭從床上下來,將手伸向了放在小桌子上的水果。
「PrimeOne的分部,那是最後一個了嗎?」
沃蘭德說出了現在正在邁向毀滅的犯罪組織名稱。
「是這樣的嗎?」
奧蘭吃著蘋果,臉頰鼓鼓地答道。
「那些傢伙會離開這個城市嗎?」
面對沃蘭德的質問,奧蘭看也不看他。
「這很難說。反而激怒了他們也不一定」
「會有更麻煩的傢伙出現嗎?」
「有可能。但是對你跟瑟雷斯夏爾來說又怎樣呢?」
「的確。他們要來就來,只要再把他們打退就好了」
沃蘭德天真無邪地微笑著。
「真期待明天的新聞」
「嗯。我要睡了。不管怎麼說我也真的累了。奧蘭你吃完水果後也去睡吧」
沃蘭德邊伸懶腰邊說道。
「不用你說我也會去睡的」
沃蘭德換了衣服後就躺到床上去了。很快的就聽到了規律正常的酣息聲。奧蘭確認這個狀況後,就悄悄地往房間角落移動。然後將房間的電纜線與自己脖子上的插頭接上,接著閉上眼睛後就靜止不動了。
|
古朗德利尼亞帝國數一數二的大都市,充滿虛榮的羅占布爾克,跟被嚴格管理的首都斐度不一樣,甚至還有被稱為暗黑街的階層存在著。
然而那條街從大約一年前開始,出現了一個讓人們議論的存在。
將都市視為己物,制裁那些無人懲治的罪惡,謎樣的存在。最近幾乎每個星期,羅占布爾克的新聞都大大地報導這件事情。
在充滿混濁並且空氣沉悶的這個帝國城市,這個存在開始抓住了人們的心。
然後今晚也為了制裁罪惡,沃蘭德在這羅占布爾克的暗黑街奔馳著。
|
稍微缺了一小角的月亮光芒,照著羅占布爾克的街道。沃蘭德就像是要躲避那個光似地,潛伏在大建築物的影子裡。
眼前是一棟應該是富豪蓋的豪華宅邸。但是庭院裡巡邏的男子們感覺起來都很粗俗,這表示了這裡的主人不是普通人。這棟屋子就是犯罪組織PrimeOne的新會合場所。根據奧蘭收集的情報來看,可以知道今晚在這個地方,將會展開組織再啟的會議。沃蘭德決定要將組織的主要幹部跟其他黨羽,全部一網打盡。
「瑟雷斯夏爾,走吧」
沃蘭德向瑟雷斯夏爾發出指令之後,瑟雷斯夏爾就從空間的裂縫中出現。沃蘭德則是交換進到了異空間中躲了起來。
「把一切都結束掉吧。掃除的時間到了」
就算在異界中也能清楚看到周圍的景色。感覺就好像自己變成了瑟雷斯夏爾的影子一般。
沃蘭德站到瑟雷斯夏爾的背上,然後想像著動作。然後瑟雷斯夏爾就照著那動作開始動了起來。
打破了牆壁,進到宅邸裡。照理說應該會有幹部們集合在那裡才對。
但是,卻沒有半個人在。
「奇怪了……」
突然背後傳來了爆炸聲,隨著那個衝擊,瑟雷斯夏爾被撞倒在房間的地上。
「是埋伏嗎」
像影子般站在瑟雷斯夏爾旁邊的沃蘭德毫髮無傷。只要待在異空間裡,就不會受到物理上的影響。
讓瑟雷斯夏爾站起來後,向著爆炸的方向看去。那邊站的是一群全副武裝的男子們。在那之中也有人拿著巨大的發射器。
「雖然有聽過傳聞,不過竟然堅固到這種程度」
穿著西裝的瘦男子,向前踏出一步後說道。
「你讓我們組織蒙受了不少損害的樣子。是誰委託的?」
「沒有任何人委託我。這條街不需要你們這些壞人」
「是UpStars還是FiveFamilies呢……。沒關係我們有的是時間,就讓我好好問出來」
男子就好像完全沒有聽到沃蘭德的回答一樣,說完就舉起了一隻手。
隨著這個暗號,瑟雷斯夏爾上方落下了用鋼絲做成的網子。
「我們已經知道你那個盔甲非常堅固了。有可能是遠距離操作,也有可能是有人在裡面」
雖然瑟雷斯夏爾想要掙脫那個網子,結果卻被鋼絲給纏的更緊。
西裝男子走近被網子纏住無法動彈的瑟雷斯夏爾身旁。
「不過,只要拆解開來就全都能揭曉了」
拿著氣焊槍的男子們,聚集到被網子纏住而無法動彈的瑟雷斯夏爾周圍。
然後點燃氣焊槍,從瑟雷斯夏爾的關節處開始燒了起來。
「首先斷了他的手腳」
西裝男拿出了香煙,點了火。
沃蘭德靜靜地看著他這麼做。
「那種東西,對我們是沒有用的。別白費力氣了」
沃蘭德冷靜地說道。
「喂,可別老用那種瞧不起人的語氣說話啊。想用小鬼的聲音挑釁我們是吧」
西裝男用手指彈了一下香煙,然後往瑟雷斯夏爾的頭部丟去。點著火的香煙那紅光開始飛散。
「『組織』這種東西,只要被人小看的話就完蛋了。我們可是會被人瞧不起的。要是不把你的手腳灑在這條街,我們的權威就蕩然無存了」
在憤怒的大聲講完這些後,就對拿著焊槍的男子們喊道。
「趕快解決掉!」
「遵命,我們正在做。但是這傢伙連一點傷都……」
拿著焊槍的男子邊流著汗,邊緊張地開始講起藉口。
「你這混帳東西−−」
西裝男的怒吼隨著爆炸聲停了下來。操作焊槍的男子們拿著的燃料罐一個個地開了洞,正操作著的男子們都全身燒了起來。全身被火燒起來的男子,開始向拿著槍的男子們求救。
噴著火的燃料罐跟化成火球的作業員們持續著奇妙的舞蹈,並且一個接一個地將犯罪集團的男子們也變成了火球。
「可惡,怎麼會這樣。你們冷靜點!」
西裝男子叫著,並罵著左右亂跑的部下們。但是因對火的恐懼讓這個犯罪集團,變成了一般的烏合之眾。
「水!快拿水來」
西裝男的聲音,誰也沒有在聽。然後在拼死叫著的男子面前,燒成火球般的男子們斷氣了。
然後那些被焚燒的男子們倒在地上,就像是被火點燃的油似地,火勢延伸到了西裝男的腳下去了。
「這……」
男子從像油狀的火旁後退了幾步。
「我不是說了嗎。你們在白費力氣」
男子覺得,那個聲音聽起來似乎就在自己耳邊的樣子。
|
「−完−」
3373年 「正義」
月明かりのない細い裏道を、小さな人影が音もなく走っている。微かな街灯の明かりが、その人影が少年であることを浮き彫りにしていた。
少年は裏路地に放置された木箱や鉄製のフェンスを軽やかに飛び越え、古ぼけた屋敷の屋根へと飛び乗った。屋敷の天窓からは明かりが漏れており、その下では怪しい風体の男達が酒を飲みながら下品に笑い声を上げている様子が見て取れた。
「さあ、行くよ、セレスシャル」
少年の言葉に無機質な双眸が淡く点滅した。継ぎ目のある堅い金属質の装甲を持つ巨体が、屋敷の天窓を勢いよく破壊しながら床へ降り立った。その立ち姿はまるで、名のある芸術家が作った鉄の彫像のようだった。
「野郎ども! 侵入者だ!!」
宴の最中、突如として天井から現れた巨体の侵入者に、男達は騒然となった。一斉に大振りのナイフや携行している拳銃を構える。しかし荒事には慣れている男達でも、その異様な侵入者の姿に怯みを見せていた。
「てめえ、何モンだ!?」
「悪党に名乗る名前はない。 黙っておとなしくするんだ」
その少年は確かにセレスシャルの傍に立っているのだが、姿は見えず、声だけが聞こえる状態だ。男達にしてみれば、金属質の巨体からは想像できぬ程に幼い少年の声がしていることになる。その異様ともいえる事態に、男達は目を剥いた。
「くだらねえこけおどしだ! おい、やるぞてめえら!」
リーダー格の号令で、男達は一斉にセレスシャルに銃を放った。銃弾は金属質の装甲に兆弾し、本棚やガラス窓を破壊した。セレスシャルは銃弾をものともせず、薙ぎ払うように腕を振るい、銃を持った男達を吹き飛ばしていった。
「てめえ、な、何モンなんだ!」
行動不能となった男達を見回して、リーダー格の男は恐怖した。そして、恐怖に駆られた衝動のまま、銃を闇雲に撃ち続けた。金属と金属がぶつかって弾かれる音が響き渡る。男の目には、壊れた金属の破片と、その金属の隙間から流れ出る大量の血液が見えていた。肩で息をつきながら、男は鉄の巨人の割れたマスクの下を見た。しかし、そこには憤怒と狂った笑い顔に彩られた、男自身の顔があった。
「君たちの憎悪は君たち自身に向けられる。 人は自分自身の憎悪には耐え切れないよ」
「あ、ああ……あああああああああああ!!!」
ローゼンブルグ郊外。比較的寒暖の差が少ない穏やかな気候のこの地域は、資産家達の別宅地としても利用されている。その中でも一等地とされる場所に、一際目立つ邸宅がある。その豪邸の最上階の窓から、誰にも気付かれることなく屋敷へと滑り込んでいくセレスシャルの姿があった。この豪邸こそ、セレスシャルの主であり、ローゼンブルグを騒がす謎のヴィジランテの正体である少年が暮らす場所であった。
少年の名はヴォランド。帝國の政治面にも影響力を持つ大富豪一族の御曹司だ。
自室の中央に到達すると、ヴォランドはセレスシャルの背から静かに絨毯の上に降りた。
「さ、お休み、セレスシャル。また次の夜に」
手を一振りすると、セレスシャルはどこからともなく現れた空間の裂け目へと静かに消えていった。その様子を見届けてから、ヴォランドは一人で休むには大きすぎるベッドに座って一息ついた。そのタイミングを見計らったかのように、自室の物陰から、どっしりとした大きな毛むくじゃらのぬいぐるみが立ち上がった。ヴォランドは特段驚くこともなく、ぬいぐるみに笑顔を向ける。
「帰ったのか」
「ただいま、オウラン」
「腹が減った」
細い眼にずんぐりむっくりのその姿は、お世辞にもかわいいとは言い難かった。ヴォランドよりずっと大きいその巨体でふらふらとベッドに乗ってきた姿には、威圧感すらあった。
オウランは祖父からヴォランドへの贈り物だった。しかし、このように自分の意志があるように動くことは、ヴォランドしか知らないことだった。
「セレスシャルは凄い。この力さえあれば、この街を変えられる」
「そいつはよかった」
オウランはベッドから降り、サイドテーブルに置いてある果物に手を出した。
「プライムワンの支部は、あれが最後?」
ヴォランドは今現在、壊滅を目指している犯罪組織の名を挙げた。
「そうだったかな?」
もりもりと林檎を頬張りながらオウランは答えた。
「奴らはこの街から出て行くかな?」
ヴォランドの質問に見向きもしない。
「どうだか。 かえって奴らを怒らせたかもしれん」
「もっと厄介な奴らが来る?」
「かもしれん。 だが、お前とセレスシャルにとってはどうかな?」
「たしかに。 奴らが来るなら来るで、返り討ちにすればいいんだ」
ヴォランドは無邪気に微笑んだ。
「まあ、明日の新聞を楽しみにすることだ」
「うん。もう寝る。なんだかんだ言って疲れたよ。 果物を食べたらオウランも寝て」
欠伸をしながらヴォランドはそう言った。
「言われなくてもそうするよ」
ヴォランドは着替えてベッドに入った。やがて、規則正しい寝息が聞こえ始めた。オウランはその様子を確認すると、のっそりと部屋の隅に移動した。そして部屋の端末装置のコードを自分の首元のコネクターに繋ぎ、瞑目して微動だにしなくなった。
グランデレニア帝國有数の大都市、虚栄に満ちたローゼンブルグは、厳格に管理された帝都ファイドゥとは異なり、暗黒街と呼ばれる階層すら有していた。
そんな街で一年程前より、人々を騒がせる一つの存在があった。
都市を我が物顔で闊歩する、裁かれぬ悪を裁く謎の存在。最近では、ほぼ毎週のようにローゼンブルグの新聞記事の一面記事を飾っている。
混沌と閉塞した空気の充満するこの帝國の都市で、一つの存在が人々の心を掴み始めていた。
そして、今宵も悪を裁くため、ヴォランドはローゼンブルグの暗黒街を疾走していた。
僅かに欠けた月がローゼンブルグの街を照らしている。その光から隠れるように、ヴォランドは大きな建物の影に身を潜めていた。
目の前には、富豪が建てたのであろう立派な邸宅があった。しかし、庭を見回っている男達の雰囲気は洗練されておらず、ここの主人が只者ではないことを表していた。この屋敷は犯罪組織プライムワンの新しい会合場所だった。オウランによって集められた情報により、今夜まさにこの場所で、組織の再始動会議が行われることがわかっていた。組織の大幹部や生き残った一味を一網打尽にしようと、ヴォランドは決心していた。
「セレスシャル、行くよ」
ヴォランドがセレスシャルに指示を出すと、空間を切り裂いてセレスシャルが姿を現した。入れ替わるようにヴォランドは異空間の中に隠れた。
「全部終わりにするんだ。 掃除の時間さ」
異界の中にいても周りの景色ははっきりと見える。自分自身がセレスシャルの影になったような気分だった。
セレスシャルの背に立ち、ヴォランドは動きをイメージする。その通りにセレスシャルは動き始める。
壁を突き破り、邸宅の中へ入った。そこには幹部達が集まっている筈だった。
しかし、そこには誰もいなかった。
「おかしいな……」
突如、背後から爆発が起き、衝撃と共に部屋の床にセレスシャルは打ち付けられた。
「待ち伏せか」
影のようにセレスシャルの傍に立つヴォランドに怪我は無い。異空間にいる限り、物理的な影響は互いに受けなくなっているのだった。
セレスシャルを立たせ、爆発のあった方向に身体を向ける。そこには、武装した男達が対峙していた。巨大なランチャーを手にしている者もいる。
「噂には聞いていたが、ここまで丈夫とはな」
スーツ姿の痩せた男が、一歩前に出てそう言った。
「さて、組織にずいぶんと被害を与えてくれたようだが。 誰の差し金だ?」
「誰の差し金でもないさ。 悪い奴はこの街に必要ない」
「他のファイヴファミリーズか……。時間はたっぷりある、聞かせてもらう」
ヴォランドの答えをまるで聞かず、男はそう言うと片手を挙げた。
合図と共に、セレスシャルの上に鋼鉄のワイヤーで編まれた網が落ちてきた。
「そのアーマーが丈夫なのはわかった。 遠隔操作なのかもしれんし、中に人が入っているのかもしれん」
セレスシャルはその網を払おうとするが、却ってその身をワイヤーに絡ませてしまう結果となった。
スーツの男は身動きの取れなくなったセレスシャルの近くまで歩いてくる。
「だが、バラしてみれば全部わかる」
ワイヤーのネットで雁字搦めにされたセレスシャルの周りに、ガストーチを持った男達が集まった。
ガストーチが点火され、セレスシャルの関節にその火が当てられ始めた。
「まずは手足をもいでやれ」
スーツの男はタバコを取り出し、火を付けた。
ヴォランドは黙ってその姿を見ていた。
「そんなもの、ボクらには効かない。 無駄だよ」
ヴォランドは落ち着いた声で言った。
「おい、あまり嘗めた口をきくんじゃねえぞ。 ガキの声色を使って挑発してるつもりなんだろうがな」
スーツの男はタバコを指で弾き、セレスシャルの頭に投げつけた。火の付いたタバコは赤い光を飛び散らせて跳ねた。
「『組織』はな、虚仮にされたら終わりなんだよ。 示しってものが付かなくなくなるからな。 お前の手足をもいで街にばら撒きでもしなきゃ、その示しってのが付かねえんだ」
怒りの声を上げると、今度は作業していたトーチの男達に声を上げた。
「とっとと終わらせろ!」
「はい、やってます。 でも、こいつ傷ひとつ……」
トーチの男は汗を吹きながら、しどろもどろの言い訳をし始めた。
「馬鹿野郎——」
スーツの男の怒鳴り声は爆発音で途切れた。トーチを操っていた男達の持っていたタンクに次々と穴が開き、作業をしていた男達が火達磨になった。火達磨になった男達は、銃を持って囲んでいる男達に向かって助けを求める。
火を噴くタンクと火達磨の作業員は奇妙なダンスを続け、次々とギャングの男達をも火達磨にしていった。
「くそ、なんてこった。 落ち着け!」
スーツの男は叫び、右往左往する部下達を怒鳴りつける。しかし、火の恐怖はギャングの集団を只の怯える烏合の衆へと変えていた。
「水だ! 水を持ってくるんだ」
スーツの男の声など、誰も聞いていない。そして必死に叫ぶ男の目の前で、火達磨になった男が息絶えた。
その火達磨の男は床に溶けていき、まるで火の付いたオイルのようになって、スーツの男の足下に広がった。
「これは……」
広がったオイル状の火から、男は後ずさった。
「言ったよね。 無駄だって」
男は、その声が自分の耳元で聞こえたような気がした。
「—了—」
月明かりのない細い裏道を、小さな人影が音もなく走っている。微かな街灯の明かりが、その人影が少年であることを浮き彫りにしていた。
少年は裏路地に放置された木箱や鉄製のフェンスを軽やかに飛び越え、古ぼけた屋敷の屋根へと飛び乗った。屋敷の天窓からは明かりが漏れており、その下では怪しい風体の男達が酒を飲みながら下品に笑い声を上げている様子が見て取れた。
「さあ、行くよ、セレスシャル」
少年の言葉に無機質な双眸が淡く点滅した。継ぎ目のある堅い金属質の装甲を持つ巨体が、屋敷の天窓を勢いよく破壊しながら床へ降り立った。その立ち姿はまるで、名のある芸術家が作った鉄の彫像のようだった。
「野郎ども! 侵入者だ!!」
宴の最中、突如として天井から現れた巨体の侵入者に、男達は騒然となった。一斉に大振りのナイフや携行している拳銃を構える。しかし荒事には慣れている男達でも、その異様な侵入者の姿に怯みを見せていた。
「てめえ、何モンだ!?」
「悪党に名乗る名前はない。 黙っておとなしくするんだ」
その少年は確かにセレスシャルの傍に立っているのだが、姿は見えず、声だけが聞こえる状態だ。男達にしてみれば、金属質の巨体からは想像できぬ程に幼い少年の声がしていることになる。その異様ともいえる事態に、男達は目を剥いた。
「くだらねえこけおどしだ! おい、やるぞてめえら!」
リーダー格の号令で、男達は一斉にセレスシャルに銃を放った。銃弾は金属質の装甲に兆弾し、本棚やガラス窓を破壊した。セレスシャルは銃弾をものともせず、薙ぎ払うように腕を振るい、銃を持った男達を吹き飛ばしていった。
「てめえ、な、何モンなんだ!」
行動不能となった男達を見回して、リーダー格の男は恐怖した。そして、恐怖に駆られた衝動のまま、銃を闇雲に撃ち続けた。金属と金属がぶつかって弾かれる音が響き渡る。男の目には、壊れた金属の破片と、その金属の隙間から流れ出る大量の血液が見えていた。肩で息をつきながら、男は鉄の巨人の割れたマスクの下を見た。しかし、そこには憤怒と狂った笑い顔に彩られた、男自身の顔があった。
「君たちの憎悪は君たち自身に向けられる。 人は自分自身の憎悪には耐え切れないよ」
「あ、ああ……あああああああああああ!!!」
ローゼンブルグ郊外。比較的寒暖の差が少ない穏やかな気候のこの地域は、資産家達の別宅地としても利用されている。その中でも一等地とされる場所に、一際目立つ邸宅がある。その豪邸の最上階の窓から、誰にも気付かれることなく屋敷へと滑り込んでいくセレスシャルの姿があった。この豪邸こそ、セレスシャルの主であり、ローゼンブルグを騒がす謎のヴィジランテの正体である少年が暮らす場所であった。
少年の名はヴォランド。帝國の政治面にも影響力を持つ大富豪一族の御曹司だ。
自室の中央に到達すると、ヴォランドはセレスシャルの背から静かに絨毯の上に降りた。
「さ、お休み、セレスシャル。また次の夜に」
手を一振りすると、セレスシャルはどこからともなく現れた空間の裂け目へと静かに消えていった。その様子を見届けてから、ヴォランドは一人で休むには大きすぎるベッドに座って一息ついた。そのタイミングを見計らったかのように、自室の物陰から、どっしりとした大きな毛むくじゃらのぬいぐるみが立ち上がった。ヴォランドは特段驚くこともなく、ぬいぐるみに笑顔を向ける。
「帰ったのか」
「ただいま、オウラン」
「腹が減った」
細い眼にずんぐりむっくりのその姿は、お世辞にもかわいいとは言い難かった。ヴォランドよりずっと大きいその巨体でふらふらとベッドに乗ってきた姿には、威圧感すらあった。
オウランは祖父からヴォランドへの贈り物だった。しかし、このように自分の意志があるように動くことは、ヴォランドしか知らないことだった。
「セレスシャルは凄い。この力さえあれば、この街を変えられる」
「そいつはよかった」
オウランはベッドから降り、サイドテーブルに置いてある果物に手を出した。
「プライムワンの支部は、あれが最後?」
ヴォランドは今現在、壊滅を目指している犯罪組織の名を挙げた。
「そうだったかな?」
もりもりと林檎を頬張りながらオウランは答えた。
「奴らはこの街から出て行くかな?」
ヴォランドの質問に見向きもしない。
「どうだか。 かえって奴らを怒らせたかもしれん」
「もっと厄介な奴らが来る?」
「かもしれん。 だが、お前とセレスシャルにとってはどうかな?」
「たしかに。 奴らが来るなら来るで、返り討ちにすればいいんだ」
ヴォランドは無邪気に微笑んだ。
「まあ、明日の新聞を楽しみにすることだ」
「うん。もう寝る。なんだかんだ言って疲れたよ。 果物を食べたらオウランも寝て」
欠伸をしながらヴォランドはそう言った。
「言われなくてもそうするよ」
ヴォランドは着替えてベッドに入った。やがて、規則正しい寝息が聞こえ始めた。オウランはその様子を確認すると、のっそりと部屋の隅に移動した。そして部屋の端末装置のコードを自分の首元のコネクターに繋ぎ、瞑目して微動だにしなくなった。
グランデレニア帝國有数の大都市、虚栄に満ちたローゼンブルグは、厳格に管理された帝都ファイドゥとは異なり、暗黒街と呼ばれる階層すら有していた。
そんな街で一年程前より、人々を騒がせる一つの存在があった。
都市を我が物顔で闊歩する、裁かれぬ悪を裁く謎の存在。最近では、ほぼ毎週のようにローゼンブルグの新聞記事の一面記事を飾っている。
混沌と閉塞した空気の充満するこの帝國の都市で、一つの存在が人々の心を掴み始めていた。
そして、今宵も悪を裁くため、ヴォランドはローゼンブルグの暗黒街を疾走していた。
僅かに欠けた月がローゼンブルグの街を照らしている。その光から隠れるように、ヴォランドは大きな建物の影に身を潜めていた。
目の前には、富豪が建てたのであろう立派な邸宅があった。しかし、庭を見回っている男達の雰囲気は洗練されておらず、ここの主人が只者ではないことを表していた。この屋敷は犯罪組織プライムワンの新しい会合場所だった。オウランによって集められた情報により、今夜まさにこの場所で、組織の再始動会議が行われることがわかっていた。組織の大幹部や生き残った一味を一網打尽にしようと、ヴォランドは決心していた。
「セレスシャル、行くよ」
ヴォランドがセレスシャルに指示を出すと、空間を切り裂いてセレスシャルが姿を現した。入れ替わるようにヴォランドは異空間の中に隠れた。
「全部終わりにするんだ。 掃除の時間さ」
異界の中にいても周りの景色ははっきりと見える。自分自身がセレスシャルの影になったような気分だった。
セレスシャルの背に立ち、ヴォランドは動きをイメージする。その通りにセレスシャルは動き始める。
壁を突き破り、邸宅の中へ入った。そこには幹部達が集まっている筈だった。
しかし、そこには誰もいなかった。
「おかしいな……」
突如、背後から爆発が起き、衝撃と共に部屋の床にセレスシャルは打ち付けられた。
「待ち伏せか」
影のようにセレスシャルの傍に立つヴォランドに怪我は無い。異空間にいる限り、物理的な影響は互いに受けなくなっているのだった。
セレスシャルを立たせ、爆発のあった方向に身体を向ける。そこには、武装した男達が対峙していた。巨大なランチャーを手にしている者もいる。
「噂には聞いていたが、ここまで丈夫とはな」
スーツ姿の痩せた男が、一歩前に出てそう言った。
「さて、組織にずいぶんと被害を与えてくれたようだが。 誰の差し金だ?」
「誰の差し金でもないさ。 悪い奴はこの街に必要ない」
「他のファイヴファミリーズか……。時間はたっぷりある、聞かせてもらう」
ヴォランドの答えをまるで聞かず、男はそう言うと片手を挙げた。
合図と共に、セレスシャルの上に鋼鉄のワイヤーで編まれた網が落ちてきた。
「そのアーマーが丈夫なのはわかった。 遠隔操作なのかもしれんし、中に人が入っているのかもしれん」
セレスシャルはその網を払おうとするが、却ってその身をワイヤーに絡ませてしまう結果となった。
スーツの男は身動きの取れなくなったセレスシャルの近くまで歩いてくる。
「だが、バラしてみれば全部わかる」
ワイヤーのネットで雁字搦めにされたセレスシャルの周りに、ガストーチを持った男達が集まった。
ガストーチが点火され、セレスシャルの関節にその火が当てられ始めた。
「まずは手足をもいでやれ」
スーツの男はタバコを取り出し、火を付けた。
ヴォランドは黙ってその姿を見ていた。
「そんなもの、ボクらには効かない。 無駄だよ」
ヴォランドは落ち着いた声で言った。
「おい、あまり嘗めた口をきくんじゃねえぞ。 ガキの声色を使って挑発してるつもりなんだろうがな」
スーツの男はタバコを指で弾き、セレスシャルの頭に投げつけた。火の付いたタバコは赤い光を飛び散らせて跳ねた。
「『組織』はな、虚仮にされたら終わりなんだよ。 示しってものが付かなくなくなるからな。 お前の手足をもいで街にばら撒きでもしなきゃ、その示しってのが付かねえんだ」
怒りの声を上げると、今度は作業していたトーチの男達に声を上げた。
「とっとと終わらせろ!」
「はい、やってます。 でも、こいつ傷ひとつ……」
トーチの男は汗を吹きながら、しどろもどろの言い訳をし始めた。
「馬鹿野郎——」
スーツの男の怒鳴り声は爆発音で途切れた。トーチを操っていた男達の持っていたタンクに次々と穴が開き、作業をしていた男達が火達磨になった。火達磨になった男達は、銃を持って囲んでいる男達に向かって助けを求める。
火を噴くタンクと火達磨の作業員は奇妙なダンスを続け、次々とギャングの男達をも火達磨にしていった。
「くそ、なんてこった。 落ち着け!」
スーツの男は叫び、右往左往する部下達を怒鳴りつける。しかし、火の恐怖はギャングの集団を只の怯える烏合の衆へと変えていた。
「水だ! 水を持ってくるんだ」
スーツの男の声など、誰も聞いていない。そして必死に叫ぶ男の目の前で、火達磨になった男が息絶えた。
その火達磨の男は床に溶けていき、まるで火の付いたオイルのようになって、スーツの男の足下に広がった。
「これは……」
広がったオイル状の火から、男は後ずさった。
「言ったよね。 無駄だって」
男は、その声が自分の耳元で聞こえたような気がした。
「—了—」