少女佇立在黑暗之中。
「你的願望是什麼?」
女性的聲音傳到了少女的耳裡。
「願望?什麼是願望?」
少女不瞭解女性所說的話是什麼意思。
「你想要的東西是什麼?」
女性換了個方式再次問道。
我想要的東西──。聽到那句話後,少女的腦中浮現出一位人物的樣貌。
「姊姊大人……」
「實現,你的願望」
女性的聲音迴盪著。
少女的眼前出現亮光。
|
「姊姊大人」
「波蕾特,什麼事」
波蕾特在寬敞宅邸的庭院裡,與姊姊艾莉亞娜開心喝著下午茶。
「茶喝完了,想跟姊姊大人一起玩~」
波蕾特邊眼睛微微向上看著艾莉亞娜,一邊秀出喝完的空茶杯。
「哎呀,下午茶才剛開始啊?而且馬上就會再幫妳倒茶了」
「我的肚子已經很飽了啦。我想去玩~」
對於波蕾特說的話,艾莉亞娜只能困擾地的笑著。
也只能這樣,因為艾莉亞娜的下半身與茶會用的椅子融在一起,
因此無法陪波蕾特一起玩。
「波蕾特,不能對茶會的我說這種任性的話哦」
艾莉亞娜一邊推著放了點心跟茶的推車,一邊從屋子方向走過來。
她將推車停在桌邊後,溫柔地撫摸了讓茶會艾莉亞娜困擾的波蕾特。
那手的觸感黏糊糊的,有些像是生肉的味道。
「好香喔,不愧是做菜的我」
「嘿嘿,今天的司康我很有自信哦」
「姊姊大人~」
波蕾特對著滿臉笑容談話中的艾莉亞娜們嘟嘴表示不滿。
「啊,抱歉波蕾特,遊戲的我現在應該在屋子裡喲」
「可以去找她嗎?」
「嗯嗯,當然可以。但是,不可以偷吃廚房裡的點心跟菜喔?」
茶會艾莉亞娜微笑著說的話,讓波蕾特感到有點不愉快。
「肚子餓了的話再回來這裡,妳的點心會幫妳留著的」
「……嗯」
「呵呵呵,好孩子」
做菜的艾莉亞娜再次輕撫了波蕾特的頭。
「那,我走了!」
被撫摸了一會兒的波蕾特,從椅子上起身便走向屋內。
|
打開了餅乾做的房屋大門後,見到了正在打掃著果凍製窗子的艾莉亞娜,與擦著巧克力製地板的艾莉亞娜。
「咦,波蕾特。茶會已經夠了嗎?」
「嗯,因為我的茶喝完了」
「如果是要找遊戲的我,在地下喔」
擦著巧克力地板的艾莉亞娜指了指通往地下的溜滑梯。
「好像正在做新的玩具,很期待吧」
「嗯!謝謝!」
得意洋洋的波蕾特滑向地下。乘坐糖果做成的溜滑梯,一層一層地往地下滑下去。
「姊姊大人!」
溜滑梯的盡頭,是二位正在用點心做玩具的艾莉亞娜。
正為波蕾特做著精細的砂糖人偶,亦或是甜麵包做成的網球拍。
「歡迎,波蕾特」
「嘿嘿,來玩吧!」
「好啊,想玩什麼呢?」
「嗯~想幫姊姊綁頭髮!」
「咦?」
「每次都是姊姊幫我綁頭髮,所以今天我要幫姊姊綁頭髮」
「呵呵,好啊」
做著精細砂糖人偶的艾莉亞娜走向前來。
不知道什麼時候,蝴蝶餅做成的椅子已經準備在那裡了。
波蕾特開心地撩了坐在椅子上的艾莉亞娜頭髮。
結果……
「咦……?」
伴隨著滑溜的觸感,艾莉亞娜的頭髮纏住了波蕾特的手。
那頭髮像是薄薄的,不知道什麼的肉片。
「波蕾特?」
艾莉亞娜轉頭看了驚呆的波蕾特。
眼前的艾莉亞娜的肉味變得更濃了。
「怎麼了?哎呀糟糕,頭髮掉了」
一手拿著麵包的艾莉亞娜像沒事般從波蕾特的手上拿走了肉片。
「不行這樣,做砂糖人偶的我,頭髮要好好整理啊」
艾莉亞娜斥責著艾莉亞娜。但是,那眼睛是淺綠色的糖果做的。
|
──姊姊大人才不是這樣的肉塊。
──姊姊大人的頭髮是像絲綢一般的柔亮。
──姊姊大人的眼睛才不是糖果。
──那麼,眼前的姊姊大人們究竟是誰?
|
波蕾特的思緒塞滿了疑問。
眼前的艾莉亞娜們是誰。
話說回來,自己的姊姊應該只有一位。
但是,眼前的姊姊們對我很溫柔。
不管是什麼樣的要求,怎麼樣任性都會順從我。
但是、但是、但是。
|
「不對」
異樣感轉成了拒絕的話語說了出來。
波蕾特的手中,不知不覺間已握住了二把散彈槍。
手中的感覺像是非常熟悉,又像是第一次。
但是波蕾特瞬間理解,這就是毀滅這個虛假世界所需要的武器。
「不需要」
扣下板機的瞬間,有著肉頭髮的艾莉亞娜被射成了蜂窩,從彈孔噴出了綠色的液體後倒地不起。
「這個也不需要」
糖果眼睛艾莉亞娜的臉被散彈射穿,艾莉亞娜的肉滿溢了整個現場。
波蕾特往地面樓走去,聽到聲音的艾莉亞娜們想問發生什麼事,而靠近波蕾特。
「怎麼了,波蕾特?有什麼不開心的事嗎?」
「唉呀波蕾特!拿著那種東西,到底怎麼了?」
|
──不管怎麼溫柔。
──不管怎麼寵我。
──不管再怎麼陪我。
──不管叫我的名字多少次。
|
「這個也是、這個也是、這個也是、這個也是這個也是那個也是這個也是那個也是!!!」
散彈槍像是在回應波蕾特的意志,將艾莉亞娜們粉碎。
「不夠……」
就像在回應波蕾特的小聲自言自語似地,波蕾特手中出現了大型的旋轉機槍。
波蕾特毫不猶豫的拿起,向艾莉亞娜們開槍。
波蕾特不管開槍的反動力,將剛剛還開心地談天的艾莉亞娜們逐一毀滅。
有的艾莉亞娜噴出鮮艷的橘色血,有的艾莉亞娜變成像是清澈天空色的絞肉四散。簡直就像是把顏料給轟出去般的奇怪景色。
但是本來像艾莉亞娜們的肉塊們抖動著,圍在波蕾特周圍。
「波,蕾……特……」
即使變成肉塊,還是努力要做出像艾莉亞娜的臉,打算靠近波蕾特。
「給我消失」
波蕾特發出連自己都很驚訝的,冷淡聲音,然後將肉塊踩爛。
|
波蕾特在前進的路上,只要出現像姊姊卻不是姊姊的某物,就會全部殺盡。
像姊姊般的東西發出慘叫聲,在充滿點心與肉的世界響徹。
「啊哈,哈哈」
波蕾特心想著,這樣終於可以去找真正的姊姊了,邊想邊充滿了笑容。
波蕾特在色彩豐富的血與肉的路上,輕盈地前進。
|
「─完─」
「姉」
少女は暗闇の中に立っていた。
「お前の望みは何だ?」
女の声が少女の耳に届く。
「のぞみ? のぞみってなに?」
少女は女の言葉を理解できていない。
「お前の欲しいものは何だ?」
女は言葉を変えた。
私が欲しいもの——。その言葉に、少女の脳裏に一人の人物の姿が浮かんだ。
「ねえさま……」
「お前の望み、叶えよう」
女の声が響く。
少女の目の前が白んだ。
「ねえさまー」
「なあに、ポレット」
ポレットは広い屋敷の庭で、姉のアリアーヌと共に午後のお茶会を楽しんでいた。
「お茶が飲み終わっちゃったから、ねえさまと遊びたいなー」
空のティーカップを見せながら、ポレットは上目遣いでアリアーヌを見つめる。
「あらあら。お茶会は始まったばかりよ? もうすぐおかわりも来るのに」
「もうおなかいっぱいだよう。遊びたいよー」
ポレットの言葉に、アリアーヌは困ったように笑うだけだった。
それもその筈。アリアーヌの下半身はお茶会用に用意された椅子と融解している。
これではポレットの遊びに付き合うことはできない。
「お茶会のあたくしにわがままを言ってはダメよ、ポレット」
お茶とお菓子を載せたワゴンを押しながら、屋敷からアリアーヌがやって来た。
彼女はワゴンをテーブルの近くに止めると、お茶会のアリアーヌを困らせるポレットの頭を優しく撫でた。
その手はぺとりとした感触をしており、少し生肉のような匂いがした。
「いい匂いね。さすが料理のあたくし」
「ふふ、今日のスコーンは自信作よ」
「ねー、ねえさまー」
笑顔で会話をするアリアーヌ達に、ポレットは口を尖らせて不満を表した。
「あぁ、ごめんねポレット。遊べるあたくしは今、お屋敷の中にいるはずよ」
「行ってもいい?」
「ええ、もちろん。でも、お台所のお菓子やお料理をつまみ食いしてはダメよ?」
微笑みながら言うお茶会のアリアーヌの言葉に、ポレット少しだけ苛つきを覚えた。
「おなかが空いたら戻ってらっしゃい。貴女の分のお菓子は残しておくわ」
「……そうする」
「うふふ、いい子ね」
料理のアリアーヌが再びポレットの頭を撫でる。
「じゃあ、いってきまーす!」
ひとしきり撫でてもらったポレットは、椅子から立ち上がると屋敷に向かって走り出した。
クッキーで出来たお屋敷の扉を開けると、ゼリーで出来た窓を掃除するアリアーヌと、チョコレートで床を磨くアリアーヌと出会う。
「あら、ポレット。お茶会はもういいの?」
「うん。お茶は飲み終わっちゃったんだもん」
「遊べるあたくしなら、地下にいるわ」
床磨きのアリアーヌは地下へと続く滑り台を指差した。
「新しい玩具を作っているみたい。楽しみね」
「うん! ありがと!」
意気揚々とポレットは地下へ降りていく。キャンディで出来た滑り台に乗って、地下へ地下へと進んでいく。
「ねえさまー!」
滑り台の先には、お菓子で玩具を作っている二人のアリアーヌがいた。
砂糖細工のお人形や甘いパンで出来たテニスラケットを、ポレットのために作っている最中であった。
「いらっしゃい、ポレット」
「えへへ、遊んで!」
「いいわよ。何をしましょうか?」
「えっとねー、ねえさまの髪を結びたい!」
「あら?」
「いつもはねえさまに結んでもらってるから、今日はわたしがねえさまの髪を結びたいの!」
「うふふ、いいわよ」
砂糖細工を作っていたアリアーヌが前に進み出る。
いつの間にか、ブレーツェルで出来た椅子がそこに用意されていた。
ポレットは上機嫌で椅子に座るアリアーヌの髪を手に取った。
すると……
「え……?」
ずるり、という感触と共に、アリアーヌの髪がポレットの手に絡みついた。
その髪は薄く切り取った何かの肉だった。
「ポレット?」
呆然とするポレットをアリアーヌが覗き込む。
目の前のアリアーヌの肉の匂いが強くなる。
「どうしたの? あらあら大変。髪が抜けちゃったわ」
パンを片手にやって来たアリアーヌは、何でもないようにポレットから肉を取り上げる。
「ダメじゃない、砂糖細工作りのあたくし。髪の手入れはちゃんとしなきゃ」
アリアーヌを叱るアリアーヌ。だが、その眼は薄い緑色のキャンディで出来ていた。
——ねえさまはこんな肉の塊じゃない。
——ねえさまの髪は絹糸のように艶々としていた。
——ねえさまの眼はキャンディじゃない。
——じゃあ、この目の前のねえさま達は一体誰?
ポレットの思考は疑問で埋め尽くされた。
目の前にいるアリアーヌ達は誰なのか。
そもそも、自分の姉はただ一人のはずだ。
でも、目の前のねえさま達はわたしに優しい。
どんなお願いも、どんな我侭だって聞いてくれる。
でも、でも、でも。
「ちがう」
違和感が、拒絶の言葉となって零れ落ちた。
ポレットの手には、いつの間にか二丁の散弾銃が握られていた。
よく手に馴染んでいるような気もするし、初めて握ったような慣れない感覚もあった。
だがポレットは、これこそがこの嘘の世界を壊すために必要な武器であると、瞬時に理解した。
「いらない」
引き金を引く。その瞬間、肉の髪を持つアリアーヌが蜂の巣になり、穴という穴から緑色の液体を噴出して倒れこんだ。
「これもいらない」
キャンディの眼をしたアリアーヌの顔を散弾が穿つ。アリアーヌから溢れ出る肉がその場を満たした。
ポレットは地上へと歩く。騒ぎを聞きつけたアリアーヌ達が、何事かとポレットに近寄ってくる。
「どうしたの、ポレット? 何か気に入らないことでもあった?」
「まあポレット! そんなものを振り回して、一体どうしたの?」
——どんなに優しくされても。
——どんなに甘やかされても。
——どんなに一緒にいても。
——どれだけ名前を呼ばれようとも。
「これも、これも、これも、これもこれもあれもこれもそれも!!!」
ポレットの意志に呼応して、散弾銃がアリアーヌ達を粉砕していく。
「足りない……」
その呟きに応えるように、ポレットの手に大型のガトリングガンが現れる。
何の躊躇いもなくそれを手に取ると、ポレットはアリアーヌ達に向けて引き金を引いた。
発砲の反動をものともせず、ポレットはついさっきまで楽しく喋っていた筈のアリアーヌ達を毀棄していく。
あるアリアーヌは鮮やかな橙色の血を霧散させ、あるアリアーヌは抜けるような空色の挽肉となって四散する。まるで絵の具をぶちまけたような奇怪な光景だ。
それでも、アリアーヌ達だった肉はうぞうぞと蠢き、ポレットの周囲を這いずる。
「ぽ、れ……と……」
肉塊はそれでもアリアーヌのような顔を作り出し、ポレットに縋り付こうとする。
「きえちゃえ」
己でも意外だと思うほどに冷たい声で、ポレットはその肉塊を踏み潰した。
ポレットは行く道々で現れる姉であり姉ではない何かを、片っ端から撃ち殺していった。
姉のような何かの断末魔が、お菓子と肉で出来た世界に響き渡る。
「あは、あはは」
これで本物のねえさまを探しに行ける。そう思うポレットの顔は笑顔に満ち溢れていた。
極彩色の血と肉の道を作り上げながら、ポレットは足取りも軽やかに進んでいった。
「—了—」
少女は暗闇の中に立っていた。
「お前の望みは何だ?」
女の声が少女の耳に届く。
「のぞみ? のぞみってなに?」
少女は女の言葉を理解できていない。
「お前の欲しいものは何だ?」
女は言葉を変えた。
私が欲しいもの——。その言葉に、少女の脳裏に一人の人物の姿が浮かんだ。
「ねえさま……」
「お前の望み、叶えよう」
女の声が響く。
少女の目の前が白んだ。
「ねえさまー」
「なあに、ポレット」
ポレットは広い屋敷の庭で、姉のアリアーヌと共に午後のお茶会を楽しんでいた。
「お茶が飲み終わっちゃったから、ねえさまと遊びたいなー」
空のティーカップを見せながら、ポレットは上目遣いでアリアーヌを見つめる。
「あらあら。お茶会は始まったばかりよ? もうすぐおかわりも来るのに」
「もうおなかいっぱいだよう。遊びたいよー」
ポレットの言葉に、アリアーヌは困ったように笑うだけだった。
それもその筈。アリアーヌの下半身はお茶会用に用意された椅子と融解している。
これではポレットの遊びに付き合うことはできない。
「お茶会のあたくしにわがままを言ってはダメよ、ポレット」
お茶とお菓子を載せたワゴンを押しながら、屋敷からアリアーヌがやって来た。
彼女はワゴンをテーブルの近くに止めると、お茶会のアリアーヌを困らせるポレットの頭を優しく撫でた。
その手はぺとりとした感触をしており、少し生肉のような匂いがした。
「いい匂いね。さすが料理のあたくし」
「ふふ、今日のスコーンは自信作よ」
「ねー、ねえさまー」
笑顔で会話をするアリアーヌ達に、ポレットは口を尖らせて不満を表した。
「あぁ、ごめんねポレット。遊べるあたくしは今、お屋敷の中にいるはずよ」
「行ってもいい?」
「ええ、もちろん。でも、お台所のお菓子やお料理をつまみ食いしてはダメよ?」
微笑みながら言うお茶会のアリアーヌの言葉に、ポレット少しだけ苛つきを覚えた。
「おなかが空いたら戻ってらっしゃい。貴女の分のお菓子は残しておくわ」
「……そうする」
「うふふ、いい子ね」
料理のアリアーヌが再びポレットの頭を撫でる。
「じゃあ、いってきまーす!」
ひとしきり撫でてもらったポレットは、椅子から立ち上がると屋敷に向かって走り出した。
クッキーで出来たお屋敷の扉を開けると、ゼリーで出来た窓を掃除するアリアーヌと、チョコレートで床を磨くアリアーヌと出会う。
「あら、ポレット。お茶会はもういいの?」
「うん。お茶は飲み終わっちゃったんだもん」
「遊べるあたくしなら、地下にいるわ」
床磨きのアリアーヌは地下へと続く滑り台を指差した。
「新しい玩具を作っているみたい。楽しみね」
「うん! ありがと!」
意気揚々とポレットは地下へ降りていく。キャンディで出来た滑り台に乗って、地下へ地下へと進んでいく。
「ねえさまー!」
滑り台の先には、お菓子で玩具を作っている二人のアリアーヌがいた。
砂糖細工のお人形や甘いパンで出来たテニスラケットを、ポレットのために作っている最中であった。
「いらっしゃい、ポレット」
「えへへ、遊んで!」
「いいわよ。何をしましょうか?」
「えっとねー、ねえさまの髪を結びたい!」
「あら?」
「いつもはねえさまに結んでもらってるから、今日はわたしがねえさまの髪を結びたいの!」
「うふふ、いいわよ」
砂糖細工を作っていたアリアーヌが前に進み出る。
いつの間にか、ブレーツェルで出来た椅子がそこに用意されていた。
ポレットは上機嫌で椅子に座るアリアーヌの髪を手に取った。
すると……
「え……?」
ずるり、という感触と共に、アリアーヌの髪がポレットの手に絡みついた。
その髪は薄く切り取った何かの肉だった。
「ポレット?」
呆然とするポレットをアリアーヌが覗き込む。
目の前のアリアーヌの肉の匂いが強くなる。
「どうしたの? あらあら大変。髪が抜けちゃったわ」
パンを片手にやって来たアリアーヌは、何でもないようにポレットから肉を取り上げる。
「ダメじゃない、砂糖細工作りのあたくし。髪の手入れはちゃんとしなきゃ」
アリアーヌを叱るアリアーヌ。だが、その眼は薄い緑色のキャンディで出来ていた。
——ねえさまはこんな肉の塊じゃない。
——ねえさまの髪は絹糸のように艶々としていた。
——ねえさまの眼はキャンディじゃない。
——じゃあ、この目の前のねえさま達は一体誰?
ポレットの思考は疑問で埋め尽くされた。
目の前にいるアリアーヌ達は誰なのか。
そもそも、自分の姉はただ一人のはずだ。
でも、目の前のねえさま達はわたしに優しい。
どんなお願いも、どんな我侭だって聞いてくれる。
でも、でも、でも。
「ちがう」
違和感が、拒絶の言葉となって零れ落ちた。
ポレットの手には、いつの間にか二丁の散弾銃が握られていた。
よく手に馴染んでいるような気もするし、初めて握ったような慣れない感覚もあった。
だがポレットは、これこそがこの嘘の世界を壊すために必要な武器であると、瞬時に理解した。
「いらない」
引き金を引く。その瞬間、肉の髪を持つアリアーヌが蜂の巣になり、穴という穴から緑色の液体を噴出して倒れこんだ。
「これもいらない」
キャンディの眼をしたアリアーヌの顔を散弾が穿つ。アリアーヌから溢れ出る肉がその場を満たした。
ポレットは地上へと歩く。騒ぎを聞きつけたアリアーヌ達が、何事かとポレットに近寄ってくる。
「どうしたの、ポレット? 何か気に入らないことでもあった?」
「まあポレット! そんなものを振り回して、一体どうしたの?」
——どんなに優しくされても。
——どんなに甘やかされても。
——どんなに一緒にいても。
——どれだけ名前を呼ばれようとも。
「これも、これも、これも、これもこれもあれもこれもそれも!!!」
ポレットの意志に呼応して、散弾銃がアリアーヌ達を粉砕していく。
「足りない……」
その呟きに応えるように、ポレットの手に大型のガトリングガンが現れる。
何の躊躇いもなくそれを手に取ると、ポレットはアリアーヌ達に向けて引き金を引いた。
発砲の反動をものともせず、ポレットはついさっきまで楽しく喋っていた筈のアリアーヌ達を毀棄していく。
あるアリアーヌは鮮やかな橙色の血を霧散させ、あるアリアーヌは抜けるような空色の挽肉となって四散する。まるで絵の具をぶちまけたような奇怪な光景だ。
それでも、アリアーヌ達だった肉はうぞうぞと蠢き、ポレットの周囲を這いずる。
「ぽ、れ……と……」
肉塊はそれでもアリアーヌのような顔を作り出し、ポレットに縋り付こうとする。
「きえちゃえ」
己でも意外だと思うほどに冷たい声で、ポレットはその肉塊を踏み潰した。
ポレットは行く道々で現れる姉であり姉ではない何かを、片っ端から撃ち殺していった。
姉のような何かの断末魔が、お菓子と肉で出来た世界に響き渡る。
「あは、あはは」
これで本物のねえさまを探しに行ける。そう思うポレットの顔は笑顔に満ち溢れていた。
極彩色の血と肉の道を作り上げながら、ポレットは足取りも軽やかに進んでいった。
「—了—」