「王回來了嗎?」
梅爾茲堡的家臣們騷動了起來。長期浪跡在外的王終於回來了。
「已經過了幾年了?不過這也真是剛好」
「這樣我們王家終於也能夠面對新的戰亂了」
魯卡身為名門梅爾茲堡家的王,在魯比歐那聯合王國中也有優先的王位繼承權,他的歸來受到大家相當的歡迎。
魯卡在年輕時是保衛王國的驍勇戰士,同時也是指導者。從渦及他國的干涉下保護著臣民,並實行善政待民。沒有自己的私欲,可說是理想的王。
但是在某個事件中──同時失去了深愛的王妃與王子──之後,他就從表舞台上離開,前往荒野旅行去了。
雖然在偶爾歸來的魯卡指示下,由家臣團管理著這個王不在的國家。但是以現在的帝國崛起情勢下,就連聯合王國內部都有很多聲音希望擁有高度軍事才能的魯卡,能回來當王。
「給大家添麻煩了。不過從現在起我想盡我的義務統率這個國家」
魯卡坐在王位上,對聚集在一起的家臣們說道。魯卡的年紀已經五十後半了,長期的旅外生活讓他的容貌看起來更為蒼老。但是他那宏亮且充滿威嚴的聲音,還是跟以前一樣沒有改變。
「謹遵旨意」
家臣團們齊聲回答。
「在王不在的期間,主張廢除王室的共和主義者增加了不少」
長年任職魯卡家中總管的康羅以玩笑的口吻說道。他比魯卡年長將近20幾歲,已經相當年邁。
「原來如此。也許比我這老頭來治理國家,那樣還比較好也不一定」
說完後,引起家臣團的笑聲。
在魯卡回來的時候,身旁還跟著一些黑衣的異民族。他們與被家臣們環繞的王保持著距離,就那樣在入口旁靜待著。
「他們是?」
「遵從古老的盟約,服從我的人們。這次我想借助他們的力量」
康羅感受到那帶著面具男人的銳利視線。
令人不愉快的眼神表現出他們有多刻薄,康羅無法理解為何魯卡會讓像這樣的男人們在他手下工作。
「那些人真的能夠信用嗎?」
「嗯,這說來話長。不過還是讓你知道一下好了」
魯卡開始說起。
「那大概是兩年多之前的事了,我在貝利亞地方的荒野瞑想著──」
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|
瞑想的時間超過四小時,視野中只有岩石跟荒地,在這廣大的平地上看不到任何會動的東西。
魯卡就靜靜地,坐在在這不毛之地的某個巨石上。
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魯卡的流浪生活斷斷續續大概重複著也有約二十年了。
年輕時的魯卡是位洋溢著自信,爽朗的男人。但是在他失去所愛的家人時,他覺得失去了人生的支柱。也失去了統領王國的心情,更無法忍受世間的無常,就一直以服喪的狀態窩在宮殿裡。
然後為了找出自己人生的意義,像是把王位拋棄般的形式離開了國家。
魯卡的旅途,主要是向著東方。東方還保有著很多自然,以跟西方都市化國家不同的方式適應了渦的生活。
這個東方之地,自古就是梅爾茲堡家支配的領地。但隨著渦的影響越來越嚴重,就慢慢地與他們失去了連繫。
雖然現在只剩下些許紀錄和地圖,但魯卡還是巡迴了各地。不管是小集落還是比較大的街道。
雖然很多地方都受到渦的影響已經消滅了,但是即使如此,只要遇到活下來的人,魯卡就會以旅人的身份觀察當地。
魯卡就這樣,一邊探聽著自己失落的王國,一邊學習著東方的思想,然後瞑想與磨練著自己的劍技,想藉此取回心中的那份平安感。
|
就過著那樣的某一日,到了一個名叫卡納諾的地方時,他聽到了奇妙的傳聞。
住在黑闇之中的人種──他們被稱為Dweller──在好幾年前出現並且襲擊了原住民,很多人因此犧牲。
根據存活下來的原住民所言,Dweller的外表就像是會動的骸骨,並且好像在呻吟著什麼似的一直叫著。
魯卡對這件事相當感興趣,就朝著原住民們的居住地過去了。
跟渦的怪物不一樣,是相當奇妙的事。魯卡覺得以未開發之民的傳承,傳聞來說,在講這件事的他們似乎有點受到逼迫的感覺。
穿過森林在荒野前進一段時間後,就看到用岩石堆砌出來的高台。在那上面有已經崩壞了的村落。
「就是這裡了嗎」
廢區之中當然沒有半個人影。太陽還高掛著,離怪奇出現的時刻還有好一段時間。
那個住在黑暗之中的怪奇,就算是渦的怪物,也沒什麼好怕的。魯卡已經有過好幾次遇上渦的怪物,並且在與其戰鬥後存活了下來,這些經驗讓他信心滿滿。
而且雖然已經上了年紀,但是不斷鍛鍊的這個劍技,也讓魯卡比年輕時更加的有自信。
就在魯卡巡迴廢區時,找到了奇怪的建築物。那看起來就像是在建造高台的山崖裡挖出的墳墓一般。而且那門還開著。
魯卡悄悄地走到入口附近。然後提高警戒觀察著腳邊。有兩種腳印,而且有一種是人的。以廢區其他地方的狀況來判斷,這些腳印明顯全都是最近留下來的。
「難不成是死者復活了嗎……」
|
魯卡自言自語著。偵察了墳墓周圍之後。就算聚精會神也感受不到任何的動靜。
於是魯卡就慎重地踏進墳墓中。
墳墓的石門有一面向外開著。但是因為只開了一人可以進去的空間,裡面還是很暗。
魯卡對裡面的樣子感到驚訝。
寬約20阿爾雷的四方形空間,裡面幾乎是由白色的遺骸堆滿了整個空間。
白色的遺骸全部有著人的形狀,但是那並不是人的骨頭。而是壞掉的自動人偶零件。
被稱作人工皮膚的有機組織已經全部腐爛脫落,露出白色的支架以及退色的電線,滿地都是自動人偶的遺骸。
魯卡慢慢地往深處走去。魯卡推測這個廢區應該是黃金時代的東西。雖然魯卡從來沒有見過人型的自動人偶,但還是知道歷史中有這樣的東西存在過。
看著那白色遺骸堆,發現小孩子的零件似乎佔多數。
魯卡將一個頭部的遺骸拿起來看。那看起來像是一個約七,八歲的孩子。人工的眼睛還沒完全腐爛掉,仍然在沒有眼瞼的眼窩露出沉重的光芒。
魯卡輕輕的將灰塵拍去後,把頭部放回原來的位置。
就在那個時候,魯卡感受到身後有風壓。
魯卡迅速地將腰間的刀拔出後,隨即就回身抵擋背後的攻擊。
沉重的金屬聲在墳墓之中迴響著。
那是一具雖然肉已經剝離的自動人偶,卻還是想要用他那銳利的手腕將自己切裂時,魯卡瞬間將刀拔出來擋下那手腕的聲音。
那一擊可以說是是相當強力,但是魯卡出神入化的劍技,還是將其有驚無險地擋下。
自動人偶迅速的後退,然後擺出以單手支撐在地面的架勢。
「聖…米…要……」
從那暴露在外的牙齒間,發出了像是哭聲般的奇怪言語。
「死…類」
說完後,就將某種東西丟了過來。魯卡雖然用刀將丟過來的東西砍落,但是左肩卻還是受到了衝擊。
「失策!」
不自覺脫口而出之後,魯卡全神貫注地將刀重新拿好。但是那詭異的自動人偶已經消失了。
即使環顧四週,也什麼都找不到。
與那傢伙對峙時,感受不到任何人或生物的氣息。
魯卡心想,這下事情麻煩了。
沒有氣息的發狂機械,在這個沒有地方可以躲藏的墳墓中戰鬥對自己實在是太不利了。而且這東西還可能不只一具。因為剛剛看到的足跡有兩種。
魯卡判斷完狀況之後,馬上往入口跑去。當感覺到有東西在視覺的死角活動時,魯卡馬上扭身躲開了那一擊,隨即就衝出了墳墓外面。外面耀眼的光芒暫時奪走了魯卡的視覺。
想要重新站起來的時候,腳部傳來劇烈的疼痛。那傢伙的一擊深深地砍到了左腳。
魯卡用拖著身體想要拉開與墳墓的距離。
然後躲在了墳墓前面的石頭瓦礫之中。血跡從墳墓那邊一直持續到身旁。
以那傢伙的速度看來,腳上這個傷應該無法甩掉他的。
魯卡意識到自己要輸了。
魯卡閉起雙眼,讓自己的心緒沉靜下來。要說有什麼轉機的話,就只有那傢伙過來了斷自己的時候而已了,魯卡做出了覺悟。
但是就好像在取笑魯卡那必死的決心似地,什麼動靜也沒有。
數分鐘就好像數小時般地長。午後的烈陽下以及廢區的一片寂靜,讓魯卡覺得他就好像是在跟墳墓的幻覺死鬥般。
但是腳部的痛覺是真實的,這也讓魯卡想起必須要先止血才行。
就在魯卡猶豫著是否要解除戰鬥架勢時。
頭的上方傳來了男人的聲音。
「白天的話,那傢伙是不會出來的。好像是眼睛無法忍受陽光的樣子」
「是誰!」
魯卡因為又是這種感覺不到氣息的聲音而失去了冷靜並叫喊出聲。
「老武士。你的傷再那樣放置下去的話會死的」
魯卡的面前,站著一位穿著黑衣的年輕男子。
|
「─完─」
3388年「遺骸」
「王が帰ってこられた?」
メルツバウ家臣団は騒然となった。長らく放浪していた王の帰還であった。
「何年ぶりのご帰還になる? しかし、これは目出度い」
「これで我が王家も、新しい戦乱で戦える」
名家メルツバウの王であり、ルビオナ連合王国内において上位の王位継承権を持つリュカの帰還は、歓喜をもって迎えられた。
リュカは、若かりし時は王国を守る勇敢な戦士であり、指導者であった。渦や他国の干渉から臣民を守り、善政をもって民に尽くした。私欲の無い、理想の王であった。
だが、ある事件——愛する王妃と子を同時に失ってしまった——の後、彼は表舞台から身を隠すようにして、荒野に旅出ってしまった。
王不在の国は、希に帰還するリュカの指示の下に、家臣団が取り纏めていた。しかし昨今、帝國の勃興が伝えられるようになると、高い軍事的才能を持っているリュカ王の帰還を待望する声が、連合王国内部でも上がっていた。
「迷惑を掛けたな。 しかし、これからは大義をもって国を率いようと思う」
集めた家臣団を前に、玉座に座ったまま語った。リュカは既に五十代の半ばを越えており、長い旅の生活からか、容姿には衰えが見えていた。が、その声には昔と変わらない、威厳に満ちた響きがあった。
「御意のままに」
家臣団は声を揃えて答えた。
「王がいない間に、王室の廃止を訴える共和主義者が増えましたわ」
リュカの長年の家令を努めているコンロウが冗談めかして言った。彼はリュカより二十近く齢を重ねており、かなりの老境にある。
「なるほど。 もしかしたら、この老いぼれよりなんぞより、その方が良いかもしれんな」
どっ、と家臣団から笑いが起きた。
リュカの帰還には黒衣の異民族が付き従っていた。家臣団に囲まれた王より離れ、入り口の側に固まっている。
「彼らは?」
「古い盟約を守るために、儂に従ってくれる者達だ。 彼らの力を今回は借りようと思う」
マスクの男の鋭い視線を、コンロウは感じた。
不気味な眼差しは酷薄さを表している様で、何故リュカがこの様な男達を付き従えているのか、コンロウには理解できなかった。
「あの者らは本当に信用できるのですか?」
「うむ、その話は長くなる。 が、お前だけには聞かせておこう」
リュカは語り出した。
「あれは二年ほど前になるか。儂はベリア地方の荒野で瞑想をしていた——」
瞑想の時間は四時間を越えていた。視界の中には岩と荒れ地しかなく、広大な平野に動くものは見当たらなかった。
この不毛の地にある巨石の上に、リュカはじっと座っていた。
リュカはおよそ二十年間、断続的ではあったが、放浪を繰り返していた。
若い頃、リュカは自信に溢れた快活な男であった。だが、愛する家族を失った時、己の人生に対する支えを失ったと感じた。王国を率いる気持ちを失い、世の無常さに耐えかね、喪に服す体で宮殿に引き籠もった。
そして、己の人生の意味を見つけるために、王の地位を投げ捨てる形で国を出奔したのだった。
リュカの旅は、主に東方に向けられた。東方は自然が多く残っており、西方の都市化された国々とは異なる渦への適応を見せていた。
この東方の地は、古くからメルツバウ家が属領として支配していた。しかし渦の影響が濃くなるにつれ、次第に繋がりを失っていった。
もう僅かな記録と地図しか残っていなかったが、それでもリュカは各地を巡った。小さな集落から、比較的大きな街まで。
多くは渦の影響により消滅していたが、それでも、そこに生きる人々を見つけると、リュカは旅人としてその地を観察するのだった。
リュカはそうした、失われた己の王国を見聞していきながら東方の思想を学び、瞑想と己が剣技を磨く日々によって、心の平安を取り戻そうとしていた。
そんな日々の中、カナノ地方に寄ったときに、奇妙な噂話を耳にした。
暗闇に住むもの——ドウェラーと彼らは呼んでいた——が、何年か前より現れて原住民を襲い、多くの者が犠牲になったというのだ。
生き残った原住民の話によると、そのドウェラーというものの容貌は動く骸骨のようで、何かを訴えかけるように叫び続けていた、というのだ。
リュカはその話に興味を惹かれ、その原住民が住む地に向かった。
渦の怪物とは違う、奇妙な話だった。未開の民の伝承、噂話にしては、彼らの語り口が逼迫しているように感じられた。
森を抜けてしばらく荒野を進むと、岩でできた高台が見えた。その麓に、崩れ去った街があった。
「ここか」
廃墟に人影など勿論無い。まだ陽は高く、怪異が現れるという時刻までは間があった。
その暗闇に住むという怪異が、例え渦の怪物であろうとも、恐れは無かった。渦の化け物どもと何度も出会い、戦い、生き延びてきた事が、その思いを証明していた。
それに、歳は取っていたが、修練を欠かしていない剣技には、若い頃よりもずっと自信があった。
リュカは廃墟を巡るうちに、奇妙な建物を見つけた。それは高台を作る崖に掘られた墳墓のように見えた。そして、その扉は開いていた。
そっとその墳墓の入り口にリュカは近付いていった。足下の様子を注意深く観察する。足跡の種類が二つ、それも人の足形があった。廃墟の他の様子から考えれば、足跡が残るような事象は全て最近の出来事である、ということが自明であった。
「死者が蘇ったとでもいうのか……」
ひとり呟いた。墳墓の前で辺りを見回す。神経を研ぎ澄ましてみても、何の動きも感じられない。
リュカは慎重に墳墓へと足を踏み入れた。
墳墓の石扉は、片方が外れたように外側に開いている。ただし、人一人分の幅しか開いていないため、中は薄暗いままだ。
中の光景にリュカは瞠目した。
広さは20アルレ四方だったが、その殆どが、山積みとなった白い遺骸によって覆われていた。
白い遺骸は全て人の形をしていた。だが、骨ではなかった。それらは壊れたオートマタの部位であった。
人工皮膚といった有機的な組織はすべて腐れ落ち、白いフレームとくすんだ色のコード類を剥き出しにして、オートマタの遺骸はころがっていた。
ゆっくりとリュカは奥に進んでいった。この廃墟が黄金時代のものであろうということは、リュカにも想像が付いた。人型のオートマタなど見たことも無かったが、歴史の中では、そのようなものがいたことは知っていた。
白い遺骸の山を眺めていると、子供のようなものが多いことに気が付いた。
一つの遺骸の頭部を手に取ってみる。小さなそのパーツは七、八歳の子供の大きさに思えた。人工の瞳は腐り落ちておらず、瞼の無い眼窩の中に鈍い光を宿していた。
リュカはそっと埃を払い、元に位置にその頭部を戻した。
その時、リュカの身体が背後の風圧を感じ取った。
素早く腰の刀を抜き、振り返りざまに構える。
鈍い金属音が墳墓の中で響き渡った。
肉の剥げ落ちたオートマタが、その鋭い腕で自分を切り裂こうとしてきた。須臾に、抜いた刃でその腕を受け止めた音だった。
凄まじい力だったが、リュカの鍛えた剣技は、その力をぎりぎりで受け流していた。
オートマタは素早く飛び退き、片手を付くような形で地面に伏せる構えを見せた。
「しえ みあ よ がえ」
剥き出しの歯の間から、鳴き声の様な奇妙な言葉を発した。
「ひ こ」
そう言うと、何かを投げつけてきた。リュカは投げられたものを振り落とすように刀を振るったが、左肩に衝撃が走った。
「不覚!」
そう思わず呟いたが、油断せず刀を構え直した。しかし不気味なオートマタの姿は掻き消えていた。
辺りを見回しても、何も見つからない。
奴と対峙したとき、人や生物なら絶対に存在する気配というものが、全く感じられなかった。
これは面倒なことになったと、リュカは思った。
気配無き狂った機械と、この逃げ場のない墳墓で戦うのはあまりにも不利だった。それに、奴が一体だとは限らない。足跡は二種類あった。
リュカはそう判断すると、すぐに入り口へ向かって走った。視界の陰に動くモノを感じると、身体を捻るようにして一撃を躱し、飛び込むように墳墓の外に出た。明るい外の光に目を奪われる。
立ち上がろうとすると、足に激痛が走った。奴の一撃で、左脚の脹ら脛が深く切り裂かれていた。
リュカは片足を引き摺るようにして、墳墓から距離を取ろうとした。
墳墓の前に存在する石の瓦礫に隠れた。血の跡は墳墓からずっと続いている。
奴の速度を考えれば、足の怪我があっては逃げ切れないだろう。
リュカは敗北を意識した。
瞑目し、心を落ち着かせた。もし勝機があるとすれば、この開けた場所で奴が自分にとどめを刺しに来る時だと、リュカは決意した。
一太刀で迎撃する。そう決心し、刀の柄に手を掛けた。神経を研ぎ澄まし、奴の動きを見逃すまいとした。
しかし、リュカの必死の決意を嘲笑うかのように、何も動きは無かった。
数分が数時間のように感じられる。強い午後の日差しと廃墟の静けさは、まるで墳墓での死闘が幻であるかのように、リュカに思わせた。
しかし足の痛みは現実にあり、止血が必要であることをリュカに思い出させる。
リュカは迎撃の構えを解くか迷っていた。
その時、頭上から男の声がした。
「昼間なら、奴はあそこから出てこない。 目が日の光に耐えられないらしい」
「誰だ!」
リュカはまたも気配を感じさせぬ存在の声に、冷静さを失った声を上げた。
「老侍。 その傷のままでは死ぬぞ」
リュカの目の前に、黒衣の若い男が立っていた。
「—了—」
「王が帰ってこられた?」
メルツバウ家臣団は騒然となった。長らく放浪していた王の帰還であった。
「何年ぶりのご帰還になる? しかし、これは目出度い」
「これで我が王家も、新しい戦乱で戦える」
名家メルツバウの王であり、ルビオナ連合王国内において上位の王位継承権を持つリュカの帰還は、歓喜をもって迎えられた。
リュカは、若かりし時は王国を守る勇敢な戦士であり、指導者であった。渦や他国の干渉から臣民を守り、善政をもって民に尽くした。私欲の無い、理想の王であった。
だが、ある事件——愛する王妃と子を同時に失ってしまった——の後、彼は表舞台から身を隠すようにして、荒野に旅出ってしまった。
王不在の国は、希に帰還するリュカの指示の下に、家臣団が取り纏めていた。しかし昨今、帝國の勃興が伝えられるようになると、高い軍事的才能を持っているリュカ王の帰還を待望する声が、連合王国内部でも上がっていた。
「迷惑を掛けたな。 しかし、これからは大義をもって国を率いようと思う」
集めた家臣団を前に、玉座に座ったまま語った。リュカは既に五十代の半ばを越えており、長い旅の生活からか、容姿には衰えが見えていた。が、その声には昔と変わらない、威厳に満ちた響きがあった。
「御意のままに」
家臣団は声を揃えて答えた。
「王がいない間に、王室の廃止を訴える共和主義者が増えましたわ」
リュカの長年の家令を努めているコンロウが冗談めかして言った。彼はリュカより二十近く齢を重ねており、かなりの老境にある。
「なるほど。 もしかしたら、この老いぼれよりなんぞより、その方が良いかもしれんな」
どっ、と家臣団から笑いが起きた。
リュカの帰還には黒衣の異民族が付き従っていた。家臣団に囲まれた王より離れ、入り口の側に固まっている。
「彼らは?」
「古い盟約を守るために、儂に従ってくれる者達だ。 彼らの力を今回は借りようと思う」
マスクの男の鋭い視線を、コンロウは感じた。
不気味な眼差しは酷薄さを表している様で、何故リュカがこの様な男達を付き従えているのか、コンロウには理解できなかった。
「あの者らは本当に信用できるのですか?」
「うむ、その話は長くなる。 が、お前だけには聞かせておこう」
リュカは語り出した。
「あれは二年ほど前になるか。儂はベリア地方の荒野で瞑想をしていた——」
瞑想の時間は四時間を越えていた。視界の中には岩と荒れ地しかなく、広大な平野に動くものは見当たらなかった。
この不毛の地にある巨石の上に、リュカはじっと座っていた。
リュカはおよそ二十年間、断続的ではあったが、放浪を繰り返していた。
若い頃、リュカは自信に溢れた快活な男であった。だが、愛する家族を失った時、己の人生に対する支えを失ったと感じた。王国を率いる気持ちを失い、世の無常さに耐えかね、喪に服す体で宮殿に引き籠もった。
そして、己の人生の意味を見つけるために、王の地位を投げ捨てる形で国を出奔したのだった。
リュカの旅は、主に東方に向けられた。東方は自然が多く残っており、西方の都市化された国々とは異なる渦への適応を見せていた。
この東方の地は、古くからメルツバウ家が属領として支配していた。しかし渦の影響が濃くなるにつれ、次第に繋がりを失っていった。
もう僅かな記録と地図しか残っていなかったが、それでもリュカは各地を巡った。小さな集落から、比較的大きな街まで。
多くは渦の影響により消滅していたが、それでも、そこに生きる人々を見つけると、リュカは旅人としてその地を観察するのだった。
リュカはそうした、失われた己の王国を見聞していきながら東方の思想を学び、瞑想と己が剣技を磨く日々によって、心の平安を取り戻そうとしていた。
そんな日々の中、カナノ地方に寄ったときに、奇妙な噂話を耳にした。
暗闇に住むもの——ドウェラーと彼らは呼んでいた——が、何年か前より現れて原住民を襲い、多くの者が犠牲になったというのだ。
生き残った原住民の話によると、そのドウェラーというものの容貌は動く骸骨のようで、何かを訴えかけるように叫び続けていた、というのだ。
リュカはその話に興味を惹かれ、その原住民が住む地に向かった。
渦の怪物とは違う、奇妙な話だった。未開の民の伝承、噂話にしては、彼らの語り口が逼迫しているように感じられた。
森を抜けてしばらく荒野を進むと、岩でできた高台が見えた。その麓に、崩れ去った街があった。
「ここか」
廃墟に人影など勿論無い。まだ陽は高く、怪異が現れるという時刻までは間があった。
その暗闇に住むという怪異が、例え渦の怪物であろうとも、恐れは無かった。渦の化け物どもと何度も出会い、戦い、生き延びてきた事が、その思いを証明していた。
それに、歳は取っていたが、修練を欠かしていない剣技には、若い頃よりもずっと自信があった。
リュカは廃墟を巡るうちに、奇妙な建物を見つけた。それは高台を作る崖に掘られた墳墓のように見えた。そして、その扉は開いていた。
そっとその墳墓の入り口にリュカは近付いていった。足下の様子を注意深く観察する。足跡の種類が二つ、それも人の足形があった。廃墟の他の様子から考えれば、足跡が残るような事象は全て最近の出来事である、ということが自明であった。
「死者が蘇ったとでもいうのか……」
ひとり呟いた。墳墓の前で辺りを見回す。神経を研ぎ澄ましてみても、何の動きも感じられない。
リュカは慎重に墳墓へと足を踏み入れた。
墳墓の石扉は、片方が外れたように外側に開いている。ただし、人一人分の幅しか開いていないため、中は薄暗いままだ。
中の光景にリュカは瞠目した。
広さは20アルレ四方だったが、その殆どが、山積みとなった白い遺骸によって覆われていた。
白い遺骸は全て人の形をしていた。だが、骨ではなかった。それらは壊れたオートマタの部位であった。
人工皮膚といった有機的な組織はすべて腐れ落ち、白いフレームとくすんだ色のコード類を剥き出しにして、オートマタの遺骸はころがっていた。
ゆっくりとリュカは奥に進んでいった。この廃墟が黄金時代のものであろうということは、リュカにも想像が付いた。人型のオートマタなど見たことも無かったが、歴史の中では、そのようなものがいたことは知っていた。
白い遺骸の山を眺めていると、子供のようなものが多いことに気が付いた。
一つの遺骸の頭部を手に取ってみる。小さなそのパーツは七、八歳の子供の大きさに思えた。人工の瞳は腐り落ちておらず、瞼の無い眼窩の中に鈍い光を宿していた。
リュカはそっと埃を払い、元に位置にその頭部を戻した。
その時、リュカの身体が背後の風圧を感じ取った。
素早く腰の刀を抜き、振り返りざまに構える。
鈍い金属音が墳墓の中で響き渡った。
肉の剥げ落ちたオートマタが、その鋭い腕で自分を切り裂こうとしてきた。須臾に、抜いた刃でその腕を受け止めた音だった。
凄まじい力だったが、リュカの鍛えた剣技は、その力をぎりぎりで受け流していた。
オートマタは素早く飛び退き、片手を付くような形で地面に伏せる構えを見せた。
「しえ みあ よ がえ」
剥き出しの歯の間から、鳴き声の様な奇妙な言葉を発した。
「ひ こ」
そう言うと、何かを投げつけてきた。リュカは投げられたものを振り落とすように刀を振るったが、左肩に衝撃が走った。
「不覚!」
そう思わず呟いたが、油断せず刀を構え直した。しかし不気味なオートマタの姿は掻き消えていた。
辺りを見回しても、何も見つからない。
奴と対峙したとき、人や生物なら絶対に存在する気配というものが、全く感じられなかった。
これは面倒なことになったと、リュカは思った。
気配無き狂った機械と、この逃げ場のない墳墓で戦うのはあまりにも不利だった。それに、奴が一体だとは限らない。足跡は二種類あった。
リュカはそう判断すると、すぐに入り口へ向かって走った。視界の陰に動くモノを感じると、身体を捻るようにして一撃を躱し、飛び込むように墳墓の外に出た。明るい外の光に目を奪われる。
立ち上がろうとすると、足に激痛が走った。奴の一撃で、左脚の脹ら脛が深く切り裂かれていた。
リュカは片足を引き摺るようにして、墳墓から距離を取ろうとした。
墳墓の前に存在する石の瓦礫に隠れた。血の跡は墳墓からずっと続いている。
奴の速度を考えれば、足の怪我があっては逃げ切れないだろう。
リュカは敗北を意識した。
瞑目し、心を落ち着かせた。もし勝機があるとすれば、この開けた場所で奴が自分にとどめを刺しに来る時だと、リュカは決意した。
一太刀で迎撃する。そう決心し、刀の柄に手を掛けた。神経を研ぎ澄まし、奴の動きを見逃すまいとした。
しかし、リュカの必死の決意を嘲笑うかのように、何も動きは無かった。
数分が数時間のように感じられる。強い午後の日差しと廃墟の静けさは、まるで墳墓での死闘が幻であるかのように、リュカに思わせた。
しかし足の痛みは現実にあり、止血が必要であることをリュカに思い出させる。
リュカは迎撃の構えを解くか迷っていた。
その時、頭上から男の声がした。
「昼間なら、奴はあそこから出てこない。 目が日の光に耐えられないらしい」
「誰だ!」
リュカはまたも気配を感じさせぬ存在の声に、冷静さを失った声を上げた。
「老侍。 その傷のままでは死ぬぞ」
リュカの目の前に、黒衣の若い男が立っていた。
「—了—」