蕾塔的步伐朝著深紅色砂漠前方的綠洲前進。
砂漠中強風猛烈地吹著,蕾塔用帽兜與口罩防止砂石入侵。
「蕾塔,還好嗎?」
與蕾塔一樣戴著帽兜與口罩的女子,霍蘿姆轉頭望向蕾塔問道。
蕾塔用開朗的聲音回答擔心她的霍蘿姆。
「雖然有點疲倦,但是沒關係」
蕾塔清楚,霍蘿姆的觀察力非常敏銳,就算隱瞞她也馬上會被她發現。所以蕾塔並沒有隱瞞身體的不適。
「真的嗎,就快到小鎮了,再忍耐一下」
|
砂漠綠洲的一個小鎮裡十分地安靜,有看到圓型的建築物及看起來像攤販的東西,但是卻不見有人外出。
「是因為還是中午的關係嗎?」
蕾塔將所看到的感覺直接說了出來。
之前到訪過的綠洲小鎮,即使是同樣的時間也還是充滿生氣。
「但,也太過安靜了吧」
感覺有人的氣息在四處,但卻沒有人走出來。
霍蘿姆巡視了四周之後,走向了像是攤販的地方。攤位上陳列著紫色的果實,還有像是包裹用的白色蔬菜。
霍蘿姆一靠向攤販,出現了額頭上長著一隻角的矮小人偶。
人偶皺皺的臉露出驚訝的表情看著霍蘿姆後,用著蕾塔聽不懂的語言開始說話。霍蘿姆聽見後,也開始用相同的語言與他對話。
她透過自己的發明物解讀異界的語言,而可以與異界的住民進行交流。沒有那個發明物的蕾塔無法加入對話。
攤販的主人與霍蘿姆大概會講很長一段時間,無法理解對話內容的蕾塔,便在附近的陰涼處坐著休息。
正在發著呆的時候,買了幾個陳列在攤位上果實的霍蘿姆,回到了蕾塔的身邊。
「聽說前面不遠處有旅人用的旅社,走吧」
「好」
到了住宿的地方後,出來迎接的是與剛才攤販老闆很像的人偶。
將沙漠的沙塵抖落之後,被帶到了建築物的裡面。裡面十分涼快,地上鋪著像麻布的地毯。感覺像是寢室的地方鋪滿了靠墊,可以自由地躺臥。
人偶鞠躬離開之後,蕾塔與霍蘿姆便把帽兜與口罩脫下。
蕾塔與霍蘿姆的外貌猛然一看有些相似,但其實有明顯的差別。
霍蘿姆有著看似眉毛的一對複眼,臀部也長有摸起來黏黏像是尾巴的東西。
蕾塔雖然皮膚是褐色的,但是沒有複眼也沒有尾巴。二人雖然用相似的二腳走路方式,但卻是完全不同的種族。
「嘿嘿」
即使不能睡在床上,但好久沒在柔軟的抱枕上睡覺的蕾塔,臉上漏出笑容。
蕾塔將臉埋進抱枕裡正品嘗著幸福的氛圍時,旅社主人突然來訪。而在旅社主人的後面站著長著兩隻角的人偶。
「蕾塔,這裡就拜託妳了」
霍蘿姆看到了來訪的2位人偶後便站了起來,和他們一起走去某處了。
|
雖然種族不同,蕾塔和霍蘿姆都是為了尋找回到自己世界的方法而旅行著。
蕾塔因為《渦》所造成的災害而被轉移到別的世界,而在流浪中與為了回到故鄉霍蘿姆相遇。蕾塔流浪中得到不可思議的力量,也用這力量救了霍蘿姆,因這個機緣一起踏上了旅程。
霍蘿姆是走遍各個世界的學者。過去因為實驗中的意外而被轉送到別的世界,聽說自此之後就為了回到原來的世界,尋找著所需的物質而旅行著。
|
過了不久霍蘿姆回來了。
「怎樣了?」
「果然在這個城鎮北邊洞窟裡,疑似有那樣東西」
「找對地方了嗎?」
「這還不知道?聽說數週前洞窟被大岩石堵住了洞口,那顆大岩石似乎也讓鎮裡的人們感到很困擾……」
「不去看看是不會知道答案的」
「嗯,總之先休息吧,等太陽下山後出發吧」
|
出了旅社後,到了聽說是城鎮中今的泉水附近,泉水已經所剩無幾了。
雖然從北邊的河川有水流進來,但是那個量很少,無法填滿這個泉水坑。
為了不讓這一點點的水浪費掉,為了不曬到太陽讓體力跟水份消耗掉,所以居民們盡量不外出。霍蘿姆向蕾塔說明道。
蕾塔跟霍蘿姆靠著這流出的一點點水往河川上游找,往北邊前進。
走了一陣子後,看到滿是紅色岩石的山,再進進一些後,看到從巨大的岩石縫中流出一點點的水的地方。
看的到城鎮的居民努力想打碎岩石的痕跡。
「啊,這的確有點難辦……」
「岩石比我想像的大,蕾塔妳可以把它移開嗎?」
「嗯,這尺寸的話應該很簡單」
蕾塔邊說邊站到岩石前方。
「喂,別站在岩石前方,如果裡面水量太大妳會被沖走的」
「啊,這樣啊。說的也是」
霍蘿姆提醒蕾塔後,蕾塔換站在岩石的側邊。
「要拿起來的時候,一點一點的提起來,讓水從縫隙先流出來」
蕾塔伸出走向意識集中在岩石上。
這就是蕾塔的不可思議的力量。原理連蕾塔都不知道,但是她就是可以拿起任何物體,並自由操控。
霍蘿姆說這應該是念能力的一種,但對蕾塔來說這就只是一種『便利的能力』。
一種黑黑的波動從蕾塔手上散發出來,將岩石慢慢地移動。
岩石浮起來,本來被岩石檔住的水噴了出來。
「在這邊先停下來,先讓水放一些出來,妳稱得住嗎?」
「沒問題」
噴出來的水慢慢地減弱水勢,然後變成平靜的河川。
「可以了嗎?」
「看來沒問題了,把那個岩石放到不會礙事的地方吧」
蕾塔動了動手後,岩石移到平坦的沙地。確認岩石不會滾動後,兩人進到原本岩石後方洞穴中。
|
洞穴中可能是因為原本充滿了水,非常地溼。裡面沒有危險的生物可以生存,很平安地走到最深處。
洞穴最裡面,有一顆散發藍色光芒的球體,鎮坐在岩石的座台上。球體一直不停地在動,並不停地流出水。任誰都可以一眼就看出這個球體有不可思議的力量。
「這就是城鎮的說的東西嗎?」
「應該是吧」
霍蘿姆從自己背包取出一個小小的四面體,四面體發出虹色的光芒,將它靠近球體後,發出淡淡的光芒。
光芒照遍球體後,四面體的光芒變成紅色單一色。
「不是啊……」
「不是這個嗎?」
「嗯,雖然這個球體跟混沌元素結晶性質很像,但構造完全不一樣」
「那,這個水是從哪裡……」
「可能是只有搬運水的能力吧,這個結晶本身很有可能跟其他世界連結著」
球體確實擁有不可思議的力量,球體源源不絕地湧出清澈的水。
「這樣啊。……那,這球就這樣留在這裡?」
「如果沒有這個這城鎮就無法活下去了。既然不是混沌元素結晶,就留它在原地比較好吧」
霍蘿姆說完後,就把四面體放回背包裡。
這顆球體不是她要找的東西,只好再踏上旅途繼續尋找了。
「先回城鎮一趟吧」
「說的也是,我也很在意水有沒有好好地流回去了」
城鎮一片都因為水復活而歡喜。
霍蘿姆告訴城鎮的人說她們移完岩石,要離開了。
城鎮的人們為了感謝蕾塔她們,給了她們能夠拿得動份量的食物與水。
|
蕾塔跟霍蘿姆收下食物與水後,就離開城鎮了。
兩人再度走在紅色的沙漠中,視線前方似乎有黑黑的東西與風一起搖曳。
「這次會找到什麼呢?」
蕾塔看著黑色的東西,一臉期待地向霍蘿姆問道。
「這個難說,但是我一定非找到不可」
「說的也是」
紅色沙漠的前方那黑色的東西,以及這前方看到的世界是哪裡都不知道。
即使如此,蕾塔她們也不能停下,只能依靠前方說不定有她們要找的東西這個可能性。
|
黑色的東西逐漸包圍住蕾塔她們,就像要溶化在風中似地與她們一同消失。
|
「─完─」
「珠」
深紅色の砂漠の先に見えるオアシスに向けて、レタは歩いていた。
砂漠には風が吹き付けており、レタはフードとマスクで砂が侵入してくるのを防いでいた。
「レタ、大丈夫か?」
レタと同じようにフードとマスクを被った女、ホロムゥがレタの方を振り返る。
心配そうなホロムゥの声色に、レタは務めて明るい声で答えた。
「ちょっとだるいけど、平気」
レタは不調であることを隠さなかった。ホロムゥは非常に鋭い勘をしている。隠してもすぐに露見してしまうことを、レタは理解していた。
「そうか。もうすぐ町だ、それまで我慢してくれ」
砂漠のオアシスにある町は静まり返っていた。丸い建築物や屋台のようなものは見えるが、人が外に出ている様子がない。
「昼間だからかな?」
レタは感じたままに言葉を発した。
前に訪れたオアシスの町は、同じような時間でも活気があった。
「それにしても、静かすぎるな」
人の気配はそこかしこにあるのに、誰一人として外を出歩いていない。
ホロムゥは周囲を見回すと、屋台のような所へと歩いていく。屋台には紫色をした果実や、白い葉を持つ野菜のようなものが並べられていた。
ホロムゥが屋台に近づくと、額から一本の角を生やした小柄な人型が姿を表した。
人型は皺くちゃの顔で怪訝そうにホロムゥを見ると、レタには理解できない言葉で話し掛けてくる。その言葉を受け、ホロムゥも同じ言語で会話をする。
彼女は自身の発明品によって異界の言葉を理解し、異界の住民とコミュニケーションを取ることができる。その発明品を持たないレタは会話に参加できない。
言葉が理解できないレタは、近くの日陰に座って休むことにした。屋台の店主とホロムゥはかなり長い会話をしているようだった。
ぼんやりとしていると、屋台に置かれていた果実をいくつか買い入れたホロムゥが、レタの元へ戻ってきた。
「少し先に旅人用の宿があるそうだ。行くぞ」
「はぁい」
宿に向かうと、先程の屋台の店主と同じような姿の人型に出迎えられた。
砂漠の砂を玄関口で払い落とすと、建物の中に案内される。中はひんやりとしており、麻布のようなカーペットが敷かれていた。寝室と思しき場所にはクッションが敷き詰められていて、自由に寝転がれるようになっていた。
人型がお辞儀をして去ると、レタとホロムゥはフードとマスクを脱いだ。
レタとホロムゥの外見はぱっと見似ているが、明らかな差異がある。
ホロムゥには眉のように見える一対の複眼があり、臀部からはペタペタとした手触りの尻尾のようなものが生えていた。
レタは褐色の肌をしているものの、複眼も尻尾も無い。二人は似たような二足歩行型の姿形ではあるが、全く異なる種族であった。
「ふへへ」
ベッドではないにしろ、久しぶりに柔らかなクッションで寝られると思ったレタは、顔をほころばせる。
レタがクッションに埋もれて幸せを噛み締めていると、宿の主が顔を覗かせに来た。主の後ろには二本の角を生やした人型がいた。
「レタ、留守番を頼む」
ホロムゥは二人の人型を見ると立ち上がり、彼らと一緒に何処かへと行った。
種族こそ違うが、レタとホロムゥは共に自分のいた世界へ戻るための手段を探して旅をしている。
レタは《渦》による災害で別の世界に転移し、故郷に帰るために放浪していたところでホロムゥと出会った。放浪中に目覚めた不思議な力でホロムゥを助けたことが切っ掛けで、共に旅をするようになったのだった。
ホロムゥは様々な世界を渡り歩く学者だ。かつて実験中の事故で別の世界に飛ばされ、それ以来自分の世界に戻るために必要な物質を探して旅をしていると聞いていた。
ややあってホロムゥが戻ってくる。
「どうだった?」
「やはり町の北にある洞窟に、それらしいものがあるらしい」
「当たりかな?」
「どうかな? 数週間前に大きな岩で洞窟が塞がれたらしく、その岩のせいで町の連中も困っているらしいから……」
「行ってみないとわからないか」
「ああ。とりあえず休もう、陽が落ちたら出発だ」
宿を出て、この町の中心だという泉の近くを通る。泉の水は殆ど溜まっていない。
北の川から水が流れ込んではいるが、その量は少なく、この泉を満たせるとは到底思えない。
この僅かな水を無駄遣いしないために、住民はなるべく外に出ることを控えていたのだ。陽に当たって体力や水分を消耗するのを防ぐためだと、ホロムゥはレタに説明する。
レタとホロムゥは僅かに流れる川を辿り、北へ向かう。
暫く歩いていくと、赤い岩だらけの山が見えてきた。更に進むと、大きな岩の隙間から少しずつ水が漏れ出ている場所に辿り着いた。
町の人が岩を破砕しようと頑張った痕跡も見つかった。
「あぁー、これは確かに……」
「予想より大きいな。レタ、動かせるか?」
「んー、これくらいなら簡単かな」
そう言いながら、レタは岩の前に立つ。
「おい、岩の前に立つな。中の水量次第では流されてしまうぞ」
「あ、そっか。そうだね」
ホロムゥに言われ、岩の横に立つ。
「持ち上げる時は少しずつ持ち上げるんだ。隙間から徐々に水を逃がせ」
レタは手をかざして意識を岩に向ける。
これがレタの持つ不思議な力だった。原理は自身でもわからないが、どんな物体でも持ち上げたり引き寄せたりすることが自在にできる。
ホロムゥによれば念動力の一種だろうということだったが、レタにとっては『便利な能力』程度の認識しかない。
黒い波動のようなものがレタの手から放出されると、岩がゆっくりと動き出す。
岩が浮き上がり、隙間から押し留められていた水が勢いよく出てくる。
「そこで止めろ。ひとしきり中の水を放出したい。支えていられるか?」
「任せて」
勢いよく流れ出てきた水が、次第に静かな川のようになっていく。
「もういいかな?」
「大丈夫そうだ。その岩はどこか邪魔にならないところに放っておこう」
レタは手を動かすと、岩を平らな砂地へと置く。転がる様子が見られないことを確認して、洞窟の中へと入った。
洞窟の中は水が充満していた影響か、ひんやりと湿っていた。危険な生物も生息しておらず、難なく最奥に辿り着く。
最奥には淡い青色に輝く球体が、岩の台座に鎮座していた。珠からは止め処なく水が溢れており、この珠に不思議な力があることは一目瞭然であった。
「これが町の人が言ってたやつかな」
「そうだな」
ホロムゥは背負っていたバックパックから小さな四面体を取り出す。所々が虹色に輝くそれを珠に近づけると、淡い光が漏れ出した。
光が珠を隅々まで照らすと、四面体の輝きが赤一色に変化した。
「違うか……」
「そうなの?」
「ああ。ケイオシウム結晶と性質は似ているが、構造が全く違う」
「とすると、この水はどこから……」
「水を運ぶことに限定されているが、この結晶自体が別の世界に繋がっている可能性が高い」
珠は確かに不思議な力を持っていた。珠からは尽きることなく清らかな水が湧き出ている。
「そうなんだ。……じゃあ、これはこのままここに?」
「これが無ければあの町は滅びる。ケイオシウム結晶でない以上、そっとしておくのがいいだろう」
ホロムゥはそう言うと、四面体をバックパックにしまった。
この珠は目当てのものではなかった。再び目的のものを探すために旅立たなければならない。
「一度あの町に戻ろう」
「そうだね。水がちゃんと通ったかも気になるし」
町は復活した水の流れによって歓喜に包まれていた。
ホロムゥが町の人に、岩をどかしたことと自分達はもう旅立つことを告げる。
町の者達は感謝の意を込めて、レタ達が持てるだけの食料と水を渡した。
食料と水を手に入れたレタとホロムゥは町を去った。
二人は再び紅い砂漠を歩く。視線の先に、黒い何かが風と共に揺らめいた。
「次は見つかるかな?」
黒い何かを見つけたレタは、期待を込めた眼差しでホロムゥに問う。
「どうだろうな。だが、見つけなければ」
「そうだね」
紅い砂漠の向こうに見える黒い何か。その先に見える世界が何処なのかはわからない。
それでも、レタ達は歩みを止めない。その先に目的のものがあるかもしれない。その可能性だけを頼りに進む。
黒い何かはレタ達をゆっくりと包み込むと、風に溶けるように彼女達と共に消え去った。
「—了—」
深紅色の砂漠の先に見えるオアシスに向けて、レタは歩いていた。
砂漠には風が吹き付けており、レタはフードとマスクで砂が侵入してくるのを防いでいた。
「レタ、大丈夫か?」
レタと同じようにフードとマスクを被った女、ホロムゥがレタの方を振り返る。
心配そうなホロムゥの声色に、レタは務めて明るい声で答えた。
「ちょっとだるいけど、平気」
レタは不調であることを隠さなかった。ホロムゥは非常に鋭い勘をしている。隠してもすぐに露見してしまうことを、レタは理解していた。
「そうか。もうすぐ町だ、それまで我慢してくれ」
砂漠のオアシスにある町は静まり返っていた。丸い建築物や屋台のようなものは見えるが、人が外に出ている様子がない。
「昼間だからかな?」
レタは感じたままに言葉を発した。
前に訪れたオアシスの町は、同じような時間でも活気があった。
「それにしても、静かすぎるな」
人の気配はそこかしこにあるのに、誰一人として外を出歩いていない。
ホロムゥは周囲を見回すと、屋台のような所へと歩いていく。屋台には紫色をした果実や、白い葉を持つ野菜のようなものが並べられていた。
ホロムゥが屋台に近づくと、額から一本の角を生やした小柄な人型が姿を表した。
人型は皺くちゃの顔で怪訝そうにホロムゥを見ると、レタには理解できない言葉で話し掛けてくる。その言葉を受け、ホロムゥも同じ言語で会話をする。
彼女は自身の発明品によって異界の言葉を理解し、異界の住民とコミュニケーションを取ることができる。その発明品を持たないレタは会話に参加できない。
言葉が理解できないレタは、近くの日陰に座って休むことにした。屋台の店主とホロムゥはかなり長い会話をしているようだった。
ぼんやりとしていると、屋台に置かれていた果実をいくつか買い入れたホロムゥが、レタの元へ戻ってきた。
「少し先に旅人用の宿があるそうだ。行くぞ」
「はぁい」
宿に向かうと、先程の屋台の店主と同じような姿の人型に出迎えられた。
砂漠の砂を玄関口で払い落とすと、建物の中に案内される。中はひんやりとしており、麻布のようなカーペットが敷かれていた。寝室と思しき場所にはクッションが敷き詰められていて、自由に寝転がれるようになっていた。
人型がお辞儀をして去ると、レタとホロムゥはフードとマスクを脱いだ。
レタとホロムゥの外見はぱっと見似ているが、明らかな差異がある。
ホロムゥには眉のように見える一対の複眼があり、臀部からはペタペタとした手触りの尻尾のようなものが生えていた。
レタは褐色の肌をしているものの、複眼も尻尾も無い。二人は似たような二足歩行型の姿形ではあるが、全く異なる種族であった。
「ふへへ」
ベッドではないにしろ、久しぶりに柔らかなクッションで寝られると思ったレタは、顔をほころばせる。
レタがクッションに埋もれて幸せを噛み締めていると、宿の主が顔を覗かせに来た。主の後ろには二本の角を生やした人型がいた。
「レタ、留守番を頼む」
ホロムゥは二人の人型を見ると立ち上がり、彼らと一緒に何処かへと行った。
種族こそ違うが、レタとホロムゥは共に自分のいた世界へ戻るための手段を探して旅をしている。
レタは《渦》による災害で別の世界に転移し、故郷に帰るために放浪していたところでホロムゥと出会った。放浪中に目覚めた不思議な力でホロムゥを助けたことが切っ掛けで、共に旅をするようになったのだった。
ホロムゥは様々な世界を渡り歩く学者だ。かつて実験中の事故で別の世界に飛ばされ、それ以来自分の世界に戻るために必要な物質を探して旅をしていると聞いていた。
ややあってホロムゥが戻ってくる。
「どうだった?」
「やはり町の北にある洞窟に、それらしいものがあるらしい」
「当たりかな?」
「どうかな? 数週間前に大きな岩で洞窟が塞がれたらしく、その岩のせいで町の連中も困っているらしいから……」
「行ってみないとわからないか」
「ああ。とりあえず休もう、陽が落ちたら出発だ」
宿を出て、この町の中心だという泉の近くを通る。泉の水は殆ど溜まっていない。
北の川から水が流れ込んではいるが、その量は少なく、この泉を満たせるとは到底思えない。
この僅かな水を無駄遣いしないために、住民はなるべく外に出ることを控えていたのだ。陽に当たって体力や水分を消耗するのを防ぐためだと、ホロムゥはレタに説明する。
レタとホロムゥは僅かに流れる川を辿り、北へ向かう。
暫く歩いていくと、赤い岩だらけの山が見えてきた。更に進むと、大きな岩の隙間から少しずつ水が漏れ出ている場所に辿り着いた。
町の人が岩を破砕しようと頑張った痕跡も見つかった。
「あぁー、これは確かに……」
「予想より大きいな。レタ、動かせるか?」
「んー、これくらいなら簡単かな」
そう言いながら、レタは岩の前に立つ。
「おい、岩の前に立つな。中の水量次第では流されてしまうぞ」
「あ、そっか。そうだね」
ホロムゥに言われ、岩の横に立つ。
「持ち上げる時は少しずつ持ち上げるんだ。隙間から徐々に水を逃がせ」
レタは手をかざして意識を岩に向ける。
これがレタの持つ不思議な力だった。原理は自身でもわからないが、どんな物体でも持ち上げたり引き寄せたりすることが自在にできる。
ホロムゥによれば念動力の一種だろうということだったが、レタにとっては『便利な能力』程度の認識しかない。
黒い波動のようなものがレタの手から放出されると、岩がゆっくりと動き出す。
岩が浮き上がり、隙間から押し留められていた水が勢いよく出てくる。
「そこで止めろ。ひとしきり中の水を放出したい。支えていられるか?」
「任せて」
勢いよく流れ出てきた水が、次第に静かな川のようになっていく。
「もういいかな?」
「大丈夫そうだ。その岩はどこか邪魔にならないところに放っておこう」
レタは手を動かすと、岩を平らな砂地へと置く。転がる様子が見られないことを確認して、洞窟の中へと入った。
洞窟の中は水が充満していた影響か、ひんやりと湿っていた。危険な生物も生息しておらず、難なく最奥に辿り着く。
最奥には淡い青色に輝く球体が、岩の台座に鎮座していた。珠からは止め処なく水が溢れており、この珠に不思議な力があることは一目瞭然であった。
「これが町の人が言ってたやつかな」
「そうだな」
ホロムゥは背負っていたバックパックから小さな四面体を取り出す。所々が虹色に輝くそれを珠に近づけると、淡い光が漏れ出した。
光が珠を隅々まで照らすと、四面体の輝きが赤一色に変化した。
「違うか……」
「そうなの?」
「ああ。ケイオシウム結晶と性質は似ているが、構造が全く違う」
「とすると、この水はどこから……」
「水を運ぶことに限定されているが、この結晶自体が別の世界に繋がっている可能性が高い」
珠は確かに不思議な力を持っていた。珠からは尽きることなく清らかな水が湧き出ている。
「そうなんだ。……じゃあ、これはこのままここに?」
「これが無ければあの町は滅びる。ケイオシウム結晶でない以上、そっとしておくのがいいだろう」
ホロムゥはそう言うと、四面体をバックパックにしまった。
この珠は目当てのものではなかった。再び目的のものを探すために旅立たなければならない。
「一度あの町に戻ろう」
「そうだね。水がちゃんと通ったかも気になるし」
町は復活した水の流れによって歓喜に包まれていた。
ホロムゥが町の人に、岩をどかしたことと自分達はもう旅立つことを告げる。
町の者達は感謝の意を込めて、レタ達が持てるだけの食料と水を渡した。
食料と水を手に入れたレタとホロムゥは町を去った。
二人は再び紅い砂漠を歩く。視線の先に、黒い何かが風と共に揺らめいた。
「次は見つかるかな?」
黒い何かを見つけたレタは、期待を込めた眼差しでホロムゥに問う。
「どうだろうな。だが、見つけなければ」
「そうだね」
紅い砂漠の向こうに見える黒い何か。その先に見える世界が何処なのかはわからない。
それでも、レタ達は歩みを止めない。その先に目的のものがあるかもしれない。その可能性だけを頼りに進む。
黒い何かはレタ達をゆっくりと包み込むと、風に溶けるように彼女達と共に消え去った。
「—了—」