在昏暗的講堂中被聚光燈照亮的講台上,有一位少年站在上面。
「接下來將由本年度的監督生,向各位問候」
從講台上方傳來主持人的廣播之後,少年就向著講台上設置好的麥克風開始說話。
「我是本年度的監督生,凱倫貝克。請各位多多指教」
深深地敬了一個禮之後,凱倫貝克邊環視著講堂邊做例行的問候。
接著在最後,表明了做為一位監督生的行動目標。
「我們做為背負這個世界的人,有義務要將世界導向正確的方向。我在此宣誓本年度,將做為其模範並且盡最大的努力」
問候就在盛大的拍手聲中結束了。
在那之後,進入特別講師的演講會,然後平安無事的結束了典禮。
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『大善世界的實現』。
抱有此教育理念的露比娜絲學園,是在羅占布爾克的山岳地帶擁有廣大土地的,完全住宿制學園。
在這個學園生活的是從七歲到十八歲的男女數百人。
從古朗德利尼亞帝國各地來的學生入學後,所有學生的雙親,都或多或少有捐款給學園。
凱倫貝克的雙親不但是經營了好幾間醫療設施的經營者,也是羅占布爾克屈指可數的資產家。
當然,凱倫貝克也因此受到其恩惠,在學園內的地位很高。
對從小就在這個學舍學習的凱倫貝克來說,自己與自己之後的畢業生們,正是可以改變世界的重要人才。
然後也認為帶領他們就是自己的任務,一舉一動都要盡可能地成為在學園中生活的學生們的榜樣。這是被選為監督生必須做到的。
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「辛苦您了,非常棒的問候。請問要喝些什麼嗎」
「不,沒關係。謝謝妳碧姬媞」
在講堂的典禮結束後,一位少女來到了在舞台後方休息中的凱倫貝克身旁。
那位少女是凱倫貝克的戀人碧姬媞。雖然擁有華美的容貌,但是因她的貼心跟清秀的氣質,讓人不會有華麗的印象。
兩人的交往可以追溯到他們幼年時期。兩家之間有來往,在那個過程中加深了交流。兩人在學園中也是大家注目的焦點,是眾人皆知的理想情侶。
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「凱倫貝克大人,您的父親送了一樣禮物來了」
某日,宿舍的傭人拿著包裝美麗的大箱子,來到了凱倫貝克的房間。
「謝謝,拿到裡面去吧」
「遵命」
傭人向凱倫貝克深深地行了禮之後,將大箱子輕輕地放在地毯上。
看到傭人離開後,凱倫貝克伸手拿起被包裝好的箱子。
雖然箱子很大,但是拿起來卻沒有看起來的那麼重。
包裝過的箱子上找到了一張卡片。
卡片上是凱倫貝克父親的筆跡,慎重地寫了一行字。
『給我最愛的兒子 在這個你誕生的日子感謝與祝福你那更大的力量。 父上』
「更大的力量……?這是什麼意思呢」
雖然因讀不出這一行文字的意圖而歪頭思考,凱倫貝克還是將紅色絲綢緞帶解開,然後慎重的拆開包裝。
打開包裝之後,出現了被包在緩衝材中的本體。凱倫貝克被如此誇張的包裝苦笑了一下。
「終於完成了嗎……」
從箱子中出來的東西是,使用典雅的咖啡色尼斯塗裝過,擁有光澤琴身的一把小提琴。
拿在手上的觸感,比現在使用的小提琴要來的重及厚實。
這把琴是立志要走上這條路的時候,向有交情的小提琴工匠特別訂製的。
這也是父親希望能夠送上最棒的小提琴當做今年生日的祝賀。凱倫貝克也為了做出與自己合適的小提琴,利用學業的空檔頻繁地來往工房。
這樣完成出來的,世上獨一無二的逸品。就是這把小提琴了。
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「凱倫貝克大人?叫我來有什麼事嗎?」
凱倫貝克把碧姬媞從宿舍中叫出來,把從父親那裡收到的小提琴給碧姬媞看。
「突然把妳叫出來真抱歉。我從父親那邊收到了禮物。我希望妳能夠第一位聽到這把琴的音色。會造成妳的困擾嗎?」
「怎麼會呢。但是,第一個聽到這把小提琴的演奏是我,真的可以嗎?」
「就是因為是妳啊。來,坐在那裡」
碧姬媞坐到音樂堂裡備有的椅子上後,凱倫貝克就將小提琴搭在肩上,舉起提琴弓。
凱倫貝克感覺到,這把小提琴簡直就像是一開始就是自己的東西似地。
對,遠比至今愛用的那把琴,要來的更加熟悉上手。
因為事前工匠已經調整過的關係,所以自己調整的時候沒有花什麼時間。
進行調音,輕輕地彈幾下弦確認過音色的感觸後,演奏起比較不困難的練習曲。溫和又有力的音色在音樂堂中響起。
瞄了一眼碧姬媞,她看起來已經陶醉在那個音色裡。
因此心情大好的凱倫貝克,演奏完練習曲之後就開始演奏起正式的曲子。是舊時代所作的名曲,是一首不只上流階級,就連一般大眾也很熟悉的曲子。
由於這首曲子已經演奏過很多次的關係,所以使用了包含高潮迭起的強弱與些許的變奏交織,等多樣的技巧演奏著。
但是在曲子演奏到最高潮接近尾聲的時候,發現碧姬媞的臉色越來越不好了。
「碧姬媞?怎麼了?」
「不,不要緊……請繼續……」
碧姬媞看起來很痛苦的壓著胸口。
凱倫貝克發現不太尋常,中斷演奏跑到碧姬媞的身邊。
「唔……咕,嗚嗚嗚……!!」
碧姬媞的臉色發青,嘴唇好像發生發紺現象似地變成了紫色。
凱倫貝克扶著讓她躺下,將自己的外套脫下墊在她的頭下方。然後握著她的手。
「我馬上叫人過來。在這邊等一下」
將手放下之後正要往外面時,音樂堂的門突然發出聲音打開了。
同時,聽到了慢慢拍手的節奏。
「父親大人!?」
「恭喜你!非常棒的力量。不愧是我的兒子,凱倫貝克」
面對驚愕的凱倫貝克,父親誇張地揮著手邊很高興地笑著說道。
通往休息室的門不知道什麼時候,已經被黑衣男子們擋住。
「碧姬媞昏倒了。要趕緊送往醫護室--」
「你什麼都不用擔心。因為那是見識到你力量的結果,也是證據」
「不是說那種話的時候吧!不快點請醫生診斷的話!」
一個人,而且是有交情的人家獨生女倒下了,父親那輕率又做作的樣子,讓凱倫貝克忍不住焦躁起來。
「那種事不重要,凱倫貝克。你現在,就在這個瞬間,做為一個超人類覺醒了啊!」
這樣下去無法解決問題。凱倫貝克這麼認為後,就扶著碧姬媞打算離開音樂堂。
「Happy Birthday!凱倫貝克。我們歡迎你成為我們組織的一員」
「你,你們在說什麼啊,父親大人!碧姬媞很痛苦!求求您,讓我們過去!」
黑衣男子們阻檔著,要從音樂堂出去的凱倫貝克他們。
「恭喜您,凱倫貝克大人」
「我們一直在等待這一天的到來,凱倫貝克大人」
「這是非常棒的事哦,凱倫貝克大人」
「這樣組織的未來也就安泰了」
「碧姬媞小姐有一天也會覺醒的哦,凱倫貝克大人」
「您什麼事都不用擔心,您現在只要和我們一起祝賀就好」
黑衣男子們一個個說著祝賀的話語。每一個人都露出無法形容,陶醉的笑容。
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「─完─」
3257年 「箱」
薄暗い講堂のスポットライトが当てられた壇上に、一人の少年が佇んでいる。
「これより、本年の監督生からの挨拶があります」
壇上の上手から司会者によるアナウンスが入った後、少年は壇上に設置されたマイクに向かって声を出した。
「本年の監督生、カレンベルクです。よろしくお願い致します」
深く一礼をすると、カレンベルクは講堂全体を見回しながら定型の挨拶を行う。
そして最後に、監督生としての行動目標について語った。
「僕達は世界を背負って立つ者として、正しい方向に世界を導く義務があります。僕は本年、その模範となるべく努力する事を誓います」
挨拶は盛大な拍手をもって終了した。
その後、特別講師の講演会などが入り、恙無く式典は終わりを告げた。
——大善世界の実現——
この教育理念を持つルピナス・スクールは、ローゼンブルグの山岳地帯に広大な敷地を持つ、全寮制の学園だ。
この学園で生活をするのは七歳から十八歳の男女数百人。
グランデレニア帝國各地から生徒が入学し、その全員の両親が、学園に対して大なり小なり寄付を行っている。
カレンベルクの両親はいくつもの医療施設を経営する経営者であり、ローゼンブルグでも指折りの資産家であった。
当然、カレンベルクもその恩恵を受けており、学内での地位も高い。
幼い頃よりこの学び舎で学ぶカレンベルクにとって、自分と自分に続く卒業生達こそが、世界を変える重要な人材であると認識している。
そしてそれを牽引するのが自分の役目であるとし、学園で生活する生徒達の模範となるべく振舞っている。監督生に選ばれたことも必然であるといえた。
「お疲れ様です、素晴らしい挨拶でした。 何かお飲みになりますか」
「いや、大丈夫だ。 ありがとうビアギッテ」
講堂での式典が終わり、舞台袖で休憩していたカレンベルクに一人の少女が近付いてきた。
カレンベルクの恋人であるビアギッテだった。華やかな容姿であるが、よく気が付く性格と清楚な雰囲気により、派手な印象は受けない。
二人の付き合いは幼少の頃まで遡ることができる。両者の家庭に行き来があり、その過程で親交を深めていったのだった。二人は学園内でも多くの耳目を集める、理想の恋人同士として知られていた。
「カレンベルク様、お父様からの贈り物をお届けに上がりました」
ある日、寄宿舎の使用人が綺麗にラッピングを施された大きな箱を手にして、カレンベルクの部屋を訪れた。
「ありがとう、中に運んでくれ」
「かしこまりました」
使用人はカレンベルクに恭しく一礼すると、大きな箱をそっとカーペットの上に置いた。
使用人が立ち去るのを確認し、カレンベルクはラッピングされた箱を手に取った。
かなりの大きさがあったが、持った瞬間の重さは見た目程はないようだった。
ラッピングされた箱の上部に一枚のメッセージカードを見つける。
メッセージカードには、カレンベルクの父親の筆跡で、丁寧に一文が添えられていた。
『最愛なる我が息子へ お前が生を受けた日と更なる力に感謝と祝福を。 父より』
「更なる力……? どういうことだろう」
意図が読み取れない一文に首を傾げつつも、カレンベルクはシルクの赤いリボンを解き、包装を丁寧に剥がしていく。
包装を解いて箱を開けると、中から緩衝材に包まれた本体が姿を現した。これでもかというほどの梱包に、カレンベルクは苦笑した。
「やっと完成したんだな……」
箱の中から出てきたものは、渋い茶色系のニスでコーティングされた艶の少ないボディを持つ、一本のバイオリンだった。
手にした感触は、現在使用しているバイオリンよりも少し重厚である。
バイオリンの道を志した頃より懇意にしているバイオリン職人が、特別に誂えたものだ。
今年の誕生日祝いに最高のバイオリンを贈りたいと願った父親からのプレゼントであった。カレンベルクも自分に合うバイオリンを作るべく、学業の合間を縫って足繁く工房に通っていた。
そうやって完成した、世界に二つとない逸品。それがこのバイオリンだった。
「カレンベルク様? どうかなさったの?」
寄宿舎の音楽堂にビアギッテを呼び出したカレンベルクは、父親から送られてきたバイオリンをビアギッテに見せた。
「急に呼び出してすまない。 父からプレゼントが届いてね。一番にこれの音色を君に聞かせたくて。迷惑だったかい?」
「とんでもないですわ。 でも、最初にこのバイオリンの演奏を聞くのが私で、いいのかしら?」
「君だからこそだよ。さあ、そこに掛けて」
ビアギッテを音楽堂に備え付けられた椅子に促すと、カレンベルクはバイオリンを肩に当て、弓を構えた。
まるでこのバイオリンが最初から自分のものであったかのように、カレンベルクには感じられた。
そう、このバイオリンは今まで愛用していたものよりも遥かによく馴染んだのだ。
事前に職人による調整があったようで、自身での調整にはさほど時間は掛からなかった。
チューニングを行い、軽く弦を弾いて音色の感触を確かめてから、比較的難しくないエチュードを奏でる。柔らかく、かつ力強い音色が音楽堂に響いた。
ちらりとビアギッテを見やると、その音色にうっとりと聞き入っているように見えた。
それに気を良くしたカレンベルクは、エチュードを弾き終えて本格的な演奏に移る。旧時代に作曲された名曲で、上流階級だけでなく、一般大衆にも馴染み深い曲だ。
何度となく弾いているので、盛り上がりの強弱や多少のアレンジなども織り交ぜて、様々な奏法で演奏する。
だが、曲が最も盛り上がりを見せる終盤に差し掛かった頃、ビアギッテの顔色がだんだんと悪くなっていくことに気が付いた。
「ビアギッテ? どうした!」
「だ、大丈夫、です……どうぞお続けになって……」
ビアギッテは苦しそうに胸元を押さえていた。
只事ではない様子に、演奏を中断してビアギッテに駆け寄る。
「う……ぐ、ううう……!!」
ビアギッテの顔色は青ざめ、唇はチアノーゼを起こしているかのように紫色になっていた。
カレンベルクは彼女を横たえ、脱いだ自分のジャケットを彼女の頭の下に敷いた。そして彼女の手を握った。
「すぐに人を呼んでくる。 少しだけ待っていて」
握っていた手を離して外へ向かおうとすると、突然音楽堂の扉が音を立てて開いた。
同時に、ゆったりとした拍手のリズムが聞こえてくる。
「お父様!?」
「おめでとう! 素晴らしい力だ。さすがだな、カレンベルク。 我が息子よ」
驚愕するカレンベルクに、父親は大仰な手振りで嬉しそうに笑いながらそう言い放った。
楽屋に通じる扉には、いつの間にか黒服の男達が現れて扉を塞いでいる。
「ビアギッテが倒れたんです。 早く医務室に——」
「何も心配することはないぞ。 それはお前の力が見せた結果であり、証なのだからな」
「そんなことを言っている場合ではないでしょう! 早く医者に診せないと!」
人が一人、しかも懇意にしている家の一人娘が倒れているというのに、無闇に芝居がかった父親のその調子に、カレンベルクは苛立ちを抑えきれない。
「そんなことはどうでもいいのだ、カレンベルク。 お前は今、この瞬間、超人として覚醒したのだ!」
このままでは埒が明かない。そう感じ取ったカレンベルクは、ビアギッテを抱きかかえて音楽堂から出て行こうとする。
「ハッピーバースディ! カレンベルク。お前を我が組織の一員として歓迎しよう」
「何を、何を仰っているんですか、お父様! ビアギッテが苦しんでいるんです! お願いです、そこを退いてください!」
音楽堂を出て行こうとするが、黒服の男達がカレンベルクの行く手を阻む。
「おめでとうございます、カレンベルク様」
「我々はこの日を待ち望んでいたのです、カレンベルク様」
「素晴らしいことなのですよ、カレンベルク様」
「これで組織の未来も安泰ですな」
「ビアギッテ様もいずれは覚醒なさいますよ、カレンベルク様」
「何も心配することはないのです、ただ祝いましょう」
口々に祝いの言葉を発する黒服達。それぞれが皆、形容しがたい陶酔したような笑みを浮かべていた。
「—了—」
薄暗い講堂のスポットライトが当てられた壇上に、一人の少年が佇んでいる。
「これより、本年の監督生からの挨拶があります」
壇上の上手から司会者によるアナウンスが入った後、少年は壇上に設置されたマイクに向かって声を出した。
「本年の監督生、カレンベルクです。よろしくお願い致します」
深く一礼をすると、カレンベルクは講堂全体を見回しながら定型の挨拶を行う。
そして最後に、監督生としての行動目標について語った。
「僕達は世界を背負って立つ者として、正しい方向に世界を導く義務があります。僕は本年、その模範となるべく努力する事を誓います」
挨拶は盛大な拍手をもって終了した。
その後、特別講師の講演会などが入り、恙無く式典は終わりを告げた。
——大善世界の実現——
この教育理念を持つルピナス・スクールは、ローゼンブルグの山岳地帯に広大な敷地を持つ、全寮制の学園だ。
この学園で生活をするのは七歳から十八歳の男女数百人。
グランデレニア帝國各地から生徒が入学し、その全員の両親が、学園に対して大なり小なり寄付を行っている。
カレンベルクの両親はいくつもの医療施設を経営する経営者であり、ローゼンブルグでも指折りの資産家であった。
当然、カレンベルクもその恩恵を受けており、学内での地位も高い。
幼い頃よりこの学び舎で学ぶカレンベルクにとって、自分と自分に続く卒業生達こそが、世界を変える重要な人材であると認識している。
そしてそれを牽引するのが自分の役目であるとし、学園で生活する生徒達の模範となるべく振舞っている。監督生に選ばれたことも必然であるといえた。
「お疲れ様です、素晴らしい挨拶でした。 何かお飲みになりますか」
「いや、大丈夫だ。 ありがとうビアギッテ」
講堂での式典が終わり、舞台袖で休憩していたカレンベルクに一人の少女が近付いてきた。
カレンベルクの恋人であるビアギッテだった。華やかな容姿であるが、よく気が付く性格と清楚な雰囲気により、派手な印象は受けない。
二人の付き合いは幼少の頃まで遡ることができる。両者の家庭に行き来があり、その過程で親交を深めていったのだった。二人は学園内でも多くの耳目を集める、理想の恋人同士として知られていた。
「カレンベルク様、お父様からの贈り物をお届けに上がりました」
ある日、寄宿舎の使用人が綺麗にラッピングを施された大きな箱を手にして、カレンベルクの部屋を訪れた。
「ありがとう、中に運んでくれ」
「かしこまりました」
使用人はカレンベルクに恭しく一礼すると、大きな箱をそっとカーペットの上に置いた。
使用人が立ち去るのを確認し、カレンベルクはラッピングされた箱を手に取った。
かなりの大きさがあったが、持った瞬間の重さは見た目程はないようだった。
ラッピングされた箱の上部に一枚のメッセージカードを見つける。
メッセージカードには、カレンベルクの父親の筆跡で、丁寧に一文が添えられていた。
『最愛なる我が息子へ お前が生を受けた日と更なる力に感謝と祝福を。 父より』
「更なる力……? どういうことだろう」
意図が読み取れない一文に首を傾げつつも、カレンベルクはシルクの赤いリボンを解き、包装を丁寧に剥がしていく。
包装を解いて箱を開けると、中から緩衝材に包まれた本体が姿を現した。これでもかというほどの梱包に、カレンベルクは苦笑した。
「やっと完成したんだな……」
箱の中から出てきたものは、渋い茶色系のニスでコーティングされた艶の少ないボディを持つ、一本のバイオリンだった。
手にした感触は、現在使用しているバイオリンよりも少し重厚である。
バイオリンの道を志した頃より懇意にしているバイオリン職人が、特別に誂えたものだ。
今年の誕生日祝いに最高のバイオリンを贈りたいと願った父親からのプレゼントであった。カレンベルクも自分に合うバイオリンを作るべく、学業の合間を縫って足繁く工房に通っていた。
そうやって完成した、世界に二つとない逸品。それがこのバイオリンだった。
「カレンベルク様? どうかなさったの?」
寄宿舎の音楽堂にビアギッテを呼び出したカレンベルクは、父親から送られてきたバイオリンをビアギッテに見せた。
「急に呼び出してすまない。 父からプレゼントが届いてね。一番にこれの音色を君に聞かせたくて。迷惑だったかい?」
「とんでもないですわ。 でも、最初にこのバイオリンの演奏を聞くのが私で、いいのかしら?」
「君だからこそだよ。さあ、そこに掛けて」
ビアギッテを音楽堂に備え付けられた椅子に促すと、カレンベルクはバイオリンを肩に当て、弓を構えた。
まるでこのバイオリンが最初から自分のものであったかのように、カレンベルクには感じられた。
そう、このバイオリンは今まで愛用していたものよりも遥かによく馴染んだのだ。
事前に職人による調整があったようで、自身での調整にはさほど時間は掛からなかった。
チューニングを行い、軽く弦を弾いて音色の感触を確かめてから、比較的難しくないエチュードを奏でる。柔らかく、かつ力強い音色が音楽堂に響いた。
ちらりとビアギッテを見やると、その音色にうっとりと聞き入っているように見えた。
それに気を良くしたカレンベルクは、エチュードを弾き終えて本格的な演奏に移る。旧時代に作曲された名曲で、上流階級だけでなく、一般大衆にも馴染み深い曲だ。
何度となく弾いているので、盛り上がりの強弱や多少のアレンジなども織り交ぜて、様々な奏法で演奏する。
だが、曲が最も盛り上がりを見せる終盤に差し掛かった頃、ビアギッテの顔色がだんだんと悪くなっていくことに気が付いた。
「ビアギッテ? どうした!」
「だ、大丈夫、です……どうぞお続けになって……」
ビアギッテは苦しそうに胸元を押さえていた。
只事ではない様子に、演奏を中断してビアギッテに駆け寄る。
「う……ぐ、ううう……!!」
ビアギッテの顔色は青ざめ、唇はチアノーゼを起こしているかのように紫色になっていた。
カレンベルクは彼女を横たえ、脱いだ自分のジャケットを彼女の頭の下に敷いた。そして彼女の手を握った。
「すぐに人を呼んでくる。 少しだけ待っていて」
握っていた手を離して外へ向かおうとすると、突然音楽堂の扉が音を立てて開いた。
同時に、ゆったりとした拍手のリズムが聞こえてくる。
「お父様!?」
「おめでとう! 素晴らしい力だ。さすがだな、カレンベルク。 我が息子よ」
驚愕するカレンベルクに、父親は大仰な手振りで嬉しそうに笑いながらそう言い放った。
楽屋に通じる扉には、いつの間にか黒服の男達が現れて扉を塞いでいる。
「ビアギッテが倒れたんです。 早く医務室に——」
「何も心配することはないぞ。 それはお前の力が見せた結果であり、証なのだからな」
「そんなことを言っている場合ではないでしょう! 早く医者に診せないと!」
人が一人、しかも懇意にしている家の一人娘が倒れているというのに、無闇に芝居がかった父親のその調子に、カレンベルクは苛立ちを抑えきれない。
「そんなことはどうでもいいのだ、カレンベルク。 お前は今、この瞬間、超人として覚醒したのだ!」
このままでは埒が明かない。そう感じ取ったカレンベルクは、ビアギッテを抱きかかえて音楽堂から出て行こうとする。
「ハッピーバースディ! カレンベルク。お前を我が組織の一員として歓迎しよう」
「何を、何を仰っているんですか、お父様! ビアギッテが苦しんでいるんです! お願いです、そこを退いてください!」
音楽堂を出て行こうとするが、黒服の男達がカレンベルクの行く手を阻む。
「おめでとうございます、カレンベルク様」
「我々はこの日を待ち望んでいたのです、カレンベルク様」
「素晴らしいことなのですよ、カレンベルク様」
「これで組織の未来も安泰ですな」
「ビアギッテ様もいずれは覚醒なさいますよ、カレンベルク様」
「何も心配することはないのです、ただ祝いましょう」
口々に祝いの言葉を発する黒服達。それぞれが皆、形容しがたい陶酔したような笑みを浮かべていた。
「—了—」