雨果快步地走在人潮洶湧的市場裡。
為了在來往的人群中,物色可以下手的對象。
在其他同業搶先下手之前,迅速、確實地鎖定目標之後馬上行動。
刻意地碰撞、或是假裝問路。
然後將值錢的物品偷走。
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「嘿嘿……」
雨果走出市場移動到沒什麼人的地方。在那裡確認得手的戰利品後,露出了滿意的微笑。
這些應該夠兩、三天的玩樂開銷了吧。雨果一邊這樣想著,一邊往娛樂場所方向走去。
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「呦,今天滿厲害的嘛」
「今天從早上就都很順利。羨慕吧?」
雨果在熟識的賭場裡得意地說著。早上在市場遇到肥羊、剛才在俱樂部裡搭訕美女、然後現在在賭博贏了不少錢的事。
不管哪一個,在一般人的眼裡都不是值得驕傲的事。但是,會來這個賭場的人都有黑暗的背景。所以這些事情都可以拿來自豪,並拿來當話題聊。
「畢竟,你前陣子都不太順利嘛」
「對啊對啊,不知道什麼時候又會不順,所以我要趁現在好好享受」
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雨果是生活在羅占布爾克下層的市民。在下層生活的他,只重視當下的快樂。
雨果的雙親在他幼年時期經營著公司,過著還算可以的生活。但是自從父母的公司經營失敗負債起,變落敗到了下層。
喊著要再次成功,重回以前生活的父母也在雨果十歲左右時,因為負債失蹤了。
即使現在看起來平順,但在下一個瞬間不曉得會發生什麼事。雨果因為經歷過這些,所以只要現在這瞬間好就好了,之後的事想再多也沒有用。這想法成為了雨果的信念。
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「你最近這麼順的話,要不要來幫我們?有不錯的差哦」
塔斯卡是賭場的老面孔,一臉不懷好意地笑著說道。
雨果知道這個男人露出這種笑容時,就是有賺大錢的管道了。
以前雨果曾經與塔斯卡合作,好幾次都有大筆收入。雖然也有失手過,但都只是被抓去關一下而已。
「可以輕鬆拿到大錢的話當然好啊」
「這次對象是銀行,成功的話我們就賺翻了」
「好啊,算我一個」
雨果都還沒有聽詳細內容就馬上答應了。剛好他覺得最近扒市場那些小有錢的人很無聊。每次跟塔斯卡合作,都可以遇到些刺激的場面。不只雨果,在這裡的所有人都對犯罪毫不猶豫。
反正就算被抓,也只是去蹲幾年牢而已,每次被抓後放出來也算多一份經歷。
老實說,只要不被判死刑就無所謂。雨果以及其他人只考慮這些而已。
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在塔斯卡的主導下早已聚集了一些有能力的無賴們。
雨果加入他們的時候,已經只差實際實行計畫而已了,所有的槍械及小槍等武器、面罩等道具類都已經準備好了。
在塔斯卡視線前方的是一台黑色車子。雖然外表看起來破破爛爛的,但是這裡是下層,只要能動就是上等車了。
「三天後,在這條單行道會有銀行的運鈔車經過。我們要用這輛車來堵住那輛車」
畢格斯比銀行在下層裡是比較寬裕的人在用的銀行,連與金融機構無緣的雨果都知道那家銀行。
這種銀行的運鈔車,隨便想也知道一定裝了不少的錢。
「知道了。我要待在哪兒?」
雨果邊用熟練的動作檢查他們給的小槍邊問道。
「你跟班薩姆、拉特、阿爾夫一起在這個地點埋伏,我跟剩下的傢伙去阻擋運鈔車。車子一停下就是暗號,你們就從背後偷襲」
塔斯卡一邊指著地圖一邊下達指示,所有人都集中注意在聽,點點頭。
「了解」
「知道了」
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三天後的早晨,一般人都還在沉睡的時間,雨果與同夥的班薩姆他們一起埋伏在指定的地點。
有台連在羅占布爾克都很少見的大型車輛通過他們的眼前。
沒多久就聽到剎車的聲音,負責觀察車輛狀況的拉特揮手要他們衝進去。
拉特與班薩姆衝進去後,雨果也跟著一起去襲擊運鈔車。
事情很順利,他們打昏司機並將他綁起來,然後將運鈔車裡面的貨物移到塔斯卡的車上。然後雨果就那樣搭上塔斯卡的車,立刻離開現場。
接下來就是繞路回到據點而已了。
雨果跟塔斯卡他們在車內大笑著,這下暫時就不愁吃穿了,車內洋溢著那樣的氣氛。
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但是就在回到據點的瞬間,剛才為止的心情都被打碎了。
「塔斯卡,抱歉。失手了……」
先回到據點的班薩姆他們被警察壓制住。不知道計畫是怎樣暴露的誰都不知道。
雖然雨果他們在看到這個情況後也試著抵抗,但還是被後面趕來支援的警察給抓住,所有人都被當場逮捕。
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在審訊室裡,熟識的警官一臉疲憊及傻眼的表情看著雨果。
「怎麼又是你。還想說你最近比較安分」
「怎樣啦,要不是有誰去告密我們才不會被抓勒」
「你到底知不知道自己闖了多大的禍!」
警官怒吼,叫做華茲的這位警官,是從雨果第一次犯罪之後一直有某種緣份的警官。
這位警官同情雨果的境遇,好幾次都勸他改邪歸正,好幾次關照過雨果。
雨果隊警官的態度感到訝異。
「華茲警官,我知道你的心情……」
在旁邊的年輕警官安撫華茲。
「我做了什麼?你們警察不是最清楚了嗎?」
「為什麼要做這種事?你的雙親又給你新的負債了嗎?」
「沒有啊。只是塔斯卡說了有趣的事,就跟他們一起幹了而已」
雨果說完後,華茲似乎一臉鬆了一口氣的樣子。
「你……他們什麼都沒跟你說嗎?」
「什麼東西?」
「沒什麼,我知道了……我現在沒有事要問你了」
華茲看起來甩去一臉疲憊重新振作起來,然後雨果就被兩位年輕警官帶走,關進狹小的牢房。
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在那之後匆忙地過了好幾天。詳細的審訊結束後,對方馬上針對這次的事件告上法庭。
然後雨果從法官那兒聽到驚人的事實。
──那台並不是什麼畢格斯比銀行的現金運鈔車,而是完全不相干的保全公司運送貴重物品的車。
──然後塔斯卡知道事實,但還是騙雨果他們一起搶下運送中的物品。
──運送中的物品因為有很多類似警衛的人員,多虧那些警衛才能迅速以現行犯抓到雨果他們。
華茲難得會那麼大聲怒吼,也是因為這樣。
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雨果的判決已下,接下來就是等著送入監獄而已。
雨果不清楚塔斯卡的判決結果,就連塔斯卡到底是為什麼要欺騙他們,也都無法得知了。
雨果被關在牢房看著天花板,心想著,暫時不能跟漂亮小姐玩,也不能去賭場了,真無聊。但是既然被捕了,就只能面對現實了。
「雨果,出來」
是華茲,但是他叫雨果的方式不是要被送去監獄時該有的方式。
「什麼?發生什麼事了?」
「快點出來,有人來見你」
雖然想對華茲抱怨個幾句,但是他的態度很奇怪,雨果只好乖乖順從。
邊心想著應該沒有認識會來探視他的人,邊被兩位警官夾在中間帶到會面室。
進入會面室之前,華茲看向雨果。
「雨果,接下來你要見的是很偉大的人,千萬不要有失禮的舉動」
「啊?知道了,我會小心」
不曉得華茲為什麼會那麼說。
偉大的人要找自己做什麼也不知道,該不會是塔斯卡把罪都推到自己身上了。
雨果邊做好最壞的覺悟,邊進會面室。
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雨果一進去,就看到一位陌生的男子坐在會面室的對面。
「你就是最後一人了嗎?華茲先生,沒錯吧?」
「是的,索克先生」
這個被稱為索克的男子,就像是在評鑑物品一樣上下打量著雨果。
|
「─完─」
3374年 「下層市民」
人波で溢れかえる市場の道を、ヒューゴは早足に歩く。
擦れ違う人の中から隙の多い人物を物色するためだ。
狙いを定めたらすぐに行動に移す。同業者に獲物を奪われる前に、素早く、確実に。
ぶつかったフリをして、ちょっと道を尋ねるフリをして。
そうやって金目の物を奪っていく。
「へへっ……」
市場を出たヒューゴは人気のない場所に移動する。そこで戦利品が確かに自分の手にあることを確認すると、にんまりと笑った。
これで二、三日の遊び金には困らないだろう。そんなことを思いながら、ヒューゴは歓楽街の方へと足を向けた。
「お、今日は冴えてるじゃねえか」
「今日は朝から調子がイイんだよ。 羨ましいだろ?」
馴染みの賭場でヒューゴは得意げに語る。朝の市場にカモがいたことや、さっきまで遊んでいたクラブで美女へのナンパが成功したこと。そしていま現在、賭博でかなり儲かっていること。
一般的に暮らしている人間から見れば、どれも自慢できるようなことではない。だが、この賭場に集う者達は皆どこか後ろ暗いことがある。となれば、このような話さえも自慢の種、会話の種として機能する。
「ま、ここしばらく不調だったもんな」
「そーそー、またいつ調子悪くなるかわかんねーからな。今のうちに楽しんでおかねえと」
ヒューゴはローゼンブルグの下層に暮らす市民だ。そんな場所に暮らす彼の生活は、とても刹那的だった。
幼い頃は中流階層で会社を経営する親と共にそれなりの暮らしをしていた。しかし両親が会社経営に失敗して負債を抱えてからは、下層まで階層を落とすことになった。
再び成功してあの頃の生活を取り戻すと嘯いていた両親も、ヒューゴが一〇歳になるかならないかの頃に、借金が原因で失踪していた。
今は順調に見えても次の瞬間に何が起きるかわからない。そのことをヒューゴは身をもって経験している。だから、今の瞬間さえ良ければいい。後のことなど考えても意味など無い。そんな考えがヒューゴの信条となっていた。
「そんなに調子がいいなら、俺らに協力しねえか? 面白い話があるんだ」
賭場で顔馴染みの男であるタスカーが、いつになくニヤニヤしながら話し掛けてきた。
この男がこんな風に笑う時は、大体大儲けの話が待っていることをヒューゴは知っていた。
過去にも幾度かタスカーの話に乗り、その都度大金を手に入れてきた。ヘタをこいた事もあったが、それでもちょっと官憲のお世話になる程度で済むものだった。
「ラクして大金が手に入るならいいぜ」
「今回の相手は銀行だ。 成功すりゃがっぽりだぜ」
「よっしゃ、乗った」
詳しい話の内容も聞かずにヒューゴは即答する。市場の小金持ちを相手にするのも少々退屈だと思っていたところだった。タスカーの話に乗っかっておけば、何かしらのスリルに出会えることは確証済みなのだ。
ヒューゴを含め、ここにいる人間は犯罪を犯すことに躊躇いは無い。
もし捕まっても数年刑務所に入る程度で済むだろうし、刑務所帰りとなれば箔も付く。
正直、死刑にさえならなければいい。ヒューゴを含め、誰もがその程度にしか考えていなかった。
タスカーの主導の下で腕の立つならず者達が集められた。
ヒューゴがその一団に加わった時は、計画も実行に移すのみといった段階であり、拳銃や小銃などの武器、マスクなどの道具類も、既に準備が整っていた。
タスカーの視線の先には黒い乗用車があった。随分とボロい見た目ではあったが、ここは下層だ。動くだけで上等だ。
「三日後に、この一方通行の道をビクスビー銀行の現金輸送車が通る。 俺達はあの車で道を塞いで足止めする」
ビクスビー銀行は下層でも比較的裕福な人々が利用する銀行だ。金融機関に縁の無いヒューゴでも名前を知っている。
そのような銀行の現金輸送車だ。中に入っている金も相当なものであることは簡単に予想がついた。
「わかった。 オレはどこにいればいい?」
ヒューゴは渡された小銃を慣れた手付きで点検しながら尋ねた。
「お前はベンサム、ラット、アルフと一緒にこの地点で待ち伏せだ。俺と残りの奴が現金輸送車を止める。車が止まったのを合図に、お前達は背後から襲い掛かってくれ」
タスカーは地図を見せながら次々と指示を出した。全員が注意深くそれを聞き、頷く。
「了解」
「わかった」
三日後の早朝、まだ人が寝静まっている時刻。ヒューゴは仲間のベンサム達と共に指定された路地で息を潜めていた。
ローゼンブルグでも滅多にお目にかかれない大型車両が目の前を通り過ぎる。
程なくしてブレーキ音が聞こえ、車の様子を窺っていたラットが手振りで突入の指示を出す。
ラット、ベンサムに続いてヒューゴは輸送車に襲い掛かった。
事は順調に進んでいった。輸送車の運転手達を気絶させて拘束し、輸送車の荷室に積み込まれていたケースをタスカーの車に移し替える。そしてそのままヒューゴはタスカーの車に乗り込み、怪しまれないように現場から離れた。
あとは大回りしてアジトへ帰る。それだけだった。
車の中でタスカー達と共にヒューゴは大笑いだった。暫くはこれで安泰だ。そんな気持ちが車中に溢れていた。
だがアジトに帰った瞬間、さっきまでの気持ちは木っ端微塵に打ち砕かれた。
「タスカー、すまねえ。 しくじった……」
先にアジトに戻っていたベンサム達を取り押さえる警官達。どこで計画が漏れたのか、誰にもわからなかった。
その光景を目にして抵抗を試みたヒューゴ達も、後からやって来た警官に取り押さえられ、全員がその場で逮捕された。
警察署の取調べ室で、見知った顔の刑事が疲れと呆れが混じった顔でヒューゴを見ていた。
「またお前か。 最近は静かにしてると思ったのに」
「んだよ、誰かがタレ込まなきゃ捕まりゃしなかったよ」
「自分がした事がどれ程の大ごとなのか、わかっているのか!」
刑事は怒鳴る。ワッツというこの刑事は、ヒューゴが最初に犯罪を犯してから何かと縁のある刑事だった。
ヒューゴが置かれた環境を不憫がり、更正するように願って、何くれとなく目を掛けてくれていた。
そんな彼の態度にも、ヒューゴは何処吹く風ではあったが。
「ワッツ刑事、お気持ちはわかりますが……」
隣に控えている若い警官がワッツを窘める。
「何をやったかだって? あんたら警察の方がよく知ってんじゃないの?」
「何故こんなことをしたんだ。 親の負債が新しく発覚したのか?」
「別にー。 タスカーが面白そうな事をするって言うから、乗っかっただけだぜ」
ワッツはヒューゴの物言いにはっとしたような顔をする。
「お前……、何も知らされてないのか?」
「何のことだ?」
「いい、わかった……。 今は他に聞くことはない」
ワッツは疲れた顔を引き締めて立ち上がる。ヒューゴも若い警官二人に挟まれて、狭い拘置部屋へと押し込まれた。
その後の日々は目が回るように過ぎていった。詳しい取り調べが終わるとすぐに、相手から起こされた裁判に関する事柄が次々と決まっていく。
そして、ヒューゴは裁判で驚くべき事実を耳にした。
——あの輸送車はビクスビー銀行の現金輸送車ではなく、全く別の警備会社が保有する貴重品輸送車であったこと。
——タスカーはそれを知りつつ、ヒューゴ達を騙して輸送中の物品を狙っていたこと。
——輸送中の物品は厳重な警護が付けられるような類のものであり、その警護の目があったからこそ、ヒューゴ達が速やかに現行犯逮捕されたこと。
ワッツが珍しく怒鳴り声を上げたのも、こういったことが関係しているのだと悟った。
実行犯であるヒューゴには実刑判決が下り、刑務所への移送を待つだけとなった。
タスカーがどうなったのかはわからない。タスカーが何を目的として自分達を騙したのか、それが伝わってくることはついになかった。
ヒューゴは拘置部屋でぼんやりと天井を眺めていた。暫くの間、綺麗なお姉ちゃんや賭場で遊ぶことができなくなると思うと、ちょっとつまらないとは思った。がしかし、捕まってしまった以上はその現実を見るしかない。
「ヒューゴ、出ろ」
ワッツだった。だが、形式に則った呼び方ではなかった。
「何? 何かあったのか?」
「いいから出ろ。 面会だ」
ワッツの物言いに文句はあったが、今までにない神妙さに、ヒューゴはおとなしく従った。
面会に来るような物好きな知り合いがいる筈もないのに不思議だなと思いつつ、二人の警官に挟まれたヒューゴは面会室へ向かう通路を歩く。
面会室に入る直前、ワッツがヒューゴの方を振り向いた。
「ヒューゴ、今から会う方はとても偉い方だ。 くれぐれも粗相のないようにな」
「ん? わかった。 気を付けはする」
ワッツが何故そんなことを言うのかわからなかった。
そんなに偉い人が自分に何の用なのかもわからない。もしかしたらタスカーに罪をなすり付けられたのかもしれない。
最悪の状況を覚悟して、ヒューゴは面会室へと入った。
ヒューゴが面会室に入ると、見知らぬ男が面会者側の椅子に座っていた。
「君が最後か。 ワッツさん、間違いはないね?」
「ええ、ソングさん」
ソングと呼ばれた男は、ヒューゴを値踏みするかのようにじろじろと見つめていた。
「—了—」
人波で溢れかえる市場の道を、ヒューゴは早足に歩く。
擦れ違う人の中から隙の多い人物を物色するためだ。
狙いを定めたらすぐに行動に移す。同業者に獲物を奪われる前に、素早く、確実に。
ぶつかったフリをして、ちょっと道を尋ねるフリをして。
そうやって金目の物を奪っていく。
「へへっ……」
市場を出たヒューゴは人気のない場所に移動する。そこで戦利品が確かに自分の手にあることを確認すると、にんまりと笑った。
これで二、三日の遊び金には困らないだろう。そんなことを思いながら、ヒューゴは歓楽街の方へと足を向けた。
「お、今日は冴えてるじゃねえか」
「今日は朝から調子がイイんだよ。 羨ましいだろ?」
馴染みの賭場でヒューゴは得意げに語る。朝の市場にカモがいたことや、さっきまで遊んでいたクラブで美女へのナンパが成功したこと。そしていま現在、賭博でかなり儲かっていること。
一般的に暮らしている人間から見れば、どれも自慢できるようなことではない。だが、この賭場に集う者達は皆どこか後ろ暗いことがある。となれば、このような話さえも自慢の種、会話の種として機能する。
「ま、ここしばらく不調だったもんな」
「そーそー、またいつ調子悪くなるかわかんねーからな。今のうちに楽しんでおかねえと」
ヒューゴはローゼンブルグの下層に暮らす市民だ。そんな場所に暮らす彼の生活は、とても刹那的だった。
幼い頃は中流階層で会社を経営する親と共にそれなりの暮らしをしていた。しかし両親が会社経営に失敗して負債を抱えてからは、下層まで階層を落とすことになった。
再び成功してあの頃の生活を取り戻すと嘯いていた両親も、ヒューゴが一〇歳になるかならないかの頃に、借金が原因で失踪していた。
今は順調に見えても次の瞬間に何が起きるかわからない。そのことをヒューゴは身をもって経験している。だから、今の瞬間さえ良ければいい。後のことなど考えても意味など無い。そんな考えがヒューゴの信条となっていた。
「そんなに調子がいいなら、俺らに協力しねえか? 面白い話があるんだ」
賭場で顔馴染みの男であるタスカーが、いつになくニヤニヤしながら話し掛けてきた。
この男がこんな風に笑う時は、大体大儲けの話が待っていることをヒューゴは知っていた。
過去にも幾度かタスカーの話に乗り、その都度大金を手に入れてきた。ヘタをこいた事もあったが、それでもちょっと官憲のお世話になる程度で済むものだった。
「ラクして大金が手に入るならいいぜ」
「今回の相手は銀行だ。 成功すりゃがっぽりだぜ」
「よっしゃ、乗った」
詳しい話の内容も聞かずにヒューゴは即答する。市場の小金持ちを相手にするのも少々退屈だと思っていたところだった。タスカーの話に乗っかっておけば、何かしらのスリルに出会えることは確証済みなのだ。
ヒューゴを含め、ここにいる人間は犯罪を犯すことに躊躇いは無い。
もし捕まっても数年刑務所に入る程度で済むだろうし、刑務所帰りとなれば箔も付く。
正直、死刑にさえならなければいい。ヒューゴを含め、誰もがその程度にしか考えていなかった。
タスカーの主導の下で腕の立つならず者達が集められた。
ヒューゴがその一団に加わった時は、計画も実行に移すのみといった段階であり、拳銃や小銃などの武器、マスクなどの道具類も、既に準備が整っていた。
タスカーの視線の先には黒い乗用車があった。随分とボロい見た目ではあったが、ここは下層だ。動くだけで上等だ。
「三日後に、この一方通行の道をビクスビー銀行の現金輸送車が通る。 俺達はあの車で道を塞いで足止めする」
ビクスビー銀行は下層でも比較的裕福な人々が利用する銀行だ。金融機関に縁の無いヒューゴでも名前を知っている。
そのような銀行の現金輸送車だ。中に入っている金も相当なものであることは簡単に予想がついた。
「わかった。 オレはどこにいればいい?」
ヒューゴは渡された小銃を慣れた手付きで点検しながら尋ねた。
「お前はベンサム、ラット、アルフと一緒にこの地点で待ち伏せだ。俺と残りの奴が現金輸送車を止める。車が止まったのを合図に、お前達は背後から襲い掛かってくれ」
タスカーは地図を見せながら次々と指示を出した。全員が注意深くそれを聞き、頷く。
「了解」
「わかった」
三日後の早朝、まだ人が寝静まっている時刻。ヒューゴは仲間のベンサム達と共に指定された路地で息を潜めていた。
ローゼンブルグでも滅多にお目にかかれない大型車両が目の前を通り過ぎる。
程なくしてブレーキ音が聞こえ、車の様子を窺っていたラットが手振りで突入の指示を出す。
ラット、ベンサムに続いてヒューゴは輸送車に襲い掛かった。
事は順調に進んでいった。輸送車の運転手達を気絶させて拘束し、輸送車の荷室に積み込まれていたケースをタスカーの車に移し替える。そしてそのままヒューゴはタスカーの車に乗り込み、怪しまれないように現場から離れた。
あとは大回りしてアジトへ帰る。それだけだった。
車の中でタスカー達と共にヒューゴは大笑いだった。暫くはこれで安泰だ。そんな気持ちが車中に溢れていた。
だがアジトに帰った瞬間、さっきまでの気持ちは木っ端微塵に打ち砕かれた。
「タスカー、すまねえ。 しくじった……」
先にアジトに戻っていたベンサム達を取り押さえる警官達。どこで計画が漏れたのか、誰にもわからなかった。
その光景を目にして抵抗を試みたヒューゴ達も、後からやって来た警官に取り押さえられ、全員がその場で逮捕された。
警察署の取調べ室で、見知った顔の刑事が疲れと呆れが混じった顔でヒューゴを見ていた。
「またお前か。 最近は静かにしてると思ったのに」
「んだよ、誰かがタレ込まなきゃ捕まりゃしなかったよ」
「自分がした事がどれ程の大ごとなのか、わかっているのか!」
刑事は怒鳴る。ワッツというこの刑事は、ヒューゴが最初に犯罪を犯してから何かと縁のある刑事だった。
ヒューゴが置かれた環境を不憫がり、更正するように願って、何くれとなく目を掛けてくれていた。
そんな彼の態度にも、ヒューゴは何処吹く風ではあったが。
「ワッツ刑事、お気持ちはわかりますが……」
隣に控えている若い警官がワッツを窘める。
「何をやったかだって? あんたら警察の方がよく知ってんじゃないの?」
「何故こんなことをしたんだ。 親の負債が新しく発覚したのか?」
「別にー。 タスカーが面白そうな事をするって言うから、乗っかっただけだぜ」
ワッツはヒューゴの物言いにはっとしたような顔をする。
「お前……、何も知らされてないのか?」
「何のことだ?」
「いい、わかった……。 今は他に聞くことはない」
ワッツは疲れた顔を引き締めて立ち上がる。ヒューゴも若い警官二人に挟まれて、狭い拘置部屋へと押し込まれた。
その後の日々は目が回るように過ぎていった。詳しい取り調べが終わるとすぐに、相手から起こされた裁判に関する事柄が次々と決まっていく。
そして、ヒューゴは裁判で驚くべき事実を耳にした。
——あの輸送車はビクスビー銀行の現金輸送車ではなく、全く別の警備会社が保有する貴重品輸送車であったこと。
——タスカーはそれを知りつつ、ヒューゴ達を騙して輸送中の物品を狙っていたこと。
——輸送中の物品は厳重な警護が付けられるような類のものであり、その警護の目があったからこそ、ヒューゴ達が速やかに現行犯逮捕されたこと。
ワッツが珍しく怒鳴り声を上げたのも、こういったことが関係しているのだと悟った。
実行犯であるヒューゴには実刑判決が下り、刑務所への移送を待つだけとなった。
タスカーがどうなったのかはわからない。タスカーが何を目的として自分達を騙したのか、それが伝わってくることはついになかった。
ヒューゴは拘置部屋でぼんやりと天井を眺めていた。暫くの間、綺麗なお姉ちゃんや賭場で遊ぶことができなくなると思うと、ちょっとつまらないとは思った。がしかし、捕まってしまった以上はその現実を見るしかない。
「ヒューゴ、出ろ」
ワッツだった。だが、形式に則った呼び方ではなかった。
「何? 何かあったのか?」
「いいから出ろ。 面会だ」
ワッツの物言いに文句はあったが、今までにない神妙さに、ヒューゴはおとなしく従った。
面会に来るような物好きな知り合いがいる筈もないのに不思議だなと思いつつ、二人の警官に挟まれたヒューゴは面会室へ向かう通路を歩く。
面会室に入る直前、ワッツがヒューゴの方を振り向いた。
「ヒューゴ、今から会う方はとても偉い方だ。 くれぐれも粗相のないようにな」
「ん? わかった。 気を付けはする」
ワッツが何故そんなことを言うのかわからなかった。
そんなに偉い人が自分に何の用なのかもわからない。もしかしたらタスカーに罪をなすり付けられたのかもしれない。
最悪の状況を覚悟して、ヒューゴは面会室へと入った。
ヒューゴが面会室に入ると、見知らぬ男が面会者側の椅子に座っていた。
「君が最後か。 ワッツさん、間違いはないね?」
「ええ、ソングさん」
ソングと呼ばれた男は、ヒューゴを値踏みするかのようにじろじろと見つめていた。
「—了—」