感覺有些過瘦的少年依照中年男性店主教的方式,仔細地在包裝著玩具的箱子。
玩具是很久以前在戰爭所使用的『機獸』變形後的東西。機械獸似乎很得少年們的喜愛,是在這家店裡賣得最好的商品,這是最後一個了。
包裝完後將玩具交給客人,收取貨款。
「謝謝惠顧」
這是一個有障壁保護的商業都市,離都市中心稍遠的一個角落,有間玩具店靜靜地座落在此。
少年來到玩具店工作至今差不多一個月,終於習慣包裝跟接待客人了。
這個玩具店,只有店主人與這位少年二個人在經營著。
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趁店內沒客人的時候,少年開始清掃店內。
從櫃子的上方開始擦拭,仔細地擦去灰塵。
「……咦?」
是在最後擦拭地板時發生的事。
少年注意到店後方一個玻璃盒裡面有長方形的陶器人偶。
「掃完了嗎?」
正盯著人偶看的時候,在後面工作室的店主出現了。
「啊,店長,快掃完了。那個……」
「嗯?啊啊,那個啊,我最近打算要來賣人偶。這個是樣品格雷高爾」
注意到少年視線的店主,簡單地說明了一下。
店主的本業是玩具師傅,玩具店是店主為了賣店主作品的窗口。
「這樣啊。但是,店主您會做人偶真難得」
「凡事都要挑戰,買人偶的客人增加的話,我們的店也能吸引更多客人。好了,懂了就繼續打掃吧」
「啊,是的!」
少年發現自己被人偶吸引住而忽略清掃工作,趕緊繼續打掃。
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幾天之後,正在做開店前清掃工作的少年,發現玻璃盒子裡的陶器人偶上被加上了球體與長方型的零件。
雖然少年對人偶不是很懂,但因為像是胸部與下腹部間用球體連結起來,所以猜想店主正在做球體關節人偶。
昨天打掃的時候只有像擺件一樣的東西,所以應該是店主半夜加工的吧。
而且繼續打掃後,發現幾天前客人買的機獸模型帶點髒污的倒在一邊。
由於這型的機獸模型是最後一個,所以少年記得非常清楚。正覺得不可思議地看著模型的時候,店主從工作室裡出來了。
「怎麼了?」
「店長,這個機獸不是應該沒有庫存了嗎?」
「啊啊,這個啊,是認識的玩具師傅拜託放在我店裡的」
「原來是這樣啊。但是,有點髒,要不要擦乾淨比較好呢?」
「也是,交給你了」
少年拿起模型,便坐在收銀台的椅子上開始擦拭了起來。
雖然髒污主要是泥土與灰塵,但是當中混沾著紅黑色不曉得什麼的東西。看起來也像是生銹,但是用棉花棒沾水擦拭後馬上就乾淨了。
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在那之後也發生著同樣的事,都是在那個人偶加工的時候。
人偶的製作進度大躍進,也穿上了衣服,剩下的就只有五官了。
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「店長,好像有點奇怪,會不會是夜裡有誰潛入店裡……」
「不可能,是不是你看錯我陳列的東西了?」
少年多次跟店長反應,都被說是多心而岔開話題,就算讓店長實際看現場,也回答說是他放的。
「但是……」
「我可能讓你工作過度了,把這個喝了今天就回去吧」
店主拿出熱牛奶給少年,擔心少年的身體狀態。
少年乖乖地接下杯子,確實感覺自己有些疲累。
店主看到少年開始喝起牛奶後,便轉身回工作室。
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喝完熱牛奶之後,少年感到強烈的睡意襲來,也許是喝了熱飲反而讓疲累感一口氣湧出來了。
雖然對店主感到不好意思,少年就在收銀台的角落裡睡著了。
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少年突然醒來,四周被黑暗包圍,心想可能是自己不小心睡了好幾個小時。從連接工作室的門內透出著光亮,店主似乎還在工作室裡工作著。
少年一邊覺得糟糕了,想要向店主打聲招呼後回家,悄悄地打開了工作室的門。
但是,店主不在工作室裡。一邊覺得奇怪一邊往裡面走去,一股鐵銹般的臭味撲鼻而來。
過份惡臭讓少年皺起了眉頭,一邊尋找著店主的身影。覺得要是店主發生什麼意外,倒在裡面就糟糕了。
就在找尋店主的途中,裡面的水槽傳來流水的聲音。少年往水槽窺視。
店主在水槽不曉得鋸斷了什麼。
與切木頭時發出不一樣的聲音。
被切斷的東西就隨意地放在水槽的檯子上。那是白色彎曲像棒狀的東西,陸陸續續被放在檯子上。
接著伴隨著像攪拌什麼黏呼呼的東西聲音,掏出軟軟的塊狀物。那些塊狀物一個個被丟到垃圾筒。
朝那塊狀物仔細一看,那塊狀物像是染紅了的人類的單腳。
少年發現店主正在支解的是人類後,感覺有什麼從喉嚨深處衝了上來。
要是在這裡吐的話會被店主看見的,少年心想無論如何都要安靜地離開現場,但由於這悽慘的光景而感到害怕,使得身體不聽使喚。結果失去平衡,當場摔倒在地。
聽到聲音的店主轉頭往少年的方向看,那張臉已被噴濺的血水弄髒。
「咦,怎麼醒來了,真奇怪,我算好應該會睡到我工作結束的啊」
店主不是那平常溫柔的聲音,看著少年的眼神也冷酷強硬。
「噫!?」
少年從水槽邊連滾帶爬地逃跑,飛奔出工作室要往店門口衝的時候,店內的玩具同時面向少年的方向。
「為……為,什麼!」
模型的眼睛、古早時代汽車的車燈、動物玩偶的眼睛。
原以為它們只是盯著少年看,卻沒想到卻開始慢慢地動了起來。
「啊,嗚,嗚哇啊啊啊啊!」
少年過於恐懼地大叫出聲。拿了手邊的玩具,往會動的玩具丟了過去。
但是,被丟出去的玩具與被丟的玩具卻什麼事都沒有,朝少年身邊接近。
「不要傷到臉喔」
是店主的聲音。店主毫無感情的聲音,讓少年飛也似的想逃跑。
但是,腳邊被成群的玩具阻擋住出路,少年一邊踢飛玩具,一邊奮力往出口移動。
只差一點點就能夠逃到外面了,就在摸到店門把的時候,少年的身體受到強烈的衝撞。
「危險危險,別找我麻煩啊」
店主的聲音傳到了倒下的少年的耳裡。
但是,少年一聲不響地,就那樣失去了意識。
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從外面傳來的鳥叫聲,讓少年醒了。
好像是在喝完了熱牛奶之後,就那樣不小心睡到了早上。
少年認為被店主與玩具襲擊什麼的,是做了個可怕的夢。
比起這些,得為在店裡不小心睡著一事,向店主道歉才行。一邊想著一邊打算起身。
但是,卻無法動彈。就像發高燒昏睡一樣,身體就如同石頭一般無法動彈。
真奇怪,而且這裡是哪裡啊。
少年現在才注意到,眼前的景色似乎熟悉又不熟悉。
「早安」
聽到了店主的聲音。想朝聲音方向看過去也做不到。
「來吧,到店裡去吧」
店主就像和自己的孩子說話似的,一邊抱起了少年。
就這樣進到熟悉的玩具店店裡後,店主向店內中央一個新做的展示櫃走去。
漸漸靠近的展示櫃的玻璃映照出來的,卻不是過瘦又寒酸的自己。
而是擁有白皙、健康鼓起的雙頰。有點想睡微瞇的雙眼,淡淡上了點唇色秀氣的唇。上等的藍色貴族服飾與左胸上別了青色的玫瑰胸針,就跟店主幫少年型的人偶穿的那身衣服一模一樣。
少年想大叫出聲。
但是,聲音出不來,陶器做成的嘴閉得緊緊的。
店主將少年擺放坐在展示櫃裡備有的豪華椅子上後,露出了微笑。
「我可愛的格雷高爾,從今天起這就是你的位子了哦」
店主與那個被叫做格雷高爾的少年對視。
「我不會把你賣給任何人的,我會把你當作家人、我的兒子,永遠永遠和你在一起」
在店主的雙眼裡,是跟昨晚一樣的瘋狂眼神。
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擺放了美少年的玩具店生意興隆,少年做為玩具店的招牌,一直放置在店裡的中心位置。
──救救我!有沒有人,拜託!──
少年在店內的中心叫喊,直到自己的聲音被聽到為止,不放棄地繼續叫喊著。
但是,沒有人聽到少年的聲音,無法傳達給任何人。
少年持續地叫喊著,直到少年的心腐朽的那一天為止。
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「格雷高爾,醒來吧」
少年,不,格雷高爾的意識被美麗少女的聲音喚醒了。
「早安」
「這次的體驗感覺如何?」
「見到了非常可怕的東西。可以的話再也不想有這樣的體驗」
「真厲害,這樣的情感是非常重要的,才經歷一次就能理解,實在是很了不起」
「謝謝您的稱讚,主人」
|
「─完─」
「恐怖」
店主である中年男性に教わったとおりに、痩せっぽちの少年が丁寧に玩具の箱を梱包していた。
玩具は大昔の戦争で使われた『機獣』をデフォルメしたものだ。機械の獣という造形が少年心をくすぐるらしく、この店では一番の売れ筋商品で、これが最後の一つだった。
梱包し終えた玩具を客に渡し、代金を受け取る。
「ありがとうございました」
障壁に守られたとある商業都市。都市の中心から少し外れた一角に、その玩具屋はひっそりと佇んでいた。
少年がこの玩具屋で働き始めてほぼ一ヶ月。ようやく梱包や接客にも慣れてきた。
この玩具屋は、店主とこの少年の二人だけで営まれていた。
店内に人がいなくなったのを見計らって、少年は店内の掃除を始めた。
棚の上から順番に磨き、埃を丁寧に払っていく。
「……あれ?」
最後の床磨きをしている最中のことだった。
少年は、店の奥にあるガラスケースの中に長方形の陶器の置物があることに気が付いた。
「掃除は終わったか?」
置物を見つめている最中に、奥にある工房から店主が顔を出す。
「あ、店長。もうすぐ終わります。あの……」
「ん? ああ、これか。近々うちで人形を扱うつもりでな。これはその試作品のグレゴールだ」
少年の視線に気付いた店主は、軽い説明をした。
店主の本職は玩具職人であり、玩具屋は店主が作り上げた作品を売るための媒体であった。
「そうでしたか。でも、人形なんて珍しいですね」
「何事も挑戦だよ。人形を買う客が増えれば、うちの店ももっと繁盛する。さぁ、わかったら掃除の続きだ」
「あ、はい!」
置物に気を取られて掃除が疎かになっていたことを自覚した少年は、大慌てで掃除に戻るのだった。
数日後、開店前の掃除をしていた少年は、ガラスケースの中の陶器の置物に、球体と長方形の部品が付け加えられているのを見つけた。
人形には詳しくないが、胸部と下腹部らしきものを球体で繋いでいるようなので、店主は球体関節人形を作っているのだろうと思った。
昨日掃除をした時は置物のようなものしかなかったので、夜のうちに店主が手を加えたのだろう。
更に掃除を進めていくと、数日前に客が買い上げた機獣の模型が、薄汚れた状態で倒れているのを見つけた。
この形の機獣の模型は最後の一点だったため、少年はよく覚えていた。不思議に思いながら模型を眺めていると、店主が工房から出てきた。
「どうした?」
「店長、この機獣の在庫はもう無かったはずでは?」
「あぁ、それか。知り合いの玩具職人から置いてくれと、急遽頼まれたんだ」
「そうだったんですね。でも、ちょっと汚れています。綺麗にしてからの方が良いのでは?」
「そうだな、頼む」
少年は模型を手に取ると、会計カウンターにある椅子に座って掃除を始めた。
汚れは泥や土埃が主だったが、それに混じって赤黒い何かが付着していた。錆のようにも見えたが、水を付けた綿棒で拭うとすぐに綺麗になった。
それからも同様のことが起こり続けた。それは決まって人形に手が加えられた時だ。
人形の制作はかなり進んでおり、服も着せられていた。あとは顔を残すだけだ。
「店長、何かおかしいです。夜中に誰かが入り込んでるんじゃ……」
「そんな筈はない。私が陳列したものを見間違えてるんじゃないか?」
少年が店長に何度となく言っても、気のせいではとはぐらかされる。実際に現場を見せても、これは自分が置いたものだと言われてしまう。
「ですが……」
「少し働かせすぎたかもしれんな。これでも飲んで今日は帰りなさい」
ついにはホットミルクを差し出されて、心配される始末であった。
少年はおとなしくカップを受け取った。確かに疲れているという自覚はあった。
店主は少年がホットミルクを飲み始めたのを見ると、工房へと戻っていった。
ホットミルクを飲み終えた後、少年は急激な眠気に襲われた。暖かいものを飲んで余計に疲れが出てしまったのかもしれない。
店主には申し訳ないと思いながらも、少年は会計カウンターの隅で仮眠を取ることにした。
少年は不意に目を覚ました。周囲は暗闇に包まれていて、うっかり何時間も寝てしまったようだと思った。工房に続くドアからは明かりが漏れている。店主はまだ工房で作業しているようだ。
しまったと思いつつ、少年は店主に声を掛けてから帰ろうと思い、工房のドアをそっと開けた。
だが、工房に店主はいない。不思議に思いながら中に入ると、鉄錆のような臭いが鼻を刺激した。
あまりの臭いに顔を顰めつつ、少年は店主の姿を探す。もしかしたら何かの事故で店主が大怪我を負っているのでは、だとしたら大変だと思ったからだった。
店主を探すうち、奥の水場から水の流れる音がしてきた。少年は水場をそっと覗いた。
水場では、店主が何かを鋸で切断していた。
ごりごり。ごりごり。木とは違う何かを切る音。
切断されたものが水場の台に無造作に置かれた。それは湾曲した白い棒のようなものだった。次々と棒が台に置かれていく。
次にぐちゃぐちゃと何かを掻き混ぜるような音と共に、ぶよぶよとした塊が取り出された。その塊は次々とごみ箱に捨てられていく。
塊に視線を向けて目を凝らす。その塊は、赤く染まった人間の片脚であった。
店主が解体しているものが人間であると気付いた少年の喉の奥から、何かが込み上げてくる。
今ここで吐瀉すれば店主に見つかってしまう。何とかこの場から静かに去ろうとした少年だったが、凄惨な光景に怯えた体が言うことを聞かない。ついにバランスを崩して、その場で転んでしまった。
音に気付いた店主が少年の方へ顔を向ける。その顔は飛び散った血で汚れていた。
「なんだ、目を覚ましてしまったか。おかしいな、計算では作業が終わるまで寝ている筈なんだが」
店主の声にはいつもの優しさが消え失せており、少年を見つめる視線は酷くねっとりとしていた。
「ひぃっ!?」
少年は水場から転げるようにして逃げ出す。工房を飛び出して店の出口に向かおうとすると、店内の玩具が一斉に少年の方を向いた。
「なん……なん、でっ!」
模型の目、古い時代の自動車のヘッドライト、動物を模したぬいぐるみの目。
それらが少年をじっと見つめたかと思うと、ゆったりとした動作で動き出す。
「あ、う、うわああああ!」
少年は恐怖のあまりに叫び声を上げる。手近にあった玩具を手に取り、動き出した玩具に投げつける。
だが、投げつけた玩具もぶつかった玩具も何事もなかったかのように起き上がり、少年へ近付いてくる。
「顔だけは傷付けるなよ」
店主の声がした。何の感情もこもっていない店主の声に、少年は跳ね上がるようにして駆け出した。
だが、足元に群がる玩具が行く手を阻もうとしてくる。少年は群がる玩具を蹴り飛ばしながら、必死で店の出口へと向かった。
あと少しで外に出られる。店のドアに手を掛けたその時、少年の体を強い衝撃が襲った。
「危ない危ない。あまり手間を掛けさせるんじゃないよ」
倒れ付す少年の耳に、店主の声が入る。
だが、少年はその声に何も応えることができないまま、意識を失った。
外から聞こえてきた鳥の鳴き声で、少年は目を覚ました。
ホットミルクを飲んだ後、そのまま朝まで寝入ってしまったようだ。
店主と玩具に襲われるなんて、酷い夢を見たものだと少年は考えた。
それよりも、店内で寝てしまったことを店主に謝罪しなければ。そんなことを考えながら起き上がろうとする。
だが、動かない。高熱を出して寝込んでしまった時のように、体が石のように動かない。
おかしい。そもそもここは何処だ。
少年は今更ながら、見知ったようで知らない景色が視界を埋めていることに気が付く。
「おはよう」
店主の声が聞こえた。声のする方を振り向くこともできない。
「さあ、店に出ようか」
まるで自分の子供に話し掛けるようにしながら、店主は少年を抱き上げた。
そのまま見知った玩具屋の店内へと入ると、店主は店の中心に新しく作られたショーケースへと歩いていく。
段々と近付いてくるショーケースのガラスに映ったのは、痩せこけて見窄らしい自分の姿ではなかった。
色白だが健康的にふっくらとした頬。ちょっと眠たげに伏せた目。薄く色づいた上品な形の唇。上等な青い貴族の服と左胸の青いバラのコサージュは、店主があの少年型の人形に着せていたものと全く同じだった。
少年は叫び声を上げようとする。
だが、声は出ない。作られた陶器の口は堅く堅く閉ざされていた。
店主は少年をショーケースに備え付けられた豪奢な椅子に座らせると、にっこりと笑う。
「かわいい私のグレゴール、今日からここがお前の居場所だよ」
店主とグレゴールと呼ばれた少年の目が合った。
「お前は誰にも売らない。私の家族として、私の息子として。ずっとずっと一緒にいよう」
店主の目に宿るのは、昨夜見たときと同じ狂気の色だ。
美しい少年の人形が飾られた玩具屋は繁盛を続けた。少年は玩具屋の看板として、店の中心にあり続ける。
——助けて! お願い、誰か!——
店の中心で少年は叫ぶ。自分の声が誰かに届くまで、諦めずに叫び続ける。
だが、少年の声は誰にも聞こえない、届かない。
少年の心が朽ち果てるその日まで、少年は叫び続けるのだった。
「グレゴール、起きなさい」
少年、否、グレゴールの意識は美しい少女の声で浮上した。
「おはようございます」
「今回の体験はどうだった?」
「とても恐ろしいものを見ました。できれば二度と体験したくありません」
「凄いわ、その感情はとても大事なの。一度の体験で理解できるなんて」
「ありがとうございます、ご主人様」
「—了—」
店主である中年男性に教わったとおりに、痩せっぽちの少年が丁寧に玩具の箱を梱包していた。
玩具は大昔の戦争で使われた『機獣』をデフォルメしたものだ。機械の獣という造形が少年心をくすぐるらしく、この店では一番の売れ筋商品で、これが最後の一つだった。
梱包し終えた玩具を客に渡し、代金を受け取る。
「ありがとうございました」
障壁に守られたとある商業都市。都市の中心から少し外れた一角に、その玩具屋はひっそりと佇んでいた。
少年がこの玩具屋で働き始めてほぼ一ヶ月。ようやく梱包や接客にも慣れてきた。
この玩具屋は、店主とこの少年の二人だけで営まれていた。
店内に人がいなくなったのを見計らって、少年は店内の掃除を始めた。
棚の上から順番に磨き、埃を丁寧に払っていく。
「……あれ?」
最後の床磨きをしている最中のことだった。
少年は、店の奥にあるガラスケースの中に長方形の陶器の置物があることに気が付いた。
「掃除は終わったか?」
置物を見つめている最中に、奥にある工房から店主が顔を出す。
「あ、店長。もうすぐ終わります。あの……」
「ん? ああ、これか。近々うちで人形を扱うつもりでな。これはその試作品のグレゴールだ」
少年の視線に気付いた店主は、軽い説明をした。
店主の本職は玩具職人であり、玩具屋は店主が作り上げた作品を売るための媒体であった。
「そうでしたか。でも、人形なんて珍しいですね」
「何事も挑戦だよ。人形を買う客が増えれば、うちの店ももっと繁盛する。さぁ、わかったら掃除の続きだ」
「あ、はい!」
置物に気を取られて掃除が疎かになっていたことを自覚した少年は、大慌てで掃除に戻るのだった。
数日後、開店前の掃除をしていた少年は、ガラスケースの中の陶器の置物に、球体と長方形の部品が付け加えられているのを見つけた。
人形には詳しくないが、胸部と下腹部らしきものを球体で繋いでいるようなので、店主は球体関節人形を作っているのだろうと思った。
昨日掃除をした時は置物のようなものしかなかったので、夜のうちに店主が手を加えたのだろう。
更に掃除を進めていくと、数日前に客が買い上げた機獣の模型が、薄汚れた状態で倒れているのを見つけた。
この形の機獣の模型は最後の一点だったため、少年はよく覚えていた。不思議に思いながら模型を眺めていると、店主が工房から出てきた。
「どうした?」
「店長、この機獣の在庫はもう無かったはずでは?」
「あぁ、それか。知り合いの玩具職人から置いてくれと、急遽頼まれたんだ」
「そうだったんですね。でも、ちょっと汚れています。綺麗にしてからの方が良いのでは?」
「そうだな、頼む」
少年は模型を手に取ると、会計カウンターにある椅子に座って掃除を始めた。
汚れは泥や土埃が主だったが、それに混じって赤黒い何かが付着していた。錆のようにも見えたが、水を付けた綿棒で拭うとすぐに綺麗になった。
それからも同様のことが起こり続けた。それは決まって人形に手が加えられた時だ。
人形の制作はかなり進んでおり、服も着せられていた。あとは顔を残すだけだ。
「店長、何かおかしいです。夜中に誰かが入り込んでるんじゃ……」
「そんな筈はない。私が陳列したものを見間違えてるんじゃないか?」
少年が店長に何度となく言っても、気のせいではとはぐらかされる。実際に現場を見せても、これは自分が置いたものだと言われてしまう。
「ですが……」
「少し働かせすぎたかもしれんな。これでも飲んで今日は帰りなさい」
ついにはホットミルクを差し出されて、心配される始末であった。
少年はおとなしくカップを受け取った。確かに疲れているという自覚はあった。
店主は少年がホットミルクを飲み始めたのを見ると、工房へと戻っていった。
ホットミルクを飲み終えた後、少年は急激な眠気に襲われた。暖かいものを飲んで余計に疲れが出てしまったのかもしれない。
店主には申し訳ないと思いながらも、少年は会計カウンターの隅で仮眠を取ることにした。
少年は不意に目を覚ました。周囲は暗闇に包まれていて、うっかり何時間も寝てしまったようだと思った。工房に続くドアからは明かりが漏れている。店主はまだ工房で作業しているようだ。
しまったと思いつつ、少年は店主に声を掛けてから帰ろうと思い、工房のドアをそっと開けた。
だが、工房に店主はいない。不思議に思いながら中に入ると、鉄錆のような臭いが鼻を刺激した。
あまりの臭いに顔を顰めつつ、少年は店主の姿を探す。もしかしたら何かの事故で店主が大怪我を負っているのでは、だとしたら大変だと思ったからだった。
店主を探すうち、奥の水場から水の流れる音がしてきた。少年は水場をそっと覗いた。
水場では、店主が何かを鋸で切断していた。
ごりごり。ごりごり。木とは違う何かを切る音。
切断されたものが水場の台に無造作に置かれた。それは湾曲した白い棒のようなものだった。次々と棒が台に置かれていく。
次にぐちゃぐちゃと何かを掻き混ぜるような音と共に、ぶよぶよとした塊が取り出された。その塊は次々とごみ箱に捨てられていく。
塊に視線を向けて目を凝らす。その塊は、赤く染まった人間の片脚であった。
店主が解体しているものが人間であると気付いた少年の喉の奥から、何かが込み上げてくる。
今ここで吐瀉すれば店主に見つかってしまう。何とかこの場から静かに去ろうとした少年だったが、凄惨な光景に怯えた体が言うことを聞かない。ついにバランスを崩して、その場で転んでしまった。
音に気付いた店主が少年の方へ顔を向ける。その顔は飛び散った血で汚れていた。
「なんだ、目を覚ましてしまったか。おかしいな、計算では作業が終わるまで寝ている筈なんだが」
店主の声にはいつもの優しさが消え失せており、少年を見つめる視線は酷くねっとりとしていた。
「ひぃっ!?」
少年は水場から転げるようにして逃げ出す。工房を飛び出して店の出口に向かおうとすると、店内の玩具が一斉に少年の方を向いた。
「なん……なん、でっ!」
模型の目、古い時代の自動車のヘッドライト、動物を模したぬいぐるみの目。
それらが少年をじっと見つめたかと思うと、ゆったりとした動作で動き出す。
「あ、う、うわああああ!」
少年は恐怖のあまりに叫び声を上げる。手近にあった玩具を手に取り、動き出した玩具に投げつける。
だが、投げつけた玩具もぶつかった玩具も何事もなかったかのように起き上がり、少年へ近付いてくる。
「顔だけは傷付けるなよ」
店主の声がした。何の感情もこもっていない店主の声に、少年は跳ね上がるようにして駆け出した。
だが、足元に群がる玩具が行く手を阻もうとしてくる。少年は群がる玩具を蹴り飛ばしながら、必死で店の出口へと向かった。
あと少しで外に出られる。店のドアに手を掛けたその時、少年の体を強い衝撃が襲った。
「危ない危ない。あまり手間を掛けさせるんじゃないよ」
倒れ付す少年の耳に、店主の声が入る。
だが、少年はその声に何も応えることができないまま、意識を失った。
外から聞こえてきた鳥の鳴き声で、少年は目を覚ました。
ホットミルクを飲んだ後、そのまま朝まで寝入ってしまったようだ。
店主と玩具に襲われるなんて、酷い夢を見たものだと少年は考えた。
それよりも、店内で寝てしまったことを店主に謝罪しなければ。そんなことを考えながら起き上がろうとする。
だが、動かない。高熱を出して寝込んでしまった時のように、体が石のように動かない。
おかしい。そもそもここは何処だ。
少年は今更ながら、見知ったようで知らない景色が視界を埋めていることに気が付く。
「おはよう」
店主の声が聞こえた。声のする方を振り向くこともできない。
「さあ、店に出ようか」
まるで自分の子供に話し掛けるようにしながら、店主は少年を抱き上げた。
そのまま見知った玩具屋の店内へと入ると、店主は店の中心に新しく作られたショーケースへと歩いていく。
段々と近付いてくるショーケースのガラスに映ったのは、痩せこけて見窄らしい自分の姿ではなかった。
色白だが健康的にふっくらとした頬。ちょっと眠たげに伏せた目。薄く色づいた上品な形の唇。上等な青い貴族の服と左胸の青いバラのコサージュは、店主があの少年型の人形に着せていたものと全く同じだった。
少年は叫び声を上げようとする。
だが、声は出ない。作られた陶器の口は堅く堅く閉ざされていた。
店主は少年をショーケースに備え付けられた豪奢な椅子に座らせると、にっこりと笑う。
「かわいい私のグレゴール、今日からここがお前の居場所だよ」
店主とグレゴールと呼ばれた少年の目が合った。
「お前は誰にも売らない。私の家族として、私の息子として。ずっとずっと一緒にいよう」
店主の目に宿るのは、昨夜見たときと同じ狂気の色だ。
美しい少年の人形が飾られた玩具屋は繁盛を続けた。少年は玩具屋の看板として、店の中心にあり続ける。
——助けて! お願い、誰か!——
店の中心で少年は叫ぶ。自分の声が誰かに届くまで、諦めずに叫び続ける。
だが、少年の声は誰にも聞こえない、届かない。
少年の心が朽ち果てるその日まで、少年は叫び続けるのだった。
「グレゴール、起きなさい」
少年、否、グレゴールの意識は美しい少女の声で浮上した。
「おはようございます」
「今回の体験はどうだった?」
「とても恐ろしいものを見ました。できれば二度と体験したくありません」
「凄いわ、その感情はとても大事なの。一度の体験で理解できるなんて」
「ありがとうございます、ご主人様」
「—了—」