「那個大叔嗎!?」
坐在旋轉椅上的弗雷特里西發出驚訝的聲音,抬起頭看向自己的雙胞胎哥哥伯恩哈德。
那個被弗雷特里西稱為「大叔」的是以嚴格而著名的人物,並且也是將連隊訓練生《Trainee》們培育成獨當一面執行者的有名教官。
在本期訓練生才剛開始受訓的這個時期,這位人物更不像是會放下教官職務的人。在弗雷特里西們入隊時,那位教官就已經以其嚴厲而有著「魔鬼豪茲」這個稱號了。
「是啊,聽說是被潘德莫尼那邊給叫去了」
伯恩哈德邊和弗雷特里西對話,邊開始進行著出擊的準備。正值休養日的弗雷特里西一派輕鬆地看著伯恩哈德在那邊忙碌。
「也就是說這期的訓練生們突然就放假了啊?還真是好命呀」
「這你就不用擔心了。代理教官的人選已經決定好了」
「我們組織裡有那麼好事的傢伙嗎?愛照顧人的隊長,副隊長們應該也都正值忙碌的時期吧?」
「代理教官就是你啊,弗雷特里西」
弗雷特里西再次抬起頭看著伯恩哈德,一句話也說不出來。
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「呃。因為諸多原因,由我來暫時代理豪茲教官的職務,我是弗雷特里西,請多指教啦」
弗雷特里西看著訓練生們的眼睛,雖然眼神中還混有著些許的不安,但大家的眼神都很不錯。而且年輕。看來都是經過篩選的年輕人們。
弗雷特里西稍微翻了一下伯恩哈德給他的教科書。內容是關於過去所發現的渦的統計資料以及其特性傾向之類的講義。
「呃,是從哪兒開始來著…『渦的種類分成幾個大類別的話是根據威脅程度被分為四種,而判定基準的威脅度又是以3332年發生的………』」
弗雷特里西只念了開頭幾句的內容之後就把書給闔上,並深深地吸了一大口氣。而訓練生們的視線也從原本眼前的書上,轉而集中到了弗雷特里西身上。
「啊啊~好無聊哦。這種東西你們之後再自己看一看吧!」
弗雷特里西不負責任般的隨口丟下這句話。
「好!不念了不念了。到外面去吧。改換上實技課吧!」
突然地變更課程內容,頓時引起教室一陣吵雜。
「我們當初入伍時,可沒有這樣的課程。教你們一些更有意義的事吧!」
話一說完,便抓著大衣率先走出了教室。
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「那麼,嗯」
弗雷特里西丟了把劍給自己正前方一位矮小的金髮少年。少年來不及反應接到這把突然飛過來的劍。劍掉到了地上,轉了幾圈之後劍鞘稍微鬆開,露出了裡面銀色的刀刃。
「你,叫什麼名字?」
「…艾依查庫」
「很好,艾依查庫!我就站在這裡面不動」
弗雷特里西畫了個直徑約半個阿爾雷的圈圈,就在那中心拿著兩把木劍擺出迎戰的架勢。
「就拿那把劍砍過來吧!要是能讓我離開這個圈圈的話,就免除你以後所有的劍技考試」
但是艾依查庫一動也不動。只是笨拙的拿著劍,完全沒有要對弗雷特里西發出攻擊的樣子。
「認真的來吧!抱著要把我殺死的決心!」
對於還是毫無動靜的艾依查庫,周圍開始漫延著諷刺的話語。
「怎麼了艾依查庫!還是老樣子的膽小耶!」「跟我交換吧!」
其他的訓練生一起取笑起他來。
看起來總算下定決心的艾依查庫調整了呼吸後,敏捷的朝弗雷特里西砍了過去。
「太輕了!小子」
艾依查庫砍過去的劍上有著些許迷惘。弗雷特里西以木劍將劍揮開之後,將木劍刺向失去平衡的艾依查庫腹部。
被打中的艾依查庫痛苦的倒下,痛的在地上打滾。看來無法順利呼吸,就連聲音也都發出不來。
「我應該說過了!認真的殺過來」
艾依查庫曲著膝撐起身體回看著弗雷特里西。
而弗雷特里西無視著艾依查庫的視線,對其他訓練生們說道。
「下一個。條件一樣」
很快就有一名少年走到倒下的艾依查庫身旁,撿起掉在他旁邊的劍。
是一名帶著眼鏡的黑髮少年。
「我叫艾伯李斯特,請讓我試試看」
「來吧!」
從對峙中少年的架勢來看就知道了他的實力。還蠻有天份的樣子。
一邊用腳測量著距離,一邊敏捷的不斷使出刺擊。
刀鋒毫不留情地掠過弗雷特里西的喉嚨。
「非常好,就是這個樣子!」
那刀尖確實地帶著『殺意』。
並且毫不停頓的持續發出第二,第三次的刺擊。
弗雷特里西不斷地閃躲著,嘴角浮起了笑容。
「劍法也不錯,相當不錯的氣魄」
但是力量跟速度都還遠低於弗雷特里西他們聖騎士所需要的等級。
弗雷特里西所說的話,完全沒有傳達到黑髮的少年耳裡。
「時間到了」
弗雷特里西一這麼說完,就將少年的劍打落到地上。那是以訓練生們根本無法看清的速度。
失去劍的少年大大的喘著氣,但弗雷特里西卻一個氣都沒喘上。
「真麻煩,下一個就是你啦,之後那邊的就按照順序過來!」
弗雷特里西邊說,邊拿著劍指名著訓練生上場。
在動用身體的活動之中,時間一下子就過去了。雖然所有的訓練生都向弗雷特里西挑戰過了,但是卻沒有一個人可以讓他從一開始畫出那個圈圈離開半步。
訓練生們全員都坐倒在地上,唯一還能站著的就只有弗雷特里西一人。
「差不多就是這樣了吧。很不錯的運動吧?今天就到此為止!吃飯了吃飯了!」
弗雷特里西充滿朝氣的說著,然後就又第一個走向食堂去了。
|
食堂裡還沒有其他期訓練生們的身影,只有剛剛受弗雷特里西訓練的少年們已經開始吃起飯來了。
弗雷特里西在他們換裝結束之前,就已用完了餐點。
正當要離席的時候,剛好看到剛剛訓練時最初交手的兩個人坐在一起。
既然會共同行動就表示他們兩個的感情應該不錯,但總覺得那兩人組好像帶著一種陰鬱的氣氛。
「嗨,你們兩個」
只拿著飲料就坐到了兩人的桌旁。
「肚子沒事吧,小子?」用著開玩笑的語調並且假裝往金髮少年的肚子戳去。
少年以苦笑回應。
「習慣這裡了嗎?」
「是的。某種程度上」
黑髮少年回答道。
「竟然說是某種程度上啊」
弗雷特里西開朗的笑了。
「其實要做的事很單純。就只是讓自己變強,然後打倒怪物,並且制止渦的活動。就這樣而已」
「今天的訓練,還蠻有趣的。因為我們都還沒有正式的接受過劍術的指導」
艾依查庫默默地繼續吃著飯,主要都是艾伯李斯特在回應。
「我也只能給你們上這樣的課而已啊。跟老頭…不對是跟豪茲可不一樣」
「是說,你們是第幾期生來著?」
「第十五期」
「真的假的!?這樣看來我也不年輕了啊」
「教官您是第幾期生呢?」
「我是第三期。別看我這樣,我也算是這邊的老兵了」
「第三期的話,入隊時間是77年吧」
「你還真清楚啊,入隊以來第九年了」
弗雷特里西重新坐正,向艾依查庫問道。
「喂,小子。不對,是艾依查庫對吧?趁你們還年輕,多吃一點吧。你們還有必要再多長大一些!」
「為了戰鬥對吧!」
艾伯李斯特代替著始終不發一語的艾依查庫回答道。
「沒錯……」
吸了一口氣後,弗雷特里西對兩人像是警告似的說道。
「但是,你們首先要考慮的就是活下去。要是死了就什麼都完了」
「可是,連隊不是不怕死,並且是『為了拯救世界而戰』犧牲自己的部隊吧。為了任務而死的話應該沒有問題的吧」
艾伯李斯特反駁著。
「表面上當然是這麼說的啦。但是如果不想著要活下去的話,是無法在戰鬥中取勝的。越是對這種表面話忠實的正義人士,跟那些說甚麼『為了世界』之類的傢伙就越是早死啊」
「換句話說,就是即使是要殺掉對方都要不擇手段活下來的傢伙才行啊」
弗雷特里西在說了一堆之後,朝著艾依查庫這樣說道。
「艾依查庫,我可是相當期待你啊。剛剛痛的打滾時你的眼神,是想殺了我吧!就是那個眼神了,千萬不要忘記啊!」
艾依查庫停下了吃飯的手,點了點頭。
「那麼,我還有點事就先走了。慢慢吃,然後多吃點啊!!」
弗雷特里西站起身來。
「還有,只要我有空的話隨時都能當你們的練習對手。有需要就找我吧」
「好的」
「那就先這樣了」
話說完之後,弗雷特里西便走向了自己的房間。
|
「─完─」
3386年 「訓練生」
「あのおっさんが?」
回転椅子に座ったままのフリードリヒは驚きの声を上げ、双子の兄であるベルンハルトを見上げた。フリードリヒに「おっさん」と言われた人物は厳格なことで有名であり、レジメントの卵である訓練生《トレイニー》達を一人前のオペレーターに育て上げる教官でもあった。今期生の訓練が始まったばかりのこの時期に、教練に穴を空けるなどしそうになかった。フリードリヒ達が入隊した頃には既に「鬼のハウズ」という二つ名が定着していたくらいだった。
「ああ。なんでも、パンデモニウムに呼び出されたらしい」
フリードリヒと会話をしながら、ベルンハルトは出撃の身仕度を進めていた。休養日であるフリードリヒは気楽にその様子を眺めている。
「つまり今期の訓練生達はいきなり休暇か。 いい御身分だな」
「その心配は無い。代役は既に手配済みだ」
「ウチの組織にそんな物好きがいたか? 面倒見の良さそうな隊長や副隊長達は忙しくてそれどころじゃないだろうに」
「お前だよ、フリードリヒ」
フリードリヒは再びベルンハルトを見上げる。声は出なかった。
「えー。 諸用でしばらく来れなくなったハウズ教官の代理、フリードリヒだ。 よろしくな」
フリードリヒは訓練生達の眼を見る。不安混じりではあるが、皆いい眼をしているように思えた。そして若かった。選抜された少年達だった。
フリードリヒはベルンハルトに渡されたカリキュラムに眼を通す。過去に見つかった渦に関する統計と傾向についての座学だった。
「えーと、どこからだ……『渦の種類は大別すると脅威度によって四種に分かれている。 その基準となる脅威度は3332年に起きた……』」
冒頭のみを語ったところでフリードリヒは本を閉じ、大きく息を吸った。手元の本を追っていた訓練生達の視線がフリードリヒに集まる。
「あー、たるいな。 お前らこんなもん後で勝手に読んどけ」
そう投げ遣りに言い放った。
「よし! 止めだ止め。外へ行くぞ。実技へ切り替えだ」
突然の内容変更に室内がざわついた。
「俺らの入った頃は、こんなもの無かった。 もっと有意義なことをお前らに教えてやる」
そう言うとジャケットを掴み、真っ先に教室から出て行った。
「さて、と」
フリードリヒは自分の正面にいた、背の低い金髪の少年に剣を放り投げた。少年は突然飛んできた剣を受け取る事ができなかった。地面に落ち、数回転がった剣の鞘から銀色の刃が覗いた。
「お前、名前は?」
「……アイザックです」
「よし、アイザック。俺はこの中から動かない」
フリードリヒは直径半アルレ程の円を描くと、その中心で二本の木剣を構えた。
「その剣で斬りかかってきな。もし俺をこの円の外へ出せたら、今後の剣技試験は免除にしてやるよ」
だがアイザックは動かない。ぎこちなく剣を構えるだけで、フリードリヒに向かっていく様子がまるでなかった。
「本気で来い。 殺すつもりでな」
何もしないアイザックに対し、周囲から野次のような言葉が飛び始めていた。
「どうしたアイザック! 相変わらず腰抜けだな!」「俺と替われー」
一斉に他の訓練生達が笑った。
意を決したようにアイザックは呼吸を整えると、素早く踏み込み、斬り込んだ。
「浅いよ、坊主」
切っ先に迷いがあった。フリードリヒは木剣で剣を薙ぐと、バランスを崩したアイザックの腹に木剣の先を突き立てた。
もんどり打ってアイザックが倒れ、のたうつ。息ができなくなった様子で、声も出ていない。
「本気で来いって、言ったはずだ」
アイザックは膝立ちになってフリードリヒを見返した。
フリードリヒはそんなアイザックを無視し、訓練生達に声を掛けた。
「次。 条件は同じだ」
素早く一人の少年が倒れたアイザックの傍まで来ると、彼の元にあった剣を取り上げた。
眼鏡を掛けた黒髪の少年だった。
「エヴァリストです。やらせてください」
「来い」
対峙する少年の構えから、その技量は判った。筋は悪くなさそうだ。
足で距離を測りながら、素早く突きを繰り出してきた。
切っ先がフリードリヒの喉元を掠る。
「いいぜ。 その調子だ」
その切っ先にはしっかりと『殺意』が乗っていた。
そのまま往なすと、第二、第三の突きが繰り出される。
フリードリヒは体裁きでそれを躱し続ける。その口元に笑みが浮かんだ。
「剣筋もいい。なかなかの気迫だ」
しかしパワーとスピードは、フリードリヒ達聖騎士が必要とするレベルには程遠かった。
フリードリヒの掛けた言葉は黒髪の少年の耳に届いていない。
「時間切れだ」
フリードリヒはそう言うと、少年の剣をはたき落とした。それは訓練生達の目には追い切れない速度だった。
剣を失った少年は肩で息をしているが、フリードリヒは息一つ切らしていない。
「面倒だ、次はそこのお前。あとは端から順番に来い」
そう言ってフリードリヒは訓練生を指名した。
体を動かしていると、時間が経つのはあっという間だった。全ての訓練生達がフリードリヒに挑んだが、最初に描かれた円の外へフリードリヒを動かす事ができた者はいなかった。
訓練生達は皆座り込み、立っているのはフリードリヒだけになった。
「さて、これで全員か。 なかなかの運動になっただろう。 今日は終わり! 飯だ飯!」
陽気に声を掛け、真っ先に食堂に向かった。
ビュッフェに他期の訓練生達はまだ来ておらず、先程までフリードリヒの訓練を受けていた少年達だけが食事を始めていた。
フリードリヒは彼らの着替えが終わる前に、先に食事を取り終えていた。
席を立とうかとフリードリヒは思ったが、目の端に先程の訓練で最初に対峙した二人が並んで座っているのを見つけた。
共に行動しているという事で仲は悪くないのだろうが、どこか雰囲気に影のある二人組だった。
「よう、お前ら」
飲み物だけ持って二人のテーブルに座った。
「腹は大丈夫か、坊主」
ふざけた調子で金髪の少年の腹をまさぐる振りをした。
少年は苦笑いで対応した。
「慣れたか」
「はい、それなりに」
黒髪の少年が答えた
「それなりかよ」
フリードリヒは明るく笑った。
「まあ、やることは単純さ。強くなって化け物を倒して、渦の働きを止める。そんだけさ」
「今日の訓練、なかなか面白かったです。 自分達はまだ剣術の指南を本格的に受けていなかったので」
アイザックは黙々と食事を続け、主にエヴァリストが応じていた。
「俺はあれぐらいしかできねーからな。オッサン、おっと、ハウズと違ってね」
「で、お前達、何期になるんだっけか」
「十五期です」
「まじかよ。俺も歳を取るはずだぜ」
「教官は何期ですか」
「俺は三期。 こう見えても、もうここじゃ古株だぜ」
「三期だと、入隊は77年ですね」
「よく知ってるな。 九年目さ」
座り直して、フリードリヒはアイザックに語り掛けた。
「おい、坊主。 じゃねえ、アイザックだったな。 ちゃんと量を食えよ、若い内は。まだまだお前らはでかくなる必要がある」
「戦うためにですね」
無言のアイザックに代わり、エヴァリストが答えた。
「そう……」
一呼吸置いて、フリードリヒは諭すように二人に言った。
「だがな、まずお前らは生き残ることを考えろ。 死んじまったらそれで終わりだからよ」
「でも、このレジメントは死を厭わない、『世界を救う戦い』に身を捧げる部隊ですよね。 任務のために死ぬのならいいのでは?」
エヴァリストが異を唱える。
「そりゃ建前はそうさ。 でもな、自分が生きたいと思わなきゃ、戦いには勝てねえんだ。 建前に忠実な正義漢、『世界のために』なんて言ってる奴ほど早く死んじまう」
「別の言葉で言やあ、相手を殺してでも絶対生き残りたいと思ってる奴じゃなきゃだめなんだ」
フリードリヒは饒舌に語った後、アイザックに向かって言った。
「アイザック、お前には期待してるぜ。 もんどり打って腹抱えたときのお前、俺を殺してやるって目で見ただろ。 あれだよ、 忘れるな」
アイザックは食事を止めて、頷いた。
「じゃあな。 俺は用事があった。 ゆっくり、たらふく喰えよ」
フリードリヒは席を立った。
「あと、俺が暇なときはいつでも相手になってやる。 気軽に声を掛けてくれ」
「はい」
「じゃあな」
そう言って、フリードリヒは自分の部屋へと戻って行った。
「—了—」
「あのおっさんが?」
回転椅子に座ったままのフリードリヒは驚きの声を上げ、双子の兄であるベルンハルトを見上げた。フリードリヒに「おっさん」と言われた人物は厳格なことで有名であり、レジメントの卵である訓練生《トレイニー》達を一人前のオペレーターに育て上げる教官でもあった。今期生の訓練が始まったばかりのこの時期に、教練に穴を空けるなどしそうになかった。フリードリヒ達が入隊した頃には既に「鬼のハウズ」という二つ名が定着していたくらいだった。
「ああ。なんでも、パンデモニウムに呼び出されたらしい」
フリードリヒと会話をしながら、ベルンハルトは出撃の身仕度を進めていた。休養日であるフリードリヒは気楽にその様子を眺めている。
「つまり今期の訓練生達はいきなり休暇か。 いい御身分だな」
「その心配は無い。代役は既に手配済みだ」
「ウチの組織にそんな物好きがいたか? 面倒見の良さそうな隊長や副隊長達は忙しくてそれどころじゃないだろうに」
「お前だよ、フリードリヒ」
フリードリヒは再びベルンハルトを見上げる。声は出なかった。
「えー。 諸用でしばらく来れなくなったハウズ教官の代理、フリードリヒだ。 よろしくな」
フリードリヒは訓練生達の眼を見る。不安混じりではあるが、皆いい眼をしているように思えた。そして若かった。選抜された少年達だった。
フリードリヒはベルンハルトに渡されたカリキュラムに眼を通す。過去に見つかった渦に関する統計と傾向についての座学だった。
「えーと、どこからだ……『渦の種類は大別すると脅威度によって四種に分かれている。 その基準となる脅威度は3332年に起きた……』」
冒頭のみを語ったところでフリードリヒは本を閉じ、大きく息を吸った。手元の本を追っていた訓練生達の視線がフリードリヒに集まる。
「あー、たるいな。 お前らこんなもん後で勝手に読んどけ」
そう投げ遣りに言い放った。
「よし! 止めだ止め。外へ行くぞ。実技へ切り替えだ」
突然の内容変更に室内がざわついた。
「俺らの入った頃は、こんなもの無かった。 もっと有意義なことをお前らに教えてやる」
そう言うとジャケットを掴み、真っ先に教室から出て行った。
「さて、と」
フリードリヒは自分の正面にいた、背の低い金髪の少年に剣を放り投げた。少年は突然飛んできた剣を受け取る事ができなかった。地面に落ち、数回転がった剣の鞘から銀色の刃が覗いた。
「お前、名前は?」
「……アイザックです」
「よし、アイザック。俺はこの中から動かない」
フリードリヒは直径半アルレ程の円を描くと、その中心で二本の木剣を構えた。
「その剣で斬りかかってきな。もし俺をこの円の外へ出せたら、今後の剣技試験は免除にしてやるよ」
だがアイザックは動かない。ぎこちなく剣を構えるだけで、フリードリヒに向かっていく様子がまるでなかった。
「本気で来い。 殺すつもりでな」
何もしないアイザックに対し、周囲から野次のような言葉が飛び始めていた。
「どうしたアイザック! 相変わらず腰抜けだな!」「俺と替われー」
一斉に他の訓練生達が笑った。
意を決したようにアイザックは呼吸を整えると、素早く踏み込み、斬り込んだ。
「浅いよ、坊主」
切っ先に迷いがあった。フリードリヒは木剣で剣を薙ぐと、バランスを崩したアイザックの腹に木剣の先を突き立てた。
もんどり打ってアイザックが倒れ、のたうつ。息ができなくなった様子で、声も出ていない。
「本気で来いって、言ったはずだ」
アイザックは膝立ちになってフリードリヒを見返した。
フリードリヒはそんなアイザックを無視し、訓練生達に声を掛けた。
「次。 条件は同じだ」
素早く一人の少年が倒れたアイザックの傍まで来ると、彼の元にあった剣を取り上げた。
眼鏡を掛けた黒髪の少年だった。
「エヴァリストです。やらせてください」
「来い」
対峙する少年の構えから、その技量は判った。筋は悪くなさそうだ。
足で距離を測りながら、素早く突きを繰り出してきた。
切っ先がフリードリヒの喉元を掠る。
「いいぜ。 その調子だ」
その切っ先にはしっかりと『殺意』が乗っていた。
そのまま往なすと、第二、第三の突きが繰り出される。
フリードリヒは体裁きでそれを躱し続ける。その口元に笑みが浮かんだ。
「剣筋もいい。なかなかの気迫だ」
しかしパワーとスピードは、フリードリヒ達聖騎士が必要とするレベルには程遠かった。
フリードリヒの掛けた言葉は黒髪の少年の耳に届いていない。
「時間切れだ」
フリードリヒはそう言うと、少年の剣をはたき落とした。それは訓練生達の目には追い切れない速度だった。
剣を失った少年は肩で息をしているが、フリードリヒは息一つ切らしていない。
「面倒だ、次はそこのお前。あとは端から順番に来い」
そう言ってフリードリヒは訓練生を指名した。
体を動かしていると、時間が経つのはあっという間だった。全ての訓練生達がフリードリヒに挑んだが、最初に描かれた円の外へフリードリヒを動かす事ができた者はいなかった。
訓練生達は皆座り込み、立っているのはフリードリヒだけになった。
「さて、これで全員か。 なかなかの運動になっただろう。 今日は終わり! 飯だ飯!」
陽気に声を掛け、真っ先に食堂に向かった。
ビュッフェに他期の訓練生達はまだ来ておらず、先程までフリードリヒの訓練を受けていた少年達だけが食事を始めていた。
フリードリヒは彼らの着替えが終わる前に、先に食事を取り終えていた。
席を立とうかとフリードリヒは思ったが、目の端に先程の訓練で最初に対峙した二人が並んで座っているのを見つけた。
共に行動しているという事で仲は悪くないのだろうが、どこか雰囲気に影のある二人組だった。
「よう、お前ら」
飲み物だけ持って二人のテーブルに座った。
「腹は大丈夫か、坊主」
ふざけた調子で金髪の少年の腹をまさぐる振りをした。
少年は苦笑いで対応した。
「慣れたか」
「はい、それなりに」
黒髪の少年が答えた
「それなりかよ」
フリードリヒは明るく笑った。
「まあ、やることは単純さ。強くなって化け物を倒して、渦の働きを止める。そんだけさ」
「今日の訓練、なかなか面白かったです。 自分達はまだ剣術の指南を本格的に受けていなかったので」
アイザックは黙々と食事を続け、主にエヴァリストが応じていた。
「俺はあれぐらいしかできねーからな。オッサン、おっと、ハウズと違ってね」
「で、お前達、何期になるんだっけか」
「十五期です」
「まじかよ。俺も歳を取るはずだぜ」
「教官は何期ですか」
「俺は三期。 こう見えても、もうここじゃ古株だぜ」
「三期だと、入隊は77年ですね」
「よく知ってるな。 九年目さ」
座り直して、フリードリヒはアイザックに語り掛けた。
「おい、坊主。 じゃねえ、アイザックだったな。 ちゃんと量を食えよ、若い内は。まだまだお前らはでかくなる必要がある」
「戦うためにですね」
無言のアイザックに代わり、エヴァリストが答えた。
「そう……」
一呼吸置いて、フリードリヒは諭すように二人に言った。
「だがな、まずお前らは生き残ることを考えろ。 死んじまったらそれで終わりだからよ」
「でも、このレジメントは死を厭わない、『世界を救う戦い』に身を捧げる部隊ですよね。 任務のために死ぬのならいいのでは?」
エヴァリストが異を唱える。
「そりゃ建前はそうさ。 でもな、自分が生きたいと思わなきゃ、戦いには勝てねえんだ。 建前に忠実な正義漢、『世界のために』なんて言ってる奴ほど早く死んじまう」
「別の言葉で言やあ、相手を殺してでも絶対生き残りたいと思ってる奴じゃなきゃだめなんだ」
フリードリヒは饒舌に語った後、アイザックに向かって言った。
「アイザック、お前には期待してるぜ。 もんどり打って腹抱えたときのお前、俺を殺してやるって目で見ただろ。 あれだよ、 忘れるな」
アイザックは食事を止めて、頷いた。
「じゃあな。 俺は用事があった。 ゆっくり、たらふく喰えよ」
フリードリヒは席を立った。
「あと、俺が暇なときはいつでも相手になってやる。 気軽に声を掛けてくれ」
「はい」
「じゃあな」
そう言って、フリードリヒは自分の部屋へと戻って行った。
「—了—」