下午過後,開始下起了冰冷的雪。受到激烈砲擊而化作泥濘的土地弄髒了艾伯李斯特的腳。
在帝國東方,包夾著與班賽德國境邊上的一座橋,兩軍的戰鬥正處於膠著的狀態。
來到土牆旁的艾依查庫小聲說著。髒污的戰鬥服訴說著戰鬥的激烈度。
「被算計了」
但是那張臉卻露著微笑。那語調就像是在開艾伯李斯特的玩笑一般。
「我早就知道了,所以才來這裡的。想得到些什麼的話,犧牲也是必要的」
「……犧牲嗎?你的部下們還真是可憐啊」
「你不也是我的部下?」
「我很喜歡戰爭啊,它讓我很快樂」
「接下來可能會變得更加愉快囉……你看看」
艾依查庫朝土牆的另一側看了一下。
「懂了吧?」
發現對岸堤防側有士兵慌慌張張地來往著。
這些士兵的裝備明顯跟目前為止所戰鬥過的班賽德軍有所不同。
「援軍嗎?」
「是尹貝羅達的兵,還帶著戰獸」
艾伯李斯特決定將席道爾將軍的指令也告訴艾依查庫。
|
─帝都斐度─
「我很不安」
將軍放下酒杯說道。
「我的軍隊中實在有太多如同公務人員般的軍人了」
在旗下的師團裡大展頭角的艾伯李斯特是席道爾將軍特別關注的人。
「我都賭在你身上了,巴爾茲大尉」
那被深深的皺紋所圍繞著的銳利眼光,就是這位矮小將軍威嚴的來源。
「特別是比起身為軍人,不如說是身為戰士的你」
將軍是古朗德利尼亞帝國軍裡的特殊人物。
在曙光時代開始,地上很多事物從混沌中解放出來之時,最先出來主張增強軍備,擴展帝國版圖的人就是他。
獲得許多戰果,並大大提高了帝國的威信。但因為他實在成功得太過頭,使得他在帝國中的立場開始變得危險。
在與魯比歐那王國的西部戰線持續著互不相讓的狀態下,在軍中的政治力開始出現了黑影。
「出生地是哪啊?聽說你不是出生於領地內的」
雖然至今為止的餐會都是聽各個士官報告戰況與要求的例會,但是今天被叫來的只有艾伯李斯特而已。
「是佛雷斯特希爾。現在已經不存在了,在我小的時候就被『渦』給吞蝕掉了」
艾伯李斯特老實地供出。因為即使在不清楚將軍真正打算的狀況下,也感覺不到有出策略的必要性。
「以難民的身分接受帝國的培育,在十七歲的時候自願從軍」
「自願從軍的動機是什麼?」
「為了測試自己的實力。想知道自己能夠做到什麼程度」
將軍緊盯著艾伯李斯特的眼睛。
「原來如此。那麼你對於自己的出身與環境有什麼感覺?」
「我並不為自己感到哀憐。情感終究只是行動下的附屬品而已,既然要向前邁進,就不需要去拘泥這些」
「真是有趣的說法,但是以前線指揮官來說是值得信賴的」
將軍笑著拿起酒杯。
「將軍,今天是為了什麼叫我來的?」
艾伯李斯特直接了當地問道。
「別急呀大尉,聽我說」
「人生並沒有目的。不論在哪條街,或是哪個家系裡出生的,結果都還是會死」
「但是戰爭就不同了。不管是在哪開始都一定會以勝利為目的,這就是我喜歡的點」
將軍站了起來,走向掛在牆上的地圖。
「戰線日漸擴大,不管是西邊還是東邊或是南邊都一樣。然後所有的戰場都是我們會勝利」
轉過頭來的將軍眼神中帶著一種獨特的光芒。
這股扭曲的氣魄正是讓這矮小男子成為將軍的原因,艾伯李斯特這樣感覺到。
「為此我們需要新的力量」
「想拜託你一件事。是一件非你這樣的男人就辦不成的特別工作」
|
─麥歐卡國境─
早晨來臨。隨著黎明的到來,三隻戰獸在對岸慢慢現出了形影。身高雖然只有約3阿爾雷(4.5公尺)左右,但是連橫寬也差不多是這麼長,那肉塊的魄力甚至連這邊都感覺得到。
而背上有尹貝羅達的騎獸兵騎乘著。突出的嘴上套著拘束具,而騎兵則握著那從拘束具上延伸的韁繩。戰獸的類型在昨天之內就已經查明,是從前被叫做「巨大熊」的類型。
行走的時候是以四隻腳著地的方式來前進,但在捕食時卻會站起來靈活地運用前腳。擁有赤紅色甲殼般的皮膚以及強力的治癒能力,確實是在戰場上也能活用的類型。
巨獸拉著後方的障壁器緩緩地朝橋上邁進。在此同時,從後方出現的班賽德工兵也開始渡橋了。由於障壁器的效果,工兵們完全不需要擔心槍彈跟砲擊了。
工兵們便紛紛開始拆除帝國軍在橋上所設置的地雷及障礙物了。
班賽德跟尹貝羅達兩者,都與管理技術的「工程師」們沒什麼往來,雖然不像帝國擁有自動機械跟高性能野砲等的科技武器,但也還是留有不論哪個城市都需要的防衛用障壁器技術。
|
騎士隊已經集合。隨從也已經站在機械馬「Autohorse」旁,等著自己的到來。騎上馬,從他手上接過騎兵槍「卡賓」之後,確認彈藥的裝填,並插上了馬鞍。隨從騎上自己的馬後,其他的隊員也跟著全部騎上了。
艾伯李斯特拔出劍,向隊員們喊道。
「我們帝國軍本隊現在正與魯比歐那交戰。現在,在麥歐卡這裡有著企圖從後方突襲本隊的班賽德軍攻打了過來。這是一項暴行!而且我們發現了在他們背後還有帶著邪惡怪獸的尹貝羅達兵。我們不能在這裡退縮!」
「為了在西方戰鬥的同胞們!為了保護在故鄉等著我們的家人!在這裡把尹貝羅達給埋了吧!」
「別害怕邪惡的怪獸,別害怕戰敗的恥辱!」
隊員們抬起頭來高聲歡呼。大家還是一樣地緊張,但是表情中卻已浮現了戰意。
「準備好!」副長的艾依查庫整理好隊列。艾依查庫站在自己的旁邊。
「那麼,就讓我好好地享受吧。趁還活著的時候啊!」
一如往常的艾依查庫後面跟著隨從,但是那隨從臉上卻因為過度緊張而顯得有點蒼白。
「別廢話了,中尉。向他學著點」
突然被搭話的隨從,用受到驚嚇的臉看著艾依查庫。
「我被罵嚕,大尉好可怕唷!」
騎士隊從陣地裡順勢衝了出去。機械馬像是跳舞般地閃過我方工兵所設置的障礙物。工程師「Engineer」所製作的自動機械「Automata」那靈巧的動作,讓馬跟騎兵就像是在滑行般地往前進。
正在拆除障礙物的班賽德工兵們飛也似的向後退開,然後朝著自己那方的對岸跑去。但是立刻就被機械馬追上,隨即被揮出的劍與馬體給擊倒,像破布般地翻倒在地面。
班賽德的騎獸兵們就像是要對抗突擊而來的騎兵們一般,拚死拉動韁繩,企圖把拘束具解開。將馬停下,舉起卡賓槍,瞄準在戰獸上的騎兵。雖然說有著約50阿爾雷(75公尺)以上的距離,但卻毫無晃動,精準地捕捉到目標了。
感覺時間好像都變緩慢了一般。艾伯李斯特明確地知道自己正站在「端」上,是發動能力的時候了。眼中看見了準心裡模糊騎兵們的「未來」。
搖晃的槍口與未來的影像開始同步。在確實捕捉到騎兵們倒下畫面的那一刻,扣下了板機。就好像是將時間倒轉般,士兵坐起來後馬上又倒下了。騎兵像是要從獸鞍上摔下般地斷氣了。
同一列上另外兩個騎著戰獸的騎兵,也以同樣的方式倒了下去。
「大尉,真是太精彩了!」
看到令人畏懼的巨獸被奪去力量,十分興奮的隨從跑來搭話後,就跟停下腳步的自己站在一起了。
「好了,快往前進。要渡過整座橋之後才是勝負的開始」
和隨從一同,一口氣地追上了頭陣。從巨獸的旁邊穿過,就像是沒了幹勁般,「巨大熊」毫無動靜。看了一眼無力垂倒的的騎兵屍體後,就往障壁器的後方前進了。
「這樣就只是單純的搬運獸了」隨從以高揚的語氣叫道。
|
在障壁器周邊的頭陣部隊被擋了下來。障壁器是戰爭的關鍵,不論什麼場合時候都一定會有防衛兵守著。他們用機關槍不斷掃射,讓馬無法靠近。
「怎麼了?」
「他們配置得太好了,衝不過去啊」艾依查庫回答。
「沒時間了,就我們兩個上吧」
艾依查庫點了點頭。
「跟著我與艾依查庫衝,機關槍我們一定會解決!」
要是同時從左右兩方衝出去,一定會有一邊能夠通過。在這邊被拖延時間的話,一定無法擊破對岸的本隊就會橫死沙場。
「衝啊!」發出聲音的同時衝了出去。
機關槍在一瞬間的猶豫後,將槍口都對著這邊了。艾伯李斯特讓機械馬邊跑邊將自己的身體壓低,等待著槍擊。只有幾發的話,機械馬還能夠撐得住,而且只要身體不被打中也不會死。
在槍聲響起的同時感受到了激烈的衝擊力。機械馬失去了控制,橫倒在障壁器之前。被甩出去後摔到了地面上,雖然感受到莫大的疼痛,但還是為了不被後續部隊踩死而拚死地將頭抬起。
後續部隊精確地避開了自己,而防衛兵也被艾依查庫給解決掉了的樣子。
「沒事吧?」隨從來到了身旁。
「跟我交換馬吧」
「不了,讓我騎在後面吧」
幸好沒有骨折的樣子。借來失去的卡賓的替代品後騎上了馬,在後方壓制了障壁器。來到橋約三分之二的部分時,就看到橋的那一頭湧出了大量裝甲兵。
受過訓練的裝甲兵對騎士來說是十分危險的存在。在維持士氣的裝甲兵面前,藉由馬造成的蹂躪戰法就顯得無用。
艾伯李斯特從馬上瞄準了裝甲獵兵中帶有中隊長標誌的人,用力扣下板機。逆鉤落下,撞針敲擊雷管,因瓦斯壓力而加速的穿甲彈飛向空中。
所有的感覺都連接在一起。就如同扣下板機,子彈就會射出去的道理一樣。子彈就像是被吸進去般,飛進了裝甲兵隙縫狀的眼孔中。
中隊長慢慢向前倒下。敵人還沒有發覺到底發生了什麼事。就在要將下一發子彈瞄準先頭敵兵的時候,衝在前方的艾依查庫突然跑進了視線內。
下了馬的艾依查庫以破壞對手平衡的方式將眼前的敵人一一打倒,裝甲獵兵們完全追不上他的速度。敵軍明顯地陷入了混亂。
追到敵人前線的艾伯李斯特也下了馬,和艾依查庫一同揮舞著劍。並在此與艾依查庫一起絆住獵兵,讓其他的隊員先行前進。
在後方的敵人部隊因騎兵們的到達而開始潰散,因為看到了支撐他們兵力的巨獸及獵兵都相繼慘敗而感到恐懼。
艾依查庫將致命的一擊打進了獵兵的頭部。
在旁邊一邊確認戰況一邊戰鬥著的艾伯李斯特確信了他們的勝利。雖然損耗有些激烈,但得到了想要的東西。
什麼都沒有的自己,想要得到什麼的話只能戰鬥。
艾伯李斯特的決心即使在這染血的戰場上也沒有任何改變。
|
「-完-」
3395年 「泥濘」
午後を過ぎて冷たい雪が降り始めていた。激しい砲撃を受けた地上は泥濘と化して、エヴァリストの足下を汚していた。
帝國の東方、バーンサイドとの国境沿いにある橋を挟んで、膠着状態が続いていた。
土塁の傍まで来てアイザックは囁いた。汚れた戦闘服は戦いの激しさを物語っていた。
「嵌められたな」
ただし、その顔には笑みが浮かんでいる。エヴァリストをからかっているかのような口調だった。
「知っていたさ。だから来た。何かを得たかったら犠牲は必要だ」
「……犠牲か。お前の部下たちは可哀想だな」
「お前だって私の部下だ」
「オレは好きなんでね、戦争が。楽しませてもらってる」
「これからもっと楽しくなるかもしれんぞ。見てみろ」
土塁の向こうをアイザックは乗り出して覗いた。
「わかるか?」
対岸の堤防側で、兵が慌ただしく行き来している様子が見える。
その装備は、今まで戦っていたバーンサイド軍のものとは明らかに異なっていた。
「援軍か?」
「インペローダの兵だ。戦獣をつれている」
エヴァリストはシドール将軍からの指令をアイザックにも伝えようと決心した。
「—帝都ファイドゥ—」
「私は不安なのだ」
酒杯を置いて、将軍は語る。
「我が軍には役人の様な軍人が多すぎる」
麾下の師団で頭角を現したエヴァリストを、シドール将軍は特別に目をかけていた。
「私は君をかっている。ヴァルツ大尉」
深い皺に囲まれた鋭い眼孔は、この小柄な将軍の威光の中心だった。
「特に軍人としてというより、戦士としての君をな」
将軍はグランデレニアの帝國軍にあって特別な人物だった。
曙光の時代が始まり、地上の多くが混沌から解放された時に、真っ先に軍を増強して帝國の版図を広げることを主張したのが彼だった。
多くの戦果を上げ、帝國の威信を大いに高めた。ただ、そのあまりに大きな成功がかえって帝國内での立場を危うくしていた。
ルビオナ王国との東部戦線では一進一退の状況が続き、軍内での政治力に陰りが出てきていた。
「生まれはどこかね。領内の生まれではないと聞いているが」
今までの会食は他の士官を交えて戦況や要望などを語り合う定型の場だったが、今日呼ばれたのはエヴァリストのみだった。
「フォレストヒルです。今はもう存在しません。子供の頃に『渦』に飲まれました」
エヴァリストは正直に話した。将軍の真意がわからない内には、駆け引きをする必要を感じなかったからだ。
「難民として帝國で育ち、十七の時に軍に志願しました」
「軍に志願した動機は?」
「自分の力を試すためです。何処までやれるのか知りたかったからです」
将軍はエヴァリストの目をじっと見つめていた。
「なるほど。自身の出自や環境はどう感じている?」
「自分を憐れむ気持ちはありません。感情は所詮行動に付随するものです。前進しているならば、拘泥する必要を感じません」
「面白い物言いだ。しかし前線指揮官としては頼もしい」
将軍は笑って酒杯をあおいだ。
「将軍、今日私をお呼びなった理由は何でしょうか?」
エヴァリストは直裁に切り出した。
「焦るな大尉。聞いてくれ」
「人生に目的は無い。どこの街に生まれようが、どんな家系に生まれようが、結局は死ぬ」
「しかし戦争は違う。何処で始まろうとも、必ず勝利という目的がある。そこを私は気に入っているのだ」
将軍は立ち上がり、壁に飾られた地図に向かう。
「戦線は日々拡大している。西にも東にも南にもな。そしてすべての戦場で我々は勝利する」
振り返った将軍の目には、独特の光が宿っていた。
この歪んだ意気こそが小柄な男を将軍にしているのだと、エヴァリストは感じた。
「そのためには新しい力が必要なのだ」
「ひとつ頼みを聞いてもらいたい。君のような男でないとできない、特別な仕事だ」
「—マイオッカ国境—」
朝が来た。夜明けと共に、対岸からゆっくりと戦獣三体が姿を現した。背の高さは3アルレ《4.5メートル》ぐらいだが、横にもそれぐらいの幅があり、肉塊の迫力はここからでも伝わってくる。
背にはインペローダの獣騎兵が乗っていた。突き出た口には拘束具が取り付けてあり、拘束具から延びた手綱を獣騎兵が握っている。昨日のうちに戦獣のタイプはわかっていた。昔は『トーベア』と呼ばれていたタイプだ。
歩くときは四本足で進むが、捕食時には立ち上がって前足を器用に使う。赤く甲羅のように厚い皮膚と、強力な治癒能力を持っている。確かに戦争にも役に立つタイプだ。
巨獣は障壁器を後ろに引きながら、ゆっくりと橋に向かう。と同時に背後からバーンサイドの工兵達が現れ、橋を渡り始めた。巨獣が引く障壁器の力で銃弾や砲撃の心配が無い。
工兵達はこちらが橋に仕掛けた地雷や障害物を取り除き始めた。
バーンサイドやインペローダにはテクノロジーを管理する『エンジニア』達との繋がりが弱く、こちらが使う自動機械や高性能な野砲などは持っていなかったが、防衛の為にどの都市にもあった障壁器の技術は残っているようだった。
騎士隊はすでに集まっていた。従卒が機械馬《オートホース》の傍に立ち、エヴァリストを待っていた。馬へ乗り、彼から騎兵銃《カービン》を受け取った後、薬室を確認してから鞍へと差した。従卒は自分の馬に乗り、他の隊員全てが騎乗した。
エヴァリストは剣を抜き、隊員に向かって叫ぶ。
「我が帝國軍の本隊は現時ルビオナと交戦中である。今、このマイオッカにその後陣を突こうとバーンサイド軍が侵攻してきた。これは暴挙である。しかもその背後には邪悪な獣をつれたインペローダがいることがわかった。ここで引き下がることはできない!」
「西方で戦う同胞のために!故国で待つ家族を守るために!インペローダの意気をここで葬る!」
「邪悪な獣を恐れるな、敗北の恥辱を恐れよ!」
隊員は声を上げ、顔をあげた。みな一様に緊張をしているが、その顔は戦いへの意欲を現していた。
「ゆくぞ!」
副長のアイザックが隊列を整えさせる。エヴァリストの横にアイザックは立った。
「さて、楽しませてもらおうか。生きているうちにな」
いつもの調子なアイザックの後ろには従卒がいた。だが、その顔は緊張のあまり蒼白になっていた。
「無駄口だな、中尉。彼を見習え」
急に声を掛けられた従卒は、驚いた顔でアイザックを見る。
「怒られたよ。大尉は怖いね」
陣地から勢いをつけて騎士隊が飛び出した。自分達の工兵が置いた障害物を、踊るように機械馬が避けていく。工学師《エンジニア》が作る自動機械《オートマタ》の精巧な動きは、滑るように馬と騎兵を進めていた。
障害物に取り付いていたバーンサイドの工兵達は、持ち場を飛び退くように離れ、元の対岸に向かって走る。しかしすぐに機械馬に追いつかれ、振り出した剣と馬体に押し潰され、ぼろ切れのように地面に転がった。
バーンサイドの獣騎兵達は、突撃してくる騎兵に対抗しようと必死に手綱を引き、拘束具を解こうとしていた。カービンを構えて馬を止め、獣の上に乗る獣騎兵を狙う。まだ50アルレ《75メートル》以上はあるかという距離だったが、揺れる標的をしっかりと捕らえ始めた。
ゆっくりと時間が進むのが感じられた。はっきりとエヴァリストは「端」に立ったことがわかった。力を使うときだ。眼の中で、照星の向こうに霞む獣騎兵達の『未来』が見えた。
揺れる銃口と未来の映像がシンクロしていた。獣騎兵の倒れる絵をしっかりと捉えた時、引き金を引いた。まるで一度時間が巻き戻ったかのように、起き上がった兵がまた倒れた。獣騎兵は獣の鞍からぶら下がるようにして息絶えた。
縦列になった獣に乗る残りの獣騎兵二人も、同じようにして倒していく。
「大尉、お見事です」
恐れていた巨獣が力を奪われるのを見て、興奮した様子で従卒が声を掛けてきた。立ち止まった自分と共に残っていたのだ。
「いいから前に進め。橋を渡りきってからが勝負だぞ」
従卒と共に一気に先陣に追いつく。巨獣の脇をすり抜けていく。拍子抜けするほどに『トーベア』は動かなかった。力なくぶら下がった獣騎兵の死体を一瞥すると、障壁器のある後方に向かう。
「これじゃただの荷馬ですね」
従卒が高揚した口調で叫ぶ。
障壁器の周りでは、先陣の部隊が足止めされていた。障壁器は戦の要のため、どんな場合でも防衛兵がついている。機銃掃射で馬を近づけないようにしている。
「どうした」
「うまく配置されてやがる。抜けれねえ」
アイザックが答える。
「時間が無い、二人で行くぞ」
アイザックはうなずく。
「私とアイザックに付いてこい。必ず機銃は仕留める」
左右から同時に飛び出せば、必ずどちらかは辿り着ける。ここで時間を取られれば対岸の本隊を仕留められず、犬死にとなる。
「行くぞ!」
声を掛け、同時に飛び出した。
機銃は一瞬の迷いの後にこちらに銃口を向けた。エヴァリストは機械馬を走らせながら体を伏せ、銃撃を待った。数発ならば機械馬は持ち堪えられるし、体幹に弾を受けなければ死にはしない。
銃撃音が響くと同時に激しい衝撃を受けた。機械馬がコントロールを失い、障壁器の手前で前のめりに倒れた。放り出され、地面に叩きつけられる。痛みは感じたが、後続に踏み潰されぬよう必死に顔をあげた。
うまく後続はエヴァリストを避けていく。防衛兵の機銃はアイザックが仕留めたようだった。
「大丈夫ですか!」
従卒が傍に来た。
「馬を替えましょう」
「いや、後ろに乗せてくれ」
幸い骨は折れていないようだった。失ったカービンを借り、機械馬の後ろに乗った。
障壁器を確保し、橋の三分の二を過ぎたところで、橋向こうから後続の装甲猟兵達が押し出てくるのが見えた。
訓練された装甲猟兵は騎兵にとって危険な存在だった。馬による蹂躙も、士気を保った装甲猟兵相手だと分が悪い。
エヴァリストは馬上から装甲猟兵の中隊長マークを背負った者を狙った。トリガーを引き絞る。シアが落ち、撃針が雷管を叩く。ガス圧によって加速された徹甲弾が空を進んでいく。
全ての感覚が繋がっていた。トリガーを引くことで弾が射出される道理と同じように、弾は確実に装甲猟兵のスリット状の眼孔に吸い込まれて行った。
前のめりに倒れていく中隊長。まだ敵は何が起こったのかに気付いていない。次弾を先頭の兵へと合わせようとしたとき、先を行くアイザックが視界に飛び込んできた。
馬を下りたアイザックは、体捌きによって眼前の敵を倒して行く。装甲猟兵のスピードでは全く追いつけない。敵の混乱は明らかだった。
前線に追いついたエヴァリストも馬を下り、アイザックと共に剣を振るう。ここでアイザックと共に装甲猟兵を引きつけ、他の隊員を先に行かせる。
後方にいた敵の部隊は、騎兵達が届くと潰走を始めた。自分達の兵力の支えであった巨獣と装甲猟兵の敗北を見て、恐怖したのだ。
アイザックはとどめの一撃を装甲猟兵の首へ叩き込んだ。
傍らで戦況を確認しつつ戦っていたエヴァリストは、勝利を確信した。損耗は激しかったが、得たいモノを得られた。
何も無い自分達が何かを得るためには、戦うしかない。
エヴァリストの決意は、血に塗れた戦場の中でも変わらなかった。
「—了—」
午後を過ぎて冷たい雪が降り始めていた。激しい砲撃を受けた地上は泥濘と化して、エヴァリストの足下を汚していた。
帝國の東方、バーンサイドとの国境沿いにある橋を挟んで、膠着状態が続いていた。
土塁の傍まで来てアイザックは囁いた。汚れた戦闘服は戦いの激しさを物語っていた。
「嵌められたな」
ただし、その顔には笑みが浮かんでいる。エヴァリストをからかっているかのような口調だった。
「知っていたさ。だから来た。何かを得たかったら犠牲は必要だ」
「……犠牲か。お前の部下たちは可哀想だな」
「お前だって私の部下だ」
「オレは好きなんでね、戦争が。楽しませてもらってる」
「これからもっと楽しくなるかもしれんぞ。見てみろ」
土塁の向こうをアイザックは乗り出して覗いた。
「わかるか?」
対岸の堤防側で、兵が慌ただしく行き来している様子が見える。
その装備は、今まで戦っていたバーンサイド軍のものとは明らかに異なっていた。
「援軍か?」
「インペローダの兵だ。戦獣をつれている」
エヴァリストはシドール将軍からの指令をアイザックにも伝えようと決心した。
「—帝都ファイドゥ—」
「私は不安なのだ」
酒杯を置いて、将軍は語る。
「我が軍には役人の様な軍人が多すぎる」
麾下の師団で頭角を現したエヴァリストを、シドール将軍は特別に目をかけていた。
「私は君をかっている。ヴァルツ大尉」
深い皺に囲まれた鋭い眼孔は、この小柄な将軍の威光の中心だった。
「特に軍人としてというより、戦士としての君をな」
将軍はグランデレニアの帝國軍にあって特別な人物だった。
曙光の時代が始まり、地上の多くが混沌から解放された時に、真っ先に軍を増強して帝國の版図を広げることを主張したのが彼だった。
多くの戦果を上げ、帝國の威信を大いに高めた。ただ、そのあまりに大きな成功がかえって帝國内での立場を危うくしていた。
ルビオナ王国との東部戦線では一進一退の状況が続き、軍内での政治力に陰りが出てきていた。
「生まれはどこかね。領内の生まれではないと聞いているが」
今までの会食は他の士官を交えて戦況や要望などを語り合う定型の場だったが、今日呼ばれたのはエヴァリストのみだった。
「フォレストヒルです。今はもう存在しません。子供の頃に『渦』に飲まれました」
エヴァリストは正直に話した。将軍の真意がわからない内には、駆け引きをする必要を感じなかったからだ。
「難民として帝國で育ち、十七の時に軍に志願しました」
「軍に志願した動機は?」
「自分の力を試すためです。何処までやれるのか知りたかったからです」
将軍はエヴァリストの目をじっと見つめていた。
「なるほど。自身の出自や環境はどう感じている?」
「自分を憐れむ気持ちはありません。感情は所詮行動に付随するものです。前進しているならば、拘泥する必要を感じません」
「面白い物言いだ。しかし前線指揮官としては頼もしい」
将軍は笑って酒杯をあおいだ。
「将軍、今日私をお呼びなった理由は何でしょうか?」
エヴァリストは直裁に切り出した。
「焦るな大尉。聞いてくれ」
「人生に目的は無い。どこの街に生まれようが、どんな家系に生まれようが、結局は死ぬ」
「しかし戦争は違う。何処で始まろうとも、必ず勝利という目的がある。そこを私は気に入っているのだ」
将軍は立ち上がり、壁に飾られた地図に向かう。
「戦線は日々拡大している。西にも東にも南にもな。そしてすべての戦場で我々は勝利する」
振り返った将軍の目には、独特の光が宿っていた。
この歪んだ意気こそが小柄な男を将軍にしているのだと、エヴァリストは感じた。
「そのためには新しい力が必要なのだ」
「ひとつ頼みを聞いてもらいたい。君のような男でないとできない、特別な仕事だ」
「—マイオッカ国境—」
朝が来た。夜明けと共に、対岸からゆっくりと戦獣三体が姿を現した。背の高さは3アルレ《4.5メートル》ぐらいだが、横にもそれぐらいの幅があり、肉塊の迫力はここからでも伝わってくる。
背にはインペローダの獣騎兵が乗っていた。突き出た口には拘束具が取り付けてあり、拘束具から延びた手綱を獣騎兵が握っている。昨日のうちに戦獣のタイプはわかっていた。昔は『トーベア』と呼ばれていたタイプだ。
歩くときは四本足で進むが、捕食時には立ち上がって前足を器用に使う。赤く甲羅のように厚い皮膚と、強力な治癒能力を持っている。確かに戦争にも役に立つタイプだ。
巨獣は障壁器を後ろに引きながら、ゆっくりと橋に向かう。と同時に背後からバーンサイドの工兵達が現れ、橋を渡り始めた。巨獣が引く障壁器の力で銃弾や砲撃の心配が無い。
工兵達はこちらが橋に仕掛けた地雷や障害物を取り除き始めた。
バーンサイドやインペローダにはテクノロジーを管理する『エンジニア』達との繋がりが弱く、こちらが使う自動機械や高性能な野砲などは持っていなかったが、防衛の為にどの都市にもあった障壁器の技術は残っているようだった。
騎士隊はすでに集まっていた。従卒が機械馬《オートホース》の傍に立ち、エヴァリストを待っていた。馬へ乗り、彼から騎兵銃《カービン》を受け取った後、薬室を確認してから鞍へと差した。従卒は自分の馬に乗り、他の隊員全てが騎乗した。
エヴァリストは剣を抜き、隊員に向かって叫ぶ。
「我が帝國軍の本隊は現時ルビオナと交戦中である。今、このマイオッカにその後陣を突こうとバーンサイド軍が侵攻してきた。これは暴挙である。しかもその背後には邪悪な獣をつれたインペローダがいることがわかった。ここで引き下がることはできない!」
「西方で戦う同胞のために!故国で待つ家族を守るために!インペローダの意気をここで葬る!」
「邪悪な獣を恐れるな、敗北の恥辱を恐れよ!」
隊員は声を上げ、顔をあげた。みな一様に緊張をしているが、その顔は戦いへの意欲を現していた。
「ゆくぞ!」
副長のアイザックが隊列を整えさせる。エヴァリストの横にアイザックは立った。
「さて、楽しませてもらおうか。生きているうちにな」
いつもの調子なアイザックの後ろには従卒がいた。だが、その顔は緊張のあまり蒼白になっていた。
「無駄口だな、中尉。彼を見習え」
急に声を掛けられた従卒は、驚いた顔でアイザックを見る。
「怒られたよ。大尉は怖いね」
陣地から勢いをつけて騎士隊が飛び出した。自分達の工兵が置いた障害物を、踊るように機械馬が避けていく。工学師《エンジニア》が作る自動機械《オートマタ》の精巧な動きは、滑るように馬と騎兵を進めていた。
障害物に取り付いていたバーンサイドの工兵達は、持ち場を飛び退くように離れ、元の対岸に向かって走る。しかしすぐに機械馬に追いつかれ、振り出した剣と馬体に押し潰され、ぼろ切れのように地面に転がった。
バーンサイドの獣騎兵達は、突撃してくる騎兵に対抗しようと必死に手綱を引き、拘束具を解こうとしていた。カービンを構えて馬を止め、獣の上に乗る獣騎兵を狙う。まだ50アルレ《75メートル》以上はあるかという距離だったが、揺れる標的をしっかりと捕らえ始めた。
ゆっくりと時間が進むのが感じられた。はっきりとエヴァリストは「端」に立ったことがわかった。力を使うときだ。眼の中で、照星の向こうに霞む獣騎兵達の『未来』が見えた。
揺れる銃口と未来の映像がシンクロしていた。獣騎兵の倒れる絵をしっかりと捉えた時、引き金を引いた。まるで一度時間が巻き戻ったかのように、起き上がった兵がまた倒れた。獣騎兵は獣の鞍からぶら下がるようにして息絶えた。
縦列になった獣に乗る残りの獣騎兵二人も、同じようにして倒していく。
「大尉、お見事です」
恐れていた巨獣が力を奪われるのを見て、興奮した様子で従卒が声を掛けてきた。立ち止まった自分と共に残っていたのだ。
「いいから前に進め。橋を渡りきってからが勝負だぞ」
従卒と共に一気に先陣に追いつく。巨獣の脇をすり抜けていく。拍子抜けするほどに『トーベア』は動かなかった。力なくぶら下がった獣騎兵の死体を一瞥すると、障壁器のある後方に向かう。
「これじゃただの荷馬ですね」
従卒が高揚した口調で叫ぶ。
障壁器の周りでは、先陣の部隊が足止めされていた。障壁器は戦の要のため、どんな場合でも防衛兵がついている。機銃掃射で馬を近づけないようにしている。
「どうした」
「うまく配置されてやがる。抜けれねえ」
アイザックが答える。
「時間が無い、二人で行くぞ」
アイザックはうなずく。
「私とアイザックに付いてこい。必ず機銃は仕留める」
左右から同時に飛び出せば、必ずどちらかは辿り着ける。ここで時間を取られれば対岸の本隊を仕留められず、犬死にとなる。
「行くぞ!」
声を掛け、同時に飛び出した。
機銃は一瞬の迷いの後にこちらに銃口を向けた。エヴァリストは機械馬を走らせながら体を伏せ、銃撃を待った。数発ならば機械馬は持ち堪えられるし、体幹に弾を受けなければ死にはしない。
銃撃音が響くと同時に激しい衝撃を受けた。機械馬がコントロールを失い、障壁器の手前で前のめりに倒れた。放り出され、地面に叩きつけられる。痛みは感じたが、後続に踏み潰されぬよう必死に顔をあげた。
うまく後続はエヴァリストを避けていく。防衛兵の機銃はアイザックが仕留めたようだった。
「大丈夫ですか!」
従卒が傍に来た。
「馬を替えましょう」
「いや、後ろに乗せてくれ」
幸い骨は折れていないようだった。失ったカービンを借り、機械馬の後ろに乗った。
障壁器を確保し、橋の三分の二を過ぎたところで、橋向こうから後続の装甲猟兵達が押し出てくるのが見えた。
訓練された装甲猟兵は騎兵にとって危険な存在だった。馬による蹂躙も、士気を保った装甲猟兵相手だと分が悪い。
エヴァリストは馬上から装甲猟兵の中隊長マークを背負った者を狙った。トリガーを引き絞る。シアが落ち、撃針が雷管を叩く。ガス圧によって加速された徹甲弾が空を進んでいく。
全ての感覚が繋がっていた。トリガーを引くことで弾が射出される道理と同じように、弾は確実に装甲猟兵のスリット状の眼孔に吸い込まれて行った。
前のめりに倒れていく中隊長。まだ敵は何が起こったのかに気付いていない。次弾を先頭の兵へと合わせようとしたとき、先を行くアイザックが視界に飛び込んできた。
馬を下りたアイザックは、体捌きによって眼前の敵を倒して行く。装甲猟兵のスピードでは全く追いつけない。敵の混乱は明らかだった。
前線に追いついたエヴァリストも馬を下り、アイザックと共に剣を振るう。ここでアイザックと共に装甲猟兵を引きつけ、他の隊員を先に行かせる。
後方にいた敵の部隊は、騎兵達が届くと潰走を始めた。自分達の兵力の支えであった巨獣と装甲猟兵の敗北を見て、恐怖したのだ。
アイザックはとどめの一撃を装甲猟兵の首へ叩き込んだ。
傍らで戦況を確認しつつ戦っていたエヴァリストは、勝利を確信した。損耗は激しかったが、得たいモノを得られた。
何も無い自分達が何かを得るためには、戦うしかない。
エヴァリストの決意は、血に塗れた戦場の中でも変わらなかった。
「—了—」