在陰暗潮濕的地下室裡,響著一陣陣細微的呻吟聲。
在那裡有一位男人被鎖鍊鎖著,全身上下有著大大小小的傷痕。
「這樣都不肯招嗎?」
「誰……要跟,你們這些……」
尤莉卡聽了之後,用與手掌差不多長度的細針往男人的肩上刺下去。
重覆好幾次後,地下室的門被打開了。
「情況如何?」
「看來他訓練有素。我判斷他不會接受我們的提案」
「真是愚蠢的男人。乖乖聽話的話,明明就可以毫無痛苦的死去」
來到地下室的克洛維斯看著那奄奄一息的男人,不愉快地說道。
「話說,你特地來到這裡是有什麼事嗎?」
「有件事想讓妳去做。本來是不打算麻煩妳的,但是我無法放心交給妳以外的人」
「是嗎。那麼,這男人的處置就交給你了」
「我知道了。詳細內容等等再說明給妳聽」
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尤莉卡前往距離米利加迪亞以西約12里克遠的地方。
那邊是沒有受到米利加迪亞及古朗德利尼亞帝國障壁的恩惠,荒蠻廢境的其中一個,被渦影響相當深的地區。
尤莉卡拜訪了那個地區的某間古老聖堂。
「米利加迪亞的僧侶大人,您怎麼會到這種地方來?」
「聽說這裡的聖堂供奉著有關生命之神的書籍,特別到此巡禮的」
「這樣啊。那麼,奉勸您看完後盡快離開這裡會比較好」
「怎麼了嗎?這裡發生什麼事了嗎?」
「這個地區罹患古爾德病的患者很多。雖然您是有神明加護的僧侶大人,長時間在此地滯留的話也……」
古爾德病是未受到障壁恩惠的荒野中,會染上的一種致死性的風土病。目前尚未發現有效的治療方法和特效藥,一旦罹患後就只能等死而已。
「這樣啊……。那您一定受了不少苦吧」
「這一帶也沒有醫院。僧侶大人,請您還是把這裡的事給忘了,繼續您的巡禮吧」
尤莉卡與聖堂的管理者交談沒多久後便外出了。在外頭有身穿著僧服的數位女性在等著。
「您認為如何呢?」
「就選這裡吧。各位,請開始準備」
「遵命」
女性們深深一鞠躬後,便快速離開。
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大約過了半個月,尤莉卡再次造訪那個聖堂。
「喔喔,僧侶大人。發生什麼事了嗎?」
「為了建設拯救這個地區人們的設施,特地來向您打聲招呼的」
聖堂的管理者睜大了雙眼。
「怎麼!?不對,但是僧侶大人。以前也跟您提過了這裡是……」
「生命之神對不管是罹患什麼病的患者都不會遺棄他們的。我受到生命之神的陶冶,再次回到這裡」
尤莉卡緊握著管理者的雙手,傳達出充滿慈愛的字句。
經過諸多準備,大約花了半年的時間,尤莉卡在距離聖堂不遠的地方創立了一棟中規模的醫療設施。
在這個沒有障壁,規模連村落都算不上的這個地區,尤莉卡的醫療設施受到盛大的歡迎。
從小傷、感冒、包括古爾德病,這個設施接受了各式各樣的患者。
也因為願意醫治一般連醫生都會放棄的古爾德病,所以連距離10里克之遠的病患都遠道而來。
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尤莉卡在辦公室看著數量龐大的文件。每天仔細看患者的病歷表並加以分類。
被分類出來的主要是罹患古爾德病的患者,與其他病患分開,並統一整理起來。
「尤莉卡大人,已經確認97號的腦活動停止。另外,同寢室的108號情況突變,預計在數天後腦活動也會停止」
「知道了。準備搬運101號及97號的事就拜託你們了」
即使聽到患者的情況,尤莉卡也只是不動聲色地,淡然的下了指示。
「有數名暴風駕馭者來探訪101號,該如何處理呢?」
「古爾德病是因為免疫力低才會得到傳染病,所以必須隔離,就這樣轉達吧。搬運後死亡埋葬的話,他們也無可奈何了」
「遵命」
目前尤莉卡的任務是分辨出古爾德病的末期患者,將他們送到組織的人體實驗設施去。
正因為古爾德病的致死性與完全沒有治療的方法,得病的人都會被拋棄。到最後也只能等死。
組織就是利用那一點,將古爾德病患者作為實驗材料積極地回收著。
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從那天後過了沒多久的某天深夜,已經沒有探病的客人,恢復寧靜的醫療設施裡,有一輛大型馬車從設施中出來。
「那麼,就拜託了。雖然是古爾德病的患者,但這可是重要的材料」
「是的。一切都是為了實現大善世界」
「一切都是為了偉大的首領,古斯塔夫大人的復活」
目送著馬車往米利加迪亞的方向離開,尤莉卡正打算回醫療設施。
就在那時,聽到了與馬車離開的另一方向有什麼踩在草地上的聲音。雖然聲音細微,但也逃不過尤莉卡的耳朵。
尤莉卡轉向那發出聲音的方向,看到有人逃走。
「……看來必須加強警戒」
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隔天中午,有位暴風駕馭者要求要見被尤莉卡他們稱為101號的人物。
儘管告訴他們101號因為感染症正在隔離中,他們還是每隔三天就來要求探視。
「你們這些傢伙!把吉恩帶到哪裡去了!」
這位暴風駕馭者是與101號−−吉恩−−一起做運輸業的男人,聲稱是他的朋友。
「請保持安靜。您的朋友併發了感染症,就那樣過世了」
尤莉卡作為負責人,以嚴肅的態度告知這位暴風駕馭者。
「休想騙我!我可是知道你們這些人每晚都把入院的病患運到某處去!」
正在櫃台等待治療的人們一陣喧嘩。
「並沒有那種事。請不要亂說,讓來接受治療的各位陷入恐慌」
「那就讓我見吉恩!如果真的死了,至少要讓我辦場葬禮!!」
「非常抱歉。吉恩大人所罹患的感染症擁有相當強的傳染力,所以已經由我們進行了埋葬」
「別開玩笑了!!」
暴風駕馭者跪倒在地。尤莉卡蹲在那個男人的旁邊,扶他起來。
「這次的事我們也深感痛心。阿爾絲,帶他去墓地」
將暴風駕馭者托付給旁邊負責看護的女性僧侶後,尤莉卡就開始一一安撫在櫃台附近的人們。
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夜晚,尤莉卡來到離設施有一些距離的墓地。
偽裝成埋葬101號的這個地方,有數名人影。土地被翻開來,將埋著的棺材打開。
「果然沒錯,吉恩才不會死」
「抱歉我們之前懷疑你」
「但是,那吉恩被帶去哪裡了?他不在那個設施對吧?」
「尤莉卡那傢伙一定知道」
「要怎麼查?」
尤莉卡不發出任何聲響走近到男子們的背後。男子們的視線集中在墓穴中,沒有發現尤莉卡。
「嘎!!」
集中精神在對話的男子們之中有一位發出叫聲。剩下的兩人看到的是,從男子的腹部伸出了一隻染血的女性手腕。
「什麼!?」
「怎麼回事!」
男子的背後站著尤莉卡。剩下的兩人無法應對這突如其來的展開。
「太慢了」
尤莉卡向狼狽的男子們說完後,就將手從腹部拔出,將那男子往旁邊一丟。
「你這傢伙!」
在設施吵鬧的那位男子漸漸掌握現況,向尤莉卡扔出了手榴彈。尤莉卡用單手將其接下,但是立刻爆炸了。
「太棒了!」
男子發出堅信自己勝利的呼聲。
「等下,還沒有!唔啊!」
「這種程度,不成問題」
在煙還沒被風吹散之前,尤莉卡的手就刺穿了向她丟手榴彈的男子胸膛。
尤莉卡的手腕與臉都因為手榴彈的爆炸而被炸爛了,但是代替骨頭與肉,底下似乎露出了什麼金屬質的東西。
「怎麼會……!!你到底,是什麼人!!」
最後一位男子話還沒說完,尤莉卡就舉起沉重的棺材,朝男子的腦部砸了下去。
|
在墓地恢復沉默之後,尤莉卡喚來夜間值勤的女性僧侶。
「發生什麼事了嗎?您的樣子……」
「不用管我。比起這事,暴風駕馭者打算調查我們的事」
「這些屍體就是他們嗎」
「嗯。材料的數量也足夠了,差不多是收手的時候了」
尤莉卡看了看那虛實的墓碑後淡然說道,將暴風駕馭者們的屍體處理托付給手下後就離開那個地方了。
|
「−完−」
3312年 「蝕」
暗く湿った地下の部屋に、くぐもった呻き声が響いていた。
そこには男が鎖で繋がれており、全身に大小様々な傷を負っている。
「これでもまだ話す気はありませんか」
「だ……れが、お前たちに……」
ユーリカはそれを聞くと、掌ほどの長さがある細い針で男の肩を刺した。
何度かそれを繰り返していると、地下の部屋の扉が開いた。
「様子はどうだい?」
「よく訓練されています。こちらの提案に乗ることはないと判断してよろしいかと」
「愚かな男だ。素直に従えば、苦痛なく死ねたものを」
部屋に入ってきたクロヴィスは虫の息の男を見て、吐き捨てるように言った。
「ところで、この様な場所まで何をしに?」
「少々やってもらいたいことがあってね。本来なら貴女の手を煩わせるものではないが、貴女以外に任せられそうにない」
「そうですか。では、この男の処分はお任せします」
「わかった。仔細はあとで説明しよう」
ユーリカはミリガディアから西に12リーグほど離れた場所に来ていた。
そこはミリガディアやグランデレニア帝國の障壁の恩恵が届かないサベッジランドの一つであり、渦の影響が色濃い地域であった。
ユーリカはその地域にある古びた聖堂を訪ねていた。
「ミリガディアの僧侶様が、何故この様な所に?」
「こちらの聖堂に命の神にまつわる書物が祀られている聞き、巡礼に参りました」
「そうでしたか。でしたら、書物の閲覧が終わったら早々にお発ちになられるのがよろしいでしょう」
「どうしてまた。何か理由でもおありなのですか」
「この地域にはグールド病を患う者が多いのです。いかに命の神の加護がある僧侶様とはいえ、長く滞在すれば……」
グールド病は障壁の恩恵を受けられない荒野で発症する致死性の風土病である。有効な治療法や薬は無く、一度患ったが最後、死を待つしかないのが現状であった。
「まあ……。それはご苦労されていることでしょう」
「ここら一帯には病院もございません。僧侶様、どうかここの事は忘れて巡礼をお続けください」
ユーリカは聖堂の管理者とひとしきり会話を交わすと外へ出た。外では僧服を纏った数人の女性が待っていた。
「いかがでしたか?」
「この場所が良いでしょう。皆さん、準備を」
「承知しました」
女性達は一礼すると、足早に去っていった。
半月ほどして、ユーリカは再びあの聖堂を訪れていた。
「おお、僧侶様。どうなされましたか?」
「この地域の皆様を救う施設を作るため、そのご挨拶に参りました」
聖堂の管理者は目を見開いた。
「なんと。いや、ですが僧侶様。以前も申し上げました通りここは……」
「命の神はどの様な病に罹った者でも決して見捨てることはありません。私は命の神から陶冶を授かり、再びここへ舞い戻ったのでございます」
ユーリカは管理者の手をしっかりと握り、慈愛に満ちた言葉を伝えた。
諸々の手筈を整えると、それから半年ほど掛けて、ユーリカは聖堂から少し離れた場所に中規模の医療施設を作り上げた。
障壁が無いために集落としての体裁を成せないこの地域で、ユーリカの医療施設は盛大な歓迎を受けた。
小さな怪我から風邪、そしてグールド病に至るまで、この施設は様々な患者を受け入れていた。
普通であれば医者にさえも見捨てられてしまうグールド病の治療を施してもらえるということで、10リーグ離れた場所からわざわざ訪ねる患者もいるほどであった。
ユーリカは執務室で膨大な数の書類を見ていた。毎日のように運ばれてくる患者のカルテを見て仕分けを行う。
仕分けされるのは主にグールド病に罹患した人達の物で、それは他の患者の物とは別に、詳細がまとめられていた。
「ユーリカ様、97号の脳活動停止を確認しました。それと同室の108号の容態が急変、あと数日で脳活動も停止する見込みです」
「わかりました。101号と97号の搬送の準備をお願いします」
患者の容態を聞いても、ユーリカは眉一つ動かすことなく淡々と指示を出す。
「101号は見舞いに訪れるストームライダーが数人おりますが、いかがしますか?」
「グールド病由来の免疫低下で感染症に罹患したため隔離した、と伝えてください。搬送後は死亡し埋葬したことにすれば、彼らも手出しできないでしょう」
「承知しました」
現在のユーリカの任務は、グールド病の末期患者を見繕って組織の人体実験施設に収容することであった。
グールド病はその致死性と治療の手立てが全く無いことから、罹患した者はすべからく見捨てられる。患ったが最後、ただ死を待つだけなのだ。
組織はそれを利用し、実験材料としてグールド病患者を積極的に回収しているのだった。
それから暫く経ったある日の深夜、見舞いの客もいなくなって静まり返った医療施設の裏から、大型の馬車が出てきた。
「では、よろしくお願いします。グールド病の患者とはいえ、大事な献体です」
「はい。全ては大善世界の実現のために」
「全ては偉大な首領、ギュスターヴ様の復活のために」
馬車がミリガディアの方角へと走っていくのを見送ると、ユーリカは医療施設の中へと入っていこうとした。
その時、馬車が去っていった方角とは別の方向から草を踏むような音が聞こえた。微かな音だったが、ユーリカの耳は確かにそれを捉えていた。
ユーリカが音のした方向に向かうとすると、何者かが逃げていくのが見えた。
「……警戒を強める必要がありそうですね」
次の日の昼、ユーリカ達が101号と呼称していた人物に面会を求めるストームライダーが現れた。
101号は感染症で隔離していると説明していたにも関わらず、三日と間を置かずに見舞いに訪れていた人物であった。
「お前ら! ジンをどこに連れて行った!」
このストームライダーは101号——ジン——と共に荒野で輸送業を営む男であり、友人であると名乗っていた。
「お静かに願います。あなたのご友人は感染症を併発し、それが原因で息を引き取られました」
ユーリカは責任者として、粛々とした態度でこのストームライダーに対応した。
「嘘を吐くな! 俺はお前らが夜な夜な入院患者をどこかに運んでいる事を知ってるんだぞ!」
施設の受付で治療を待つ人達がざわついた。
「そのような事実はございません。いたずらに治療を受けている方々を不安に陥れるのはおやめください」
「じゃあジンと会わせろ! 本当に死んでるって言うんなら、葬式くらいは!!」
「申し訳ございません。ジン様が患った感染症は非常に強い感染力を持っていたので、こちらで然るべき処置をして埋葬を行いました」
「ふざけるな!!」
ストームライダーは床に崩れ落ちてしまった。ユーリカはその男の傍に屈むと、体を支えるように起こした。
「この度の事、私達も大変心苦しく思っております。アルス、彼を墓地へ」
傍にいた看護担当の女性僧侶にストームライダーを任せると、ユーリカは受付付近で騒然としていた人々に謝罪に回るのだった。
夜も更けた頃、ユーリカは施設から少し離れたところにある墓地を訪れていた。
101号を埋葬したと偽った場所に、数人の影があるのが見えた。土が掘り返され、埋めておいた棺の蓋が開いている。
「やっぱりそうだ。ジンは死んだりしてない」
「疑って悪かったな」
「しかし、ジンはどこに連れて行かれたんだ? あの施設にはいなかったんだろ」
「ユーリカとかいう奴が知ってるに違いない」
「どうやって調べる?」
ユーリカは足音を立てずに男達の背後に迫った。墓穴に視線が集中していた男達はユーリカに気が付かない。
「がっ!!」
会話に必死だった男達の一人から鋭い呻き声が漏れた。残った二人には、男の腹部から血に塗れた女の腕が生えているのが見えた。
「なんだ!?」
「どうなってる!」
男の背後にユーリカが立っている。残りの二人は突然のことに対処できずにいた。
「遅い」
狼狽する男達にユーリカは告げると、腹部を貫いた腕を抜き、その男の体を無造作に投げ捨てた。
「貴様ぁ!」
施設で騒ぎを起こした男が漸く事態を把握し、ユーリカに向かって手榴弾を投げつけた。ユーリカはそれを片手で受け止めたが、間を置かずに爆発する。
「よし!」
男の勝利を確信した声が響く。
「待て、まだだ! ぐぁ!」
「この程度、問題はありません」
煙が風で流されるよりも前に、ユーリカの腕が手榴弾を投げ付けた男の胸を刺し貫いた。
ユーリカの腕と顔は手榴弾の爆発により焼け爛れていたが、骨や肉の代わりに金属質の何かが露出していた。
「そんな……!! お前、何者な!!」
最後に残った男が言葉を言い終わる前に、ユーリカは重たい棺を男の脳天に振り下ろしていた。
全てが沈黙した墓地に、ユーリカは夜詰めの女性僧侶を呼び出した。
「どうかなさいましたか? そのお姿は……」
「私のことに構う必要はありません。それより、ストームライダーが我々のことを探ろうとしていました」
「この死体がそれであると」
「ええ。献体の数も要求数は集まっていますし、そろそろ潮時かも知れません」
ユーリカは墓地に建てられた主のいない墓標を見回して淡々と言うと、ストームライダー達の死体の処理を任せてその場を立ち去った。
「—了—」
暗く湿った地下の部屋に、くぐもった呻き声が響いていた。
そこには男が鎖で繋がれており、全身に大小様々な傷を負っている。
「これでもまだ話す気はありませんか」
「だ……れが、お前たちに……」
ユーリカはそれを聞くと、掌ほどの長さがある細い針で男の肩を刺した。
何度かそれを繰り返していると、地下の部屋の扉が開いた。
「様子はどうだい?」
「よく訓練されています。こちらの提案に乗ることはないと判断してよろしいかと」
「愚かな男だ。素直に従えば、苦痛なく死ねたものを」
部屋に入ってきたクロヴィスは虫の息の男を見て、吐き捨てるように言った。
「ところで、この様な場所まで何をしに?」
「少々やってもらいたいことがあってね。本来なら貴女の手を煩わせるものではないが、貴女以外に任せられそうにない」
「そうですか。では、この男の処分はお任せします」
「わかった。仔細はあとで説明しよう」
ユーリカはミリガディアから西に12リーグほど離れた場所に来ていた。
そこはミリガディアやグランデレニア帝國の障壁の恩恵が届かないサベッジランドの一つであり、渦の影響が色濃い地域であった。
ユーリカはその地域にある古びた聖堂を訪ねていた。
「ミリガディアの僧侶様が、何故この様な所に?」
「こちらの聖堂に命の神にまつわる書物が祀られている聞き、巡礼に参りました」
「そうでしたか。でしたら、書物の閲覧が終わったら早々にお発ちになられるのがよろしいでしょう」
「どうしてまた。何か理由でもおありなのですか」
「この地域にはグールド病を患う者が多いのです。いかに命の神の加護がある僧侶様とはいえ、長く滞在すれば……」
グールド病は障壁の恩恵を受けられない荒野で発症する致死性の風土病である。有効な治療法や薬は無く、一度患ったが最後、死を待つしかないのが現状であった。
「まあ……。それはご苦労されていることでしょう」
「ここら一帯には病院もございません。僧侶様、どうかここの事は忘れて巡礼をお続けください」
ユーリカは聖堂の管理者とひとしきり会話を交わすと外へ出た。外では僧服を纏った数人の女性が待っていた。
「いかがでしたか?」
「この場所が良いでしょう。皆さん、準備を」
「承知しました」
女性達は一礼すると、足早に去っていった。
半月ほどして、ユーリカは再びあの聖堂を訪れていた。
「おお、僧侶様。どうなされましたか?」
「この地域の皆様を救う施設を作るため、そのご挨拶に参りました」
聖堂の管理者は目を見開いた。
「なんと。いや、ですが僧侶様。以前も申し上げました通りここは……」
「命の神はどの様な病に罹った者でも決して見捨てることはありません。私は命の神から陶冶を授かり、再びここへ舞い戻ったのでございます」
ユーリカは管理者の手をしっかりと握り、慈愛に満ちた言葉を伝えた。
諸々の手筈を整えると、それから半年ほど掛けて、ユーリカは聖堂から少し離れた場所に中規模の医療施設を作り上げた。
障壁が無いために集落としての体裁を成せないこの地域で、ユーリカの医療施設は盛大な歓迎を受けた。
小さな怪我から風邪、そしてグールド病に至るまで、この施設は様々な患者を受け入れていた。
普通であれば医者にさえも見捨てられてしまうグールド病の治療を施してもらえるということで、10リーグ離れた場所からわざわざ訪ねる患者もいるほどであった。
ユーリカは執務室で膨大な数の書類を見ていた。毎日のように運ばれてくる患者のカルテを見て仕分けを行う。
仕分けされるのは主にグールド病に罹患した人達の物で、それは他の患者の物とは別に、詳細がまとめられていた。
「ユーリカ様、97号の脳活動停止を確認しました。それと同室の108号の容態が急変、あと数日で脳活動も停止する見込みです」
「わかりました。101号と97号の搬送の準備をお願いします」
患者の容態を聞いても、ユーリカは眉一つ動かすことなく淡々と指示を出す。
「101号は見舞いに訪れるストームライダーが数人おりますが、いかがしますか?」
「グールド病由来の免疫低下で感染症に罹患したため隔離した、と伝えてください。搬送後は死亡し埋葬したことにすれば、彼らも手出しできないでしょう」
「承知しました」
現在のユーリカの任務は、グールド病の末期患者を見繕って組織の人体実験施設に収容することであった。
グールド病はその致死性と治療の手立てが全く無いことから、罹患した者はすべからく見捨てられる。患ったが最後、ただ死を待つだけなのだ。
組織はそれを利用し、実験材料としてグールド病患者を積極的に回収しているのだった。
それから暫く経ったある日の深夜、見舞いの客もいなくなって静まり返った医療施設の裏から、大型の馬車が出てきた。
「では、よろしくお願いします。グールド病の患者とはいえ、大事な献体です」
「はい。全ては大善世界の実現のために」
「全ては偉大な首領、ギュスターヴ様の復活のために」
馬車がミリガディアの方角へと走っていくのを見送ると、ユーリカは医療施設の中へと入っていこうとした。
その時、馬車が去っていった方角とは別の方向から草を踏むような音が聞こえた。微かな音だったが、ユーリカの耳は確かにそれを捉えていた。
ユーリカが音のした方向に向かうとすると、何者かが逃げていくのが見えた。
「……警戒を強める必要がありそうですね」
次の日の昼、ユーリカ達が101号と呼称していた人物に面会を求めるストームライダーが現れた。
101号は感染症で隔離していると説明していたにも関わらず、三日と間を置かずに見舞いに訪れていた人物であった。
「お前ら! ジンをどこに連れて行った!」
このストームライダーは101号——ジン——と共に荒野で輸送業を営む男であり、友人であると名乗っていた。
「お静かに願います。あなたのご友人は感染症を併発し、それが原因で息を引き取られました」
ユーリカは責任者として、粛々とした態度でこのストームライダーに対応した。
「嘘を吐くな! 俺はお前らが夜な夜な入院患者をどこかに運んでいる事を知ってるんだぞ!」
施設の受付で治療を待つ人達がざわついた。
「そのような事実はございません。いたずらに治療を受けている方々を不安に陥れるのはおやめください」
「じゃあジンと会わせろ! 本当に死んでるって言うんなら、葬式くらいは!!」
「申し訳ございません。ジン様が患った感染症は非常に強い感染力を持っていたので、こちらで然るべき処置をして埋葬を行いました」
「ふざけるな!!」
ストームライダーは床に崩れ落ちてしまった。ユーリカはその男の傍に屈むと、体を支えるように起こした。
「この度の事、私達も大変心苦しく思っております。アルス、彼を墓地へ」
傍にいた看護担当の女性僧侶にストームライダーを任せると、ユーリカは受付付近で騒然としていた人々に謝罪に回るのだった。
夜も更けた頃、ユーリカは施設から少し離れたところにある墓地を訪れていた。
101号を埋葬したと偽った場所に、数人の影があるのが見えた。土が掘り返され、埋めておいた棺の蓋が開いている。
「やっぱりそうだ。ジンは死んだりしてない」
「疑って悪かったな」
「しかし、ジンはどこに連れて行かれたんだ? あの施設にはいなかったんだろ」
「ユーリカとかいう奴が知ってるに違いない」
「どうやって調べる?」
ユーリカは足音を立てずに男達の背後に迫った。墓穴に視線が集中していた男達はユーリカに気が付かない。
「がっ!!」
会話に必死だった男達の一人から鋭い呻き声が漏れた。残った二人には、男の腹部から血に塗れた女の腕が生えているのが見えた。
「なんだ!?」
「どうなってる!」
男の背後にユーリカが立っている。残りの二人は突然のことに対処できずにいた。
「遅い」
狼狽する男達にユーリカは告げると、腹部を貫いた腕を抜き、その男の体を無造作に投げ捨てた。
「貴様ぁ!」
施設で騒ぎを起こした男が漸く事態を把握し、ユーリカに向かって手榴弾を投げつけた。ユーリカはそれを片手で受け止めたが、間を置かずに爆発する。
「よし!」
男の勝利を確信した声が響く。
「待て、まだだ! ぐぁ!」
「この程度、問題はありません」
煙が風で流されるよりも前に、ユーリカの腕が手榴弾を投げ付けた男の胸を刺し貫いた。
ユーリカの腕と顔は手榴弾の爆発により焼け爛れていたが、骨や肉の代わりに金属質の何かが露出していた。
「そんな……!! お前、何者な!!」
最後に残った男が言葉を言い終わる前に、ユーリカは重たい棺を男の脳天に振り下ろしていた。
全てが沈黙した墓地に、ユーリカは夜詰めの女性僧侶を呼び出した。
「どうかなさいましたか? そのお姿は……」
「私のことに構う必要はありません。それより、ストームライダーが我々のことを探ろうとしていました」
「この死体がそれであると」
「ええ。献体の数も要求数は集まっていますし、そろそろ潮時かも知れません」
ユーリカは墓地に建てられた主のいない墓標を見回して淡々と言うと、ストームライダー達の死体の処理を任せてその場を立ち去った。
「—了—」