連隊設施地下的下水道裡瀰漫著一股濃霧,讓人感到陰森不舒服。
混雜著流水聲,可聽到從設施的方向傳來腳步聲。
同時,工程師謹製像手錶的機械上,小小的燈開始閃爍。是出葉傳來的信號。也就是說,差不多要過來這邊了。
看了那個信號的本大爺我,舉起了殺傷力較低的電擊步槍。裝填了在擊中時會釋放出弱電流的電擊彈。
腳步聲變大。舉起電擊步槍,解除了安全裝置後朝向狹窄的維修用道路走進去。
從出葉所在地點到這邊只有這一條通道,且本大爺的10阿爾雷前方有通往外頭的梯子。
然後再走出去就是設施外了。是連隊司令部的感轄外。想要跳過麻煩得要死的手續及許可外出的話,只有這一個方法。
雖然連隊旁的出入口有司令部在管理,但這是下水道啊。為了排出各處的雨水或溶化的雪之類所開的洞。這些洞大到有時訓練所的廣場上有人差點掉下去,偶爾會有不守規矩的傢伙從那裡進到這個下水道。能到連隊設施外面的只有這條通路,所以打算通過的傢伙一定會走來這狹小的維修用道路。
逼近的腳步聲,以及越來越濃的霧。
「好了,到此為止。不能讓你再前進了」
腳步聲停止。是被本大爺嚇到了嗎,就連與地面接觸的聲音也聽不見了。
「別動喔,要是動了我就得開槍了」
本大爺將電擊步槍的槍口邊瞄準腳步聲的方向邊移動。
再次聽到了腳步聲,漸漸往本大爺靠近。既然無視警告那本大爺也沒辦法了。使用電擊步槍射擊,由於在霧中視線不良,只能隨便射。
總之,只能祈禱別擊中出葉。
對方對槍聲毫不畏懼地逼近過來。正這樣想的瞬間,那腳步聲往本大爺的背後移動了。一轉頭,就看見體格強壯的男子的身影跑走。
「出葉!」
「我知道」
濃霧像回應本大爺話般散去,同時間出葉出現在男子的眼前。
「什!?」
嚇得目瞪口呆的男人,因為出葉的電磁槍一擊而變得老實。
出葉所使用的槍的是特製品。雖然沒有殺傷力,但從槍頭發出的電流能讓對手完全無法行動。
將受到電擊無法行動的男子綁起來,並在他額頭貼上工程師謹製可以抑制聖騎士力量的封條。
「呼,結束了結束了」
「放……開我!」
即使遭受到電擊,男子仍奮力掙扎。不愧是身經百戰的戰士,雖然受到那樣的攻擊,卻沒有因此昏迷。
「不行不行。要是在這裡放了你的話,本大爺可是會被罵的啊」
「可惡……可惡!」
氣憤的男子名叫阿斯卡姆。所屬B中隊,擁有短距離瞬間移動的能力。剛才能夠穿越過本大爺應該是使用那個能力吧。資料上好像有寫他在《渦》的核心回收點被要塞化時發揮了極大的作用之類的吧。
不過他卻沉溺於力量中,好像是每次休假時都跑去都市,用這個力量犯下多種罪行。
突然間出手變得闊綽,是誰都會感到奇怪的吧。
結果,司令部馬上發現並把他關起來,雖然禁閉解除了,卻好像開始利用這下水道的溜出去好多次的樣子。
變成這樣就沒辦法了,結果本大爺們就接到了逮捕阿斯卡姆的命令。
為什麼本大爺會這麼不確定這些消息的正確性,是因為本大爺和出葉到接到逮捕令為止,也沒有直接聽說過他之前發生的事。頂多拿到些資料而已。
「好了,走囉」
被出葉拉起的阿斯卡姆,老實地走回剛才過來的路。
要是被電擊而麻痺又再加上無法使用聖騎士的力量的話,當然也只能老實順從啊。就算本大爺我也是為這樣。
|
進到下水道的連隊設施旁的出入口之後,有一個小房間。
裡面大約是像會議室的大小,擺放了執勤用的簡易桌椅。
就算在連隊中也只有本大爺和出葉,以及米爾格倫副隊長知道這間房間的存在。
|
「米爾格倫副隊長,抓到阿斯卡姆了」
「這樣啊,我知道了」
出葉向在裡面的米爾格倫副隊長報告。
透過束縛的繩索,本大爺知道阿斯卡姆變得僵硬。隨著米爾格倫副隊長的出現,想必自己也知道之後將會受到什麼處份了吧。
米爾格倫副隊長不曉得開始跟誰通話。通話結束之後馬上有身穿看起來行動不太方便的紅色衣服男子們進來。
聽說是從連隊主要出資者,導都潘德莫尼來的使者。為了除去像他這種不斷犯罪的戰士身上的聖騎士力量,會將他帶回潘德莫尼。
「那麼,就麻煩你們了」
身穿紅色衣服的男子們不發一語地從本大爺手中拿走了束縛著阿斯卡姆的繩子。
「米爾格倫副隊長!我不會再犯了!」
「那句話在監禁時已經聽過很多次了」
「不、不要……。救救我,求求你!喂,你們也幫我說說話嘛!!」
本大爺和出葉互看了一眼後,看向膽小害怕模樣的阿斯卡姆後聳聳肩。
「那是不可能的」
「同迪諾」
雖然本大爺們看似冷血無情,但是他已經多次收到司令部的忠告,還被監禁過了,卻還不懂得要改過向善的話,是自作自受。事到如今才來請求幫助,這如意算盤也打得太好了。至少本大爺是這樣想的。出葉的反應看起來,應該是跟本大爺一樣吧。
紅衣男子們不顧叫喊著的阿斯卡姆,不發一語地將那傢伙給拉出了房間外。
阿斯卡姆「原諒我吧!」、「不要!」的叫喊聲,很快就聽不到了。
「你們,辛苦了。今天可以就這樣回去了」
說完之後,米爾格倫副隊長長嘆了長長的一口氣。看見這樣的米爾格倫副隊長已經不知道是第幾次了。
看見為了想要拯救世界而聚集過來的伙伴們,在覺醒了聖騎士力量之後沉溺於力量中而無法自拔,應該很難過吧。
特別是米爾格倫副隊長身為史達林連隊長的副官,也就是從連隊初期就在的人,比誰都對連隊有深切的情感。
本大爺與出葉留下臉色不悅的米爾格倫副隊長,回到被分配的房間去了。
|
在那之後沒多久,又逮捕多次犯罪的戰士回到那小房間時,在那裡除了米爾格倫副隊長,還有D中隊的米利安中隊長。
「咦?怎麼了,米利安中隊長」
「米爾格倫副隊長要暫時代理史達林大佐率領連隊了」
史達林大佐已經離開好幾個月了,終於到這個時候了。米爾格倫副隊長應該就會這樣接任連隊長的位子了吧。這樣一來,也就無暇指揮這裡的任務。會有別的人來負責也是當然的。
「所以今後,你們將在我的指揮下進行任務」
「任務的內容有改變嗎?」
「基本上沒有改變。就照著至今為止的方式的執行就好」
「明白了。米利安中隊長,今後請多多指教」
「麻煩了」
本大爺與出葉同時向米利安中隊長鞠了個躬。
|
換成米利安中隊長來指揮後,本大爺我們做的事沒有改變。
但是經過了幾個月後,漸漸地沒再見到紅衣服男子們的身影了。取而代之的,是高級工程師拉姆這種偉大人物跟他的部下。
這回換成是拉姆的部下們,不知道將逮捕到的戰士帶往哪裡去。
「那個,米利安中隊長。這小子是會被帶到哪裡啊?」
「喂……不,其實我也想知道。米利安中隊長」
突然有了這樣的想法,本大爺向米利安中隊長詢問道。出葉好像也一樣。
「……要帶去潘德莫尼的設施。會在那裡接受特殊的矯正課程」
米利安中隊長生硬的回答道。
「有可能矯正嗎?之前逮捕到的傢伙一個也沒回來過啊」
被紅衣伙伴帶走的戰士們,沒有回來。聽說聖騎士力量被廢除掉後就被放逐到某處去了。
「這你們不需要知道,潘德莫尼轉換方針也是常有的事」
在米利安中隊長想說什麼之前,拉姆回答道。拉姆說的沒錯,但還是有種不協調的感覺。
「拉姆技官說的沒錯,你們不需要擔心這個」
兩人使用的言詞雖然算溫和,但是卻有種奇怪的強制力。感覺像是對本大爺們說,你們就閉嘴去做就對了。
「這樣啊,那就好」
「問了奇怪的事,那就沒問題了」
「你們能理解就好,那就沒問題了」
「你們也累了吧,今天已經可以回去了」
在拉姆與中隊長的催促之下,本大爺們就回去了。
|
「那個,出葉」
回到居住區休息一會兒後,本大爺把想到的事向出葉問道。
「什麼事」
「本大爺們,做這個任務多久了?」
「二……不,已經三年了」
「已經做那麼久了,會這麼突然改變方針嗎?」
「不知道。但是,我們只能遵從命令」
「……嗯,畢竟也沒有地方可以回去」
就算離開連隊,本大爺跟出葉大概也只能流浪於街頭吧。
出葉故鄉的村子因《渦》而消失了,本大爺老家也才剛經過革命亂七八糟的,並不太是可以回去的狀態。
更何況,米爾格倫副隊長在E中隊發生那種事的時候,對本大爺有過救命之恩。
|
現在這個狀況已經算好了。
本大爺將米利安中隊長跟拉姆給的那種不協調感丟到腦後,為了下次任務而開始整備武器。
|
「完」
3384年 「任務と違和感」
連隊施設地下の下水道には霧が漂っていて、陰気な感じだった。
水が流れる音に混じって、施設の方向から足音が聞こえてくる。
それと同時くらいに、エンジニア謹製の時計に似た機械が小さなランプを明滅させる。イデリハからの合図だ。ってことは、そろそろこっちに来る。
その合図を見た俺様は、殺傷能力の低いテイザーライフルを構えた。当たると弱電流を流す電撃弾が込められている。
足音が大きくなった。テイザーライフルを構えると、安全装置を解除して狭い整備用通路に出る。
イデリハのいる地点からここへは完全な一本道で、そして俺様の10アルレ先には外に出るための梯子がある。
そっから先は施設の外。連隊司令部の管理が及ばない場所だ。めんどくせー手続きやら許可やらをすっ飛ばして外へ出るには、この手段を使うのが唯一だ。
連隊側の出入り口は司令部が管理してるけど、こいつは下水道だ。あちこちに雨水や溶けた雪なんかを排出するための穴が開けられてる。訓練所の広場にも人が落っこちそうなでっかい穴があって、そこからここへ入るフトドキモノがたまーにいたりする。
連隊施設の外に繋がる場所はこの先にしかない。だから、ここを通ろうとする奴はこの狭っ苦しい整備用通路に必ず入ってくる。
間近に迫る足音。そして濃くなっていく霧。
「はい、そこまで。こっから先は通っちゃダメなんだぜ」
足音が止まる。俺様の声にビックリしたのか、地面を擦るような音さえ聞こえない。
「動くなよ、動いたら撃たないといけねーんだから」
テイザーライフルの銃口を足音の方向に向けたまま移動する。
再び足音が聞こえ、俺様に近付いてきた。警告が無視されたのなら仕方がない。テイザーライフルを撃つ。霧で視界が悪いから照準は適当だ。
とりあえず、イデリハに当たらないことだけは祈っといた。
銃声にも怯まずに足音がどんどん近付いてくる。そう思ったのも束の間、足音が俺様の背後に移動した。振り向くと、体格のいい男の影が走っていくのが見える。
「イデリハ!」
「わかっちょる」
俺様の言葉に応えるように霧が晴れた。同時にイデリハが男の眼前に飛び出す。
「なん!?」
呆気に取られた男は、イデリハの電磁槍に一突きされておとなしくなった。
イデリハの使う槍も特別製。殺傷能力は無いけれど、槍頭から電流を相手に流して動けなくするシロモノだ。
電撃で動けなくなった男を縛り上げ、額にこれまたエンジニア謹製の聖騎士の力を抑えるシールを貼り付ける。
「ふー、終わった終わった」
「放……せ!」
電撃を浴びてなお、男は藻掻いた。それなりにダメージを受けた筈だけど、さすがは歴戦の戦士。気絶まではしなかったようだ。
「ダメダメ。ここでお前を放したら、俺様が怒られちゃう」
「くそっ……くそっ!」
憤慨してるこの男の名前はアスカム。B中隊所属で、短い距離を瞬間移動する能力を持っている。さっき俺様をすり抜けたのがそれだな。《渦》のコア回収ポイントが要塞化されている時とかに絶大な力を発揮していた、と資料に書いてあったっけ。
だけど力に溺れて、休暇の度に都市に出向いちゃー、この力で犯罪を重ねていたらしい。
急に羽振りが良くなりゃ、そりゃ誰でも不審に思うわけだ。
で、速攻で司令部にバレて謹慎させられたらしいんだけど、謹慎が解けたとたん、今度はこうやって下水道を通ってちょくちょく抜け出してたとかなんとか。
こうなったらどうしようもないってことで、俺様達にアスカムの捕獲命令が下ったってわけ。
らしいらしいばっかりなのは、俺様とイデリハは捕獲命令が出るに至る話を直接聞いたわけじゃないから。あくまで資料として知ってるってだけ。
「さ、行くぞ」
アスカムはイデリハに立たされると、おとなしく来た道を歩き出した。
電撃で痺れている上に聖騎士の力も使えないとなれば、そりゃおとなしくするしかないわな。俺様でもそうする。
下水道の連隊施設側の出入り口を入ったその先に、一つの小部屋がある。
中は会議室くらいの大きさで、簡単な執務用の机と椅子が備え付けられている。
この部屋は連隊の中でも俺様とイデリハ、他はミルグラム副長くらいしか知らない部屋だ。
「ミルグラム副長、アスカムを捕らえました」
「そうか、わかった」
中にいたミルグラム副長にイデリハが報告する。
縛り上げていた縄越しに、アスカムがびくっとなって固まった感覚が伝わってきた。ミルグラム副長が出てきたことで、自分がこれから何をされるのか自覚したんだろう。
ミルグラム副長がどこかへ通信を始める。通信が終わってすぐに、赤くて動きにくそうな服を着た男達が入ってきた。
連隊の主な出資者である導都パンデモニウムからの使者だとか。こういった犯罪を繰り返す戦士から聖騎士の力を除去するために、パンデモニウムへ連れて行くことになってる。
「では、宜しくお願いします」
赤服の男達は無言で俺様からアスカムを縛っていた縄を受け取る。
「ミルグラム副長! もうこんなことはしませんから!」
「その言葉は謹慎中に何度も聞いた」
「い、嫌だ……。助けてくれ、頼む! なあ、お前らからも何か言ってくれ!!」
俺様とイデリハは顔を見合わせると、すっかり怯えた様子のアスカムに視線を移して肩を竦めた。
「そりゃ無理な相談だな」
「ディノに同意じゃ」
冷たいようだけど、司令部から何度も何度も忠告を受けて、謹慎までさせられたのに、それでも一向に改善しなかったこいつの自業自得だ。今さら助けてくれなんてムシが良すぎるってもんだぜ。少なくとも俺様はそう思った。イデリハも似たような反応をしてたから、多分同じ考えだろう。
赤服の男達は騒ぐアスカムをよそに、無言で奴を引っ張って部屋を出て行った。
アスカムの「許してくれ!」とか「嫌だ!」とか言う声も、すぐに聞こえなくなった。
「お前達、ご苦労だった。今日はもう戻って構わない」
そう口にすると、ミルグラム副長は重い溜め息を吐いた。こんなミルグラム副長を見るのは何度目だろうなぁ。
世界を救わんと集まった仲間が聖騎士の力に目覚め、その力に溺れてどうしようもないところまで落ちてしまったのを見るのは、かなり辛いんじゃないかと思う。
特にミルグラム副長はスターリング連隊長の副官的な立場の人、つまり連隊ができた頃からいる人だし、連隊への思いは誰よりもあるだろう。
俺様とイデリハは顰めっ面のミルグラム副長を残して、住居として宛がわれている部屋へ戻った。
それから暫くして、また犯罪を重ねる戦士を捕獲して例の小部屋に連行すると、そこにはミルグラム副長の他にD中隊のミリアン中隊長がいた。
「あれ? どうしたんスか、ミリアン中隊長」
「スターリング大佐に代わり、ミルグラムが一時的に連隊長代理となって連隊を率いることになった」
スターリング大佐がいなくなって数ヶ月、とうとうこの時が来た。おそらくこのままミルグラムが連隊長の座を引き継ぐのだろう。そうなれば、この任務の指揮を執るような暇は無くなる。別の責任者が来るのは当然といえば当然だった。
「よってお前達、今後は俺の指揮の下で任務を行ってもらう」
「任務の内容に変更は?」
「特に変わりはない。今までと同じようにしてくれ」
「わかりました。ミリアン中隊長、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
俺様とイデリハは同時くらいにミリアン中隊長に頭を下げた。
ミリアン中隊長に指揮が替わっても、俺様達のすることに変化はなかった。
だけど数ヶ月が経った頃から、赤服の男達が次第に姿を見せなくなっていた。替わりに、テクノクラートのラームとかいうお偉いさんとその部下が姿を見せるようになった。
そして今度はそのラームの部下らしい奴らが、捕まえた戦士を何処かへと連れていった。
「なぁ、ミリアン中隊長。こいつを何処に連れて行くんだ?」
「オイ……いや、俺も気になっています。ミリアン中隊長」
ふと思い立ち、俺様はミリアン中隊長に尋ねた。イデリハも同様らしい。
「……パンデモニウムにある施設だ。そこで特殊な更正プログラムを受けることになっている」
ミリアン中隊長はぶっきらぼうにそう答えた。
「そんなこと可能なのか? 前に捕まえた奴らは誰も帰ってきてないぜ」
赤服の連中に連れて行かれた戦士達は、皆帰ってこなかった。聖騎士の力を奪われて何処かへ放逐されたと聞いている。
「君達が知るほどのことではないよ。パンデモニウムの方針転換はよくあることだ」
ミリアン中隊長が何か言おうとする前に、ラームが答えた。ラームの言ってることは尤ものような気がしたが、違和感がないわけではなかった。
「ラーム技官の言うとおりだ。お前達が気にするほどのことではない」
二人の言葉はやんわりとしてたけど、変に強制力がある言葉だった。任務を黙って遂行しろ、そう言われている気がした。
「そうスか。それならいいんです」
「妙なことを聞いて申し訳なか……ありませんでした」
「納得してくれたのなら、それで問題はないよ」
「さあ、お前達も疲れただろう。今日はもう戻っていい」
ラームとミリアン中隊長に促され、俺様達は居住区へと戻った。
「なあ、イデリハ」
居住区へ戻って一息つくと、俺様は思ったことをイデリハに聞いてみることにした。
「なんじゃ」
「俺様達、この任務についてどれくらい経った?」
「二……いや、三年じゃ」
「結構長いことやってたのに、急に変えられるもんなのかな?」
「わからん。けんど、オイ達は従うしかなか」
「……ま、行く当てがあるわけでもないしな」
連隊を出たところで、俺様とイデリハは路頭に迷うのが目に見えていた。
イデリハは故郷の村を《渦》によって失っていたし、俺様のいたところは革命が終わったばかりでゴタゴタの真っ只中らしく、とてもじゃないけど帰れるような状況じゃない。
何より、ミルグラム副長にはE中隊があんなことになっちまった時に救われた恩があった。
今の状況はマシなんだ。
俺様はミリアン中隊長やラームが匂わせる違和感を頭の隅に追いやると、次の任務に備えて武器の整備を始めることにした。
「—了—」
連隊施設地下の下水道には霧が漂っていて、陰気な感じだった。
水が流れる音に混じって、施設の方向から足音が聞こえてくる。
それと同時くらいに、エンジニア謹製の時計に似た機械が小さなランプを明滅させる。イデリハからの合図だ。ってことは、そろそろこっちに来る。
その合図を見た俺様は、殺傷能力の低いテイザーライフルを構えた。当たると弱電流を流す電撃弾が込められている。
足音が大きくなった。テイザーライフルを構えると、安全装置を解除して狭い整備用通路に出る。
イデリハのいる地点からここへは完全な一本道で、そして俺様の10アルレ先には外に出るための梯子がある。
そっから先は施設の外。連隊司令部の管理が及ばない場所だ。めんどくせー手続きやら許可やらをすっ飛ばして外へ出るには、この手段を使うのが唯一だ。
連隊側の出入り口は司令部が管理してるけど、こいつは下水道だ。あちこちに雨水や溶けた雪なんかを排出するための穴が開けられてる。訓練所の広場にも人が落っこちそうなでっかい穴があって、そこからここへ入るフトドキモノがたまーにいたりする。
連隊施設の外に繋がる場所はこの先にしかない。だから、ここを通ろうとする奴はこの狭っ苦しい整備用通路に必ず入ってくる。
間近に迫る足音。そして濃くなっていく霧。
「はい、そこまで。こっから先は通っちゃダメなんだぜ」
足音が止まる。俺様の声にビックリしたのか、地面を擦るような音さえ聞こえない。
「動くなよ、動いたら撃たないといけねーんだから」
テイザーライフルの銃口を足音の方向に向けたまま移動する。
再び足音が聞こえ、俺様に近付いてきた。警告が無視されたのなら仕方がない。テイザーライフルを撃つ。霧で視界が悪いから照準は適当だ。
とりあえず、イデリハに当たらないことだけは祈っといた。
銃声にも怯まずに足音がどんどん近付いてくる。そう思ったのも束の間、足音が俺様の背後に移動した。振り向くと、体格のいい男の影が走っていくのが見える。
「イデリハ!」
「わかっちょる」
俺様の言葉に応えるように霧が晴れた。同時にイデリハが男の眼前に飛び出す。
「なん!?」
呆気に取られた男は、イデリハの電磁槍に一突きされておとなしくなった。
イデリハの使う槍も特別製。殺傷能力は無いけれど、槍頭から電流を相手に流して動けなくするシロモノだ。
電撃で動けなくなった男を縛り上げ、額にこれまたエンジニア謹製の聖騎士の力を抑えるシールを貼り付ける。
「ふー、終わった終わった」
「放……せ!」
電撃を浴びてなお、男は藻掻いた。それなりにダメージを受けた筈だけど、さすがは歴戦の戦士。気絶まではしなかったようだ。
「ダメダメ。ここでお前を放したら、俺様が怒られちゃう」
「くそっ……くそっ!」
憤慨してるこの男の名前はアスカム。B中隊所属で、短い距離を瞬間移動する能力を持っている。さっき俺様をすり抜けたのがそれだな。《渦》のコア回収ポイントが要塞化されている時とかに絶大な力を発揮していた、と資料に書いてあったっけ。
だけど力に溺れて、休暇の度に都市に出向いちゃー、この力で犯罪を重ねていたらしい。
急に羽振りが良くなりゃ、そりゃ誰でも不審に思うわけだ。
で、速攻で司令部にバレて謹慎させられたらしいんだけど、謹慎が解けたとたん、今度はこうやって下水道を通ってちょくちょく抜け出してたとかなんとか。
こうなったらどうしようもないってことで、俺様達にアスカムの捕獲命令が下ったってわけ。
らしいらしいばっかりなのは、俺様とイデリハは捕獲命令が出るに至る話を直接聞いたわけじゃないから。あくまで資料として知ってるってだけ。
「さ、行くぞ」
アスカムはイデリハに立たされると、おとなしく来た道を歩き出した。
電撃で痺れている上に聖騎士の力も使えないとなれば、そりゃおとなしくするしかないわな。俺様でもそうする。
下水道の連隊施設側の出入り口を入ったその先に、一つの小部屋がある。
中は会議室くらいの大きさで、簡単な執務用の机と椅子が備え付けられている。
この部屋は連隊の中でも俺様とイデリハ、他はミルグラム副長くらいしか知らない部屋だ。
「ミルグラム副長、アスカムを捕らえました」
「そうか、わかった」
中にいたミルグラム副長にイデリハが報告する。
縛り上げていた縄越しに、アスカムがびくっとなって固まった感覚が伝わってきた。ミルグラム副長が出てきたことで、自分がこれから何をされるのか自覚したんだろう。
ミルグラム副長がどこかへ通信を始める。通信が終わってすぐに、赤くて動きにくそうな服を着た男達が入ってきた。
連隊の主な出資者である導都パンデモニウムからの使者だとか。こういった犯罪を繰り返す戦士から聖騎士の力を除去するために、パンデモニウムへ連れて行くことになってる。
「では、宜しくお願いします」
赤服の男達は無言で俺様からアスカムを縛っていた縄を受け取る。
「ミルグラム副長! もうこんなことはしませんから!」
「その言葉は謹慎中に何度も聞いた」
「い、嫌だ……。助けてくれ、頼む! なあ、お前らからも何か言ってくれ!!」
俺様とイデリハは顔を見合わせると、すっかり怯えた様子のアスカムに視線を移して肩を竦めた。
「そりゃ無理な相談だな」
「ディノに同意じゃ」
冷たいようだけど、司令部から何度も何度も忠告を受けて、謹慎までさせられたのに、それでも一向に改善しなかったこいつの自業自得だ。今さら助けてくれなんてムシが良すぎるってもんだぜ。少なくとも俺様はそう思った。イデリハも似たような反応をしてたから、多分同じ考えだろう。
赤服の男達は騒ぐアスカムをよそに、無言で奴を引っ張って部屋を出て行った。
アスカムの「許してくれ!」とか「嫌だ!」とか言う声も、すぐに聞こえなくなった。
「お前達、ご苦労だった。今日はもう戻って構わない」
そう口にすると、ミルグラム副長は重い溜め息を吐いた。こんなミルグラム副長を見るのは何度目だろうなぁ。
世界を救わんと集まった仲間が聖騎士の力に目覚め、その力に溺れてどうしようもないところまで落ちてしまったのを見るのは、かなり辛いんじゃないかと思う。
特にミルグラム副長はスターリング連隊長の副官的な立場の人、つまり連隊ができた頃からいる人だし、連隊への思いは誰よりもあるだろう。
俺様とイデリハは顰めっ面のミルグラム副長を残して、住居として宛がわれている部屋へ戻った。
それから暫くして、また犯罪を重ねる戦士を捕獲して例の小部屋に連行すると、そこにはミルグラム副長の他にD中隊のミリアン中隊長がいた。
「あれ? どうしたんスか、ミリアン中隊長」
「スターリング大佐に代わり、ミルグラムが一時的に連隊長代理となって連隊を率いることになった」
スターリング大佐がいなくなって数ヶ月、とうとうこの時が来た。おそらくこのままミルグラムが連隊長の座を引き継ぐのだろう。そうなれば、この任務の指揮を執るような暇は無くなる。別の責任者が来るのは当然といえば当然だった。
「よってお前達、今後は俺の指揮の下で任務を行ってもらう」
「任務の内容に変更は?」
「特に変わりはない。今までと同じようにしてくれ」
「わかりました。ミリアン中隊長、宜しくお願いします」
「宜しくお願いします」
俺様とイデリハは同時くらいにミリアン中隊長に頭を下げた。
ミリアン中隊長に指揮が替わっても、俺様達のすることに変化はなかった。
だけど数ヶ月が経った頃から、赤服の男達が次第に姿を見せなくなっていた。替わりに、テクノクラートのラームとかいうお偉いさんとその部下が姿を見せるようになった。
そして今度はそのラームの部下らしい奴らが、捕まえた戦士を何処かへと連れていった。
「なぁ、ミリアン中隊長。こいつを何処に連れて行くんだ?」
「オイ……いや、俺も気になっています。ミリアン中隊長」
ふと思い立ち、俺様はミリアン中隊長に尋ねた。イデリハも同様らしい。
「……パンデモニウムにある施設だ。そこで特殊な更正プログラムを受けることになっている」
ミリアン中隊長はぶっきらぼうにそう答えた。
「そんなこと可能なのか? 前に捕まえた奴らは誰も帰ってきてないぜ」
赤服の連中に連れて行かれた戦士達は、皆帰ってこなかった。聖騎士の力を奪われて何処かへ放逐されたと聞いている。
「君達が知るほどのことではないよ。パンデモニウムの方針転換はよくあることだ」
ミリアン中隊長が何か言おうとする前に、ラームが答えた。ラームの言ってることは尤ものような気がしたが、違和感がないわけではなかった。
「ラーム技官の言うとおりだ。お前達が気にするほどのことではない」
二人の言葉はやんわりとしてたけど、変に強制力がある言葉だった。任務を黙って遂行しろ、そう言われている気がした。
「そうスか。それならいいんです」
「妙なことを聞いて申し訳なか……ありませんでした」
「納得してくれたのなら、それで問題はないよ」
「さあ、お前達も疲れただろう。今日はもう戻っていい」
ラームとミリアン中隊長に促され、俺様達は居住区へと戻った。
「なあ、イデリハ」
居住区へ戻って一息つくと、俺様は思ったことをイデリハに聞いてみることにした。
「なんじゃ」
「俺様達、この任務についてどれくらい経った?」
「二……いや、三年じゃ」
「結構長いことやってたのに、急に変えられるもんなのかな?」
「わからん。けんど、オイ達は従うしかなか」
「……ま、行く当てがあるわけでもないしな」
連隊を出たところで、俺様とイデリハは路頭に迷うのが目に見えていた。
イデリハは故郷の村を《渦》によって失っていたし、俺様のいたところは革命が終わったばかりでゴタゴタの真っ只中らしく、とてもじゃないけど帰れるような状況じゃない。
何より、ミルグラム副長にはE中隊があんなことになっちまった時に救われた恩があった。
今の状況はマシなんだ。
俺様はミリアン中隊長やラームが匂わせる違和感を頭の隅に追いやると、次の任務に備えて武器の整備を始めることにした。
「—了—」