某一天,在魔都羅占布爾克第七管區的某個『組織』管理的大樓裡,運來了一具棺材。
是士兵做為抗爭的戰利品帶回來的,說是裡面裝有財寶。
大概是可以裝下一個人的大小。華麗地裝飾著的棺材上,鑲著一塊寫有『碧姬媞』的金板子。
因為是從敵對組織帶回來的物品,所以要檢查是否有安裝炸彈等危險物品。
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負責檢查帶回組織物品與解體處理的人整體檢查完之後,確定沒有危險物在裡面。
將這個棺材帶回來的士兵在他的直屬長官幹部的見證下,打開了棺材。
在裡面的不是財寶。是一位女性,抱著老舊的兔子布偶靜靜地沉睡著。
「這女人,還活著耶」
「要如何處理呢?」
「這是你的戰利品啊,隨你喜歡吧。有這樣的外表,高價售出的方法多的是」
「也是啦……」
男人們討論的正起勁時,女性睜開了雙眼。
「這裡是……哪裡……?」
碧姬媞在髒亂的大樓地底下,隔了數十年後的開口說話。
剛醒來的碧姬媞記憶很混亂。
因為不知自己是誰而感到困擾,只能緊緊地抱著手上的布偶。
「薩比努,這女人怎麼辦?你想怎麼處置是你的自由」
「可以嗎?」
「嗯」
「那麼,外表也不錯,就讓她侍奉我好了。只要教她,什麼事都能做」
「哦,你不是說過找女人的話隨便找個娼婦就好了嗎」
「像這樣的上等貨,不要的傢伙才是笨蛋」
「說的也是。其他人我會幫你處理。應該不會有人有意見的」
叫做薩比努的年輕男子以及另一位男子,露出下流的笑容打量著碧姬媞。
碧姬媞雖然從那視線感受到恐懼,但是在什麼都不知道的狀況下,無法採取任何行動。
從那天起,碧姬媞就在薩比努身邊以傭人身分工作著。
幸好雖然什麼都不知道,但是碧姬媞一教就什麼都做得很好。
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碧姬媞成為薩比努的傭人後過了一年。聽話地當主人夜晚對象的日子,也數不清了。
雖然是被當作『情婦』的存在,但也沒能抗拒過。
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碧姬媞從那時就開始因惡夢而煩惱。也有好幾次被薩比努叫醒之後掃視著四周。
薩比努好奇夢的內容,於是碧姬媞透露了一點點夢的內容。
「總是會夢到以前的夢。父母、戀人,誰都不願意看著我」
「居然無視這麼好的女人,你以前的戀人真是有眼無珠啊」
薩比努輕撫著精神恍惚的碧姬媞肩膀。
「也許是吧」
說完後,碧姬媞就緊抱著兔子布偶。
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「薩比努……死了?」
從薩比努的上司蓋伊口中,突然得知這個消息。
「嗯。急著想要立功勞,跟Chiara的傢伙鬧出糾紛被殺了……」
薩比努聽說自己的管轄範圍中,身為Five組織之一的地盤竟然被Chiara給佔據。
薩比努說要去把他解決掉,昨晚就出門了。
「這樣啊……」
碧姬媞低下頭。
「這建築物也得馬上交出去。妳打算怎麼辦?」
「我沒有地方可去」
碧姬媞是薩比努的情婦。看在這情面上,照組織的規定得要照顧她。
「我是能稍微幫助妳。雖然要去上面的階層很困難,但是工作跟住的地方我可以提供給妳」
「有些什麼樣的工作呢?」
在這個犯罪組織不斷互相抗爭的區域,碧姬媞想要生存下去,除了求助於組織──PrimeOne──之外別無他法。
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碧姬媞在蓋伊的安排下,進入了由蓋伊管理的地盤裡的酒場,定居在其中一間房間,並且開始在此工作。
「哦,碧姬媞。妳今天也很美!」
「呵呵,謝謝。不過比起拍馬屁,多點些東西我會比較高興哦」
在充滿男人臭的酒場,碧姬媞的容貌及姿色非常的顯眼。
「昨晚真是太愉快了。下次可以再邀妳嗎?」
「當然。什麼時候都可以來邀我」
「再見啦」
碧姬媞偶爾會跟來酒場的組織成員共渡夜晚。
並不是由碧姬媞主動邀請的,只是都沒有拒絕他們的邀約,也沒有什麼反感。
送走男子後,看到蓋伊從樓下走上來。
「妳還真厲害」
「蓋伊,好久不見了」
「從什麼時候開始做這種事的?」
「從在這邊開始工作的時候就一直哦。因為一個人很寂寞嘛」
「寂寞,嗎?那麼,今晚跟我一起如何?」
「也可以啊」
「工作結束我就去接妳」
「我會期待你的到來的」
碧姬媞優雅地微笑著回答道。
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碧姬媞開始與蓋伊共渡夜晚,過了些日子。
「碧姬媞,今天……」
「抱歉啊,我先約了」
「失,失禮了!」
因為有蓋伊在,所以其他男子漸漸不再邀約碧姬媞了。
碧姬媞辭去酒場的工作,當了蓋伊的情婦。
蓋伊是越來越愛碧姬媞。得到了那魅惑的美麗,蓋伊做為組織的一員感覺也有了自
信。
在組織的宴會中,美麗的碧姬媞漸漸成為幹部們話題的中心。
「你的女人真讚」
「對啊,她是很棒的女人。是我的女神」
蓋伊驕傲地說著。
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沒過多久,蓋伊就向碧姬媞求婚了。但是碧姬媞拒絕了。
蓋伊沒有因此放棄,送上了昂貴的衣服及珠寶飾品,一直求她跟自己在一起。
但是,還是沒有得到碧姬媞的允諾。
有一天,爛醉的蓋伊靠近碧姬媞。
「碧姬媞啊,妳也差不多該點頭了吧?妳應該不是為了誰才拒絕的吧」
「對不起……」
碧姬媞只低著頭。
「難道妳,有別的男人嗎?是誰!快回答我!」
「我沒有。但是我無法成為你的妻子」
就在那瞬間,碧姬媞被打了個耳光。
恍惚了一下,這次則是被掐住脖子。
還來不及抵抗。就在那瞬間,朦朧的記憶有一部分突然變得鮮明。
想起過去,也曾經像這樣被戀人掐住脖子。
眼前的蓋伊,與過去戀人的臉重疊在一起。雖然長得不像,但那恐怖的表情是一樣的。
「放開我!」
碧姬媞盡全力推開蓋伊之後,就逃到房間外面去了。
逃走時,蓋伊抓住碧姬媞衣服的一部分被扯破發出撕裂聲。那是蓋伊送給碧姬媞的高級絹織品。
逃出房間後,剛好看到數名年輕士兵與一名幹部從公寓的樓梯走過來。
「救救我!!」
碧姬媞使勁全力叫出來。
幹部跟年輕人們跑了過來。
「怎麼了?發生什麼事了?」
「蓋伊他……蓋伊他……」
雖然想說些什麼,但是卻只說得出這些。
「喂,內里奧,照顧她」
「好,好的!」
幹部向名為內里奧的士兵發出命令。就在那時,槍聲響起。
「唔哇」
槍聲響起的同時,名叫內里奧的男人發出了悲鳴聲。從肩上冒出了煙。
看來是被打中了。
「蓋伊你在做什麼!」
幹部怒吼著。喝醉的蓋伊拿出槍,對著幹部。
「是你嗎!對我的女人出手的!」
「蓋伊,你在說什麼!」
「囉嗦!不然,為什麼碧姬媞無法成為我的東西!」
蓋伊開了槍,可能是因為醉了,只打到公寓的牆上。
「沒辦法,在騷動鬧的更大之前把他解決掉」
蓋伊在數回合的槍戰後,被射殺了。
|
就在那天內,蓋伊的屍體被清理掉,連存在都被抹滅掉了。
留下來的碧姬媞,被幹部他們帶到了首領前。必須詳細盤問清楚這位讓幹部暴走的女人。
「帶來了嗎?」
「是的」
「妳還是一樣的美麗。也難怪那傢伙會發狂」
首領像是在鑑賞一樣看著碧姬媞。
「怎麼辦?要跟蓋伊一起收拾掉嗎?」
「沒那個必要吧。妳並沒有愛上蓋伊對吧?」
「那個……」
碧姬媞沉默了。
「算了。小事已經解決就算了。好吧,就暫時寄放在我這兒吧」
首領將死去幹部的情婦留在自己身邊,不是什麼好聽的事。幹部們以首領看不見的方式互相使了眼神。一部分的人則是露出明顯地厭惡感。
首領將手放在碧姬媞的肩上。
「妳是叫碧姬媞對吧。只要乖乖聽我的,我不會傷害妳的」
「謝謝您」
碧姬媞看著首領說道。
「這件事就到此為止。你們可不要將無聊的麻煩帶回組織」
幹部們聽完首領的話之後,就離開房間了。
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「─完─」
3360年 「魅惑」
ある日、魔都ローゼンブルグ第七管区にある『組織』が管理するビルに、一つの棺が運び込まれた。
ソルジャーが抗争の戦利品として持ち帰った品で、財宝が入っているという。
人一人が入れる程の大きさであろうか。華美な装飾に彩られた棺には『ビアギッテ』と書かれた金のプレートが嵌め込まれていた。
敵対組織から持ち帰った品のため、爆弾や危険物が仕掛けられていないかのチェックが行われることになった。
組織に運び込まれた品物の検分や解体処理を請け負う者による一通りのチェックが終わり、危険物は入っていないことが確認された。
この棺を持ち帰ったソルジャーとその直接の上役であるカポの立会いの下で、棺の開封作業が始まった。
中に入っていたのは財宝ではなかった。一人の女性が、古いウサギのぬいぐるみを抱いて静かに眠りについていた。
「この女、まだ生きてるぜ」
「どうしますか?」
「お前の戦利品だろ、お前の好きにしたらいい。これだけの見た目だ、高く売りつける方法はいくらでもある」
「そうですねえ……」
口々に男達が言い募っていると、女の目が開いた。
「ここは……どこ……?」
ビアギッテは薄汚れたビルの地下で、何十年かぶりに言葉を発した。
目覚めたビアギッテは記憶の混濁を起こしていた。
自分が何者かもわからずにただ困惑し、持っていたぬいぐるみをしっかりと抱きしめるだけであった。
「サビーノ、どうするんだこの女? どうするかはお前の自由だが」
「いいんですか?」
「ああ」
「でしたら、見た目は悪くないですし、俺の世話でもさせますよ。 覚えさせりゃ何とでもなります」
「ほう、女なんかそこらへんの娼婦でいいって言うお前がねぇ」
「こんな上玉、捨てる方が馬鹿ですよ」
「違いねぇ。まぁ、他の連中には俺が取りなしておくさ。誰も文句は言わねぇだろうが、一応な」
サビーノと呼ばれた若い男ともう一人の男は、薄ら笑いを浮かべてビアギッテを舐めるように見回した。
ビアギッテはその視線に恐怖を感じたが、何もわからない状態のために行動を起こすことができなかった。
その日から、ビアギッテはサビーノの下で使用人として働かされることになった。
何もわからないまでも教えられればその通りにこなすことができたのは、ビアギッテにとって幸いだった。
サビーノの使用人となってから一年が過ぎていた。言われるがままに夜の相手を務めたことも、数え切れなくなっていった。
『情婦』として扱われる存在だったが、それに抗うことはできなかった。
ビアギッテはその頃から悪夢に悩まされるようになった。サビーノに起こされて周囲を見回すことも何度もあった。
不思議がるサビーノに、ビアギッテは少しだけ夢の内容を語った。
「昔の夢を見るの。親も、恋人も、誰も私を見てくれない」
「こんないい女に見向きもしないとは、お前の昔の恋人とやらの目は節穴だな」
サビーノはぼんやりとした調子のビアギッテの肩を撫でた。
「そうかもしれないわね」
それだけ言うと、ビアギッテはウサギのぬいぐるみを抱きしめた。
「サビーノが……死んだ?」
サビーノの上役であるガイの口から、それは突然告げられた。
「あぁ。手柄を焦って、キアラの連中と揉め事を起こして殺された……」
サビーノの管轄するシマが、ファイヴの一人であるキアラの組織によって乗っ取られ掛けている話は聞いていた。
それに決着を付けてくると言って、サビーノは昨夜出掛けていった。
「そう……」
ビアギッテは俯いた。
「ここもすぐ引き払わなきゃならん。お前はどうしたい?」
「行く当てなんてないわ」
ビアギッテはサビーノの情婦という立場だ。義理として、組織は彼女の世話をするのが掟だった。
「多少の手助けはするつもりだ。上の階層に行くのは難しいが、仕事と住居の世話ならしてやれる」
「どんな仕事があるのかしら?」
犯罪組織が抗争を繰り返すこの区画でビアギッテが生きていくには、組織——プライムワン——に縋る他に道は無かった。
ビアギッテはガイの手配により、ガイの管理するシマにある酒場の一室を住居として宛がわれ、住み込みで働き始めた。
「おう、ビアギッテ。今日も綺麗だな!」
「ふふ、ありがとう。でも、お世辞よりもたくさん注文してくれたほうが嬉しいわ」
男臭い雑然とした酒場では、ビアギッテの容姿はとても目立っていた。
「昨日は楽しかった。また次も誘っていいか?」
「ええ。いつでも誘って頂戴」
「またな」
ビアギッテは時折、酒場に通う組織の者と夜を共にするようになっていた。
自分から誘った訳ではないが、誘われれば断ることはしなかったし、特に抵抗は感じなかった。
男を見送っていると、下の階からガイが来るのが見えた。
「やるねぇ」
「ガイ、久しぶりね」
「いつからこんな事を?」
「ここで働き始めてからずっとよ。一人は寂しいもの」
「寂しい、か。なら、俺と今晩どうだ?」
「それもいいわね」
「仕事が終わったら迎えに行く」
「楽しみにしてるわ」
ビアギッテは優雅に微笑んで答えた。
ガイと夜を共に過ごすようになって、暫くの時が過ぎた。
「ビアギッテ、今日は……」
「悪いな、俺が先約だ」
「し、失礼しました!」
ガイがいることで、他の男達は声を掛けてこなくなった。
ビアギッテは酒場の仕事を辞め、ガイの情婦となった。
ガイは見るまにビアギッテに惹かれていった。その蠱惑的な美しさを手に入れたことで、ガイは組織の男として自信がつくような気がしていた。
組織のパーティでは、見目麗しいビアギッテはたちまち幹部らの話題の中心となった。
「いい女だな」
「ええ、すばらしい女です。俺の女神だ」
ガイは誇らしげにそう語っていた。
程なくして、ガイはビアギッテに結婚を申し込んだ。しかしビアギッテはその申し出を拒否した。
ガイはそれでも諦めずに彼女に高い服や宝飾品を与え、どうか自分と一緒になってくれるよう頼み続けた。
それでも、ビアギッテは承諾しなかった。
ある日、ひどく酔っ払ったガイに詰め寄られた。
「なあ、ビアギッテ、いい加減首を縦に振ったらどうだ? 誰かに義理立てしてるわけじゃねぇんだろ」
「ごめんなさい……」
ビアギッテは俯くだけだった。
「まさかお前、他に男がいるのか? 誰だ! 答えろ!」
「いないわ。でも、あなたの妻になることはできない」
その瞬間、ビアギッテは頬を叩かれた。
呆然としていると、今度は首に手を掛けられる。
抵抗する間もなかった。その瞬間、朧気な記憶の一部が鮮烈に蘇った。
かつて、同じように恋人に首を絞められたことを思い出した。
目の前にいるガイと、かつての恋人の顔が重なる。似てこそいないが、その鬼気迫る表情は同じだった。
「離して!」
ビアギッテは思い切りガイを振り払うと、部屋の外に向かって逃げ出した。
その際、逃がすまいとガイに掴まれた服の一部が音を立てて破れた。買い与えられたシルクの高級品だ。
部屋を飛び出すと、丁度アパートメントの階段から若いソルジャー数人と幹部の一人がやって来るのが見えた。
「助けて!!」
ビアギッテは渾身の力で叫んだ。
幹部と若い衆が駆け寄ってくる。
「どうした? 何があった?」
「ガイが……ガイが……」
何か言おうとしても、それしか言葉が出てこない。
「おい、ネレーオ、見てやれ」
「は、はい!」
幹部がネレーオというソルジャーに指示を出す。それが早いか、銃声が響いた。
「ぐわっ」
銃声が響くと同時に、ネレーオという男がくぐもった悲鳴を上げた。肩から煙が出ている。
撃たれたようだった。
「ガイ、何をしやがる!」
カポが怒鳴る。酔ったガイは拳銃を持ち出し、カポに向かって構えていた。
「お前か! 俺の女に手を出したのは!」
「ガイ、何を言っている!」
「うるせぇ! じゃあなんで、ビアギッテは俺のものにならないんだ!」
ガイは銃弾を放つが、酔っているせいかアパートメントの壁を破壊するだけに留まった。
「仕方ねえ、始末しろ。騒ぎが大きくなる前にな」
ガイは数回の撃ち合いの末に、射殺された。
その日の内にガイの死体は始末され、存在ごと抹消された。
残されたビアギッテは、カポ達によりボスのところへ連れて行かれた。幹部の暴走を招いた女から事情を聞く必要があるとのことだった。
「連れてきたか?」
「はい」
「相変わらず美しいな。あいつが狂うのも、わからんでもない」
ボスはビアギッテを鑑賞するように眺めた。
「どうします? 一緒に始末しますか?」
「その必要はねえだろう。 ガイのこと、惚れてなかったんだろう?」
「それは……」
ビアギッテは口籠もった。
「まあいいさ。細かな事情は落ち着いてからでいい。よし、しばらく俺のところで預かろう」
死んだ幹部の情婦をボスがすぐに身請けするのは、あまりいいことではない。幹部達はボスに見られない形で目配せをした。一部の者は露骨に嫌悪感を表していた。
ボスはビアギッテの肩に手を置いた。
「ビアギッテといったな。俺の言うとおりにしておけば、悪いようにはしねえ」
「ありがとうございます」
ビアギッテはボスを見つめてそう言った。
「話はこれで終わりだ。 組織につまらないトラブルを持ち込むんじゃねえぞ」
幹部達はボスの言葉を聞くと、部屋から去って行った。
「—了—」
ある日、魔都ローゼンブルグ第七管区にある『組織』が管理するビルに、一つの棺が運び込まれた。
ソルジャーが抗争の戦利品として持ち帰った品で、財宝が入っているという。
人一人が入れる程の大きさであろうか。華美な装飾に彩られた棺には『ビアギッテ』と書かれた金のプレートが嵌め込まれていた。
敵対組織から持ち帰った品のため、爆弾や危険物が仕掛けられていないかのチェックが行われることになった。
組織に運び込まれた品物の検分や解体処理を請け負う者による一通りのチェックが終わり、危険物は入っていないことが確認された。
この棺を持ち帰ったソルジャーとその直接の上役であるカポの立会いの下で、棺の開封作業が始まった。
中に入っていたのは財宝ではなかった。一人の女性が、古いウサギのぬいぐるみを抱いて静かに眠りについていた。
「この女、まだ生きてるぜ」
「どうしますか?」
「お前の戦利品だろ、お前の好きにしたらいい。これだけの見た目だ、高く売りつける方法はいくらでもある」
「そうですねえ……」
口々に男達が言い募っていると、女の目が開いた。
「ここは……どこ……?」
ビアギッテは薄汚れたビルの地下で、何十年かぶりに言葉を発した。
目覚めたビアギッテは記憶の混濁を起こしていた。
自分が何者かもわからずにただ困惑し、持っていたぬいぐるみをしっかりと抱きしめるだけであった。
「サビーノ、どうするんだこの女? どうするかはお前の自由だが」
「いいんですか?」
「ああ」
「でしたら、見た目は悪くないですし、俺の世話でもさせますよ。 覚えさせりゃ何とでもなります」
「ほう、女なんかそこらへんの娼婦でいいって言うお前がねぇ」
「こんな上玉、捨てる方が馬鹿ですよ」
「違いねぇ。まぁ、他の連中には俺が取りなしておくさ。誰も文句は言わねぇだろうが、一応な」
サビーノと呼ばれた若い男ともう一人の男は、薄ら笑いを浮かべてビアギッテを舐めるように見回した。
ビアギッテはその視線に恐怖を感じたが、何もわからない状態のために行動を起こすことができなかった。
その日から、ビアギッテはサビーノの下で使用人として働かされることになった。
何もわからないまでも教えられればその通りにこなすことができたのは、ビアギッテにとって幸いだった。
サビーノの使用人となってから一年が過ぎていた。言われるがままに夜の相手を務めたことも、数え切れなくなっていった。
『情婦』として扱われる存在だったが、それに抗うことはできなかった。
ビアギッテはその頃から悪夢に悩まされるようになった。サビーノに起こされて周囲を見回すことも何度もあった。
不思議がるサビーノに、ビアギッテは少しだけ夢の内容を語った。
「昔の夢を見るの。親も、恋人も、誰も私を見てくれない」
「こんないい女に見向きもしないとは、お前の昔の恋人とやらの目は節穴だな」
サビーノはぼんやりとした調子のビアギッテの肩を撫でた。
「そうかもしれないわね」
それだけ言うと、ビアギッテはウサギのぬいぐるみを抱きしめた。
「サビーノが……死んだ?」
サビーノの上役であるガイの口から、それは突然告げられた。
「あぁ。手柄を焦って、キアラの連中と揉め事を起こして殺された……」
サビーノの管轄するシマが、ファイヴの一人であるキアラの組織によって乗っ取られ掛けている話は聞いていた。
それに決着を付けてくると言って、サビーノは昨夜出掛けていった。
「そう……」
ビアギッテは俯いた。
「ここもすぐ引き払わなきゃならん。お前はどうしたい?」
「行く当てなんてないわ」
ビアギッテはサビーノの情婦という立場だ。義理として、組織は彼女の世話をするのが掟だった。
「多少の手助けはするつもりだ。上の階層に行くのは難しいが、仕事と住居の世話ならしてやれる」
「どんな仕事があるのかしら?」
犯罪組織が抗争を繰り返すこの区画でビアギッテが生きていくには、組織——プライムワン——に縋る他に道は無かった。
ビアギッテはガイの手配により、ガイの管理するシマにある酒場の一室を住居として宛がわれ、住み込みで働き始めた。
「おう、ビアギッテ。今日も綺麗だな!」
「ふふ、ありがとう。でも、お世辞よりもたくさん注文してくれたほうが嬉しいわ」
男臭い雑然とした酒場では、ビアギッテの容姿はとても目立っていた。
「昨日は楽しかった。また次も誘っていいか?」
「ええ。いつでも誘って頂戴」
「またな」
ビアギッテは時折、酒場に通う組織の者と夜を共にするようになっていた。
自分から誘った訳ではないが、誘われれば断ることはしなかったし、特に抵抗は感じなかった。
男を見送っていると、下の階からガイが来るのが見えた。
「やるねぇ」
「ガイ、久しぶりね」
「いつからこんな事を?」
「ここで働き始めてからずっとよ。一人は寂しいもの」
「寂しい、か。なら、俺と今晩どうだ?」
「それもいいわね」
「仕事が終わったら迎えに行く」
「楽しみにしてるわ」
ビアギッテは優雅に微笑んで答えた。
ガイと夜を共に過ごすようになって、暫くの時が過ぎた。
「ビアギッテ、今日は……」
「悪いな、俺が先約だ」
「し、失礼しました!」
ガイがいることで、他の男達は声を掛けてこなくなった。
ビアギッテは酒場の仕事を辞め、ガイの情婦となった。
ガイは見るまにビアギッテに惹かれていった。その蠱惑的な美しさを手に入れたことで、ガイは組織の男として自信がつくような気がしていた。
組織のパーティでは、見目麗しいビアギッテはたちまち幹部らの話題の中心となった。
「いい女だな」
「ええ、すばらしい女です。俺の女神だ」
ガイは誇らしげにそう語っていた。
程なくして、ガイはビアギッテに結婚を申し込んだ。しかしビアギッテはその申し出を拒否した。
ガイはそれでも諦めずに彼女に高い服や宝飾品を与え、どうか自分と一緒になってくれるよう頼み続けた。
それでも、ビアギッテは承諾しなかった。
ある日、ひどく酔っ払ったガイに詰め寄られた。
「なあ、ビアギッテ、いい加減首を縦に振ったらどうだ? 誰かに義理立てしてるわけじゃねぇんだろ」
「ごめんなさい……」
ビアギッテは俯くだけだった。
「まさかお前、他に男がいるのか? 誰だ! 答えろ!」
「いないわ。でも、あなたの妻になることはできない」
その瞬間、ビアギッテは頬を叩かれた。
呆然としていると、今度は首に手を掛けられる。
抵抗する間もなかった。その瞬間、朧気な記憶の一部が鮮烈に蘇った。
かつて、同じように恋人に首を絞められたことを思い出した。
目の前にいるガイと、かつての恋人の顔が重なる。似てこそいないが、その鬼気迫る表情は同じだった。
「離して!」
ビアギッテは思い切りガイを振り払うと、部屋の外に向かって逃げ出した。
その際、逃がすまいとガイに掴まれた服の一部が音を立てて破れた。買い与えられたシルクの高級品だ。
部屋を飛び出すと、丁度アパートメントの階段から若いソルジャー数人と幹部の一人がやって来るのが見えた。
「助けて!!」
ビアギッテは渾身の力で叫んだ。
幹部と若い衆が駆け寄ってくる。
「どうした? 何があった?」
「ガイが……ガイが……」
何か言おうとしても、それしか言葉が出てこない。
「おい、ネレーオ、見てやれ」
「は、はい!」
幹部がネレーオというソルジャーに指示を出す。それが早いか、銃声が響いた。
「ぐわっ」
銃声が響くと同時に、ネレーオという男がくぐもった悲鳴を上げた。肩から煙が出ている。
撃たれたようだった。
「ガイ、何をしやがる!」
カポが怒鳴る。酔ったガイは拳銃を持ち出し、カポに向かって構えていた。
「お前か! 俺の女に手を出したのは!」
「ガイ、何を言っている!」
「うるせぇ! じゃあなんで、ビアギッテは俺のものにならないんだ!」
ガイは銃弾を放つが、酔っているせいかアパートメントの壁を破壊するだけに留まった。
「仕方ねえ、始末しろ。騒ぎが大きくなる前にな」
ガイは数回の撃ち合いの末に、射殺された。
その日の内にガイの死体は始末され、存在ごと抹消された。
残されたビアギッテは、カポ達によりボスのところへ連れて行かれた。幹部の暴走を招いた女から事情を聞く必要があるとのことだった。
「連れてきたか?」
「はい」
「相変わらず美しいな。あいつが狂うのも、わからんでもない」
ボスはビアギッテを鑑賞するように眺めた。
「どうします? 一緒に始末しますか?」
「その必要はねえだろう。 ガイのこと、惚れてなかったんだろう?」
「それは……」
ビアギッテは口籠もった。
「まあいいさ。細かな事情は落ち着いてからでいい。よし、しばらく俺のところで預かろう」
死んだ幹部の情婦をボスがすぐに身請けするのは、あまりいいことではない。幹部達はボスに見られない形で目配せをした。一部の者は露骨に嫌悪感を表していた。
ボスはビアギッテの肩に手を置いた。
「ビアギッテといったな。俺の言うとおりにしておけば、悪いようにはしねえ」
「ありがとうございます」
ビアギッテはボスを見つめてそう言った。
「話はこれで終わりだ。 組織につまらないトラブルを持ち込むんじゃねえぞ」
幹部達はボスの言葉を聞くと、部屋から去って行った。
「—了—」