R1 阿修羅(含新日版)

3386年 「法則」

魯比歐那聯合王國的東邊,在巴拉克王國的邊境有個部落。

雖然那裡是個遠離文明中心的地方,卻也無法逃離『渦』的禍害。不過在這裡生活的人們──被稱作海登之民──以獨特的方式適應了這個環境。和文明世界封閉在城塞中好保住命脈相反,這個民族則是以自然的力量及強化自己身心的方式來應對。他們以嚴峻的精神適應了這苛刻的時代。他們從不定居在一處,徘徊於山谷以及森林中,經常保持警戒不怠慢,不分老少的進行嚴苛修行,正因如此這個民族才能從這黑暗的時代中存活下來。

不知道什麼時候開始,他們已經被稱為傳說中的民族了。



在這個海登的部落裡有個名叫阿修羅的青年。是一位年紀輕輕就被稱為『術』之天才的男子。不害怕任何危險,他的眼睛就像有毒般令人畏懼。而他的體術特別優秀,就連成年人的術士也沒有幾個人贏的過他。

在阿修羅剛滿十六歲的時候,他決定參加『成人式』。

『成人式』是海登自古以來的傳統,在那年成年的人,都必須進行從村外帶回從渦出現的猛獸頭顱回來的儀式。這個考驗非常的嚴格,失敗的話會喪失性命,就算逃回來,如果沒有帶著猛獸的頭顱是不被容許再次踏入村裡的,有時也會有人因此而被射殺。

但是問題在於,這考驗太過嚴苛,導致青年們都越來越不願意參加。



「十八個人嗎,今年可真多啊」

主持成人式的大長老說道。回答他的是有實質權力的指導者,大家稱他為頭目的穆爾迦。臉上帶著疤痕。看起來精悍且莊嚴的的壯年戰士。

「應該是因為阿修羅決定要參加。那個男人要參加的話,其他的人也都下定決心參加」

「原來如此,很像青年們會做的盤算」

「以他的技術,殺個一,二隻猛獸帶回來根本是輕而易舉的事。不過,要期待他會協助為了他而參加的人,還真是不能茍同啊」

「的確如此。但是,能活著回來就是強者的證明。這樣的盤算也不是壞事」

長老輕撫著他那長長的鬍鬚回答了穆爾迦。



「阿修羅,你真的要參加成人式嗎?」

阿修羅正在整理武器時,一位名叫卡瑪娜的青梅竹馬少女問道。

阿修羅從小就失去父母,一個人過活到現在。移動式的帳篷裡沒有隔間,入口一進來就是客廳也是寢室。而且阿修羅的帳篷跟部落其他標準的帳篷相較之下格外的小且簡單。

「嗯」

阿修羅頭也不抬地回了話。

「大家好像都要今年參加。你知道嗎?聽說梅迦跟斯納吉也都會參加。還有基度好像也會去」

大家都是同一個世代的年輕人。不過大家都與阿修羅沒有什麼交集。默默地自己鍛鍊術的他,連一個能稱為朋友的人都沒有。失去雙親之後除了照顧自己的卡瑪娜一家人以外,跟其他村裡的人平常都不太有接觸。

「不清楚,我對這些沒興趣」

阿修羅繼續保養他的武器,研磨著一把被稱做苦無的短刀。

「我也來參加好了,因為大家一起去的話也比較容易成功不是嗎?連那個基度都要參加了,我當然也該去嚕」

基度是一個腳部萎縮的青年。不管怎麼看也不覺得他能通過成人式的考驗。

「不要去,妳還不夠強」

「是嗎?不要看我這樣,我也挺行的」

少女一邊笑著輕鬆的回答。卡瑪娜覺得阿修羅只是笨拙,她知道他不會將自己的感情表現出來。所以一直以來,都是努力用開朗的態度對待他。

「我已經給妳忠告了」

「哇哦真恐怖。阿修羅,我也會去參加成人式。我已經決定了」

說完卡瑪娜就從阿修羅的帳篷走了出去。結果,阿修羅一次也沒抬起頭過。



舉行成人式的當天,年輕的參加者跟來送別的親族在村子入口聚集,人數相當的多。參加的十八人之中竟有五名女性來參加,不過幾乎都是情侶一起來參加。女性雖然沒有參加成人式的義務,但是沒有通過這儀式的話在村裡的地位就不會提升。而男性在過了二十歲時還沒通過成人式的話,便會被趕出村落。

「你們要帶回來的『野獸』頭顱不管是什麼猛獸的都可以。不過,一個人一個。這是測試你們是否為強壯海登之民的考驗。盡自己的全力去面對一切,明白了嗎」

青年們以「明白」回答頭領的這番話。

參加者一個接著一個步出村莊。替這些年輕人送行的親屬們也有人為此紅了眼眶而落淚。其中也有卡瑪娜的雙親。

「卡瑪娜,妳一定要回來啊」

「別擔心,阿修羅也在呀」

卡瑪娜對著雙親邊笑邊說著。



青年們離開村子後已經過了兩天。一開始帶著旅行心情的他們,也開始慢慢地不安起來。有著領導般地位被稱作梅迦的魁武男子,將大家聚集起來後開始說道。

「明天就到接近猛獸出沒的邊境了。大家一起合力完成這個考驗吧」

「不過,要往哪邊去才找到猛獸啊?沒人知道哪邊會有適當的猛獸出現啊」

「那個要靠大家一起合力……」

梅迦的話引起反對的意見。

「那麼悠哉可以嗎?」

聚集在火堆邊的青年們,或許是因為不安與興奮開始任意的說起各自的意見。

「阿修羅!你有到過這一帶嗎?要往哪邊去才能找到猛獸呢?」

對著不發一語的阿修羅,卡瑪娜將問題轉向給他。此話一出,大家開始找尋阿修羅。不過卻看不到他的身影。所有的人都對村落裡最難靠近但卻是最有能力的阿修羅抱著期待。周遭充滿詭異的寂靜。

「東邊。就這樣往東邊去的話,就可以到我看過好幾次猛獸的地方了」

只聽到阿修羅的聲音迴盪在周圍,應該是隱藏了氣息在樹上休息吧。

他成人式之前,就已經與猛獸戰鬥過不少次了。原本成人前的孩子離開村落是不被允許的事。但是,對於能使用卓越術的他,並沒有被追究隨意出入村子這件事。

「他是這樣說的,我們要往東邊去看看嗎?」

卡瑪娜提了意見。

「會遇到什麼樣的猛獸?十角獸?還是噴火鳥?」

其他人也開始跟著發問。不管哪一個都是熟知的猛獸,中型,只要不掉以輕心就不是什麼大威脅。

「都有,不過,你們最好小心一點」

阿修羅持續不現身,只有聲音低沉的響著。

「好,那麼就決定了。明天往東邊前進吧。可能的話盡量早一點出去吧,我想避免在危險的地方過夜」

鬧哄哄的這一晚,就這樣結束了。



隔天,年輕人們向東邊前進。不見阿修羅的身影。似乎在離集團有點距離的前方移動著的樣子。

過了一會兒,基度開始變的緩慢跟不上集團。到目前為止雖然想盡辦法跟上了大家,但是似乎也已經快到極限了。

「基度,現在放棄回家去如何?你是辦不到的」

森林裡迴盪著笑聲。

「哭著道歉的話,長老也會原諒你的」

接著笑的更大聲。基度無視那嘲笑,拖著不自由的腳繼續跟了上去。「我是不會放棄的」,基度以沒人聽得見的小聲說著。



過了一會,前面茂盛的樹林大大的搖了起來。有人尖叫了出來。

「是十角!」

像頭小牛般的大小,擁有十支角的四腳獸出現在他們面前。

「就是牠,快圍剿」

集團變得緊張起來。這麼早就能發現獵物真是幸運。

「我是第一個」

一個年輕的男子朝著十角興奮的追了出去。接下來就像是競爭般,四,五個人也遠離隊伍追了出去,打算要包圍牠而分散在森林裡。

然後森林中傳出悽慘的叫聲。集團開始嚇得發抖。

「該不會,被十角給打倒了吧?」

他們雖然不及阿修羅,但也是在術的運用上有一定的程度。他們各自帶著自己專用的武器,雖年輕但也是經過鍛鍊的戰士。

「不會吧」

在剩下的人停留在原地不動一陣子後,陣陣濃濃的血腥味開始從周圍飄了過來。

「可惡,到底發生了什麼事!?」

打算搶救剛剛追出去的人,又有二個人消失在森林中。

「什麼?大家怎麼了!喂,快回答我啊!!」

剩下的隊伍裡女性比較多。也有人嚇得直發抖。

「阿修羅,你在哪?救救我們!」

卡瑪娜大叫著。

「我在這裡」

「跑去追十角的所有人,都沒有回話」

卡瑪娜的聲音像是快哭出來。

「我已經警告過了,說要小心」

阿修羅的聲音絲毫不帶任何情感。

「不要再開玩笑了快點出來!那邊有什麼嗎?求求你,跟我們待在一起嘛」

沒有任何回應。

某種生物在森林中高速奔走的聲音劃破了寂靜。在剩下的集團面前的森林,樹木像是被什麼東西給劃開似的接連倒下。

在那邊有著巨大的『野獸』。那是漆黑且巨大的蜘蛛。因為牠的顏色跟什麼都能切開的腳而被稱為『黑曜蜘蛛』的猛獸。牠的腳上正滴著血紅色的鮮血。蜘蛛有好幾隻,看來是早就埋伏在這裡。隊伍被蜘蛛給包圍了。

除了一部分慌亂的人之外,年輕人們都持著劍跟蜘蛛對峙。

但下一瞬間,都被蜘蛛的腳給切裂。蜘蛛光揮一腳,就讓三個人的頭顱飛落。

「阿修羅!!」

卡瑪娜悲慘的聲音迴盪著。但是在那大聲的喊叫中,她還是成為了蜘蛛的餌食。揮下的蜘蛛爪將她從肩膀一直到胸口給撕裂。在慢慢失去意識的同時聽到了阿修羅的聲音。

「我說過了。叫妳別來」

冷靜透徹的言語夾雜在蜘蛛屠殺餌食的聲音中,在森林裡迴盪著。



恐怖的盛宴結束後的森林,再次回歸寂靜。將自己的氣息隱藏起來的阿修羅回到了地面。

「你們就是太弱才會變成這樣」

在他一個人自言自語時,感覺到背後有人的氣息。站在身後的是基度。手裡握著十角的頭顱。

「看來你順利達成了」

「阿修羅,你對這些人見死不救嗎?」

「不,是因為他們太弱才自己死掉的」

「也對,是因為太弱所以才死的」

基度的臉上浮現出笑容。

「我先回去了」

阿修羅拿起放在腳旁的黑曜蜘蛛頭顱便離開了。襲擊隊伍的蜘蛛,全部被阿修羅一個人解決,失去了頭顱。



阿修羅的歸來在村中引起騷動。參加成人式青年們的家屬,全都聚集到阿修羅的身邊。

「真的嗎,大家真的都被殺了?」

「中了黑曜蜘蛛的埋伏,當我追上的時候,所有人都已經死了」

「阿修羅,為什麼!有你跟著還會變成這樣!」

卡瑪娜的雙親責備著阿修羅。

「別難過。弱者就當做沒有出生過。那就是這個村子的法則」

長老介入其中向雙親說道。長老重複的說著殘酷的法則,在場的親人們都掩面大哭。

「做的好,阿修羅」

身為頭目的穆爾迦走了過來要收取蜘蛛的頭顱。

「這麼一來你就是海登之民了,成為海登的男人」

阿修羅面無表情的點點頭,將巨大的蜘蛛頭交給了穆爾迦。



阿修羅不理會村子的騷動回到帳棚後,靜靜的躺下。對同世代同伴們見死不救了。但,完全不後悔。

「因為太弱才死的。不,應該說弱者非死不可」

一個人自言自語著。

然後,看著帳篷的頂端,回憶起對母親的最後記憶。



母親在阿修羅小的時候染病上身,身體日漸消瘦。父親在更早之前就被猛獸所殺,未曾出現在阿修羅的記憶裡。母親就靠著自己一個人養育著阿修羅。但是病情不斷加重,一直都過著臥病在床的日子。

十年前,六歲的時候,村子移居的日子逐漸近了。村子每三年移居一次。那個時候,無法跟上的人將會被遺棄。

這是為了讓這個部族生存下去的手段。也有一部分是為了要排除族裡的弱者。母親不願表現出悲傷的一面,握著阿修羅的手說了好多次。「這是沒有辦法的事」。現在已經連母親的臉都想不起來了,但是那白細的手及觸感到現在都還清楚地記得。

終於到了出發的日子,跟母親離別的時候。但是,阿修羅完全沒有留下一滴淚。母親在最後道別時說了。「變強,變強活下去」。

母親在沒有遮蔽,只鋪著粗糙的草蓆且淋雨的地面上躺著的。跟其他的家族一起離開村落時,阿修羅回頭看了好幾次。母親將上半身坐了起來,一直向他揮手。

那就是最後的樣子。只有母親最後的一番話,在阿修羅的心中久久徘徊不去。



在『成人式』事件之後,有一段時間仍然有些人在情緒上對阿修羅抱持著敵意。但是,庇護阿修羅的人,就只有同樣一起參加成人式阿修羅以外的唯一生還者基度。

他說「阿修羅有拼命要救大家。沒有大聲向大家說明真相,是他的誠實」,還說「腳部萎縮的自己能回來,就是證據」跟大家說道。逐漸的,阿修羅對同伴見死不救這樣的質疑就漸漸被遺忘了。

『成人式』之後過了三年,阿修羅精進到被推舉為副頭目人選。

不顯現自己的感情,雖說有眾所皆知冷淡的性格,但在這海登的社會,實力就是一切的基準中心。

「那麼,新的副頭目將任命由阿修羅擔任」

阿修羅終於,由頭目的手中接下副頭目的護額。

將證明綁上後,與長老和頭目以及其他副頭目站在一起的阿修羅的眼神中,又多添加了一層冷冷的光輝。



「─完─」

日文版
3386年 「掟」

ルビオナ連合王国の東、バラク王国の外れにその集落はあった。

そこは文明の中心地からは遠く離れていたが、渦の惨禍から逃れることはできなかった。だがこの地に住む者達――ハイデンの民と呼ばれていた――は独特の適応を行った。文明世界が城塞に閉じこもる形で命脈を保ったのに対して、この地では自然の力と自民族の心身の強化によってそれに対応した。峻烈な精神をもってこの過酷な時代に適応したのだった。常に定住せず、谷や森を巡り、常に警戒を怠らず、老若問わずに苛烈な修養を行うことによって、その民族は漆黒の時代を生き抜いてきた。

いつしか彼らは、伝説的な民族として語られるようになった。

 

そのハイデンの集落にアスラという名の青年がいた。若くして『術』の天才と言われた男だった。どんな危険も恐れず、その目は毒を持つと恐れられた。彼は特に体術に飛び抜けて優れ、大人の術士でも彼に敵う者は数える程しかいなかった。

そのアスラが十六になったばかりの頃、彼は『成人の儀』に参加することを決めた。

『成人の儀』とはハイデンに古くからある伝統であり、その年に成人する者は村の外から渦の獣の首を持ってこなければならない、という通過儀礼だった。この試練は厳格であり、この試練に失敗すれば命は無く、例え帰ってきたとしても、獣の首が無ければ二度と村に入ることを許されず、時には射殺される事もあるというものだった。

ただ、その峻烈さ故、なかなか若人達が参加しないのが問題となっていた。

 

「十八人か。今年は随分と多いな」

成人の儀を取り仕切る最長老が呟いた。それに答えるのは実質的な指導者で、頭と呼ばれるマルガだ。顔一面に疵のある、精悍で威厳をもった壮年の戦士だ。

「アスラが参加を決めた所為かと。 あの男が参加するならばと、他の者達も腹を決めたようで」

「成る程な、若者らしい打算という訳か」

「奴の腕ならば、獣の一匹や二匹、殺して持って帰ることなど造作もないでしょう。しかし、それを当てにするのは感心できぬ話」

「確かにそうじゃ。 されど、生き残ることこそ強さの証。 打算もまた悪いことではない」

長老は長く伸びた顎髭を撫でながらマルガにそう答えた。

 

「アスラ、本当に成人の儀に出るの?」

武具を整えるアスラに、カマナという幼馴染みの少女が声を掛けた。

アスラは幼い頃に両親を亡くし、一人で暮らしていた。移動式の天幕には仕切りなど無く、入り口がすぐ居間であり寝室だった。そして、アスラの天幕は集落の標準と比べても質素で小さかった。

「ああ」

顔も上げずにアスラは答えた。

「なんか、みんな今年参加するみたいなんだ。 メイガもスナジも参加するんだって。知ってた? あと、キドウも行くみたい」

皆、同世代の若者達だ。だがアスラとの付き合いは殆ど無かった。黙々と己が術を鍛える彼に、友人と呼べる人間は一人もいなかった。両親を失った後に自分の面倒をみてくれたカマナの家族ぐらいしか、村の者と普段関わることをしなかった。

「知らないな。 興味が無いから」

アスラは武具の手入れを続けていた。小さなクナイと呼ばれる短刀を研いでいる。

「あたしも参加しようかな。 だって、みんなで行った方が成功しやすいじゃない。 あのキドウでさえ行くんだもの。 あたしだってさ」

キドウというのは足萎えの青年だ。とても成人の儀を達成できるとは思われていない男だ。

「やめておけ。 お前はまだその強さにない」

「そう? あたしだって結構やるのよ、こう見えても」

からからと笑いながら少女は気安く答える。カマナは、アスラはただ不器用なだけで、感情を表に出さないだけだと理解していた。だから今までずっと、努めて明るく彼に接してきた。

「忠告したぞ」

「おお怖い。 アスラ、あたしも成人の儀に出るからね。 決めた」

そう言ってアスラの天幕からカマナは出て行った。結局、アスラは一度も顔を上げることはなかった。

 

成人の儀が行われる日、参加する若者達とそれを見送る親族が村の入り口の前に集まった。随分な人数になっている。十八人の参加者の中には女も五人いた。恋人同士で参加している者が殆どだ。女に成人の儀の義務は無かったが、成人できていなければ村での地位は低いままだ。男の場合は二十歳を過ぎるまでに成人の儀を達成できなければ、集落から追放となった。

「お前達が持って帰る『獣』の首はなんでもよい。 ただし、一人に一つだ。 これはお前達が真にハイデンの強き民として相応しいのかを試す試練だ。 自分の全力を用いて事に当たるがよい。わかったな」

頭の言葉に「はい」と若者達が答える。

ぞろぞろと若者達は村を出て行った。若者達を見送る親達の中には涙を浮かべている者もいる。そこにカマナの両親もいた。

「カマナ、必ず帰ってくるんだぞ」

「心配しないで、アスラもいるんだから」

笑いながらカマナは両親にそう言った。

 

若者達が村を出て二晩が経った。初めはちょっとした旅行気分だった彼らの心にも、少しずつ不安が広がり始めていた。リーダー格のメイガと呼ばれる体格のいい男が、皆を集めて話しを始めた。

「明日には獣の出没する境界に近付くことになる。 皆で協力し合って試練を達成するんだ」

「でも、どこに行けば獣を見つけられるんだ? 手頃な獣がどこにいるかなんて知らねえぞ」

「それは皆で協力して……」

メイガの話に反発の声が上がる。

「そんな悠長な話でいいのかよ」

焚き火の周りに集まった若者達は、不安と興奮から好き勝手な意見を述べ始める。

「ねえ、アスラ! ここら辺まで来たことある? どっちに行けば獣がいるの?」

何も発言しないアスラに、カマナから話を振った。その一言が発せられると、一斉に皆がアスラを探した。しかしアスラは見当たらない。皆、近付き難いが村一番の使い手であるアスラに期待していた。奇妙な静寂が辺りを包む。

「東だ。 このまま東に行けば、何度か獣を見かけた場所に着く」

アスラの声だけが響いた。おそらく気配を消して木の上で休んでいるのだろう。

彼は成人の儀など関係なく、何度も獣と戦っていた。本来、成人前の子供が村の外に出ることは許されていない。ただ、卓越した術の使い手であるアスラは、特別に咎められることもなく村と外を行き来していた。

「だってさ。 東に行ってみない?」

カマナが提案する。

「どんな獣に遭ったんだ? 十角獣? それとも火吐鳥?」

他の者からも質問の声が上がる。どちらもよく知られた獣だ。中型で、油断しなければ大した脅威ではない。

「どちらもいた。 ただ、気を付けた方がいい」

アスラの姿はまだ見えない。声だけが低く響く。

「よし、ならば決まった。 明日、東に向かうぞ。 なるべく早く出よう。 危険な場所で夜を迎えるのは避けたいからな」

騒然とした一夜の集まりは、こうして終わった。

 

次の日、若者達は東へ進んだ。アスラの姿は見えない。少し集団から離れて進んでいるようだ。

しばらくすると、キドウが集団から遅れ始めた。ここまでは何とか集団に付いてきていたが、そろそろ無理が出てきたようだった。

「キドウ、諦めて帰ったらどうだ? お前には無理だ」

森に笑い声が響いた。

「泣いて謝れば、きっと長老様も許してくれるぞ」

また笑い声が湧く。キドウは笑い声を無視して、不自由な足を引き摺って付いていく。「俺は諦めない」と、誰にも聞こえないくらいの声で呟きながら。

 

しばらくすると、前方の森の茂みが大きく揺れた。誰かが叫んだ。

「十角だ!」

子牛くらいの大さで、十の角を持つ四足獣がこちらに顔を見せた。

「そら、追い立てろ」

集団が色めき立った。こんなに早く適当な獲物が見つかったのは幸運だった。

「俺が一番乗りだ」

興奮した様子の若い男が十角を追って走り出す。次々と争うように四、五人が隊列から離れて、回り込もうと森に散った。

すると森の中から悲鳴が上がった。集団に戦慄が走る。

「まさか、十角なんかにやられたのか?」

彼らも、アスラ程ではなくとも術は心得ていた。それぞれ自分専用の武具を持った、若くとも鍛えられた戦士であった。

「まさか」

残った者達がしばらく動けないでいると、血生臭い匂いが周りに立ち込めはじめた。

「くそ、何が起きたんだ!?」

回り込んだ集団を助けようと、二人がまた森に消えた。

「なに? どうしたのみんな! ねえ、返事して!!」

残った集団は女の方が多い。 不安で震えている者もいる。

「ねえアスラ、どこ? 助けて!」

カマナが叫んだ。

「俺はここにいる」

アスラの声がする。

「十角を追っていったみんなから、返事がないの」

カマナの声は泣き声に近い。

「忠告したはずだ。気を付けろと」

アスラの声に感情は籠もっていなかった。

「冗談はやめて出てきて! 向こうに何がいるの? お願い、私達と一緒にいてよ」

返事は無い。

何かが森を高速に走る音が静寂を破った。残った集団の前の森が、勝手に開けたかのように木々を倒していった。

その向こうに巨大な『獣』がいた。それは漆黒の巨大な蜘蛛だった。何もかもを切り裂く鋭い脚とその色から『黒曜蜘蛛』と呼ばれている獣だった。その脚から真っ赤な鮮血が滴り落ちている。蜘蛛は何体もいた。待ち伏せしていたのだ。集団は蜘蛛に囲まれていた。

狼狽した一部の者を除き、若者達は剣を構えて蜘蛛と対峙した。

しかし次の瞬間、一斉に蜘蛛の脚に切り裂かれる。蜘蛛のたった一振りで、三人の首が宙を舞った。

「アスラ!!」

カマナの悲痛な声が響く。だがその声を上げたまま、彼女は蜘蛛の餌食となった。振り下ろされた爪は肩から胸に至るまで彼女を引き裂いた。遠ざかる意識の中でアスラの声が聞こえる。

「俺は言った。 やめておけとな」

冷徹な言葉が、蜘蛛達が餌食を屠る音に混じって森の中に響いた。

 

陰惨な宴が終わった後の森に、再び静寂が広がった。気配を消していたアスラが地上に降り立つ。

「弱いからこうなる」

一人呟いた。だがその時、何かの気配を背後に感じた。そこにいたのはキドウだった。その手には十角の首がある。

「うまくやったようだな」

「アスラ、こいつらを見殺しにしたのか?」

「いいや、弱いから勝手に死んだだけだ」

「そうだな、弱いから死んだんだな」

キドウの顔に笑みが浮かぶ。

「先に行く」

アスラは足下に置いた黒曜蜘蛛の首を抱えて去っていった。若者達を襲った蜘蛛は全てアスラの手に掛かり、首を失っていた。

 

アスラの帰還に村は騒然となった。成人の儀に参加した若者の親達が、アスラの元に集まっている。

「本当に、本当に皆やられたの?」

「黒曜蜘蛛の待ち伏せに遭った。 俺が追い付いた時には、皆死んでいた」

「なぜなの、アスラ。 あなたが付いていながら!」

カマナの両親がアスラを責める。

「悲しむな。 弱い者は生まれてこなかったのと同じ。 それがこの村の掟じゃ」

長老が間に入ってそう両親を諫めた。残酷な掟を長老は繰り返し述べる。その場にいた親達は泣き伏せった。

「よくやったな、アスラ」

頭のマルガが首を受け取りに来る。

「これでお前はハイデンの民、ハイデンの男となった」

アスラは無表情に頷き、巨大な蜘蛛の頭をマルガに渡した。

 

騒ぎを後にして天幕に戻ると、静かに横になった。同世代の仲間を見殺しにした。しかし、後悔は全く無かった。

「弱いから死ぬんだ。いや、弱い者は死ななきゃならない」

そう呟いた。

そして天幕の天井を見ながら、母親の最後を思い出していた。

 

アスラが幼い時に母親は病に侵され、徐々に痩せ細っていった。父親はもっと前に獣に殺され、その思い出はアスラの記憶に無かった。母親はたった一人で彼を育てていた。しかし病はひどくなるばかりで、伏せっている日々が続いた。

十年前、六歳の時、村の移動の日が近付いてきた。村は三年に一度移動をする。その時、付いていけない者は置いて行かれるのだ。

これはこの部族が生き残るために行ってきた手段だった。一族から弱者を廃する意味もあった。母親は悲しむ素振りも見せずに、アスラの手を握って何度も言った。「しかたない」と。今は母親の顔も思い出せなくなっているが、その細く白い指先の感触は、今でもはっきりと覚えている。

とうとう出発の日が訪れ、母親との別れの時がきた。しかし、アスラは全く涙を流さなかった。母親は最後の別れ際に言った。「強く、強く生きなさい」と。

天幕も無く、雨晒しの地面に粗末な藁を敷いた上に母は寝ていた。他の家族と共に村から離れる時、アスラは何度も振り向いた。母親は半身を起こして、ずっとこちらに手を振っていた。

それが最後の姿だった。母親の最後の言葉だけが、何度もアスラの心に響いていた。

 

『成人の儀』の事件があった後、しばらくの間はアスラに感情的な敵意を向ける者達がいた。ただ、そんなアスラを庇ったのが、同じ成人の儀に参加してアスラ以外にただ一人帰還したキドウだった。

「アスラは皆を必死に助けようとしていた。 声高にそれを説明しないのは、彼の誠実さだ」と言い、「足萎えの自分が帰ってきたのが、その証拠だ」と皆に説明した。その内に、仲間を見殺しにしたのではないか、という疑義は忘れ去られた。

そうして『成人の儀』から三年も経つと、アスラは副頭目候補に挙げられる程になっていた。

感情を表に出さない、冷厳な性格で知られていたが、このハイデンの社会では強さこそが全ての尺度の中心であった。

「では、一族の新たな副頭目にアスラを任命する」

アスラはついに、頭から副頭目の証である鉢巻を受け取った。

証を身に付けて長老と頭、他の副頭目の前に出たアスラの瞳には、より一層冷たい光が宿っていた。

「―了―」