某日,引導者命令我休息。
最近都在忙探索與模擬戰,所以可能是要我偶爾休息一下吧。
突然被引導者無表情的說「你這次休息」,有點恐怖。
所以,我今天可以享受沒有任何事的日子。
……本來應該是可以享受的。
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當我正在走廊放空看著外面陰沉的景色時,突然有人撞到我。
「哇!?幹什麼啊你!?……咦,嗯?」
撞到我的某個人,好像是沒有看見我似地,維持速度跑掉了。
看往那傢伙跑掉的方向後,不知道是不是因為撞到我的衝擊,有白色石楠跟謎樣的券掉在地上。
看著散落的白色石楠跟券,我心想。
(應該是路德或是誰,如果是他們掉落正在搬運的商品的話也還是很詭異。)
館內的侍者們再怎麼樣,都還是蠻有禮貌的。不管再怎麼緊急,要是撞到人也一定會道歉的啊。
我將白色石楠跟券撿起來,拍掉灰塵。
「給我乖乖束手就擒!」
突然,就聽到了路德尖銳的聲音。同時也聽到風聲切過的聲音,同時手腕伴隨著疼痛有東西捲上來的感覺。
「痛死我了!?什麼啊!」
仔細一看,捲在手上的是路德一直在當武器使用的鞭子。
「那是我才要問的,雖然我知道你手腳不乾淨,但是沒有想到你連店內的商品都敢出手。」
路德那傢伙看起來怒氣衝天地朝我走過來。
等等這個,這個是他平常拿來打魔物的鞭子對吧……。咦,也就是說我被當作魔物對待了嗎?
「啊?我什麼都沒做啊!」
突然被當作小偷,我抗議說道。
「那麼,你拿著的那些是什麼!那可是為了聖女大人與大小姐而做的,重要的物品耶」
「剛剛有個奇怪的傢伙撞到我了,應該是那傢伙拿走的吧!別隨便怪在我身上啊!」
「真是的,大小姐不在的時候做這種事。為什麼聖女大人要呼喚像這樣的人啊……」
這傢伙,有在聽我說的話嗎?完全講不通啊。
「我就說不是我了!我拿這種券要幹什麼啊!」
「別再裝傻了!」
「你們在做什麼?」
就在我與路德吵來吵去的時候,伊普西隆出現了。
「這個人偷了我商店內的商品。你跟這個人感情很好對吧?把他看緊一點啊」
「所以我就說不是我了!路德沒有任何證據就一口咬定是我了!」
「原來如此。雨果,你惡作劇該收斂一點比較好吧?」
「所-以-!我就說不是我了啊!」
伊普西隆看了看拼死否定的我以及路德,再看看散落在地上的道具類後,歪了一下頭。
「路德我問你,被偷走的東西都在這裡了嗎?」
「不,是整個倉庫的存貨,精靈之藥跟時間沙漏等類也被偷走了」
「是嗎。那麼,我看起來雨果並沒有拿著那些東西啊?就算是藏在衣服內也有個限度」
「咦,這麼說來……。我太集中在被偷走東西這件事上,沒有發現」
伊普西隆這一說我也才發現。對嘛,我的衣服內就算可以放那些謎樣券也就算了,藥跟沙漏可是藏不住的!
不愧是伊普西隆!等等我拿好吃的蘋果去請你吃!
「那麼到底是誰……」
「剛剛,我看到有個人物抱著頗大的袋子跑走了,不是他嗎?」
「大袋子……羊角獸嗎!?那傢伙,學不乖又侵入館邸了嗎!」
看來,路德知道小偷大概是什麼人。
「抱歉懷疑了你」
於是,路德重新面向我,並深深地向我鞠躬道歉。
「只要解開誤會我就沒關係了啦。話說,快點追上去比較好吧?需要幫忙嗎?」
「說的也是,需要的話,我也可以幫忙」
「真的很抱歉,雖然很不好意思,還是勞煩你們了」
路德低下頭拜託我們。反正,要是影響到引導者探索的話就麻煩了,畢竟非得取回記憶的可是我們啊。
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於是,我跟伊普西隆決定去追羊角獸了。
路德則是去跟其他侍者請求幫忙,跟我們分開行動。
在追羊角獸的途中,遇到跟我們一樣,撿到掉落的道具一臉困惑的瑟法斯跟魯卡。總之先跟他們說幫忙把道具送回路德的店,然後打聽出道具掉落的地點。
我們朝瑟法斯他們說的方向小跑步過去。
過沒多久,看到羊角獸出現在通往某個房間的通道上。
「伊普西隆,就是他!」
就在我們要加速去追疑似羊角獸的身影時。
「別想逃」
我聽到像是寒冷地帶般的女性聲音,然後一面冰盾出現在我們前方。
「咦,嗚哇!?」
「唔……」
我們完美地撞上冰盾,我跟伊普西隆都因此跌坐在地上。
「偷走我重要實驗品的,就是你這傢伙啊」
接著聽到,像是從地獄深淵傳來的男子聲音。
回頭一看,貝琳達跟羅索用著像暴風雪般寒冷的眼神瞪著我。
「不是我啦,是羊角獸侵入了!」
「別說謊了。喂,像木偶的小鬼。你跟著的話,就好像監視這個手不乾淨的小鬼啊!」
「所以,我就說不是我了啊!」
又來了,又是這樣。
伊普西隆明明跟我在一起,就都只懷疑我,果然是我平常的所做所為造成的嗎。
「什麼東西被偷走了?」
伊普西隆像什麼都沒發生過似地站起來,冷靜地問貝琳達。
「被偷走的是,可以把人類像死者一樣操縱的試做藥品哦。才一會兒沒看到就被拿走了。」
「為什麼要做那種東西啊!?那種東西,就算拜託我都不會去偷啊!!」
我不小心反射性的叫出口了。但,明明在說恐怖的東西,貝琳達卻是一臉笑容。
「因為,這個人在做的東西很有趣的樣子嘛」
「這個女人的能力有非常厲害的地方。我只是要驗證一下而已,有需要那麼激動嗎?」
「當然有啊」
「要是不小心惹聖女生氣的話,我們回到地上的可能性會降低不是嗎?」
「我才不需要小偷跟怪物來跟我說教。要是聖女妨礙我回到地上的話,打倒她就好了」
羅索藏在護目鏡後的眼睛一亮,直接說道。
取回部分記憶的傢伙果然不一樣嗎。
「啊,不是在這裡停下腳步的時候。那種危險的東西,要快點拿回來才行!」
「所以你把偷的東西還給我,不就解決了嗎?」
「我就說,偷走的是羊角獸啊!」
「雨果說的沒錯。羊角獸侵入館邸了。路德請我們幫忙抓那傢伙,把被偷的東西奪回來」
伊普西隆在我說話的同時,開口解釋路德請我們幫忙的內容。
「羊角獸?記得之前好像也侵入過?」
「嗯。那時是人偶偶爾找到,鬧成一片。之後館邸內的人全部出動,應該已經打倒了才對啊」
人望之差這麼現實的擺在我面前,我覺得有點悲傷。是因為在模擬戰偷他們武器的關係嗎。不過那是我的戰鬥方式,所以我也不打算住手就是了。
「那,看到羊角獸的話就把牠打倒吧。那傢伙,連路德店裡的東西都偷了」
「看我有心情時就幫」
「是呀,有心情時就幫」
很好,沒有用。這些傢伙除了自己感興趣的事物以外,沒有半點心想要理會其他事物。
不過,想要把這些傢伙做的危險藥處理掉,是個好機會。偷偷地把藥交給侍者們去處理好了。就這麼決定了。
「雨果,快走吧」
不管那兩位不打算幫忙的人,我們再次去找追丟的羊角獸。
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「呃,追丟了嗎。希望不是已經逃到外面了……」
「也不知道他的目的……」
我們邊注意有沒有被打破的窗戶,邊在館邸內尋找著。
只剩下後院還沒有找的時候,發現凱倫貝克跌坐在通往後院的門前。
「沒事吧!發生什麼事了啊」
凱倫貝克慌忙地站起來。
「我剛從後院要回來,突然被什麼人給撞倒。我有些大意了」
「那大概是羊角獸,那傢伙似乎侵入館邸了」
「又是牠,之前侵入的傢伙已經打倒了,是別隻嗎」
「你知道牠往哪裡逃了嗎?」
「應該是往二樓去了。我被撞倒之後,聽到爬樓梯的聲音」
「好,謝啦,凱倫貝克」
「嗯,我找到那傢伙的話,我也會用我的小提琴音來報復牠」
「拜託你了」
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我們走上疑似羊角獸跑走的樓梯,往二樓上去。
在二樓走廊,遇到了拿著雜誌打算往哪裡去的布朗寧。
跟布朗寧說明事情之後,他說「羊角獸?那傢伙又侵入了啊」。然後說要跟我們從不同方向來找,不愧是偵探,真可靠。
這樣應該可以慢慢將羊角獸包圍起來,然後要解決這件事就只剩時間的問題了。
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我們就那樣在二樓尋找著羊角獸時,看到一扇開著的門。聽到雪莉跟伯恩哈德在爭論的聲音。
「我叫你還給我沒聽到嗎?乖乖還給我的話,我就不會動武」
「我就說不是我。就算是有人拿走,也是剛剛撞到我的傢伙。不要隨便誤會人」
雪莉的腳邊有她養的狗,看起來就像是隨時要咬上去似地,張嘴露牙。
「喂喂喂,怎麼了?」
一向兩人搭話後,雪莉像是要我別管似地往我瞪了一眼,伯恩哈德則是一臉困擾的表情看向我。
「你是怎樣?不要來妨礙我」
「我有不能不管的理由,到底發生什麼事了?」
「我不知道,她一直說是我偷了她的小刀。我就一直說不是我……」
「別裝傻了!我明明追著偷著我小刀的愚蠢之人,然後你就在我追的方向,這就是證據」
「就說不是我……」
我看到因為雪莉一直逼近而困擾的伯恩哈德。嗯嗯,我懂,可愛的女孩子接近的話,當然會困擾囉。
我邊同情伯恩哈德,邊介入兩人之間。
「你是怎樣,你打算幫這傢伙說話嗎?」
「不,不是。妳仔細想想,伯恩哈德可是很珍惜自己武器的傢伙。妳覺得這種傢伙,有可能會去偷別人的武器嗎?」
雪莉聽完,稍微思考之後說道。
「說的也是,他又不是你」
「……最後一句,太多餘了吧?」
「我只是實話實說啊。那麼,是誰偷走我的小刀呢?」
「那是羊──」
「啊哈哈哈哈哈哈哈哈哈哈哈哈,給我等等!」
就在伊普西隆正要說的同時,史塔夏的笑聲響徹。所有人往那個方向一看,看到背著裝得鼓滿袋子的羊角獸,以及正在追牠的史塔夏通過。
「咦,那不是羊角獸嗎,牠又侵入了啊?」
「我以為上次就最後了……」
兩人一臉受夠了的表情,看著羊角獸跟史塔夏跑掉的方向小聲說道。
「總之,就是這樣。雪莉的小刀應該也是那傢伙偷走的」
「那傢伙應該還沒從館邸逃出去吧,看要切碎牠餵那邊的狗,還是要怎麼罰那傢伙都可以」
「那我們要去追牠了,等下再說!」
「交給你們了」
「我會這麼做的」
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跟雪莉以及伯恩哈德分開後,我們追在史塔夏後面。
雖然一度追丟了,但是路過的蕾格烈芙說「為了不招來更大的混亂」,然後就幫我們用她高性能的聽覺,馬上幫我們找到了史塔夏所在方向。
史塔夏不知道該怎麼說,以不知道哪裡來的體力,邊跑還邊一直在笑……。
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往那個方向追去後,看到史塔夏抓住里卡多死盯著。
被死盯著的里卡多看起來非常困惑,我們向史塔夏搭話後,史塔夏就放開里卡多。里卡多說了一聲「謝啦」就走向別處了。
「喂,史塔夏,妳不是在追羊角獸嗎」
「我膩了」
「妳還記著那傢伙往哪兒去了嗎?」
「那邊,大廳的方向。牠是想從館邸逃出去了吧?」
不知道是不是失去興趣了,感覺態度很隨便。不過話說回來,既然知道那傢伙打算要逃出去了的話,得加緊動作了。
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我跟伊普西隆加快速度在館邸走廊奔跑著,然後在通往大廳的走廊總算追到了羊角獸。
再來要往大廳的路是一直線,這樣的話,應該可以用伊普西隆的力量把那個傢伙抓過來,應該。
「伊普西隆交給你了!」
「嗯,交給我」
伊普西隆眼前的空間扭曲之後,看到背著大袋子的羊角獸的身影就在眼前。
然後伊普西隆毫不猶豫的伸出手,抓住那個大袋子。
「很好!」
就那樣將大袋子拉近,羊角獸也一起往這邊跌過來。
不知道是不是羊角獸死不打算放開袋子,竟然連同袋子一起瘋狂掙扎。
「唔,啊……糟了!」
瘋狂掙扎的羊角獸踢到伊普西隆的肚子,伊普西隆因此鬆手放開袋子。
羊角獸趁那個機會,打算再次逃走。
「才不會讓你逃走!」
我將小刀向羊角獸射過去,能命中就剛好,就算沒中,只要射中影子也能夠把牠拘束起來。
我使勁全身的力量投出小刀,很準確地直擊羊角獸的腦門。
羊角獸就那樣倒下,動也不動了。
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於是,我們在引導者回來館邸之前,就解決掉這個羊角獸騷動了。
雖然我們還是不知道,羊角獸為什麼會引起這樣的騷動。
總之,侍者們慰勞了解決騷動的我跟伊普西隆。
不過也就只是送給我們大量的餅乾而已。
不過女孩子們接二連三的一直來找我(雖然目的是餅乾),因此讓我很開心就萬事OK了!
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差不多在女孩子們都來過之後,引導者探索回來了。
眼神看起來像是在說,你們在做什麼的樣子,於是我就拿了一枚餅乾給她看。
「小,小姐要不要也吃一片餅乾?」
說完後,引導者看起來似乎思考了一下,微微地點點頭。
我拿盤子裝了幾片餅乾,在那期間,伊普西隆讓引導者坐在椅子上。
看到引導者開始吃餅乾後,我也拿了一枚餅乾。
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「─完─」
「クランプスを追え!」
その日、オレは導き手から休息を命ぜられていた。
ここんとこ探索だ模擬戦だと忙しくしてたから、たまには休めよってことなんだろうけど。
突然、導き手から「今回は待機です」なんて無表情に言われると、ちょっと怖いよなあ。
そんな訳で、久しぶりに何もない日というのを堪能している。
……筈だったんだけどなー。
館の廊下から外の陰鬱な景色を何気なく眺めていると、誰かがオレにぶつかってきた。
「うわ!? 何すんだオイコラ!? ……って、あれ?」
ぶつかってきた何者かは、オレのことなんか見てませんよとでも言わんばかりに、そのままのスピードで走り去っていった。
そいつが過ぎ去った方を見ると、オレとぶつかった衝撃なのか、ホワイトヒースやら謎のチケットやらを落っことしている。
散らばったホワイトヒースやチケットを眺めながら、オレは考える。
(ルートか誰かが、運んでた商品を落っことしたにしては妙だよなぁ。)
館のアコライト達って何だかんだ礼儀正しいから、どれだけ急いでいたとしても、ぶつかったら必ず謝るだろうし。
オレはホワイトヒースとチケットを拾い上げると、汚れを払う。
「大人しくしろ!」
突然、ルートの鋭い声が聞こえる。同時に風を切る音がして、オレの腕に痛みと共に何かが巻きついた。
「痛ってぇ!? 何なんだよ!」
よく見ると、ルートがいつも武器にしてる鞭だった。
「それはこっちが言いたい。お前の手癖の悪さは知っていたが、とうとう店のものにまで手を出すとは」
ルートの奴は怒り心頭といった様子でオレに詰め寄った。
ってかこれ、いつもは魔物に向けて振るってる鞭だよな……。えっ、オレ魔物と同列扱いってこと?
「ハァ? オレは何もしてねーよ!」
いきなり泥棒扱いされたことに対してオレは抗議の声を上げる。
「じゃあ、お前が持っているそれは何だ! それは聖女様がお嬢様のために誂えた大事なものだぞ」
「さっき変な奴がぶつかってきたから、そいつが持ち出したんだろ! 勝手にオレのせいにすんなよな!」
「全く、お嬢様がいない時にこんなことをするなんて。何故聖女様はこのような輩をお呼びになられたのだ……」
コイツ、オレの話聞いてんのか? ってくらい話が通じない。
「だから違うってーの! 大体、こんなチケット何に使うんだよ!」
「とぼけるのもいい加減にしろ!」
「何をしている?」
ギャーギャーと言い合いをしているところにエプシロンが現れた。
「この者が私の店の商品を盗んだのだ。お前はこの者と仲がいいのだろう? ちゃんと見張っておいてくれ」
「だからちげーっての! ルートが何の証拠もなく決め付けてるだけなんだって!」
「なるほど。ヒューゴ、悪戯もほどほどにしておいた方がよいのではないか?」
「だーかーらー! 違うって言ってるだろうが!」
必死になって否定するオレとルート、床に散らばるアイテム類に視線を送った後、エプシロンはこてんと首を傾げた。
「なあルート、盗まれたものは床に落ちているもので全部なのか?」
「いや、在庫の品を丸ごと狙われたのでな。妖精の薬や時の砂時計なども盗まれた」
「そうか。だとすると、ヒューゴはそれらを持っていないように見えるが? 服の中に隠し持つにも限度があるだろう」
「む、そういえば……。盗まれたことに気が取られすぎて気付かなかったが」
エプシロンに言われてオレもはたと気が付いた。そーだよ、オレの服じゃ謎のチケットはともかく、薬や砂時計までは隠せねーぞ!
さっすがエプシロン! あとで美味いリンゴを持ってくからな!
「では誰が……」
「先程、随分と大きな袋を抱えた人物が走り去ったが、それではないか?」
「大きな袋……、クランプスか!? 奴め、懲りもせずまた館に侵入したな!」
どうやら、ルートは泥棒ヤロウに心当たりがあるらしい。
「疑ってすまなかった」
そうして、ルートはオレに向き直ると深々と頭を下げた。
「疑いが晴れればオレはそれでいいし? ってか、それなら早く追い掛けたほうがいいんじゃね? 手伝う?」
「そうだな。手が必要なら手伝うぞ」
「重ね重ねすまない。厚かましいのは承知の上で、頼む」
ルートは頭を下げたままお願いしてきた。まぁ、導き手の探索に支障が出ると困るのは、記憶を取り戻さないといけないオレらだしな。
そんな訳で、オレとエプシロンはクランプスが追い掛けることになった。
ルートは他のアコライトにも協力を仰ぐってことで別行動だ。
クランプスを追う途中、オレと同じように零れ落ちたアイテム類を拾って困惑しているセルファースとリュカに出会ったので、とりあえずルートの店に戻しておいてくれと伝え、アイテムが落ちていた場所を聞き出した。
セルファース達が教えてくれた方向に小走りで向かう。
少しすると、どこかの部屋に続く通路からクランプスが出てくるのが見えた。
「エプシロン、あれだ!」
クランプスらしき姿を追い掛けようと足を速めたその時だった。
「逃がさないわ」
寒冷地帯もかくやと思われる女の子の声がして、オレ達の眼前に氷の盾が出現する。
「え、うわっ!?」
「ぐ……」
氷の盾に見事にぶつかり、オレとエプシロンは床に尻餅をついてしまった。
「大事な試作品を盗んだのは、貴様か」
次いで、地獄の底から響くような男の声。
振り向くと、ブリザードの如き冷たい視線でオレを睨みつけるベリンダとロッソの姿があった。
「違うっての。クランプスが侵入したんだって!」
「嘘を吐くな。おい、木偶の坊。一緒にいるならちゃんとこの手癖の悪い小僧を見張っとけ!」
「だから、オレじゃねーっつうの!」
またか。またこれか。
エプシロンも一緒にいるのに、オレだけがここまで疑われるって、やっぱり日頃の行いのせいなのかね。
「何が盗られたのだ?」
エプシロンは何事もなかったかのように立ち上がると、冷静にベリンダに問う。
「人間を死者のように操る薬の試作品よ。ちょっと目を離した隙に持っていかれたの」
「何でそんなの作ってんだよ!? そんなモン、頼まれたって盗まねーよ!」
反射的に叫んでしまった。しっかし、随分と物騒なことなのに、ベリンダは笑顔で言い募ってくれるなー。
「だって、この人のやることが面白そうだったんだもの」
「この女の能力には凄まじいものがある。それを実証しただけに過ぎん。何を騒ぐ必要がある?」
「おおアリだよ」
「下手なことをして聖女の怒りに触れれば、地上に戻れる可能性が低くなるのでは?」
「盗人と怪物モドキの説教なぞいらん。もし聖女が地上への帰還を邪魔するのなら、倒すまでだ」
ロッソはゴーグルから覗く目をギラつかせながら、はっきり言い切った。
記憶を取り戻しかけてる奴ってのは、やっぱり違うのかねー。
「って、ここで足止めされてる場合じゃねえ。そんな危険なもの、早く取り返さねーと!」
「貴方が盗んだものを返してくれれば、それで解決なんじゃない?」
「だから、盗んだのはクランプスだっての!」
「ヒューゴの言う通りだ。クランプスがこの館に侵入している。俺達は奴を捕まえ、盗まれたものを取り返す手伝いを頼まれた」
オレの言葉に重ねるように、エプシロンがルートから頼まれたことを捕捉する。
「クランプス? 確か以前にも侵入されたことがなかったかしら?」
「あったな。あの時は確か、人形が偶然見つけて騒ぎになった。その後、館の連中が総出で倒した筈だ」
人望の差が如実に現れて、オレは少し悲しい気分になる。模擬戦で武器を盗みまくってるのがいけないのかもなー。とはいえ、それがオレの戦い方だからやめる気もないけど。
「じゃあ、クランプスを見かけたら倒しておいてくれ。あの野郎、ルートの店の品も盗んでるんだ」
「気が向いたらそうしてやる」
「そうね。気が向いたらそうするわ」
よし、駄目だ。こいつらは自分の興味がそそる以外のものに関知する気は微塵もない。
だけど、こいつらが作った危ない薬を処分するには好都合かな。こっそりアコライトに渡して処分してもらおう。それがいいに決まってる。
「ヒューゴ、急ぐぞ」
気乗りしない二人は放っておいて、オレ達は見失ったクランプスを再度追い掛けることにした。
「うーん、見失ったか。外に逃げてないといいんだけど……」
「何が目的かわからんのがな……」
破られたりした窓がないかを注意しつつ、オレ達は館の中を探す。
あとは裏庭だけとなった時、裏庭に通じる扉の前で尻餅をついているカレンベルクを見つける。
「大丈夫か! 何があったんだよ」
慌ててカレンベルクを起こしてやる。
「裏庭から戻ってきたら、急に誰かにぶつかられてね。いや、不覚を取ったよ」
「多分クランプスだな。奴が館に侵入してるようなんだ」
「またか。前に侵入した奴は倒したから、別の個体かな」
「どっちに逃げてったかわかるか?」
「二階に上がって行ったと思う。ぶつかられたすぐ後に、そこの階段を駆け上がる音が聞こえたからね」
「よし。ありがとな、カレンベルク」
「ああ。こっちも奴を見つけたら、僕のバイオリンの音で報復しておくことにするよ」
「頼んだ」
オレ達はクランプスが駆けて行ったらしい階段を上がり、二階へ向かう。
二階の廊下を進んでいると、雑誌を持ってどこかへ向かうブロウニングに出会った。
事情を説明すると「クランプス? 奴さん、また侵入したのか」と、別の方向を探してくれることになった。やっぱ探偵は頼りになるな。
少しずつクランプス包囲網が出来上がっていく気がする。事件の解決も時間の問題だな。
そうして二階でクランプスを探していると、開け放たれた扉が見えた。その先からシェリとベルンハルトが言い合っている声が聞こえてくる。
「返しなさいって言ってるでしょう? 素直に返すなら痛くしないであげるわ」
「だから俺ではない。やったとすれば俺にぶつかってきた何かだ。勘違いもいい加減にしてくれ」
彼女らの足元では、シェリの飼い犬が今にもベルンハルトに噛み付かんばかりに牙を剥き出しにしている。
「おおい、どうした?」
二人に声を掛けると、シェリはちらりとこっちを見て関わるなという風に睨み、ベルンハルトは困惑した表情をこちらに向けてきた。
「何なの? 邪魔しないで」
「そうもいかない訳があってな。何があった?」
「わからん。俺がナイフを盗んだと主張するだけでな。違うと言っているのだが……」
「とぼけるんじゃないわよ! 盗みを働いた愚か者を追い掛けてたら、その先にアンタがいた。それが証拠よ」
「だから違うと……」
詰め寄るシェリに困惑しきりのベルンハルト。うんうん、可愛い女の子から近付かれると、そりゃ困っちゃうよなあ。
ベルンハルトに少し同情しつつ、オレはまあまあと二人の間に割って入った。
「何よアンタ。コイツの肩を持つ気?」
「いや、そうじゃなくてさ。よく考えてみなよ、ベルンハルトは自分の得物をとっても大事にする奴だ。そんな奴がさ、人様の得物を盗んだりするか?」
オレの言葉にシェリは少し考えて、あ、と呟く。
「言われてみればそうね。アンタじゃないんだし」
「……最後の一言、余計じゃない?」
「事実を言ったまでよ。そうすると、誰が盗ったのかしら?」
「それはクラ——」
「あはははははははははははは、待ちなさいってば!」
エプシロンの声に重なるようにステイシアの声が響く。全員でその方を振り向くと、パンパンに膨れた大袋を抱えたクランプスと、それを追うステイシアが通り過ぎていった。
「あれ、クランプスじゃない。アイツまた侵入したの?」
「前回で終わりだと思っていたが……」
クランプスとステイシアが走り去った方向を見て、二人は呆然としたように呟いた。
「まあ、そういうこと。シェリのナイフも多分アイツが盗んだんだと思う」
「奴はまだ館からは出ないだろう。切り刻むなりそこの飼い犬に食わせるなり、好きな罰を奴に与えればいい」
「じゃあ、オレ達は追い掛けるから。また後でな!」
「善処しよう」
「そうするわ」
シェリとベルンハルトと別れ、ステイシアの後を追い掛ける。
一度は見失ったものの、通りかかったレッドグレイヴが「余計な混乱を招かぬためじゃ」と言って助けてくれ、その高性能な聴覚によってすぐにステイシアのいる方向を見つけてくれた。
ステイシアは何というか、どこにそんな体力があるのかわかんねーけど、笑いながら走ってるからね……。
その方向に向かうと、リカルドをとっ捕まえてじっと凝視するステイシアがいた。
じっと見られているリカルドはメチャクチャ困惑していたが、オレ達がステイシアに話し掛けると開放されて、「ありがとよ」と一言だけ残してどこかに向かっていった。
「おいステイシア、クランプスを追ってたんじゃないのかよ」
「もう飽きちゃった」
「あいつがどこへ行ったか覚えているか?」
「あっち。エントランスの方。もう館から逃げる気なんじゃないかしら?」
クランプスには興味をなくしたのか、どうでもいいと言わんばかり。とはいえ、奴が逃げ出すであろう情報を得た以上、急がないと。
オレとエプシロンはいつも以上の速さで館の廊下を駆け、エントランスに通じる廊下でなんとかクランプスに追いついた。
あとはエントランスまで一直線。これならエプシロンの力で奴を引き寄せられる、ハズだ。
「エプシロン頼む!」
「ああ、任せておけ」
エプシロンの眼前の空間が歪むと、大袋を背負うクランプスの姿が目と鼻の先に映る。
その空間にエプシロンは躊躇いなく手を突っ込み、大袋を掴んだ。
「よっしゃ!」
そのまま大袋を引っ張ると、クランプスも一緒にこちらに引き摺られる。
大袋から手を放す気はないのか、袋ごと大暴れするクランプス。
「っ、く……しまった!」
大暴れした衝撃でエプシロンの腹にクランプスの足が直撃。そのせいでエプシロンは大袋を離してしまった。
一瞬の隙に、クランプスは再び逃走を試みる。
「逃がすかってんだよ!」
オレはナイフをクランプスに向かって投げた。命中すれば良し、外しても影に当たれば拘束できる。
渾身の力でブン投げたナイフは、見事にクランプスの脳天に直撃。
クランプスはそのまま倒れると、ぴくりとも動かなくなった。
かくして、導き手が館に帰ってくる前にクランプスの泥棒騒ぎは収束した。
何でクランプスがこんな騒ぎを起こしたのかは、謎のままだったけど。
ともかく、オレとエプシロンは騒ぎを解決した功労者として、アコライト達からささやかに労ってもらった。
といっても、大量のクッキーを振舞ってもらったくらいだけどな。
まぁ、女の子達が代わる代わるやって来たので(クッキー目当てだけど)、とても楽しめたからそれでヨシ!
女の子達が来なくなった頃、導き手が探索から帰ってきた。
何をしているのかと言いたげな目でオレを見上げてきたから、クッキーを一枚見せる。
「お、お嬢ちゃんもクッキー食べる?」
その言葉に導き手は少し考えるような仕草をした後、小さく頷いた。
オレは数枚のクッキーを皿に載せる。その間にエプシロンが導き手を椅子に座らせた。
導き手がクッキーを食べ始めたのを見て、オレもまた、一枚クッキーを手に取った。
「—了—」
その日、オレは導き手から休息を命ぜられていた。
ここんとこ探索だ模擬戦だと忙しくしてたから、たまには休めよってことなんだろうけど。
突然、導き手から「今回は待機です」なんて無表情に言われると、ちょっと怖いよなあ。
そんな訳で、久しぶりに何もない日というのを堪能している。
……筈だったんだけどなー。
館の廊下から外の陰鬱な景色を何気なく眺めていると、誰かがオレにぶつかってきた。
「うわ!? 何すんだオイコラ!? ……って、あれ?」
ぶつかってきた何者かは、オレのことなんか見てませんよとでも言わんばかりに、そのままのスピードで走り去っていった。
そいつが過ぎ去った方を見ると、オレとぶつかった衝撃なのか、ホワイトヒースやら謎のチケットやらを落っことしている。
散らばったホワイトヒースやチケットを眺めながら、オレは考える。
(ルートか誰かが、運んでた商品を落っことしたにしては妙だよなぁ。)
館のアコライト達って何だかんだ礼儀正しいから、どれだけ急いでいたとしても、ぶつかったら必ず謝るだろうし。
オレはホワイトヒースとチケットを拾い上げると、汚れを払う。
「大人しくしろ!」
突然、ルートの鋭い声が聞こえる。同時に風を切る音がして、オレの腕に痛みと共に何かが巻きついた。
「痛ってぇ!? 何なんだよ!」
よく見ると、ルートがいつも武器にしてる鞭だった。
「それはこっちが言いたい。お前の手癖の悪さは知っていたが、とうとう店のものにまで手を出すとは」
ルートの奴は怒り心頭といった様子でオレに詰め寄った。
ってかこれ、いつもは魔物に向けて振るってる鞭だよな……。えっ、オレ魔物と同列扱いってこと?
「ハァ? オレは何もしてねーよ!」
いきなり泥棒扱いされたことに対してオレは抗議の声を上げる。
「じゃあ、お前が持っているそれは何だ! それは聖女様がお嬢様のために誂えた大事なものだぞ」
「さっき変な奴がぶつかってきたから、そいつが持ち出したんだろ! 勝手にオレのせいにすんなよな!」
「全く、お嬢様がいない時にこんなことをするなんて。何故聖女様はこのような輩をお呼びになられたのだ……」
コイツ、オレの話聞いてんのか? ってくらい話が通じない。
「だから違うってーの! 大体、こんなチケット何に使うんだよ!」
「とぼけるのもいい加減にしろ!」
「何をしている?」
ギャーギャーと言い合いをしているところにエプシロンが現れた。
「この者が私の店の商品を盗んだのだ。お前はこの者と仲がいいのだろう? ちゃんと見張っておいてくれ」
「だからちげーっての! ルートが何の証拠もなく決め付けてるだけなんだって!」
「なるほど。ヒューゴ、悪戯もほどほどにしておいた方がよいのではないか?」
「だーかーらー! 違うって言ってるだろうが!」
必死になって否定するオレとルート、床に散らばるアイテム類に視線を送った後、エプシロンはこてんと首を傾げた。
「なあルート、盗まれたものは床に落ちているもので全部なのか?」
「いや、在庫の品を丸ごと狙われたのでな。妖精の薬や時の砂時計なども盗まれた」
「そうか。だとすると、ヒューゴはそれらを持っていないように見えるが? 服の中に隠し持つにも限度があるだろう」
「む、そういえば……。盗まれたことに気が取られすぎて気付かなかったが」
エプシロンに言われてオレもはたと気が付いた。そーだよ、オレの服じゃ謎のチケットはともかく、薬や砂時計までは隠せねーぞ!
さっすがエプシロン! あとで美味いリンゴを持ってくからな!
「では誰が……」
「先程、随分と大きな袋を抱えた人物が走り去ったが、それではないか?」
「大きな袋……、クランプスか!? 奴め、懲りもせずまた館に侵入したな!」
どうやら、ルートは泥棒ヤロウに心当たりがあるらしい。
「疑ってすまなかった」
そうして、ルートはオレに向き直ると深々と頭を下げた。
「疑いが晴れればオレはそれでいいし? ってか、それなら早く追い掛けたほうがいいんじゃね? 手伝う?」
「そうだな。手が必要なら手伝うぞ」
「重ね重ねすまない。厚かましいのは承知の上で、頼む」
ルートは頭を下げたままお願いしてきた。まぁ、導き手の探索に支障が出ると困るのは、記憶を取り戻さないといけないオレらだしな。
そんな訳で、オレとエプシロンはクランプスが追い掛けることになった。
ルートは他のアコライトにも協力を仰ぐってことで別行動だ。
クランプスを追う途中、オレと同じように零れ落ちたアイテム類を拾って困惑しているセルファースとリュカに出会ったので、とりあえずルートの店に戻しておいてくれと伝え、アイテムが落ちていた場所を聞き出した。
セルファース達が教えてくれた方向に小走りで向かう。
少しすると、どこかの部屋に続く通路からクランプスが出てくるのが見えた。
「エプシロン、あれだ!」
クランプスらしき姿を追い掛けようと足を速めたその時だった。
「逃がさないわ」
寒冷地帯もかくやと思われる女の子の声がして、オレ達の眼前に氷の盾が出現する。
「え、うわっ!?」
「ぐ……」
氷の盾に見事にぶつかり、オレとエプシロンは床に尻餅をついてしまった。
「大事な試作品を盗んだのは、貴様か」
次いで、地獄の底から響くような男の声。
振り向くと、ブリザードの如き冷たい視線でオレを睨みつけるベリンダとロッソの姿があった。
「違うっての。クランプスが侵入したんだって!」
「嘘を吐くな。おい、木偶の坊。一緒にいるならちゃんとこの手癖の悪い小僧を見張っとけ!」
「だから、オレじゃねーっつうの!」
またか。またこれか。
エプシロンも一緒にいるのに、オレだけがここまで疑われるって、やっぱり日頃の行いのせいなのかね。
「何が盗られたのだ?」
エプシロンは何事もなかったかのように立ち上がると、冷静にベリンダに問う。
「人間を死者のように操る薬の試作品よ。ちょっと目を離した隙に持っていかれたの」
「何でそんなの作ってんだよ!? そんなモン、頼まれたって盗まねーよ!」
反射的に叫んでしまった。しっかし、随分と物騒なことなのに、ベリンダは笑顔で言い募ってくれるなー。
「だって、この人のやることが面白そうだったんだもの」
「この女の能力には凄まじいものがある。それを実証しただけに過ぎん。何を騒ぐ必要がある?」
「おおアリだよ」
「下手なことをして聖女の怒りに触れれば、地上に戻れる可能性が低くなるのでは?」
「盗人と怪物モドキの説教なぞいらん。もし聖女が地上への帰還を邪魔するのなら、倒すまでだ」
ロッソはゴーグルから覗く目をギラつかせながら、はっきり言い切った。
記憶を取り戻しかけてる奴ってのは、やっぱり違うのかねー。
「って、ここで足止めされてる場合じゃねえ。そんな危険なもの、早く取り返さねーと!」
「貴方が盗んだものを返してくれれば、それで解決なんじゃない?」
「だから、盗んだのはクランプスだっての!」
「ヒューゴの言う通りだ。クランプスがこの館に侵入している。俺達は奴を捕まえ、盗まれたものを取り返す手伝いを頼まれた」
オレの言葉に重ねるように、エプシロンがルートから頼まれたことを捕捉する。
「クランプス? 確か以前にも侵入されたことがなかったかしら?」
「あったな。あの時は確か、人形が偶然見つけて騒ぎになった。その後、館の連中が総出で倒した筈だ」
人望の差が如実に現れて、オレは少し悲しい気分になる。模擬戦で武器を盗みまくってるのがいけないのかもなー。とはいえ、それがオレの戦い方だからやめる気もないけど。
「じゃあ、クランプスを見かけたら倒しておいてくれ。あの野郎、ルートの店の品も盗んでるんだ」
「気が向いたらそうしてやる」
「そうね。気が向いたらそうするわ」
よし、駄目だ。こいつらは自分の興味がそそる以外のものに関知する気は微塵もない。
だけど、こいつらが作った危ない薬を処分するには好都合かな。こっそりアコライトに渡して処分してもらおう。それがいいに決まってる。
「ヒューゴ、急ぐぞ」
気乗りしない二人は放っておいて、オレ達は見失ったクランプスを再度追い掛けることにした。
「うーん、見失ったか。外に逃げてないといいんだけど……」
「何が目的かわからんのがな……」
破られたりした窓がないかを注意しつつ、オレ達は館の中を探す。
あとは裏庭だけとなった時、裏庭に通じる扉の前で尻餅をついているカレンベルクを見つける。
「大丈夫か! 何があったんだよ」
慌ててカレンベルクを起こしてやる。
「裏庭から戻ってきたら、急に誰かにぶつかられてね。いや、不覚を取ったよ」
「多分クランプスだな。奴が館に侵入してるようなんだ」
「またか。前に侵入した奴は倒したから、別の個体かな」
「どっちに逃げてったかわかるか?」
「二階に上がって行ったと思う。ぶつかられたすぐ後に、そこの階段を駆け上がる音が聞こえたからね」
「よし。ありがとな、カレンベルク」
「ああ。こっちも奴を見つけたら、僕のバイオリンの音で報復しておくことにするよ」
「頼んだ」
オレ達はクランプスが駆けて行ったらしい階段を上がり、二階へ向かう。
二階の廊下を進んでいると、雑誌を持ってどこかへ向かうブロウニングに出会った。
事情を説明すると「クランプス? 奴さん、また侵入したのか」と、別の方向を探してくれることになった。やっぱ探偵は頼りになるな。
少しずつクランプス包囲網が出来上がっていく気がする。事件の解決も時間の問題だな。
そうして二階でクランプスを探していると、開け放たれた扉が見えた。その先からシェリとベルンハルトが言い合っている声が聞こえてくる。
「返しなさいって言ってるでしょう? 素直に返すなら痛くしないであげるわ」
「だから俺ではない。やったとすれば俺にぶつかってきた何かだ。勘違いもいい加減にしてくれ」
彼女らの足元では、シェリの飼い犬が今にもベルンハルトに噛み付かんばかりに牙を剥き出しにしている。
「おおい、どうした?」
二人に声を掛けると、シェリはちらりとこっちを見て関わるなという風に睨み、ベルンハルトは困惑した表情をこちらに向けてきた。
「何なの? 邪魔しないで」
「そうもいかない訳があってな。何があった?」
「わからん。俺がナイフを盗んだと主張するだけでな。違うと言っているのだが……」
「とぼけるんじゃないわよ! 盗みを働いた愚か者を追い掛けてたら、その先にアンタがいた。それが証拠よ」
「だから違うと……」
詰め寄るシェリに困惑しきりのベルンハルト。うんうん、可愛い女の子から近付かれると、そりゃ困っちゃうよなあ。
ベルンハルトに少し同情しつつ、オレはまあまあと二人の間に割って入った。
「何よアンタ。コイツの肩を持つ気?」
「いや、そうじゃなくてさ。よく考えてみなよ、ベルンハルトは自分の得物をとっても大事にする奴だ。そんな奴がさ、人様の得物を盗んだりするか?」
オレの言葉にシェリは少し考えて、あ、と呟く。
「言われてみればそうね。アンタじゃないんだし」
「……最後の一言、余計じゃない?」
「事実を言ったまでよ。そうすると、誰が盗ったのかしら?」
「それはクラ——」
「あはははははははははははは、待ちなさいってば!」
エプシロンの声に重なるようにステイシアの声が響く。全員でその方を振り向くと、パンパンに膨れた大袋を抱えたクランプスと、それを追うステイシアが通り過ぎていった。
「あれ、クランプスじゃない。アイツまた侵入したの?」
「前回で終わりだと思っていたが……」
クランプスとステイシアが走り去った方向を見て、二人は呆然としたように呟いた。
「まあ、そういうこと。シェリのナイフも多分アイツが盗んだんだと思う」
「奴はまだ館からは出ないだろう。切り刻むなりそこの飼い犬に食わせるなり、好きな罰を奴に与えればいい」
「じゃあ、オレ達は追い掛けるから。また後でな!」
「善処しよう」
「そうするわ」
シェリとベルンハルトと別れ、ステイシアの後を追い掛ける。
一度は見失ったものの、通りかかったレッドグレイヴが「余計な混乱を招かぬためじゃ」と言って助けてくれ、その高性能な聴覚によってすぐにステイシアのいる方向を見つけてくれた。
ステイシアは何というか、どこにそんな体力があるのかわかんねーけど、笑いながら走ってるからね……。
その方向に向かうと、リカルドをとっ捕まえてじっと凝視するステイシアがいた。
じっと見られているリカルドはメチャクチャ困惑していたが、オレ達がステイシアに話し掛けると開放されて、「ありがとよ」と一言だけ残してどこかに向かっていった。
「おいステイシア、クランプスを追ってたんじゃないのかよ」
「もう飽きちゃった」
「あいつがどこへ行ったか覚えているか?」
「あっち。エントランスの方。もう館から逃げる気なんじゃないかしら?」
クランプスには興味をなくしたのか、どうでもいいと言わんばかり。とはいえ、奴が逃げ出すであろう情報を得た以上、急がないと。
オレとエプシロンはいつも以上の速さで館の廊下を駆け、エントランスに通じる廊下でなんとかクランプスに追いついた。
あとはエントランスまで一直線。これならエプシロンの力で奴を引き寄せられる、ハズだ。
「エプシロン頼む!」
「ああ、任せておけ」
エプシロンの眼前の空間が歪むと、大袋を背負うクランプスの姿が目と鼻の先に映る。
その空間にエプシロンは躊躇いなく手を突っ込み、大袋を掴んだ。
「よっしゃ!」
そのまま大袋を引っ張ると、クランプスも一緒にこちらに引き摺られる。
大袋から手を放す気はないのか、袋ごと大暴れするクランプス。
「っ、く……しまった!」
大暴れした衝撃でエプシロンの腹にクランプスの足が直撃。そのせいでエプシロンは大袋を離してしまった。
一瞬の隙に、クランプスは再び逃走を試みる。
「逃がすかってんだよ!」
オレはナイフをクランプスに向かって投げた。命中すれば良し、外しても影に当たれば拘束できる。
渾身の力でブン投げたナイフは、見事にクランプスの脳天に直撃。
クランプスはそのまま倒れると、ぴくりとも動かなくなった。
かくして、導き手が館に帰ってくる前にクランプスの泥棒騒ぎは収束した。
何でクランプスがこんな騒ぎを起こしたのかは、謎のままだったけど。
ともかく、オレとエプシロンは騒ぎを解決した功労者として、アコライト達からささやかに労ってもらった。
といっても、大量のクッキーを振舞ってもらったくらいだけどな。
まぁ、女の子達が代わる代わるやって来たので(クッキー目当てだけど)、とても楽しめたからそれでヨシ!
女の子達が来なくなった頃、導き手が探索から帰ってきた。
何をしているのかと言いたげな目でオレを見上げてきたから、クッキーを一枚見せる。
「お、お嬢ちゃんもクッキー食べる?」
その言葉に導き手は少し考えるような仕草をした後、小さく頷いた。
オレは数枚のクッキーを皿に載せる。その間にエプシロンが導き手を椅子に座らせた。
導き手がクッキーを食べ始めたのを見て、オレもまた、一枚クッキーを手に取った。
「—了—」