深夜的王宮裡,充斥著緊張的氣氛。
集合在大會議室的魯卡與家臣團們,正一臉緊張地聽著阿修羅報告關於普羅維登斯的事。
「我們聯合國還自己搞內亂,是無法阻止帝國的」
「為了民族之間融合,果然應該還是要召開協議會」
「各國的代表知道這件事嗎?」
「想舉行協議會的話,恐怖攻擊的戒備該怎麼做?」
魯卡與家臣團們聽了阿修羅的報告之後,不眠不休地在交換著意見。
佛羅倫斯反覆深呼吸,一直注視著他們。
得靜下心來,佛羅倫斯只專心想著這事。
那時候的景象,在佛羅倫斯的腦中歷歷在目。托雷依德永久要塞那悽慘的景象,至今仍侵蝕著佛羅倫斯的心。
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經由梅爾茲堡王魯卡的召集,各國與各民族的代表集合在梅爾茲堡王宮,舉行如何對付帝國與民族融合的協議會。
佛羅倫斯為了確保協議會的安全,作為護衛隨同魯卡一同參加。
魯比歐那王國也派出了代理女王的執政官與奧羅爾隊的伊姆斯少尉前來參加。佛羅倫斯希望在這個場合所說的話能夠透過伊姆斯少尉傳達給艾妲。
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協議會的第一天,關於民族融合沒有討論出任何解決方案就結束了。
就算魯卡不斷說明帝國的威脅與「如果戰敗的話便無法保障各民族的存活」的後果,各國與各民族的代表卻仍是抱持著「應該要試著與帝國協商」的意見絲毫不變。
因為民族不同的理由遭受迫害,而無法安全地在各國之間往來,讓各民族間的不安與不滿已經到了隨時會爆發的情況了。
加上聯合各國因為長期的戰爭已經非常地疲憊,就連無法再服從魯比歐那為首的聯合國的意見都有所聞了。
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那天夜裡,佛羅倫斯被叫到魯卡的起居室。
「大公,您說有事要跟我說?」
魯卡深深地吸了一口氣後,直盯著佛羅倫斯。像是做了甚麼重大決定的樣子,使得佛羅倫斯吞了口口水。
「是明天協議第二天的事,希望你能把在托雷依德所見所聞全部都說出來」
「那,那個是……」
佛羅倫斯死命地壓抑住快要扭曲的臉。
「我知道對妳來說這是多麼沉重的事。但是,各國代表都太過不了解帝國的威脅性了」
「所以您是認為他們有必要了解迫在眉睫的危機到底是什麼?」
「沒錯」
魯卡大大地點了頭。但是佛羅倫斯還在思考要如何回答。
就在這時,有人輕輕敲了房間的門。
「魯卡大人,可以打擾一下嗎?」
是阿修羅。應該已經前往普羅維登斯偵查才對,似乎是發生什麼事所以回來報告。
「阿修羅啊。稍等一下」
魯卡看著猶豫著不知道該怎麼做的佛羅倫斯。
「佛羅倫斯,到明天的協議會開始之前,可以好好考慮一下嗎?」
「我了解……了」
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和阿修羅擦身而過走出房間的佛羅倫斯,回到房間之後仍然無法靜下心來。
打算轉換心情而走到外頭。
散散步吧。就這樣想著走到了王宮的附近時,看到一個穿著不常見服裝的男子在附近張望著。也許是恐怖份子也說不定。佛羅倫斯心裡這樣想著,便跟在那男子的後面。
尾隨在男子後頭,發現男子走向人煙稀少的士兵用宿舍後面。男子不曉得跟誰約在那裏見面。由於昏暗的緣故,看不太清楚,但對方的樣子酷似才剛見過的阿修羅。
像是在談話的樣子,但是佛羅倫斯聽不清楚談話的內容。
就在這時二個人要離開了。佛羅倫斯小心翼翼地跟在後頭。
尾隨像是阿修羅的人物後方,來到了大街上。
「跟丟了……。也許被發現了吧」
大街上人來人往,要找出跟丟的那二個人實在有困難。也只能在附近邊走邊找看看,果然沒能找到二人的蹤跡。
佛羅倫斯返回原本來的路上。雖然在意阿修羅的事,但是現在也沒有線索。
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大街上都是下班回家途中的人們很熱鬧。給家人買禮物的人、正準備去喝酒的人,各種人們來來往往。
看在身處軍中時常要繃緊神經的佛羅倫斯眼裡,覺得那是無可取代的和平。
要是帝國攻進來的話,就再也見不到這樣的景象了。就算是為了守護人們的日常,自己也應該把托雷依德的經驗說出來。
就這樣一邊想著,一邊走著。
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隔天,佛羅倫斯在協議會開始前走到了魯卡面前,直視著魯卡之後敬了個禮。
「我不知道能夠達到多少您的期待,但我會在今天的協議會中把我知道的全說出來」
聽到佛羅倫斯決心的魯卡,起身之後深深地低下了頭。
「拜託了」
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協議會的第二天開始了。佛羅倫斯並不是以護衛的身分,而是以協議參加者的身分坐在位置上。
在魯卡的安排下,佛羅倫斯開口說道。
「我曾經所屬魯比歐那王國軍的奧羅爾隊」
在魯比歐那王國軍裡也屬於特別部隊的奧羅爾隊隊員,怎麼會在梅爾茲堡。各國及各民族代表喧嘩了起來。
除了魯比歐那的執政官及其護衛伊姆斯沒有跟著喧嘩。而是表情僵硬地看著佛羅倫斯。
「這個人的身分我可以做保證,在位的魯比歐那代表也能保證她的身分,她之後所要說的話全部都是事實」
「我接下來要說的,是四年前我在托雷依德永久要塞所見到的事」
佛羅倫斯看了一眼靜下來的代表們之後,開始說出了在托雷依德永久要塞看到的事。
被帝國軍的巨大戰艦所蹂躪。
在巨大戰艦甲板上發生的不可思議現象,與在那之後開始的死屍軍隊的恐怖軍勢。
然後現在完全壟罩在普羅維登斯的惡夢,與在托雷依德永久要塞所發生過的事幾乎完全相同。
帝國對協商完全沒有興趣。聯合國就這樣解體的話,我想會從沒有力量的國家開始,束手無策地任由帝國的死屍軍隊給蹂躪。
為了避免這恐怖的事情發生,現在不是民族間相互鬥爭的時候了。
佛羅倫斯一連串地說完之後,魯卡像是尋求魯比歐那代表的同意般開口說道。
「以上所言屬實?」
「以上所言屬實。而且前些時候在帝國與國境之間的交易都市普羅維登斯所發生的事情,也如上述所言」
各國及各民族的代表一同看向魯比歐那的代表。就算有人知道普羅維登斯被攻下的事,也因為情報限制的關係,大部分的人都不知道死屍軍隊的事。
佛羅倫斯說的那個發生在托雷依德永久要塞的恐怖體驗,以及魯比歐那代表公開發表的普羅維登斯被攻下的消息,讓協議的方向性大幅改變。
會議開始轉向,為了擊退死屍軍隊的威脅,不是民族間相互爭執的時候了。
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事情就這樣發生了。
某民族代表的隨從其中一位,慌亂地看著周圍,看起來似乎拿出某樣東西。
在防範恐怖份子的狀態下,那位隨從的動作很顯眼。佛羅倫斯仔細看向那位隨從。看出那位動作可疑的隨從似乎在哪兒見過。是昨晚在跟阿修羅說話的男子。
隨從拿著小箱子。佛羅倫斯看到小箱子的瞬間,就想起之前被阿修羅殺死的那位恐怖份子。
要進出協議會的人都會接受嚴密的檢查,小箱子或小包裹那些可能可以裝炸彈的東西都已經被徹底排除了,但是他卻可以帶進場內,表示一定有內應。
「你在做什麼!」
佛羅倫斯立刻譴責那位隨從的行動,一聽到佛羅倫斯的聲音,隨從就拿高小箱子。
佛羅倫斯不管周圍,立刻抓住隨從。
「妳這傢伙,要做什麼!?」
「那個箱子裡是炸彈對吧!」
佛羅倫斯的話讓會場內一陣騷動起來。同時周圍的代表們都開始逃離現場。
佛羅倫斯與隨從扭打著,無論如何都要搶下那個小箱子。
「誰會讓妳這種傢伙搶走!」
隨從打算將小箱子丟向魯卡。
「……唔!!」
佛羅倫斯馬上連隨從的手跟箱子一起抱住。
如果就那樣讓魯卡被捲入恐怖事件的話,促進民族融合的人物就會消失,導致聯合國的解散。那麼接下來就會是古朗德利尼亞帝國用死來支配的恐怖世界。
必須救魯卡,為了之後的和平,佛羅倫斯認為值得賭上性命。
「大公!請快逃!」
「不可以!」
魯卡聲音響起的同時,佛羅倫斯的意識被烈火給吞噬。
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「-完-」
3398年 「協議会」
夜更け過ぎの王宮は、緊迫した空気に包まれていた。
大会議室に集まったリュカと家臣団は、緊迫した相形でアスラのプロヴィデンスに関する報告を聞いている。
「我が連合内で内紛などしていては、帝國を止めることはできん」
「やはり、民族融和のための協議会を開くべきだ」
「各国の代表はこの事を知っているのか?」
「協議会を開催するとして、テロの警戒はどうする?」
アスラの報告を聞いたリュカと家臣達は、寝る間も惜しんで意見を交わし合う。
フロレンスは深呼吸を繰り返し、その様子をじっと見つめていた。
心を落ち着かせなければ。フロレンスはそれだけを考えていた。
あの時の光景がフロレンスの脳裏にまざまざと蘇る。トレイド永久要塞の凄惨な光景は、未だにフロレンスの心を蝕んでいた。
メルツバウ王リュカの呼び掛けにより、各国や諸民族の代表がメルツバウ王宮に集められ、帝國への対応と民族融和の協議会が開催された。
フロレンスは護衛として協議会の安全を確保するため、リュカに随伴することとなった。
ルビオナ王国からも女王代行の執政官とオーロール隊のイームズが参加していた。この場で話し合われたことは、イームズを通じてエイダにも伝わるだろう。フロレンスはそう願った。
協議会の初日は、融和に向けた解決策は何も出ることなく終了した。
リュカがいくら帝國の脅威と「もし敗北すれば全ての民族の存続すら保障はない」と説いても、各国や諸民族の代表は「帝國との交渉による解決策を探るべし」との意見を変えることはなかった。
民族が違うという理由で迫害され、安全に国家間を移動することもできなくなっていた諸民族の不安や不満は爆発寸前であった。
さらに連合諸国の全てが長引く戦況で酷く疲弊しており、ルビオナ王国を頂点とした連合国にこれ以上従うことはできないという意見さえ出掛かっていた。
その日の夜、フロレンスはリュカの居室に呼び出された。
「大公、お話とは?」
リュカは大きく息を吸うと、フロレンスを真っ直ぐに見た。何か大きな決意をした様子に、フロレンスは固唾を呑む。
「明日の協議二日目の件だ。その場でお主がトレイドで見聞きした事を全て話してほしい」
「そ、それは……」
フロレンスは引き攣りそうになる顔を必死で抑えた。
「お主にとって辛いことであるのは重々承知している。だが、各国代表らは帝國の脅威をあまりにも知らなさ過ぎる」
「彼らは本当に迫っている危機が何であるかを知る必要があると」
「そうだ」
リュカは大きく頷く。だがフロレンスはどう返答すべきか考えあぐねていた。
その時、部屋の扉が小さく叩かれた。
「リュカ様、お時間よろしいでしょうか?」
アスラだった。プロヴィデンスへ偵察に出ていたが、何事かがあって報告に戻ってきたようだった。
「アスラか。しばし待て」
リュカはどうするべきか迷うフロレンスを見据えた。
「フロレンスよ、明日の協議会が始まるまで、じっくり考えてはくれないか」
「わかり……ました」
アスラと入れ違いにリュカの部屋を出たフロレンスは、宛がわれている部屋に戻っても気分が落ち着かないままだった。
気分を変えようと外へと出る。
少し散策しよう。そう思い王宮の近くを歩いていると、見慣れない衣装を纏った男が周囲を見回している。テロリストかもしれない。フロレンスはそう思い、その男の後を追うことにした。
男を尾行していると、人通りの少ない兵士用宿舎の裏手へと向かっていることに気付く。男はそこで誰かと合流したようだった。暗がりでよく見えなかったが、合流した者の格好は先程のアスラに酷似していた。
何かを話している様子だが、フロレンスのいる場所からではその内容を聞き取ることはできない。
そうこうしているうちに二人は歩き出す。フロレンスは細心の注意を払いながら尾行する。
アスラらしき者達を追っているうちに、繁華街へと出た。
「見失ったか……。気付かれたのかもしれないな」
繁華街で人ごみに紛れた二人組を探すのは困難である。しばらく辺りを歩いてみたものの、やはりそれらしき二人組を発見することはできなかった。
フロレンスはもと来た道を戻る。アスラのことは気掛かりであったが、今は打つ手が見当たらなかった。
繁華街は仕事帰りの人々で賑わっていた。家族への土産を買う者、酒場を渡り歩く者。様々な人が往来していた。
常に緊張のある軍に身を置いていたフロレンスの目には、それはとても掛け替えのない平和のように思えた。
帝國が攻め入ってくれば、この光景は二度と見ることができなくなる。人々の日常を守るためにも、自分はトレイドでの経験を話すべきなのだろう。
そんな風に思いながら、歩を進めた。
翌日、フロレンスは協議会が始まる前にリュカの元へ赴いた。リュカを真っ直ぐに見つめてから一礼する。
「どこまでご期待に沿えるかはわかりませんが、本日の協議会で私の知る全てをお話しします」
フロレンスの決意を受け取ったリュカは、立ち上がると深々と頭を垂れた。
「頼む」
協議会の二日目が始まる。フロレンスは護衛としてではなく、協議に参加する人間として席に着いていた。
リュカに促され、フロレンスは口を開く。
「私はかつてルビオナ王国軍オーロール隊に所属していました」
ルビオナ王国軍でも特別な部隊であるオーロール隊の隊員であった者が、何故メルツバウにいるのか。各国や諸民族の代表はざわめいた。
例外はルビオナの執政官と、その護衛であるイームズだけであった。彼らは固い表情でフロレンスを見つめていた。
「この者の身分は儂が保証する。ご列席のルビオナ代表も保証してくれるだろう。彼女がこれから語ることは全て真実だ」
「四年前のトレイド永久要塞で見たことを、これからお話しします」
フロレンスは静かになった代表達を一瞥すると、トレイド永久要塞であったこと、見たことを語る。
——帝國軍の巨大戦艦による蹂躙。
——巨大戦艦の甲板で起きた不思議な現象と、その後に始まった死者の軍勢による恐怖の行軍。
——そして現在、プロヴィデンスを包む悪夢はトレイド永久要塞で起きたことと全く同じであること。
——帝國は交渉などには関心を持たない。このまま連合国が解体されれば、力のない国から帝國の死者の軍勢によって為す術もなく蹂躙されてしまうであろうこと。
——このような恐ろしいことを起こさぬ為にも、今は民族同士で争っている場合ではないということ。
フロレンスが一通り話し終えると、リュカはルビオナの代表に同意を求めるように声を掛けた。
「相違ございませんな?」
「間違いございません。そして過日より帝國との国境に位置する交易都市プロヴィデンスにおいて発生している事象についても、その通りです」
各国や諸民族の代表らはルビオナの代表を一斉に見やった。プロヴィデンスが陥落したことを知っている者はいても、情報統制によるものか、それが死者の軍勢によるものであるとは知らぬ者が大勢であった。
フロレンスが語ったトレイド永久要塞でのおぞましい体験、ルビオナの代表が開示したプロヴィデンス陥落の実態により、協議の方向性は大幅に変わっていった。
死者の軍勢の脅威を退けるためにも、民族同士で啀み合っている場合ではないのではないか。協議はその方向に進み始めた。
その矢先のことだった。
とある民族代表の従者の一人が、落ち着きのない様子で周囲を見回し、何かを取り出すような仕草をしていた。
テロを警戒している中、その従者の行動は目立つ。フロレンスは意識してその従者を見やる。不審な動きをしているその従者の顔には見覚えがあった。昨夜、アスラと何かを話していた男だった。
従者は手に小箱を持っていた。小箱を見た瞬間、フロレンスは以前アスラの手によって殺されたテロリストを思い出した。
協議会に出入りする人間は厳重な検査を受け、小箱や小包といった爆弾が入れられている可能性がある物は徹底的に排除されている。にも関わらず小箱を持っているということは、誰かが内部でテロを手引きしている可能性があることを示していた。
「何をしている!」
咄嗟にフロレンスは従者の行動を咎めた。フロレンスの声を聞くが早いか、従者は小箱を振り上げた。
フロレンスは周囲を省みず、従者に掴みかかる。
「貴様、何をする!?」
「その箱は爆弾だな!」
フロレンスの言葉に会場は騒然となる。同時に、周囲の代表らは堰を切ったようにその場から離れようとする。
従者と揉み合う。何としてもその小箱を取り上げる必要があった。
「誰が貴様なんぞに!」
従者は小箱をリュカに向かって投げ付けようとした。
「……っ!!」
すぐさまフロレンスは従者の腕ごと小箱を抱きかかえた。
このままリュカがテロに巻き込まれて民族の融和を説く人物がいなくなれば、連合国は完全に解体となってしまうだろう。そうなれば、待っているのはグランデレニア帝國が死をもって支配する恐怖の世界だ。
リュカを救えるのならば、後々の平和に繋がるのであれば、命を賭すに値すると思った。
「大公! お逃げください!」
「いかん!」
リュカの声が響く。同時に、フロレンスの意識は焼き尽くされた。
「—了—」
夜更け過ぎの王宮は、緊迫した空気に包まれていた。
大会議室に集まったリュカと家臣団は、緊迫した相形でアスラのプロヴィデンスに関する報告を聞いている。
「我が連合内で内紛などしていては、帝國を止めることはできん」
「やはり、民族融和のための協議会を開くべきだ」
「各国の代表はこの事を知っているのか?」
「協議会を開催するとして、テロの警戒はどうする?」
アスラの報告を聞いたリュカと家臣達は、寝る間も惜しんで意見を交わし合う。
フロレンスは深呼吸を繰り返し、その様子をじっと見つめていた。
心を落ち着かせなければ。フロレンスはそれだけを考えていた。
あの時の光景がフロレンスの脳裏にまざまざと蘇る。トレイド永久要塞の凄惨な光景は、未だにフロレンスの心を蝕んでいた。
メルツバウ王リュカの呼び掛けにより、各国や諸民族の代表がメルツバウ王宮に集められ、帝國への対応と民族融和の協議会が開催された。
フロレンスは護衛として協議会の安全を確保するため、リュカに随伴することとなった。
ルビオナ王国からも女王代行の執政官とオーロール隊のイームズが参加していた。この場で話し合われたことは、イームズを通じてエイダにも伝わるだろう。フロレンスはそう願った。
協議会の初日は、融和に向けた解決策は何も出ることなく終了した。
リュカがいくら帝國の脅威と「もし敗北すれば全ての民族の存続すら保障はない」と説いても、各国や諸民族の代表は「帝國との交渉による解決策を探るべし」との意見を変えることはなかった。
民族が違うという理由で迫害され、安全に国家間を移動することもできなくなっていた諸民族の不安や不満は爆発寸前であった。
さらに連合諸国の全てが長引く戦況で酷く疲弊しており、ルビオナ王国を頂点とした連合国にこれ以上従うことはできないという意見さえ出掛かっていた。
その日の夜、フロレンスはリュカの居室に呼び出された。
「大公、お話とは?」
リュカは大きく息を吸うと、フロレンスを真っ直ぐに見た。何か大きな決意をした様子に、フロレンスは固唾を呑む。
「明日の協議二日目の件だ。その場でお主がトレイドで見聞きした事を全て話してほしい」
「そ、それは……」
フロレンスは引き攣りそうになる顔を必死で抑えた。
「お主にとって辛いことであるのは重々承知している。だが、各国代表らは帝國の脅威をあまりにも知らなさ過ぎる」
「彼らは本当に迫っている危機が何であるかを知る必要があると」
「そうだ」
リュカは大きく頷く。だがフロレンスはどう返答すべきか考えあぐねていた。
その時、部屋の扉が小さく叩かれた。
「リュカ様、お時間よろしいでしょうか?」
アスラだった。プロヴィデンスへ偵察に出ていたが、何事かがあって報告に戻ってきたようだった。
「アスラか。しばし待て」
リュカはどうするべきか迷うフロレンスを見据えた。
「フロレンスよ、明日の協議会が始まるまで、じっくり考えてはくれないか」
「わかり……ました」
アスラと入れ違いにリュカの部屋を出たフロレンスは、宛がわれている部屋に戻っても気分が落ち着かないままだった。
気分を変えようと外へと出る。
少し散策しよう。そう思い王宮の近くを歩いていると、見慣れない衣装を纏った男が周囲を見回している。テロリストかもしれない。フロレンスはそう思い、その男の後を追うことにした。
男を尾行していると、人通りの少ない兵士用宿舎の裏手へと向かっていることに気付く。男はそこで誰かと合流したようだった。暗がりでよく見えなかったが、合流した者の格好は先程のアスラに酷似していた。
何かを話している様子だが、フロレンスのいる場所からではその内容を聞き取ることはできない。
そうこうしているうちに二人は歩き出す。フロレンスは細心の注意を払いながら尾行する。
アスラらしき者達を追っているうちに、繁華街へと出た。
「見失ったか……。気付かれたのかもしれないな」
繁華街で人ごみに紛れた二人組を探すのは困難である。しばらく辺りを歩いてみたものの、やはりそれらしき二人組を発見することはできなかった。
フロレンスはもと来た道を戻る。アスラのことは気掛かりであったが、今は打つ手が見当たらなかった。
繁華街は仕事帰りの人々で賑わっていた。家族への土産を買う者、酒場を渡り歩く者。様々な人が往来していた。
常に緊張のある軍に身を置いていたフロレンスの目には、それはとても掛け替えのない平和のように思えた。
帝國が攻め入ってくれば、この光景は二度と見ることができなくなる。人々の日常を守るためにも、自分はトレイドでの経験を話すべきなのだろう。
そんな風に思いながら、歩を進めた。
翌日、フロレンスは協議会が始まる前にリュカの元へ赴いた。リュカを真っ直ぐに見つめてから一礼する。
「どこまでご期待に沿えるかはわかりませんが、本日の協議会で私の知る全てをお話しします」
フロレンスの決意を受け取ったリュカは、立ち上がると深々と頭を垂れた。
「頼む」
協議会の二日目が始まる。フロレンスは護衛としてではなく、協議に参加する人間として席に着いていた。
リュカに促され、フロレンスは口を開く。
「私はかつてルビオナ王国軍オーロール隊に所属していました」
ルビオナ王国軍でも特別な部隊であるオーロール隊の隊員であった者が、何故メルツバウにいるのか。各国や諸民族の代表はざわめいた。
例外はルビオナの執政官と、その護衛であるイームズだけであった。彼らは固い表情でフロレンスを見つめていた。
「この者の身分は儂が保証する。ご列席のルビオナ代表も保証してくれるだろう。彼女がこれから語ることは全て真実だ」
「四年前のトレイド永久要塞で見たことを、これからお話しします」
フロレンスは静かになった代表達を一瞥すると、トレイド永久要塞であったこと、見たことを語る。
——帝國軍の巨大戦艦による蹂躙。
——巨大戦艦の甲板で起きた不思議な現象と、その後に始まった死者の軍勢による恐怖の行軍。
——そして現在、プロヴィデンスを包む悪夢はトレイド永久要塞で起きたことと全く同じであること。
——帝國は交渉などには関心を持たない。このまま連合国が解体されれば、力のない国から帝國の死者の軍勢によって為す術もなく蹂躙されてしまうであろうこと。
——このような恐ろしいことを起こさぬ為にも、今は民族同士で争っている場合ではないということ。
フロレンスが一通り話し終えると、リュカはルビオナの代表に同意を求めるように声を掛けた。
「相違ございませんな?」
「間違いございません。そして過日より帝國との国境に位置する交易都市プロヴィデンスにおいて発生している事象についても、その通りです」
各国や諸民族の代表らはルビオナの代表を一斉に見やった。プロヴィデンスが陥落したことを知っている者はいても、情報統制によるものか、それが死者の軍勢によるものであるとは知らぬ者が大勢であった。
フロレンスが語ったトレイド永久要塞でのおぞましい体験、ルビオナの代表が開示したプロヴィデンス陥落の実態により、協議の方向性は大幅に変わっていった。
死者の軍勢の脅威を退けるためにも、民族同士で啀み合っている場合ではないのではないか。協議はその方向に進み始めた。
その矢先のことだった。
とある民族代表の従者の一人が、落ち着きのない様子で周囲を見回し、何かを取り出すような仕草をしていた。
テロを警戒している中、その従者の行動は目立つ。フロレンスは意識してその従者を見やる。不審な動きをしているその従者の顔には見覚えがあった。昨夜、アスラと何かを話していた男だった。
従者は手に小箱を持っていた。小箱を見た瞬間、フロレンスは以前アスラの手によって殺されたテロリストを思い出した。
協議会に出入りする人間は厳重な検査を受け、小箱や小包といった爆弾が入れられている可能性がある物は徹底的に排除されている。にも関わらず小箱を持っているということは、誰かが内部でテロを手引きしている可能性があることを示していた。
「何をしている!」
咄嗟にフロレンスは従者の行動を咎めた。フロレンスの声を聞くが早いか、従者は小箱を振り上げた。
フロレンスは周囲を省みず、従者に掴みかかる。
「貴様、何をする!?」
「その箱は爆弾だな!」
フロレンスの言葉に会場は騒然となる。同時に、周囲の代表らは堰を切ったようにその場から離れようとする。
従者と揉み合う。何としてもその小箱を取り上げる必要があった。
「誰が貴様なんぞに!」
従者は小箱をリュカに向かって投げ付けようとした。
「……っ!!」
すぐさまフロレンスは従者の腕ごと小箱を抱きかかえた。
このままリュカがテロに巻き込まれて民族の融和を説く人物がいなくなれば、連合国は完全に解体となってしまうだろう。そうなれば、待っているのはグランデレニア帝國が死をもって支配する恐怖の世界だ。
リュカを救えるのならば、後々の平和に繋がるのであれば、命を賭すに値すると思った。
「大公! お逃げください!」
「いかん!」
リュカの声が響く。同時に、フロレンスの意識は焼き尽くされた。
「—了—」