「佛羅倫斯小姐,將背挺直!並請將下巴收起來」
「好,好的!」
奢華的大廳裡,可以聽到家庭教師珍妮那尖銳的聲音。
佛羅倫斯為了回應那要求,拼了命地的把背伸直。
「不行,這樣不行!不可以這麼僵硬,要意識著優美的曲線」
珍妮摟住佛羅倫斯的腰,試著想硬將佛羅倫斯調整成正確的姿勢。
「您將要成為背負家族聲望的人。就連一個姿勢,也都不能有疏忽」
珍妮就像是威嚇般地勸說著佛羅倫斯。
「珍妮老師,就到此為止如何?佛羅倫斯都意氣消沉了」
「姊姊……」
來到大廳的伊麗莎·布拉福特,佛羅倫斯雖然稱呼她為姊姊,但是伊麗莎跟佛羅倫斯的外貌卻有著明顯地不同。在這個宅邸裡,有著褐色肌膚與黑髮的佛羅倫斯是個異樣的存在。
|
佛羅倫斯原本的雙親是在魯比歐那王國南部的沿岸生活,被稱為梅亞族的少數民族。
佛羅倫斯的父親原本是貴族馬克·布拉福特卿的護衛士兵,數年前布拉福特卿為了解決聯合國內紛爭,在親自前往當地的途中遭到襲擊,佛羅倫斯的父親為了保護布拉福特卿而殉職身亡。而體弱多病的母親在生下佛羅倫斯後也隨即離開人世。
布拉福特卿為了對殉職身亡的士兵表示敬意,收養了他所遺留下來的獨生女作為養女。
雖然對貴族的生活還有很多不習慣的地方,不過佛羅倫斯為了能夠跟的上養父母以及他們的子女,拼命地學習著貴族的生活方式。
|
「伊麗莎小姐,我被吩咐要教導佛羅倫斯小姐,作為貴族子女該有的正確禮儀。這裡跟她的出生的國家不同,有正確的美感與傳統。雖然無法改變膚色跟髮色--」
「請等一下,珍妮老師。要是父親大人聽到您那樣說會感到難過的」
伊麗莎打斷珍妮最後說的話。與剛才那沉穩地語調明顯不同,用帶有銳利的言詞說道。
「但是……」
不顧還打算繼續發言的珍妮,伊麗莎將臉重新轉向佛羅倫斯。
「伊麗莎姊姊,我沒關係的。老師,請繼續吧」
佛羅倫斯對擔心自己的伊麗莎,笑著說道。
為了成為跟接納自己的布拉福特家的養父母一樣的『貴族』,不可以在這裡就受到挫折。
「我知道了。那就課程結束後就到庭院來吧。我會吩咐人準備好茶的」
「謝謝您,伊麗莎姊姊」
「佛羅倫斯,對我可以不用那麼客氣。因為妳可是我的妹妹啊」
伊麗莎滿面笑容,走出了大廳。
|
佛羅倫斯成為布拉福特家的養女,很快地過了幾年後。布拉福特家中舉辦了晚宴,也算是為了要讓佛羅倫斯露臉的晚宴。
這是第一次,佛羅倫斯以貴族的身分出席公開場合。
雖然佛羅倫斯感到相當緊張,但是沒有讓自己緊張的情緒流露出來,隨時都按照珍妮所指導的那樣,保持著優雅,優美的言行舉止。
接連不斷地被介紹給與養父有關的諸卿及他們的子女們,毫無喘息的空間。
|
就在終於介紹完,以為可以喘口氣的時候,這次是被差不多年紀的千金小姐們包圍,追問著問題。
有著褐色肌膚跟黑髮的佛羅倫斯,光是在這個場合就很醒目。幾乎所有的千金都是基於好奇才靠近佛羅倫斯的。
「好漂亮的花飾。啊,有點歪了」
佛羅倫斯正要伸手碰其中一位千金洋裝上的花飾時。被那位千金反射性地撥開手。
佛羅倫斯周圍的千金小姐們之間,突然變得很尷尬。
「咦……請問,我,是不是……?」
「很抱歉,我只是不習慣傭人跟父親以外的人觸碰我而已」
「啊……非常抱歉。我會注意的」
「父親在找我了。那麼,有機會再見」
「我們也是……」
向佛羅倫斯點頭行禮後千金們離開了。佛羅倫斯獨自一人被留在大廳的中央。
再也沒有人跟她攀談。
接著佛羅倫斯在無意間看見了。跟那千金同行的另一位千金幫她調整好洋裝的花飾了。
就算想不明白也很難,那很明顯地只是純粹不想被異民族的自己碰到而已。
佛羅倫斯在晚宴正熱鬧時,一個人離開了大廳。
從大廳附近的門走出去中庭。在那裏種著一顆很顯眼的大樹。利用樹陰隱藏自己的身影,因禮儀課感到疲憊的時候經常來這裡休息。
「果然,像我這種人還是無法成為貴族嗎……」
佛羅倫斯自言自語著。到目前為努力學習,結果換來的卻是與養父母們不同,對待一個異族的態度。
佛羅倫斯像是突然被點醒般,認清了這個事實。
「沒錯。如果妳整天就只會在那邊說那些喪氣話的話,我們是永遠也不會認同妳的」
「是誰?」
「舞會的主賓竟然像逃走般一個人躲在這裡。反而會令大家鄙視妳的。更何況現在正有人在說布萊福特1卿是怪人的閒話」
出現的是一位金髮且五官端正的少女。她是剛剛介紹過的,拉克蘭卿的獨生女,名叫艾妲。
「要怎麼說我都沒關係。不過,我絕不原諒說父親壞話的人!」
「那是不可能的。妳越是做出可恥的行為,就越會傷害家族名聲」
「我會傷害父親的名聲?」
「沒錯。當妳還是平民的時候或許還可以原諒。不過妳已經是這個家族的一份子了」
「可是我沒有辦法啊。因為,大家對我……」
「想想妳的出身就知道這是理所當然的。妳會成為布拉福特的女兒,對我們來說是相當稀奇的事」
「那,我應該如何是好……」
「要變強,保持妳的尊嚴與自信。就算是沒有血緣關係,妳也是那布拉福特卿的女兒對吧。變強到不會給家名蒙羞,不輸給任何人的人」
艾妲用嚴格的口氣說道。她與其他子女們就像有畫線區隔般,比其他人都要來得嚴謹及帥氣。
「我要變強……為了這個家……」
佛羅倫斯反覆唸著艾妲所說的話。艾妲表情不變地聽著。
在那之後,聽到從屋子裡傳來隨從跟傭人的叫喚聲。
貴族子女的兩個人突然不見了。大概很慌張地在找她們吧。
「我不能再讓父親他們為我擔心了。我要回去了。妳打算要怎麼辦呢?」
「我也回去。我不想要哭著逃走,而讓父親他們感到失望」
佛羅倫斯站了起來。已經不是剛剛消沉樣的佛羅倫斯了,而是像平常一樣堅強的佛羅倫斯。
「保持這個樣子。我會期待下次的相遇」
「嗯。有機會再見」
說完,兩人就在各自的隨從陪同之下,回到大廳裡了。
|
七年之後,佛羅倫斯在王宮的等待室裡。穿著禮服,帶著緊張的神情等待時間的到來。
裝甲獵兵『奧羅爾隊』的配屬儀式馬上就要開始了。
「怎麼了?妳在緊張嗎」
同樣在一旁等待的艾妲向佛羅倫斯搭話。
「嗯。我還是無法習慣這種場合跟這種服裝」
「這個沒有辦法。而且我們現在是國民注目的焦點」
以史上最年少配屬到裝甲獵兵的兩人,所有民眾的目光都聚集在她們身上。
再加上佛羅倫斯是以少數民族的身分,第一次被編入本來只有純正王國出身者所組成的裝甲獵兵。
這也算是歷史性的一刻。要是沒有成為注目的焦點才奇怪。
佛羅倫斯身為保護王宮的士兵,艾妲身為公主的貼身騎士,兩人各自順利地累積著經歷。
然後在奧羅爾隊訓練場戰鬥時,身為夥伴再次相遇。
「呵呵……那時候我真沒想到會變成這樣」
「嗯。世事難料」
「來吧,配屬儀式就要開始了。要沉住氣」
「我知道啦」
作為榮耀的裝甲獵兵,同時也身為沒有能在王宮擔任重要職務的少數民族的希望。佛羅倫斯站在王宮的謁見廳之中。
|
「-完-」
3385年 「貴族」
「フロレンス様、もっと背筋を伸ばして! 顎を引いてください」
「は、はい!」
豪奢な大広間に、家庭教師であるジェーンの声が鋭く響いた。
フロレンスはそれに応えるべく、背筋をこれでもかと伸ばす。
「駄目です駄目です! そう硬くならず、優美な曲線を意識して」
ぐいぐいと腰を掴み、ジェーンはフロレンスの姿勢を強引に正そうとする。
「家名を背負うことになるのです。 姿勢一つ、疎かにはできません」
ジェーンは凄むようにフロレンスに言い聞かせた。
「ジェーン先生、そこまでになさってはどうですか? フロレンスも萎縮していますわ」
「お姉様……」
大広間にやって来たイライザ・ブラフォードをフロレンスは姉と呼んでいるが、イライザとフロレンスの容姿は明らかに異なっている。この屋敷において、褐色の肌に黒い髪のフロレンスは異質な存在であった。
フロレンスの本来の両親は、ルビオナ連合王国南部の沿岸で暮らす、メーア族と呼ばれる少数民族の出身であった。
父親は貴族であるマーク・ブラフォード卿の護衛兵士だったが、数年前に連合国内の紛争を解決するために赴いた地でブラフォード卿を庇い、殉職した。病弱であった母親は、フロレンスを生んですぐに亡くなっている。
ブラフォード卿は殉職した兵士に敬意を払い、一人残された彼の娘であるフロレンスを養子として迎え入れた。
貴族の生活には慣れないことも多かったが、フロレンスは少しでも養父母やその子供達に近付くため、必死で貴族としての振る舞いを学んでいた。
「イライザ様、私はフロレンス様を正しい貴族の娘として指導するよう、仰せつかっております。 ここには彼女の生まれた国とは異なり、正しい美と伝統がございます。 肌の色や髪の色を変えることは――」
「お待ちください、ジェーン先生。 そういう物言いをお父様が聞いたら悲しみます」
ジェーンの最後の言葉にイライザが割り込んだ。先程までの穏やかな言様とは違い、言葉に鋭さが混じっている。
「しかし……」
なおも物言いたげなジェーンを余所に、イライザはフロレンスの方に向き直った。
「イライザお姉様、私は大丈夫です。先生、続けてください」
フロレンスは心配するイライザに、笑顔でそう答えた。
自身を引き取り、受け入れてくれたブラフォード家の養父母達と同じ『貴族』となるためにも、ここで挫ける訳にはいかなかった。
「わかりました。では、授業が終わったら庭園に来て。お茶を用意させるわ」
「ありがとうございます、イライザお姉様」
「そんな他人行儀にならなくても良いのよ、フロレンス。貴方は私の妹なのだから」
イライザは笑みを浮かべ、大広間を出て行った。
フロレンスがブラフォード家の養子となって早数年。ブラフォード家でフロレンスのお披露目を兼ねた晩餐会が開かれた。
そこで初めて、フロレンスは貴族として公の場に出ることになる。
フロレンスはとても緊張していたが、そんなことはおくびにも出さずに、ジェーンに教えられたとおり、優雅に、優美に振舞う事を心掛けていた。
養父と繋がりのある諸卿とその子息、子女達を紹介され、息つく暇も無い。
ようやく紹介が終わって一息つこうとするも、今度は似たような年齢の娘達に取り囲まれ、質問攻めにあった。
褐色の肌に黒髪のフロレンスは、ただそこにいるだけで目立つ。殆どの娘達は興味本位でフロレンスに近付いていた。
「すてきな花飾りね。 あ、でも曲がっているわ」
フロレンスは、ふと一人の娘のドレスに付いている花飾りに手を触れようとした。が、反射的に撥ね退けられてしまった。
フロレンスと周囲の娘達の間に、気まずい空気が流れる。
「え……あの、私、何か……?」
「ごめんなさい、メイドやお父様たち以外に触られるのには慣れていないの」
「あ……ごめんなさい。 気をつけますわ」
「お父様が呼んでいるわ。 では、またいずれ」
「わたくしたちも……」
フロレンスに一礼して立ち去る娘達。フロレンスは大広間の中心に取り残された。
もう彼女に話し掛ける者はいかった。
そしてフロレンスは見てしまった。ドレスの花飾りを、その娘と共にいた別の貴族の娘が直したのを。
単に異民族である己には触られたくなかったのだと、嫌でも気付かされたのだった。
フロレンスは歓談の最中、一人大広間を抜け出してしまった。
大広間の近くにある扉から屋敷の中庭に出る。そこには一際大きな樹が生えていた。樹の陰が姿を隠してくれるため、作法の勉強に疲れたときはよくここで過ごしていた。
「やっぱり、私なんかは貴族の一員になれないのかな……」
独り言だった。今まで気丈に振舞ってきたものの、結局のところ、養父母達とは違って腫れ物を扱うような態度を取られてしまう。
これが現実なのだと、フロレンスは突きつけられたような気がした。
「そうね。貴方がそんな風に意気地のないことばかりを言っているなら、私たちは永遠に貴方を認めないわ」
「誰?」
「舞踏会の主賓がこんなところで逃げるように一人でいるなんて。却って皆が貴方を蔑むわ。今だってブラフォード卿は酔狂者だと口の悪い人は言っているのよ」
現れたのは金髪の凛々しい顔立ちをした少女だった。ラクラン卿の一人娘で、名はエイダと紹介されていた。
「私は何を言われても良いわ。 でも、お父様たちを悪く言うことは許さない!」
「それは無理ね。貴方が恥ずかしい振る舞いをすればするほど、家の名に傷が付くのよ」
「私がお父様たちの名を傷付ける?」
「そう。庶民であった時分なら許されたかもしれないわ。でも、貴方はもうあの家の一部なのよ」
「私にはどうしようもないの。 だって、皆が私を……」
「貴方の出自を思えば当然ね。貴方がブラフォード卿の娘となったことは、私たちにとっては珍しいの」
「じゃあ、私はどうすれば……」
「強くなって、誇りを保ちなさい。血が繋がっていなくとも、貴方はあのブラフォード卿の娘でしょう。家の名に恥じないよう、誰にも負けないように」
エイダは厳しい口調でそう告げる。他の子女たちとは一線を画すような厳しさと凛々しさがそこにあった。
「強くなる…… 家のために……」
フロレンスはエイダの言葉を反芻する。エイダは表情を崩さず、その言葉を聞いていた。
直後、屋敷の方から従者やメイドの呼ぶ声が聞こえた。
貴族の子女が二人、突然いなくなったのだ。慌てて探しに来たのだろう。
「これ以上お父様たちに心配をかけるわけにはいかないわ。 わたくしは戻ります。貴方はどうするのかしら?」
「私も戻ります。めそめそと逃げ回ってお父様たちを失望させたくありませんから」
フロレンスは立ち上がる。先程までの沈んだ姿ではなく、いつもの気丈なフロレンスがそこにいた。
「その調子よ。またどこかで会うのを楽しみにしているわ」
「ええ。いずれまた」
そう言って、二人は各々の従者に付き添われ、大広間へ戻っていった。
それから七年後、フロレンスは王宮の待機室にいた。礼服に身を包み、緊張した面持ちで時間が来るのを待っている。
もうすぐ、装甲猟兵『オーロール隊』の配属式が開始される。
「どうした? 緊張しているのか」
隣で同じように待機しているエイダが声を掛けてきた。
「そうだな。 こういう場や服装にはなかなか慣れない」
「こればかりは仕方がないな。それに私達は今、国民の注目の的だ」
史上最年少の装甲猟兵として配属される二人は、民衆の耳目を一身に集めていた。
さらにフロレンスに至っては、生粋の王国出身者だけで構成されていた装甲猟兵に初めて参加する少数民族出身者となる。
歴史的とも言える状況だ。注目されない方がおかしいと言えた。
フロレンスは王宮を守る兵士として、エイダは王女付きの騎士として、それぞれ順調にキャリアを重ねていった。
そして、オーロール隊の訓練場で戦闘時のパートナーとして二人は再会したのだった。
「ふふ……あの時はこんな風になるなんて思ってもいなかったな」
「そうだな。何が起こるかはわからない」
「さあ、もうすぐ配属式だ。 気を引き締めろ」
「わかっている」
栄誉ある装甲猟兵として、王都ではまだ重要な役職に就けることがない少数民族の希望として、フロレンスは王宮の謁見の間に立つのだった。
「―了―」
「フロレンス様、もっと背筋を伸ばして! 顎を引いてください」
「は、はい!」
豪奢な大広間に、家庭教師であるジェーンの声が鋭く響いた。
フロレンスはそれに応えるべく、背筋をこれでもかと伸ばす。
「駄目です駄目です! そう硬くならず、優美な曲線を意識して」
ぐいぐいと腰を掴み、ジェーンはフロレンスの姿勢を強引に正そうとする。
「家名を背負うことになるのです。 姿勢一つ、疎かにはできません」
ジェーンは凄むようにフロレンスに言い聞かせた。
「ジェーン先生、そこまでになさってはどうですか? フロレンスも萎縮していますわ」
「お姉様……」
大広間にやって来たイライザ・ブラフォードをフロレンスは姉と呼んでいるが、イライザとフロレンスの容姿は明らかに異なっている。この屋敷において、褐色の肌に黒い髪のフロレンスは異質な存在であった。
フロレンスの本来の両親は、ルビオナ連合王国南部の沿岸で暮らす、メーア族と呼ばれる少数民族の出身であった。
父親は貴族であるマーク・ブラフォード卿の護衛兵士だったが、数年前に連合国内の紛争を解決するために赴いた地でブラフォード卿を庇い、殉職した。病弱であった母親は、フロレンスを生んですぐに亡くなっている。
ブラフォード卿は殉職した兵士に敬意を払い、一人残された彼の娘であるフロレンスを養子として迎え入れた。
貴族の生活には慣れないことも多かったが、フロレンスは少しでも養父母やその子供達に近付くため、必死で貴族としての振る舞いを学んでいた。
「イライザ様、私はフロレンス様を正しい貴族の娘として指導するよう、仰せつかっております。 ここには彼女の生まれた国とは異なり、正しい美と伝統がございます。 肌の色や髪の色を変えることは――」
「お待ちください、ジェーン先生。 そういう物言いをお父様が聞いたら悲しみます」
ジェーンの最後の言葉にイライザが割り込んだ。先程までの穏やかな言様とは違い、言葉に鋭さが混じっている。
「しかし……」
なおも物言いたげなジェーンを余所に、イライザはフロレンスの方に向き直った。
「イライザお姉様、私は大丈夫です。先生、続けてください」
フロレンスは心配するイライザに、笑顔でそう答えた。
自身を引き取り、受け入れてくれたブラフォード家の養父母達と同じ『貴族』となるためにも、ここで挫ける訳にはいかなかった。
「わかりました。では、授業が終わったら庭園に来て。お茶を用意させるわ」
「ありがとうございます、イライザお姉様」
「そんな他人行儀にならなくても良いのよ、フロレンス。貴方は私の妹なのだから」
イライザは笑みを浮かべ、大広間を出て行った。
フロレンスがブラフォード家の養子となって早数年。ブラフォード家でフロレンスのお披露目を兼ねた晩餐会が開かれた。
そこで初めて、フロレンスは貴族として公の場に出ることになる。
フロレンスはとても緊張していたが、そんなことはおくびにも出さずに、ジェーンに教えられたとおり、優雅に、優美に振舞う事を心掛けていた。
養父と繋がりのある諸卿とその子息、子女達を紹介され、息つく暇も無い。
ようやく紹介が終わって一息つこうとするも、今度は似たような年齢の娘達に取り囲まれ、質問攻めにあった。
褐色の肌に黒髪のフロレンスは、ただそこにいるだけで目立つ。殆どの娘達は興味本位でフロレンスに近付いていた。
「すてきな花飾りね。 あ、でも曲がっているわ」
フロレンスは、ふと一人の娘のドレスに付いている花飾りに手を触れようとした。が、反射的に撥ね退けられてしまった。
フロレンスと周囲の娘達の間に、気まずい空気が流れる。
「え……あの、私、何か……?」
「ごめんなさい、メイドやお父様たち以外に触られるのには慣れていないの」
「あ……ごめんなさい。 気をつけますわ」
「お父様が呼んでいるわ。 では、またいずれ」
「わたくしたちも……」
フロレンスに一礼して立ち去る娘達。フロレンスは大広間の中心に取り残された。
もう彼女に話し掛ける者はいかった。
そしてフロレンスは見てしまった。ドレスの花飾りを、その娘と共にいた別の貴族の娘が直したのを。
単に異民族である己には触られたくなかったのだと、嫌でも気付かされたのだった。
フロレンスは歓談の最中、一人大広間を抜け出してしまった。
大広間の近くにある扉から屋敷の中庭に出る。そこには一際大きな樹が生えていた。樹の陰が姿を隠してくれるため、作法の勉強に疲れたときはよくここで過ごしていた。
「やっぱり、私なんかは貴族の一員になれないのかな……」
独り言だった。今まで気丈に振舞ってきたものの、結局のところ、養父母達とは違って腫れ物を扱うような態度を取られてしまう。
これが現実なのだと、フロレンスは突きつけられたような気がした。
「そうね。貴方がそんな風に意気地のないことばかりを言っているなら、私たちは永遠に貴方を認めないわ」
「誰?」
「舞踏会の主賓がこんなところで逃げるように一人でいるなんて。却って皆が貴方を蔑むわ。今だってブラフォード卿は酔狂者だと口の悪い人は言っているのよ」
現れたのは金髪の凛々しい顔立ちをした少女だった。ラクラン卿の一人娘で、名はエイダと紹介されていた。
「私は何を言われても良いわ。 でも、お父様たちを悪く言うことは許さない!」
「それは無理ね。貴方が恥ずかしい振る舞いをすればするほど、家の名に傷が付くのよ」
「私がお父様たちの名を傷付ける?」
「そう。庶民であった時分なら許されたかもしれないわ。でも、貴方はもうあの家の一部なのよ」
「私にはどうしようもないの。 だって、皆が私を……」
「貴方の出自を思えば当然ね。貴方がブラフォード卿の娘となったことは、私たちにとっては珍しいの」
「じゃあ、私はどうすれば……」
「強くなって、誇りを保ちなさい。血が繋がっていなくとも、貴方はあのブラフォード卿の娘でしょう。家の名に恥じないよう、誰にも負けないように」
エイダは厳しい口調でそう告げる。他の子女たちとは一線を画すような厳しさと凛々しさがそこにあった。
「強くなる…… 家のために……」
フロレンスはエイダの言葉を反芻する。エイダは表情を崩さず、その言葉を聞いていた。
直後、屋敷の方から従者やメイドの呼ぶ声が聞こえた。
貴族の子女が二人、突然いなくなったのだ。慌てて探しに来たのだろう。
「これ以上お父様たちに心配をかけるわけにはいかないわ。 わたくしは戻ります。貴方はどうするのかしら?」
「私も戻ります。めそめそと逃げ回ってお父様たちを失望させたくありませんから」
フロレンスは立ち上がる。先程までの沈んだ姿ではなく、いつもの気丈なフロレンスがそこにいた。
「その調子よ。またどこかで会うのを楽しみにしているわ」
「ええ。いずれまた」
そう言って、二人は各々の従者に付き添われ、大広間へ戻っていった。
それから七年後、フロレンスは王宮の待機室にいた。礼服に身を包み、緊張した面持ちで時間が来るのを待っている。
もうすぐ、装甲猟兵『オーロール隊』の配属式が開始される。
「どうした? 緊張しているのか」
隣で同じように待機しているエイダが声を掛けてきた。
「そうだな。 こういう場や服装にはなかなか慣れない」
「こればかりは仕方がないな。それに私達は今、国民の注目の的だ」
史上最年少の装甲猟兵として配属される二人は、民衆の耳目を一身に集めていた。
さらにフロレンスに至っては、生粋の王国出身者だけで構成されていた装甲猟兵に初めて参加する少数民族出身者となる。
歴史的とも言える状況だ。注目されない方がおかしいと言えた。
フロレンスは王宮を守る兵士として、エイダは王女付きの騎士として、それぞれ順調にキャリアを重ねていった。
そして、オーロール隊の訓練場で戦闘時のパートナーとして二人は再会したのだった。
「ふふ……あの時はこんな風になるなんて思ってもいなかったな」
「そうだな。何が起こるかはわからない」
「さあ、もうすぐ配属式だ。 気を引き締めろ」
「わかっている」
栄誉ある装甲猟兵として、王都ではまだ重要な役職に就けることがない少数民族の希望として、フロレンスは王宮の謁見の間に立つのだった。
「―了―」
- R艾妲、R佛羅倫斯(除了R2)、R魯卡均譯布拉福特。 ↩